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綾ちゃんの初カレside雪夜②

日曜日、結衣とデートだ。薄いグレーのパーカーにピンクのシャツ、チャコールグレーのボトムを穿いていった。足元はスニーカーだ。結衣は白の柔らかそうな春ニットに、所々にレースが張ってある甘めデザインのデニムのショートパンツに、スニーカーを履いている。髪が編み込まれていて非常に可愛い。二重丸です。


「その髪型カワイイね。」

「ありがと。」


結衣が嬉しそうにはにかんだ。その顔も可愛い。愛おしくてナデナデした。今日は二人で遊園地だ。ファンタジアランドほど大きい所じゃなくて、ちょっと小さめの室内型アトラクションが揃ってる所。結衣と手を繋いでそっと引いて歩く。歩幅は結衣に合わせて小さめ。結衣はここの遊園地に来るのは初めてらしくきょろきょろしている。


「ここはアトラクションの規模はさほどでもないけど、お化け屋敷が有名。『閉鎖病棟R』っていう探索型のアトラクションだね。結衣は怖いの強いんだっけ?」

「割と。突然のびっくりには弱いけど。」


うーん、ホラーには強めか。怖がる様子なんて見られたらときめいちゃうんだけどな。

まずはフライングバタフライという脚が固定されて縦の円形のレールの上をぐるんぐるん回るアトラクションに乗った。お互い向かい合っての2人乗り。二人で踏み込みのタイミングを合わせてステップを踏むとくるりと回転する。


「雪夜くぅぅぅん!これ思ってたより高いいいいい!!!?」


結衣が怯えて半泣きになっている。高い所苦手だもんねえ。怯える顔が可愛くてオレはキュンキュンなんだけど。


「アハハ。大丈夫。掴まって。回るよ!ホラ。」


二人で合わせて足を踏み込むと空中でくるりと回転した。結衣はそれも怖いみたいで、ぴゃーぴゃー言ってた。可愛い。


「怖かった…。」

「怖がる結衣も可愛くて満足。」

「もう!」


結衣が膨れた。ぷっくり膨らんだ頬の丸みが可愛くて思わず指でつつく。触れられたのが嬉しかったのか結衣は頬を緩めた。へらっとした顔も可愛い。

3D映像に合わせて座席が揺れて風が出る乗り物とか、3D映像に合わせて手元の棒で左右上下を操って得点を競うパラグライダー風の乗り物とか、小さなコースターとか、色々乗ってみた。室内型アトラクションは座席が大きく動かないので、やっぱりファンタジアランドなんかに比べると少し子供だまし的な感じがする。楽しいっちゃ楽しいけど。というかぶっちゃけ結衣と一緒ならどこでも楽しい。

昼食はパニーニとフレッシュジュースをとった。


「チーズトロトロ~。」


美味しそうに食べている結衣の顔が可愛い。結衣が美味しそうに食べてくれると美味しさが二割り増ししてる気分。


「おいしいよね。食べやすいし。」


軽く食べられて丁度いいし。

二人でぺろりとランチを平らげた後は、またいろいろアトラクションに乗って遊んだ。結衣は水が噴き出てくるアトラクションにおかんむりだ。まあ水が出てくるって言っても飛沫程度なんだけどね。

そしていよいよ期待の『隔離病棟R』。文字通り病院の中なんだけど廃病院って言う設定でぼろぼろだ。中を自由に徘徊して出口まで探索できる。最短距離で行くのも良し、寄り道するのも良しだ。結衣が思ったよりビビっててちょっと可愛い。


「わくわくしてきたね?」

「思ったより探索型怖いかも…」


結衣がビクビクしている様子を思う存分楽しむ。オレはこういうの全然怖くないし。ざっと経路を見てしまうと驚かしポイントも何となく予測がついてしまうし、ビビることはない。何が出てきたって所詮作りものだし。

呻き声やすすり泣きが聞こえた。赤黒い爛れた皮膚と白く濁った瞳の黒髪の女性が這うように近づいてきた。結衣がオレの手を掴んでダッシュした。怖かったらしい。確かに驚かしオブジェとかよりはリアルに生きてるのが寄ってくる方が迫力あるけど。逃げて一息ついてる所で結衣が驚かし役の女性に腕を掴まれた。多分別人だけどさっき這ってた女性と同じメイクをしている。


「どウして…置いテいったノ…?」


雰囲気たっぷりに結衣に迫る。


「きゃああっ!」


結衣がオレの胸に抱きついてきた。怯えてる様子が凄い可愛いです。ご馳走さま。ぎゅっと抱きしめる。思ったより結衣が怖がってるので、折角出てきた驚かし役の女性には退散していただこう。


「はいはい。もう走るの疲れたから。あっち行って。」


結衣を抱きしめつつ、結衣の二の腕を掴んでる手を摘まんではずして、しっしっと追い払った。実は手を摘まんではずす時、結構力を入れてしまったので、痛そうだった。女性はすごすごと去って行った。


「結衣、大丈夫?」

「うん…思ったより怖かった…」

「結衣もオバケ怖がったりするんだね。ホラー映画とか全然平気なのに。」


怯える結衣は見られないかと思ってたけど、しっかり見られて満足です。


「ホラーはどちらかと言えば好きだけど、3次元で追ってこられるのは流石に怖いよ。雪夜君は怖くないの?」

「あんまり。良くできてるなー…とは思うけど。さっきの特殊メイクすごかったよね。目も白っぽいカラコン入れてたし。瞳孔は黒かったけど。」


瞳孔まで白いともっと怖い感じが出ると思うけど、それじゃ前が見えないしねえ…


「雪夜君って怖いものないの?」

「結衣を傷付けられるのが怖い。」

「……。」


思い出すのは去年の空手道場で結衣が攫われた事件。あれより怖いことなんてそうそうないと思う。怖かったし悲しかったし悔しかったし、結衣に申し訳なかった。結衣がオレといることを選択してくれなければ、きっとあの時結衣にお別れを告げていたと思う。結衣が好きだから、結衣を守るために。


「大切だから…どうしても傷付いてほしくない。心も身体も。」


オレの大切な人。誰より好きな人。どうしても守りたくって、傷ついてほしくない。それがオレにとって一番怖いこと。結衣の頭を抱え込んで撫でる。結衣はちょっと潤んだ瞳でオレを見た。


「……ここがお化け屋敷でなければちょっといいムードなのにね。」


少しおどけて笑った。

結衣が怖がる姿は可愛いけど、あんまり怖がると可哀想だから、結衣を守りながらお化け屋敷を徘徊した。脅かし役の人も冷静に追い払うとすごすご去ってくんだよね。結衣といちゃいちゃできてオレは楽しいです。

室内アトラクションをたっぷり堪能した後、ファミレスでご飯にする。オレも結衣も包み焼きハンバーグだ。二人ともドリンクバーとライスを付けている。もぐもぐハンバーグを食べていると結衣が唐突にオレの背後を見て言った。


「あ、綾ちゃんだ。」

「ん?」


振り返ると綾ちゃんがいた。私服姿で3人の女性と4人の男性と一緒だ。


「ほんとだ。」


オレたちの席から衝立を挟んだテーブルの席を連結させて8人席にしたようだ。


「綾ちゃん今日、合コンだったんだよ。」


結衣がこそっと囁いた。合コンねえ…男たちを観察してみたが、あんまり好ましい感じはしない。勘で言っても好ましい感じはしないし、目で見ても普通に遊んでそうな感じに見える。……なんていうかクズの匂いがする。オレが女の子だったら絶対彼氏にしたくないタイプ。女の子たちも綾ちゃん以外は遊び慣れてそうな女の子たちばっかりだ。こちらもあまり良い感じはしない。8人は既にどこかに遊びに行った後らしく、打ち解けた様子だ。


「…あんまりいい男たちじゃないね。女の子も微妙だけど。」


眉を顰める。綾ちゃんってどうにもダメな男に引っ掛かりやすそうで心配なんだよねえ。なまじ面倒見が良いからクズの面倒もダラダラ見ちゃいそうな感じする。


「でも仲良くなってるみたいだね。」


綾ちゃんは大学生男子と親密そうに身を寄せ合って笑っている。


「うん……」


ボディバッグの中からペン型ICレコーダーを探す。元は去年藤森が結衣に苛められたとかほざいた事件で、証拠集めのために用意したものだが、何かあった時にすぐ証言が取れるようにいつも持ち歩いている。あいつらが綾ちゃんがいない隙に何かクズい会話をしそうだったら証言を押さえておくつもりだ。

綾ちゃんたちはパーティープレートとドリンクバーを頼んでいるようだ。結衣がちょっと気まずそうな顔をしている。友達の合コン現場に居合わせるのはちょっと気まずいのかもしれない。

8人は楽しそうに趣味の話なんかをしている。綾ちゃんの趣味は写真らしい。色んなカメラで色んな写真を撮っているようだ。大学生の男の子が「撮った写真見たいな。」なんて言って綾ちゃんに迫っている。綾ちゃんはマイデジカメを取り出して撮った写真を紹介している。寄り添っちゃって親密そうだ。

結衣はハンバーグを食べ終えてハーブティーで一服している。オレもハンバーグを食べ終えて、カプチーノを飲んでいる。ふわふわの泡が旨い。


「結衣。綾ちゃんって彼氏欲しいの?」


綾ちゃんに気付かれないようにコソコソ会話する。彼氏が欲しいから合コンに来てるんだよね?


「うん。そう。私も里穂子ちゃんも彼氏いるし、桃花ちゃんも雨竜先輩と良い感じで、相当羨ましいみたい。」


そっかー…。周りが全員男持ちで自分だけ特定の相手がいないのは寂しかったり疎外感を味わったりするんだろうか。だからと言って手近なクズに近づくのはお勧めできない。


「綾ちゃんの好みのタイプとかわかる?」

「一昨年、理想のタイプを聞いた時は『甘えさせてくれる人はポイント高い。でも甘え上手な人も母性本能擽る。頼ってくれると張り切っちゃう。容姿は生理的嫌悪を覚えないレベルなら許す。』って言ってた。」

「そう……。」


綾ちゃんがクズに落とされる前に良さそうな男斡旋してまとめちゃおうかな。オレ個人が綾ちゃんに好感を抱いてるとか、そういうのはないけど、桃姉の親友だし、結衣の友達だし、去年は藤森が原因で結衣の周りに立ったショタコン的な噂を打ち消すのに随分尽力してくれたみたいだし、みすみす不幸になるのを黙って見ていて平気な範囲の人間には属していない。オレの中では。

綾ちゃんに紹介できる人財を頭の中でピックアップする。あんまり変な男紹介できないし。逆に男側も綾ちゃんみたいな子が好きそうな男じゃないと駄目だし。

んー…あいつかな?綾ちゃんに合いそうな男を脳内検索し終えた。

合コン現場では、女の子たちが一斉に化粧室に立った。これは男どもの本音が聞けるチャンスっぽいな。ペン型ICレコーダーを録音に設定して、衝立のガラスの隙間に挟んだ。


「な…」


結衣がオレに話しかけようとしてきたので、唇の前に人差し指を立てた。オレたちの会話が入っちゃうと音が拾いにくくなるし。男どもの話に聞き耳を立てている。


「誰だよ、処女が食えるって言った奴。ヤリマンのビッチたちじゃねーか。」

「お持ち帰り楽そうでいいんじゃね?処女は興味あるけどビッチは床テクいいし。」

「綾ちゃんは処女っぽいけどな。明らかに毛色が違ってるし。」

「俺、綾ちゃん食いたいなー。処女食うの初めてだし。」

「お前いっつも女は食ったら食い捨てじゃん。」

「いいじゃん。まだまだ遊びたいお年頃ってやつ?」

「でもさー、綾ちゃんは甘えて頼ったら張り切って貢いでくれそうじゃね?」

「あー。じゃあキープするのも良いかも?」


予想通りやっぱりクズい男たちだった。小道具用意しておいて正解だったな。こんなクズらに綾ちゃんを差し出すのはちょっと無理。オレも良心が痛むし、知ってて放置したとなったら桃姉が激怒するだろう。どんだけ怒るか想像できないくらい怒るに違いない。

男らはそれぞれお持ち帰りする女の子の割り振りをしていた。綾ちゃんは「女は食ったら食い捨て」でも「貢いでくれるならキープ」の男の担当になった。処女食って、貢がせて捨てるとか、イイ性格してるな。「性格が良い」ではなく「イイ性格」。

結衣は綾ちゃんがお持ち帰りされないかハラハラしているようだ。

女子陣が戻ってくると男らは外面を取り繕った。もう有用な会話もないだろう。オレはペン型ICレコーダーを抜き取って操作して止めた。


「なんかあんまり良くない状況。綾ちゃんがお持ち帰りされそうになったら止めようか?」


結衣に告げると結衣はコクコク頷いた。

状況が動くまでドリンクを飲みながらしばし静観。綾ちゃんをターゲットにした男が綾ちゃんに近づき、髪に触れてみたり軽くスキンシップなんかとりつつ「綾ちゃんって可愛いよね。」とか褒めている。綾ちゃんはまんざらでもないようで、ちょっと頬を染めつつ会話をしている。綾ちゃんって結構騙されやすそうだ。


「ね。近くに車止めてるんだ。ドライブ行かない?」


遂に動いた!綾ちゃんの様子を見ると綾ちゃんは照れたようにこくりと小さく頷いた。男と綾ちゃんが自分たちの分の会計をテーブルに置いて席を立った。

オレと結衣も立ち上がる。

男は馴れ馴れしく綾ちゃんの腰なんて抱いている。もう落としたも同然だと思ってるんだろうなあ…


「綾ちゃん。」


綾ちゃんに呼び掛ける。

綾ちゃんが振り返る。


「雪夜君…と、結衣。デート?」


綾ちゃんは嬉しそうな微笑みを向けた。無邪気に偶然を喜んでる顔だ。


「綾ちゃん。その男についてくと、食われて、貢がされて、ポイ捨てされるよ。」


綾ちゃんに真実を伝える。万が一にも冗談に取られないようにド真面目な顔で言った。綾ちゃんもつられて真顔になる。


「な、何言ってんだ!?」


男の方はわかりやすく動揺した。オレはペン型ICレコーダーを弄って先ほどの会話を再生する。結衣が随分と驚いているようだが、それは後回し。

流れ出る会話を聞いていた綾ちゃんは憤怒の形相を浮かべて大学生男子に向き直ると、思いっきり手を振りかぶって痛烈な平手打ちをお見舞いした。ばっちーん!という音が響く。


「最低!さっき渡してきた番号は着信拒否するから。」


大学生男子らに背を向けてスタスタと歩き始めた。多分綾ちゃんは物凄く傷付いたと思う。気丈にピンと背筋を伸ばしているが、一秒もこの場にいたくないとばかりに足早だ。


「結衣、払っとくから綾ちゃん追いかけて。ムーンバックスで待ち合わせ。」


ここで綾ちゃんを無理に足止めするのは得策ではないから、外で待ち合わせだ。結衣は頷いて綾ちゃんを追いかけて行った。

悔しそうにオレを睨んでくる男に「クズが…」と吐き捨てて、自分たちのお会計分のプレートを持ってレジに行った。お会計はちょっと並んだ。急いでいる時ほど混んでいる。

会計を終えると足早にムーンバックスコーヒーの店内に入った。結衣と綾ちゃんは席にかけてフラッペを飲んでいた。中央にあるカウンターっぽい横一列の席だ。予想はしていたが、綾ちゃんはボロ泣きだ。

綾ちゃんの隣に腰掛けると、結衣がオレの分のフラッペをくれた。オレは綾ちゃんの頭をポンポンと撫でた。


「綾ちゃん。酷い男にひっかかる前に止められて良かった。もうあの女子グループにもあまり近づかない方が良い。碌な人脈してないよ。」


男の方もクズだったけど、女の子の方もあまり良い感じはしなかった。付き合うとろくなことにならないと思う。

綾ちゃんがぐすぐす鼻を鳴らす。


「……私、いつもきらきらしてる被写体を『撮る側』で自分にスポットライトが当たることなんてなかったの…。今日初めて、綺麗って、可愛いって沢山褒めてもらえて、私がスポットライトを当てられてる…そんな気がしたの。……それはただヤりたいだけだったんだね。馬鹿みたい。舞い上がっちゃった。」


きっとどこかに憧れがあったのだろう。桃姉や結衣みたいに周りからスポットライトを当てられて輝いている女の子に。


「綾ちゃんは可愛いし、綺麗だよ。……結衣には及ばないけど。」


彼女の前で他の女の子褒めるのって難しい。

綾ちゃんが泣きながら笑った。


「良いなあ、結衣は。」


オレに愛されてる結衣が羨ましい…という意味だ。綾ちゃんはオレに異性としての興味は持ってないけれど、愛されるのは羨ましいらしい。

しばらく綾ちゃんは泣いていて、結衣が綾ちゃんの背中をさすりながら語りかけた。


「綾ちゃん。世の中、色んな男の人がいるよ。ああいう最低な男の人だっているし、雪夜君みたいに素敵な人だっている。雨竜先輩みたいに一途なのにもたもたもたついちゃうような男の人や、五十嵐先輩みたいな愛されたがりの困ったちゃんもいる。最低な男の一角を齧っただけで男の人全員に絶望しないで。綾ちゃんには綾ちゃんのことだけを見てくれる素敵な男性が現れるから。綾ちゃんにスポットライトを当て続ける、輝かせ続けてくれる人がいるはずだから。」

「そんな人、いるかな…?」


綾ちゃんは不安そうだ。


「いるよ。」


結衣が微笑んで綾ちゃんの目元をハンカチで拭った。こんなときでも結衣は綺麗で、慈愛に満ちていてオレにはちょっと眩しかったりする。


「えーと…綾ちゃんがまだ誰かを信じ続けられる心の強さがあるなら、オレの知り合いに会ってみない?」


さっさと綾ちゃんに良さそうな男を宛がってしまいたいオレからの提案。

結衣と綾ちゃんは目を瞬かせた。


「今高1で綾ちゃんより年下だし、背もあんまり高くない、顔だって普通かちょっと良いかも?程度で美形なわけじゃないけど、一途でピュアなことだけは保証する。」


頼りなく見えるけれどしっかり者だし、騙されやすい綾ちゃんには丁度良いと思う。本人奥手でちょっともたもたまだるっこしい所あるからその辺綾ちゃんがぐいぐい引っ張ってったら相性いいんじゃないかと思う。しっかり調教済みだから割と自信持ってお勧めできるし。ちょっと背が低い所はマイナスポイントだけど、まだ伸びしろはあるし。


「えっと…」


綾ちゃんはどうしようかすごい躊躇ってるようだ。さっき男で失敗したばっかりだしなあ…尻込みする気持ちはわかる。


「会ってみるだけでも良いよ?実際会ってみないとわかんないと思うし、会ってみてご縁がなかったことにするも良し、友達になるも良し、付き合うのも良し、2人で選んでくれれば良いから。」

「ご縁がなかったことにしても雪夜君困らない?」


オレとヤツとの関係がぎくしゃくしちゃわないか心配してくれているらしい。


「それは二人の相性だからオレにはどうしようもないことだし、別に困らないよ。」


オレは友人関係とか結構さっぱりしたタイプで、ねちっこいお付き合いはしてないし。

ごくっと綾ちゃんがのどを鳴らした。


「会ってみる。」

「じゃあ、次の日曜空けといて連絡は結衣伝いでよこすから。向こうにも予定あるし延期になる可能性はあるけど、顔合わせ自体は絶対やるから。」


上手くまとまるといいな。


「わ、わかったけど…」


綾ちゃんは心細げに結衣の服の裾を掴んだ。


「結衣も来てよ。一人じゃ怖いよ。」


結衣は戸惑ってるようだ。確かに最初っからオレと綾ちゃんとヤツだけのメンツにすると、上手く会話が弾まなかったとき困るかもな。


「じゃあ、結衣の予定が良ければオレと結衣も同席ってことでどうかな?結衣、どう?」

「大丈夫だよ。」


結衣は巻き込んだのにもかかわらず、快く了承してくれた。

3人でムーンバックスでキャラメルフラッペを飲んだ後は、結衣と二人でそわそわしている綾ちゃんを家に送り届け、その後結衣を家まで送った。


「縁結びとかよくやるの?」


帰り道の道すがら結衣が聞いてきた。


「よくってほどやらないよ。でも綾ちゃんは、なんていうか……」


微妙に妬いてそうな結衣の顔を物珍しげに鑑賞しつつ言葉を続ける。


「……なんていうか。放っておくとすぐにダメンズ捕まえてヒモにしちゃいそうな気がする。暴力とか振るわれても『俺にはお前しかいないんだ!』とか泣き縋られて、別れるに別れられないような未来のヴィジョンが…危なっかしくて放っておけない。2歳児が3輪車で車道に出ようとするのを目撃してしまった父のような気分…」


放っておけないし、寝覚めが悪いから早めにいい男宛がってまとめておきたい。


「全くの他人なら放置する所だけど桃姉の親友だし、ちょっと不幸になるのを黙って見てるのは寝覚めが悪い。」

「雪夜君の知り合いは大丈夫なの?」


ヤツなー…奥手なことと妙に貞操観念強めで、相手にもそれを強要しがちな所を除けばいい男だと思うよ?頭も良いし、将来性もある。


「ヒモにはならないと思う。綾ちゃんが見かけしっかり中身うっかりなのに対して、あいつは見かけは頼りないけど中身は結構しっかりしてるから。」

「どんな知り合い?」

「合気道の道場で知り合ったやつ。結構いいやつだけど、奥手であんまり女慣れしてない。顔がちょっと可愛いから食べたがる女性は多いけど、貞操観念強めで、いまいち勢いで踏みきれない感じ。色々調教してみたから最低限女性に対する態度でNGはないはず。」


女性の扱い方はきっちり調教したとも。気遣い上手の紳士風になるように。元が奥手の童貞感まる出しのもたつきようが、あんまりにも酷かったから徹底教育した。元の性格が甘いし、まめまめしい感じのやつだから磨いたら結構光った。今のところ活躍の場はないようだけれど。


「調教…って雪夜君がしたの?」

「うん。」


結衣が「こいつ何してんの?」という顔をしたので笑った。


「いいの。元のまんまだったら、あいつ一生固定の彼女なんてできなさそうだったから。」


それくらい元の態度は酷かった。女性と同席するとガッチガチに固まって終始無言とか。話しかけられても一言か二言で話題切っちゃうし、気遣い?何それ?おいしいの?状態だった。顔がいくらか良くてもモテないよ。


「雪夜君のペンって何なの?」


突っ込まれてしまった。


「ペン型ICレコーダーだよ。」

「いつもそんなの持ち歩いてるの?」

「今日はたまたま持ち歩いてただけ……って言ったら信じる?」


結衣の顔には「信じない。」と書いてあった。だよね。デートにわざわざICレコーダー持ってきてる男とか「一体何を録音する気なの?」って感じだ。肩をすくめる。


「大抵いつも持ってるよ。何かあったとき便利だし。」


今回みたいに証言取れちゃったりするしね。嵩張らないからどこにでも持ち運びできるし。念のためって感じで持ってる。


「結衣。顔合わせ当日はメガネ姿で、ちょっと地味めな服着てきて?折角の綾ちゃんとの顔合わせなのにあいつが、結衣に目を奪われたら意味ないから。」

「わかった。」


結衣は可愛すぎるからなあ…他の女の子と一緒に並んでるといつも頭一つ抜きんでて可愛い。他の男の目に晒すのは不安だよ。



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