ゲーム説明
「―――あーあー、てすてすー、マイクテスー」
暗闇の中声が響く。その場に集められた12人は真っ暗闇の中その声の居場所を突き止めようと辺りをキョロキョロと見回してみるが、真っ暗闇には謎の声だけが響き、喋っている主の姿は全くと言っていいほど見えない。
大した存在感だ。
「えー、シーベルト家のみなさまこーんにちーはー!」
やたらテンションの高い声の主にうんざりしたように溜め息を吐くもの、馬鹿馬鹿しいと言いたげに肩をすくめるもの、素直に「こんにちは」と返すもの、全てを察したかのように深呼吸をするもの、その場に集められた12人はそれぞれの対応をして今の状況を考える。
「オレサマちゃんはそう!今宵のゲームのゲームマスタータウゼント・アルツナイちゃんって言いまっす!オレサマちゃん、君たちのばーちゃんの時代からゲームマスターやらせてもらってっから、ま、そこそこよろしくっちゅーことで!あ、オレサマちゃんの年齢聞いた人はその瞬間失格ね」
暗闇の中唐突に当てられたスポットライトは赤色のガウンを羽織ったキングのような王冠を被り白色の仮面を付けた青髪に一筋の黒メッシュが走った目に映る肌あらゆる所にピアスが開けられた人間だった。
そう、人間なのだ。男だとか女だとか、そのような性別の区別や年齢が全く分からない。声質は中性的で男だとか女だとかどちらとでも取れる。声音は柔らかいし硬い。幼児のようにも聞こえるし厳つい男の声にも聞こえる。背丈は遠近法故か高く見えるし低くも見える。仮面の下にうっすらと見える瞳は糸目になっていてますます男か女かの区別なんてつかない。
「性別はタウゼントちゃん。年齢はアルツナイちゃんっちゅー事で!ま、ここに集められてる時点で勘のいい子とか鋭い子とか頭いい子は分かってんじゃねーかな?」
仮面を付けたタウゼント・アルツナイは卑しく口角をあげると楽しそうに舌を出す。舌にもピアスの穴が空いている。体中この人間は異様な程に穴だらけだ。外観を気にしているのか鼻ピアスはしていないみたいだが。
タウゼント・アルツナイは耳の裏をかりかりと正直に言うと黒くて汚い爪でガリガリとかきながら何かのメモのようなものをじぃっと見る。肝心なところでカッコがつかない。
「えーと、まぁ伝家の宝刀争奪戦っちゅーのは分かってんよねー。そこのおチビちゃんもそわそわしてるっちゅーことは分かってんのかね?オレサマちゃんチビちゃん大っ嫌い!かぁいいー」
「……伝家の宝刀……?刀なの?“ヴェルト”は」
「チビちゃんじゃないもん……」
きゅっ、と小さな女の子が自分の体を覆うくらいの大きなくまのぬいぐるみを抱きしめながら大きな瞳を濡らしながらキッとタウゼント・アルツナイを睨みつける。
タウゼント・アルツナイは小さな女の子の前に口を開いた一人の女性のような見た目をした美麗な青年の刀なのか、という質問にケタケタと下品な笑い声をあげながら腹を抑えては目元の涙を拭う。
面白くて仕方ないみたいだ。
「刀かもねぇ?オレサマちゃんみたいな怪しいヤツの言う事聞いちゃう感じ?いいねぇ、最高に馬鹿だねお前!」
「低俗ですこと……!」
右手の中指を立てながら最高に面白いとでも言いたげに下品な笑いを続ける。そんなタウゼント・アルツナイの姿を見た一人の女性は口元に手を当てながら顔を顰めた。
低俗だと嘆くように言った女性をタウゼント・アルツナイがじぃっと見つめると、すぐに「つまんね」と吐き捨ててメモのようなぐしゃぐしゃに丸められた紙をただでさえ薄い糸目の瞳をさらに細めて文字を読む。
「えー、シーベルト家のみなさまおめでとうございます。初代ゲームマスター……この辺の説明めんどいわ。かっ飛ばそ。詳しいのはばあちゃんとかとうちゃんに聞いてね。……おめでとうございます、ゲームマスター、タウゼント・アルツナイと申します。無論、皆様もわかっていらっしゃるとおり私はシーベルト家の人間ではありません。ただ、審判のないゲームはつまらないものです。僭越ながらこの私めがこのゲームの審判をやらせて頂きます。ルールは簡単、シーベルト家の家宝“ヴェルト”を手に入れるのです。手にすることが出来るのはシーベルト家のただ1人、血縁は関係ありません。シーベルト家であるかどうかだけが問題です。大好きな兄弟や姉妹を蹴落として自らの野望の為に家宝“ヴェルト”を手に入れましょう。ただし、条件があります。その1、殺傷武器を扱った場合は即失格です。ゲームマスターの手によって始末されます。その2、貴方の生まれ持った才能を生かしてください。なんでも構いません。ただし、生まれ持った才能は一つまでとさせて頂きます。その3、ゲームリタイアは構いません。しかし、リタイアをしたいのであれば家から逃げなさい。逃げ道はありません。どうやって逃げるか考えなさい」
先程までのふざけた態度は一変してタウゼント・アルツナイはやたら真面目な声で説明をする。今までとは打って変わったタウゼント・アルツナイの変化に露骨に気味悪がったり逆に感心したりとここはやはり個々の個性がよくにじみ出る。
「つーわけで、まぁめんどいのもここまで!取り敢えず自分のためにサクッと戦っちゃって!そんでもって未練断ち切ってサクッと姉妹兄弟殺しちゃって!オレサマちゃんもぶっちゃけ早く帰りたいんだわ!そんじゃ“ヴェルト”争奪戦スタート!あ、言い忘れてたけど、“ヴェルト”保管室の鍵探してねん。ねーと“ヴェルト”の在処わかっても勝ちってことになんねーから」
「ええ……!?」
「そ、そんな、いきなり……」
西洋の大富豪、シーベルト家。シーベルト家には宝がある。その宝を求めるために1代ごとにとある戦争が開始される。
自らの野望の為に、希望の為に、信念の為に、兄弟の為に、姉妹の為に、未来の為に、家族はバラバラになる。家族を思う故に、崩壊する。自分が可愛い故に、崩壊する。シーベルト家の家宝争奪戦、手にすることが出来るのはただ1人。醜き家族の、姉妹の、兄弟の戦争を、誰かはこう名付けた。
――――――ゲシュヴィスター クリーク(Geschwister Krieg)