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綾ちゃんの初カレside雪夜③

水曜日、合気道の道場でヤツに会った。月城白兎つきしろはくと。淡い茶色のマッシュショートに黒々と大きな目をしたラビットボーイである。愛らしい容姿とは裏腹に合気道は結構強い。強いというか…上手い戦い方をするやつだ。


「おい、白兎。」

「なに?雪夜。」


白兎がきょとんとした顔で振り返った。多分その顔は母性本能擽る顔だ。オレがお前の顔だったら最大限利用しちゃうところだけど、白兎はそういう考えは微塵も持ってない。常にナチュラル。


「お前ってまだ彼女いなかったよな?」


白兎がかあっと赤くなった。


「い、いないよ。僕なんかを相手にしてくれる女性なんているわけないし。」


実際は密かにモテてるんだが、モテてる自覚はないっぽい。紹介しやすくて好都合。


「オレが女の子紹介してやろうか?」

「え?」

「高3でお前より年上だけど、背が高くてすらっとしたモデル体型の美人。アクティブな感じの性格してるけど、男に対しては結構ウブ。今まで男と付き合ったことない男経験皆無な女の子だけど。」

「ちょっと待て、雪夜!何故その話を俺らに回さない!?」


道場の他の男たちが群がってきた。みんな女性には飢えているようだ。興味津々で集まってくる。道場の稽古は一時中断。師範もやれやれと言った顔をしている。


「男経験ないモデル体型の美人、俺に回せ。」


言ってきたのは野村のむら先輩。如何にも男臭い感じの容姿で××大学(あんまり賢くない)の2年生だ。万年女日照りで全然モテない。容姿があまりよろしくないというのも勿論あるが、それ以上に態度が粗野で女性に対する思いやりに欠けるところや、発言にデリカシーがない所が駄目なんだと思う。性格自体はそんなに悪くはないんだけど。


「野村先輩は推薦基準に達してないので駄目です。」

「す、推薦基準!?」

「顔、頭、発言、態度、思いやり、全部駄目です。性格が悪いとは言いませんけど。本当に彼女作るつもりあるんですか?って聞きたくなるくらい駄目です。生まれ変わって出直してきてください。」


野村先輩は凹んでしまった。他の男たちも自分のスペックと推薦基準を比べて諦めたようだ。稽古に戻っていく。


「白兎、どう?」

「…僕も推薦基準に達してないんじゃない?」


白兎は不安げな顔をした。


「元の白兎は駄目駄目だったけど、今は良い感じに育ってるし、今なら良いと思うんだよ。お前は顔も頭もまずまずだし、発言や態度もきっちり調教したから丁寧だし。」

「うん……」


白兎はまだもじもじしている。興味はあるようなんだが、自信は持てない…といった感じか。いまいち踏ん切りがつかないようだ。


「お前そんな性格じゃこの先一生彼女できないよ?たまには思いきってみなくちゃ。別に紹介するだけで、会ったら絶対に付き合えって言ってるわけじゃないし、会ってみて、お互いの性格を確かめて、ご縁がなかったことにするなり、友達になるなり、付き合うなり選べばいいと思うし。」

「ご縁がなかったことにしても良いの?」


白兎が上目遣いでオレの顔色を窺う。


「そりゃあ、無理矢理付き合ったって負担になるだけだし、そうなるくらいなら早い段階で無理だって言ってくれる方がお互いのためになるよ。」


白兎は悩んだ末頷いた。


「ほんとーに、僕で良いのか自信ないけど…会ってみたい。」

「そうそう。顔合わせだけだから気軽な気持ちで来たら良いと思うよ。」


綾ちゃんはかなり期待して来ちゃうだろうけど、現時点でそれを白兎に伝えると重荷だろうから言わないでおく。多分白兎は綾ちゃんの事気に入るだろうし。


「……なんか僕、また雪夜の掌の上で踊らされてない?」

「気にすんな。踊っておいた方が得なこともある。」

「やっぱり踊らされてるんだっ。」


両手で顔を抑えてしゃがみこんでぴゃーぴゃー言っている。素直に踊っとけ?な?


「あと2つ言っておくことがある。その子、身長172あってお前より身長高い。綺麗で可愛い子だし、お前の身長ももうちょっとくらい伸びるかもだからあんまり気にしなくていいと思うけど。あとその子、こないだ悪い男に騙されかけた。付き合う付き合わないにかかわらず、誠実に接すること。」

「うん。」


白兎の様子を見ると、自分より相手の方が身長高いのは特に問題なさそうな感じだ。綾ちゃんが何気に気にしているから何かあった時は気を使ってあげて欲しいところ。徹底紳士教育でどうにかなってると思うけど。「誠実であれ」は正直白兎なら大丈夫だと思ってる。ものすごいピュアソウルの持ち主だから。


「付き合うなら、その子はお前と逆で割と勢いで暴走しちゃうとこあるから、上手く手綱握ってやれ。いい子だけれど、結構騙されやすいし、うっかりしてるから、お前がしっかりな。」

「で、できるかな~…」


すごく不安そうだ。自信がない所までうまく調教できなかったし、この自信のなさはある意味でコイツの持ち味なので、放置している。ちょっと自信ないくらいが可愛く見えていいんじゃないかという味付けだ。容姿がなにしろ可愛い系だから、それを活かさないと勿体ない。自分であざとく振る舞えるならそれも良いが、白兎はそういうタイプじゃないし。


「男だろ?それくらいやって見せろ。」

「うん……雪夜は彼女いるんだよね?やっぱり雪夜がリードしてるの?」

「まあ。割と素直な子だからオレの彼女はリードしやすいけど。」


結衣はオレの掌でくるくる踊ってくれるしね。時々色っぽくこっちの箍をはずしかけたりもするけど、そういうドッキリは歓迎。妄想に苛まれるのもある意味楽しんでいる。


「紹介してくれる子ってどんな子?」

「アクティブな性格のムードメーカー。思うがままに人のことぐいぐい引っ張ってって色んな状況を楽しんじゃう子。巻き込み体質?こっちからするとわーわー何が何だか分からず巻き込まれたまんま、後から思い返してみると、意外と楽しかった…って感じ。男に対してはほんとウブだから白兎色に染めたらいいと思う。甘やかしてみるも良し、甘えてみるも良し、だよ。頼られると張り切るタイプらしいから、状況によっては上手く頼りながら操縦すればいい。」

「む、難しそう~…」


白兎はうんうん唸ってる。自信はなさそうだが、白兎は結構頭良いし、それくらいできると踏んでいる。


「難しいことないよ。今まで教えた通りにちゃんと接してあげれば普通に好意を返してくれるはずだよ。」

「モテる雪夜にこの葛藤はわからないっ!」

「馬鹿言え。オレの彼女をオレのものにするのスゲー大変だったんだからな。」


恋愛拒否モード展開とか、男受け入れるつもり一切なかったところに地道に石積んでったんだから。しかも結衣モテるし。二宗みたいないい男に。


「雪夜も好きな人の心を手に入れるの苦労したんだ?」

「苦労したとも。」


手を繋ぐことすら計画しないと実行できない綱渡りだったんだからな。離したそうな素振りを見せるとからかって挑発したり、逆に「嫌なの?」って悲しそうに子供ぶって甘えたり。


「雪夜の彼女ってどんな子?」

「紹介する席に連れていくけど、間違っても惚れるなよ?来る女の子のメガネかけてる方がオレの彼女で、メガネかけてない背の高い方がお前に紹介する子だから。」

「わかった。」


簡単に日曜の打ち合わせをしておいた。


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