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綾ちゃんの初カレ③

そわそわする綾ちゃんをよそに1週間が経った。日曜日、綾ちゃんを連れて『バンビーナ』というイタリアンのお店に入った。ディナーじゃなくてランチだ。雪夜君の指定通り今日はメガネスタイルにした。ウェリントンの焦げ茶のセルフレームに、縦縞模様の入った白いパンツ。白の柄入りのプリントシャツ、白のカーデガン。綾ちゃんは白シャツに黒のチェックパンツを合わせてすっきりした印象だ。カラーボタンがじゃららっとついたイヤリングがお洒落。

綾ちゃんはガチガチだった。

このお店のチョイスがなんとも雪夜君らしい。かなりオシャレなのにどことなくカジュアルな雰囲気のお店だ。ちょっとした女子会なんかに良さそう。客の席はみんな暖簾で区分けしてあって外からじゃよく見えないし。

雪夜君たちは先についてると連絡があったのでLINEで『着いたよ』とメッセージを送ったらすぐに暖簾から顔を覗かせた。


「結衣、こっち。」


私と綾ちゃんが席に着く。


「綾ちゃん。こっちこの前言ってた知り合いの月城白兎つきしろはくと。白兎、こっちお前に話しておいた長谷川綾はせがわあやちゃん。隣のはオレの彼女の朝比奈結衣あさひなゆいね。結衣に手ェ出したら殺すから。」

「だ、出さないよっ!」


白兎君と呼ばれた男の子が慌てて言った。必死にぶんぶん首を振っている。なんか雪夜君との力関係が透けて見えるな。

白兎君は名前の通り、兎を思わせる可愛らしい男の子だった。髪は薄茶でナチュラルなマッシュショート。黒い瞳が大きくてうるっとしている。雪夜君は『普通かちょっと良いかも?程度』と言っていたが、実際は物凄く可愛い。多分モテる。雪夜君って本人が凄い美男子で、周りも桃花ちゃんや月絵さんに囲まれてるから顔の美醜に対する採点が厳しめっぽい。私のことは可愛いって言ってくれるけど、本当はどう思ってるんだろう…。


「えっと。月城白兎です。歳はまだ15歳です。桜嵐おうらん高校1年です。趣味はラーメン屋めぐりです。よろしくお願いします。」


ぺこりと頭を下げる。ラーメン好きなのね。桜嵐高校って結構ハイレベルな高校じゃなかったっけ?可愛い上に頭も良いのか。しかも格闘技やってるとか…雪夜君どんだけ完璧な男の子連れてきたんだよ。


「長谷川綾です。歳は17歳。光ヶ崎学園3年。趣味は写真。よ、よろしくね。」


みんなの視線が私に集まった。え?私も自己紹介した方が良いの?まあ、白兎君とははじめましてだし、一応自己紹介しておいた方が良いのかな?


「朝比奈結衣です。光ヶ崎学園3年で、綾ちゃんの友達で、雪夜君のこ、恋人で、す。」


最後の所だけちょっと照れてしまった。


「雪夜~!!女の子のレベル高すぎるよ~…!!僕浮いてない?」


白兎君が私たちを見て堪らず!といった感じに雪夜君に泣きついた。雪夜君は鬱陶しそうに白兎君の手を払った。


「浮いてない浮いてない。大丈夫だから落ちつけ。とりあえずメニューはコースで良い?もう予約してあるんだ。お代はオレと白兎が持つから。」

「え?払うよ。」

「今日は良いの。」


折角のお小遣いなのに使わせちゃってなんか申し訳ない。コースは美味しかった。レモンとバジルのタコのマリネから始まり、コース料理を堪能しつつお喋り。


「ラーメンってこの辺だとどこがお勧め?」

「『芝崎』っていうラーメン屋さんがお勧めです。人気のメニューの中華そばは醤油に拘りぬいた醤油ラーメンで、スープは鴨の旨みが効いてます。お肉の方はあっさりした豚チャーシューとあわせてありますけど、それも結構美味しくて。」

「へえ。美味しそう。」

「あと『菜々軒』ってところも美味しいです。しゃきしゃき野菜のタンメンが美味しいです。野菜を食べるラーメンっていう感じで、色んな野菜が入ってるんです。僕、ブログでラーメン食べ歩きの記事載せてるんですよ。」

「うそ。見たい。」


綾ちゃんと白兎君は話が弾んでいるようだ。


「雪夜君の友達、随分可愛い子だね。道場の子ってみんなあんな感じなの?」

「そんなわけないでしょ。格闘技習いに行ってるんだから。あんな石鹸の香りのしそうなラビットボーイはあんまりいないよ。」


雪夜君が笑った。


「雪夜君も石鹸の香りがしそうだけど。」

「むさ苦しくならないように気ぃ使ってるからね。脱ぐとちょっと男臭くなっちゃうけど。」


着痩せするけど、雪夜君結構がっちりしてるからね。それでもガチガチのマッチョと言うよりはしなやかな細マッチョだったと思うけど。去年プールで見た感じでは。

雪夜君が私の手を取って匂いを嗅いだ。


「結衣はオレのマーキングの匂い。」


手首と耳の後ろに雪夜君のくれた香水つけてきたからね。


「すごくおいしそう…」


雪夜君がちゅっと指先に口づけた。雪夜君の微笑みがどことなく淫靡な感じがして目を奪われてしまう。

……と思ったら目を奪われてるのは私だけじゃなくて綾ちゃんと白兎君もこちらを見ていた。


「うわあ……」

「雪夜がエロい…」

「ああ。うっさいうっさい…」


雪夜君がしっしっと二人の視線を追い払って唇を尖らせた。なんか可愛い。にこっと笑って雪夜君の尖った唇に指先でタッチした。


「結衣。誘惑は人のいない所でしてね?」


ゆ、誘惑してるわけじゃないやい…。私は赤くなった。雪夜君はふふっと笑った。


「結衣はオレの友達に興味があるの?」

「んー…友達と言うか、友達の前での雪夜君に興味がある。いつも友達にはどんな態度で接してて、どんな話するのかとか。」


私の前の常に優しい雪夜君じゃなくて、友達に見せる顔が見てみたい。色んな雪夜君のことをいっぱい知りたい。


「じゃあ、今度ダブルデートしようか?」

「え?」

「結衣以外全員中学生になっちゃうけど、どっかに遊びに行こう?」


い、いいのかな?そんなの。お友達が気を遣っちゃわない?


「まあ、多少は気を使うだろうけど、そんなのお互い様だし。後藤と結衣は仲良くなれそうな気がする。」


口に出さなくても会話が成立してしまう雪夜君の謎の能力にはもう慣れた。


「後藤さんって言うのがお友達?」

「いや、友達は正哉まさや多嶋正哉たじままさや。結衣も会ったことあるよ。オレが記憶喪失になった時、正哉も見舞いに来てたから。後藤はその彼女。後藤美穂ごとうみほ。結衣には及ばないけどまあまあ可愛い。」


おお!雪夜君が可愛いって評価するくらい可愛いのか。見てみたいぞ。


「興味があるなら今度予定合わせるけど?」


い、いいのかな?本当に良いのかな?社交辞令じゃなくて?ちらちら雪夜君を見てしまう。


「ふふっ。遠慮しないで?オレも結衣のこと自慢したいし。」

「じゃあ…行きたい。」

「連絡つけておくよ。」


嬉しいな。ダブルデート!すごい楽しみ。隣で綾ちゃんと白兎君も別の話題で盛り上がっているようだ。

途中で一度綾ちゃんと化粧室に立った。


「どうしよう。白兎君、めっちゃ優しい。大学生男子みたいに上手に煽てたりはしてこないけど、何でも気を使ってくれる。『店内は少し寒いですけど大丈夫ですか?』とか、さっきも『アンチョビ大丈夫ですか?無理ならチーズフォンデュにもできますよ』って。」


ああ。バーニャカウダね。結構アンチョビ強かったよね。私は美味しく食べたけど。白兎君は結構まめまめしく気を使ってくれる男の子のようだ。綾ちゃんもまんざらでもない感じ。


「気に入った?」

「て言うかレベル高すぎて変な汗かきそう。顔もすごい可愛いのに頭も良くて、優しくて。女の子に慣れてないみたいでさっき『手は大きいんですけど身長伸びないんです』って言ってたから『手はどのくらい?』って手を触ったらそれだけで真っ赤になっちゃって…か、可愛すぎるっ!」


本当に奥手らしい。綾ちゃんは激しく萌えたようだ。雪夜君はちょっとの接触で真っ赤になっちゃうとか、あんまりそういう感じの子じゃないから、他の男性のそういう話を聞くのはちょっと面白い。まあ、私は雪夜君が一番だけど。二番も三番もない唯一だけど。


「あれで彼女いないとか嘘だよ!私騙されてない!?」

「白兎君のことはよくわかんないけど、雪夜君はそういう嘘はつかない。」


そして雪夜君は人が嘘つくと見抜いてくる。だから多分白兎君に彼女がいないのは本当だと思う。


「そっか…そっか…あー…どうしよっ。アドレス聞きたいっ!」

「聞いたら?」

「断られたら尋常じゃなく凹む。」


あんだけ盛り上がってたら断られないと思うけどなあ…綾ちゃんは自信がないらしい。白兎君は自分から積極的にアドレス聞いてきたりする肉食系ではないようだ。


「綾ちゃんはすごく綺麗で魅力的な女の子なんだから、自信持った方がいいと思うよ。」

「そうかなあ…」


綾ちゃんはそわそわして、なかなか化粧室から出ようとしなかった。


「綾ちゃん、あんまり時間かけると大の方をしてるとかあらぬ疑いを…」

「で、出る!!」


綾ちゃんが慌てた。私と綾ちゃんが席に戻ると白兎君が真っ赤になっていた。雪夜君がなんか言ったのかな?ちらっと視線を向けたが雪夜君はポーカーフェイスだ。雪夜君が何考えてるか読むのとか多分無理だと思う。


「あ、あの…綾さん。これ…僕の番号とアドレスです…もしよければ連絡ください…」


白兎君が小さなメモ帳を差し出した。あ、このメモ帳いつも雪夜君が使ってるやつだ。やっぱり雪夜君に何か言われて覚悟を決めたんだな。雪夜君なんだかんだ言ってちゃんとフォローしてるし。ちょっと微笑ましい。にこにこしてたら雪夜君にほっぺのお肉を摘ままれた。


「い、今交換するから待って。」


綾ちゃんは携帯を出してさっそく交換していた。良かったね。再び食事を楽しみつつ会話。綾ちゃんたちは会話の方に夢中だけど、私は食べる方もしっかり楽しんでいる。ポークのアリスタ風もすごく美味しかった。香草の香りが何とも…

ドルチェのベリーのジェラートもすごく美味しかった。美味しそうにしている私を雪夜君が蕩けそうな目で見てたのはちょっと恥ずかしかったけど。雪夜君って甘すぎる。ドルチェのジェラートよりも甘い気がする。


「結衣。満足した?」

「うん。満足。すごーく美味しかった。雪夜君はこのお店よく来るの?」

「まさか。この前月姉に連れてこられて、たまたま知ってただけ。値段の割には美味しいし。ちょっと気に入ってる。」


月絵さんが利用してるお店なのか。素敵なお店だけど。


「月絵さんの一条先輩に対する好感度ってどうなった?」

「地道な苦労も報われて常時名前呼びになったよ。」


おお!やったね。一条先輩。また月絵さんと桃花ちゃんとガールズトーク出来る機会があったらいいなあ…月絵さんと桃花ちゃんがもうちょっと進展した後に。月絵さんも乙女な顔を見せてくれないかなあ…。

雪夜君と月絵さんのことをお喋りした。雪夜君曰く月絵さんの運転超怖いらしい。「ちょっととどまれ!」ってタイミングで普通にハンドル切っちゃうらしい。雪夜君はにこにこ話してるが多分本当に怖いんだと思う。私は月絵さんの運転する車には出来る限り乗らないようにしよう…と心に決めた。

食後のコーヒーを飲んだ後雪夜君が閉会を告げた。


「じゃあ、とりあえず顔合わせは終わったし、後は各自で連絡とるなりしておいて?今日は解散ね。」


雪夜君と白兎君がお会計して、店を出た。立ち上がってみてわかったけど確かに白兎君はそこまで高身長ではない。170ぎりぎり行かないくらいだと思う。綾ちゃんの方が身長が高い。

綾ちゃんのことは白兎君が送って行ってくれるらしいけど…送り狼にならないかな?心配したら「あいつにそれだけの度胸があったら、既に彼女の一人ぐらいはいると思う。」と雪夜君に言われてしまった。草食系なのね。


「送り狼っていいね。結衣、オレも狼になっていい?」


ぎゅっと抱き寄せられた。雪夜君の目が笑っている。


「ダメ…」


ここは真昼の往来です。


「ちぇっ。」


雪夜君も本気でどうこうしようと思ったわけではないのだろう。普通にいつもの手繋ぎ状態に戻った。無事に雪夜君に送られて帰った。



それからしばらくした後、綾ちゃんに初めての彼氏ができた。




おしまい。


あんまり見直ししてないので、誤字とか報告してくれたら嬉しいです。多分とんでもない誤字とかありそう。



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