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ダブルデートside雪夜③

「夕食どうする?」


結衣に尋ねられて、正哉と顔を見合わせた。


「並ぶけど美味しいものと、並ばないファミレスかファーストフードどっちが良い?」


結衣たちはどちらを選ぶだろう。個人的には美味しいものを食べて喜ぶ結衣が見たいけど。ファミレスでドリンクバー頼んでだらだらできるのも少し魅力はある。

結衣と後藤は顔を見合わせた。何となく様子を見ていると、後藤は美味しい方が良いみたいな感じだ。後藤の性格からいって、結衣がファミレスを選んじゃったら多分反対はしないだろうけど。

先を譲り合うようなしぐさを見せた。


「私は並んでも美味しい方が良いな…美穂ちゃんは?」


結衣がおずおずと言った。


「私も美味しい方が…」


後藤がちょっと嬉しそうな顔をした。

良かった。二人とも意見がまとまったようだ。


「じゃあ行くか。」


正哉が後藤の手を取ったので、オレも結衣の手を取る。ダブルとはいえデートだし、ちょっとくらい甘いことあってもいいと思う。


「何を食べに行くの?」

「内緒。着いてのお楽しみ。」


人差し指を唇の前に立ててパチンとウィンクした。結衣がオレに目を奪われているようなので、ちょっと気分が高揚した。可愛い顔に生まれて(自分で言うけど)良かった。

飯島鮮魚店は行列ができていた。やっぱり一時間以上かかるコースだな。


「水族館行った後に鮮魚食べるとか…」


結衣はそう言うが、水族館で、カクレクマノミ食べること考えてたくせに。ヘンなの。


「海のお勉強をした後は食物連鎖のお勉強だよ。」


多分カクレクマノミより美味しいよ。


「あんなに可愛かったお魚さんたちを食べてしまうのですね…」

「牧場の敷地に普通にジンギスカン屋とかあるし、別におかしくないだろ?目で楽しんだ後は舌で楽しむんだよ。これ基本。」


正哉が笑った。


「何の基本です?」

「物を食べるときの基本。美穂も食べられてみるか?じっくりたっぷり色んな所見せてもらった後で食ってやる。」


正哉がニヤッと笑った。かなりエロい表情作ってるな。あれは後藤に見せるためにわざわざ正哉が作った表情。後藤は真っ赤になって口をパクパクさせている。正哉がその様子を文字通り『目で楽しんでる』のを見る。


「正哉、顔が18禁。」


一応突っ込んどく。ここには結衣もいるからな?結衣まで頬染めててオレはちょっと面白くない。


「しつれーな。」

「後藤真っ赤になっちゃってるし。」

「可愛いだろ?」

「あー。ハイハイ。ご馳走さま。」


肩をすくめた。


「そう言えば雪夜、合気道の道場の知り合いに朝比奈さんの友達紹介したらしいな?敦士がなんか喚いてたぞ。『俺にも!』って。」

「いや。敦士は無理だろ。どっからその情報回ってんの?」


かなり怖いんですけど。合気道の道場に同じ中学のやつなんていたっけ?敦士に紹介するのはフツーに無理だし。敦士は推薦基準に全然達してないのは当然ながら、下心すら上手く隠せてない。顔面や行動がエロい欲望に充ち溢れすぎてて、きっと女の子を紹介したら、その子が気分を害すると思う。無理。


「どこだろうな?まあ、敦士は無理だけど。ていうか敦士は早いうちに躾けておかないと万年女日照りの駄目な男になりそうな気がする。風俗とかに嵌まって身を持ち崩しそう。」


その懸念は尤もだけど、誰がその『躾け』をやるんだよ?オレに報告すんなよ、そんなこと。しらねーし。


「オレは躾けないぞ?正哉がやれよ。」

「俺の手には余る。」

「そこまで面倒みる気ないし。日照りだろうが風俗だろうが好きにしてくれ。」


思う存分玄人の女の子で筆おろししたらいいと思うよ。オレも敦士が不幸になることを望んでるわけじゃないから、美人局とか、借金とかには注意してほしいけど。


「放置か。」

「なに?正哉、親身に世話焼いてやりたいの?」


物好きな…


「や。無理だけど。」


なら言うなよ。

敦士の話題はあまりデートの場にふさわしくないと思う。無難な話にチェンジしよう。


「この前お前に借りたゲームでさあ…すごい変なバグが出たんだけど。」

「どんな?」

「初期ローブが売っても売っても減らない。無限に金だけ増えてく。」


最初「売り忘れたっけ?」と思ってたけど、操作してみてびっくりだよ。


「ラッキーじゃん。」

「もっとこう、苦労して装備品そろえるステップ欲しいじゃん。」

「わがまま~。」


とはいえ、有難いことは有難いし、いつそのローブが消えるのかわからないから今の所、買い物行くたびにローブ売りを何順も繰り返している。

正哉曰くあのゲームは元々バグの多いゲームなんだそうだ。中にはゲームの途中で詰んじゃうような致命的なバグも発生するので、常にセーブデータは複数持たなくてはならないらしい。

ゲーム談義をしているオレらを見て、結衣が顔を輝かせている。友達とお喋りするオレの姿が見られて満足なのだろう。好意的な感想のように思うけど詳しい詳細まではわからない。意外と子供っぽい所があるとか思ってんのかな?オレだって普通の中二ですよ?


「朝比奈さんの中で雪夜の印象変わったかな?」


正哉がこそっと言う。


「多少変わっただろうけど…あまり大きく変わらないでほしい。折角甘くてクリーンなイメージで来てるんだし。」

「甘くてクリーンね…雪夜を表現する言葉とは思えないな。」

「なんだよ。冷酷で汚いとでも?」

「汚くはないけど、女子には結構冷酷。」

「オレだって相手を見て態度変えてるぞ?」

「雪夜の女子に対する態度の判断基準ってどこなわけ?」

「内緒。」


オレは『オレに対して特別な興味や好意を持つ』女子には冷たく接してる。痴情のもつれ的な厄介事が鬱陶しいからだけど。そこまでしても藤森や神崎さんみたいなのは出てくる。

後藤はしっかりオレの判断基準を認識してるっぽいけど、認識したうえで、絶対オレに興味持たないようにしてると思う。


「その判断基準で朝比奈さんは弾かれなかったのか?」

「うん。」


一度目結衣に出会った時、結衣はそういう意味では全くオレに心動かされてなかった。「ノートの登場人物に会っちゃった!しかもノートを見られた!!」という焦りでいっぱいだった。和解した後も結衣は特にオレのこと何とも思ってなくて…まあ、オレ自身小5から小6に上がったばっかりで、かなり幼かったから、好意の持ちようもなかったのかもしれないけど…。オレの方が結衣に心惹かれるようになって、アプローチとかしてみたけど、最初は空振りばっかりだったな。繰り返しアプローチしているうちに、結衣もいつしか反応を返してくれるようになって、「恋愛拒否モードを展開させてるけど根っこの部分でこの娘はオレに惚れてる」って確信したのはいつだったっけ。何か具体的な確信の元があったわけじゃなくて、徐々に「多分きっとおそらくこの娘はオレに惚れている」の不確定要素がぽろぽろ外れていった感じ。二宗が結衣に告白するころには既に結衣の気持ちはオレに傾いてたと思う。

記憶を失くした二度目に結衣に出会った時、結衣の瞳にはオレへの恋情が溢れかえっていた。けれど最初は状況がよくわからずぼうっとしていたし、正気になる頃には月姉に「雪夜は朝比奈さんと付き合ってた」と聞かされていたので、初めから「オレの恋人」としてのフィルタをかけて見ていた。不安げな結衣はとても儚げで愛らしく思えた。


「まあ、朝比奈さんと一緒にいるお前は幸せそうで生き生きしてるって言うか、俺もちょっと安心だけどな。」

「幸せだからね。」


幸せボケしてないかちょっと心配。勘とか鈍ってたらやだなあ…

1時間ちょい並んでお店に入れた。

結衣たちはメニューを見ている。どれも美味しそうだよね。


「雪夜君は何にするの?」

「オレは鮪尽くし丼の特盛かな。」


鮪尽くし丼は前回正哉が食ってて、すげー旨そうに食ってたから、かなり興味がある。


「特盛…?」

「丼物は100円追加すると大盛、200円追加すると特盛に出来る。特盛はかなりボリュームあるよ。結衣はお腹すいてる?」


百介に聞いたことを教えてあげる。メニューの端っこにも小さな文字で書いてあるんだけどね。

結衣がきゅるる…とお腹を鳴らせた。空腹らしい。身体に素直なお腹が愛らしい。ちょっと笑った。


「特盛で頼んでみる?残ったらオレが食べるし。」


結衣も結構食べるときはちゃんと食べる方なので、残らないかもしれないけれど。


「じゃあ、私も鮪尽くし丼の特盛にする。」


正哉は上海鮮ちらしの特盛を注文。前回羨ましく思ってたのはお互い様なようだ。後藤は上海鮮ちらしの並盛を注文するようだ。並盛でも結構ボリュームあるし、美味しいから満足はしてもらえると思う。

例によってずずんと二段重ねのどんぶりがやってくる。圧倒的なボリューム感だ。


「2段!?」

「特盛だと器に具が乗りきんないんだってさ。」


上段は本マグロの大トロ、中トロ、タタキ、炙り、漬け鮪、赤身がこれでもかって言うくらい器からはみ出して盛られている。下段は百介に見せてもらったのと同じ鮪のぶつ切り丼になっている。鮪のステーキ丼も気になるんだけどねえ…ステーキ串滅茶苦茶旨かったから。

上海鮮ちらしの方もべろんと牡丹状に様々な種類の魚の身が広がっている。因みにお値段は鮪尽くし丼の方が若干お高い。やっぱり肉厚だしねえ…


「じゃあ、いただきます。」

「水槽の中をあんなに逞しく泳いでいた鮪さんを味わってね?」


結衣をからかった。結衣はむっとしながら一口目を食べた。


「おいしー…」


結衣は一口食べただけでデレデレに笑み崩れた。美味しかったらしい。すごい可愛い顔。その顔を見ながらふふっと笑う。


「美味しそうに食べてる結衣も可愛い。結衣がそうやって美味しそうに食べてくれると美味しさ二割り増しに感じるよ。」


二割り増しになってなくても美味しいのに、余計美味しく感じる。

トロのとろけるような脂が堪んない。


「うん。やっぱり旨い。正哉、トロと穴子交換しない?」


実は前回食べた時穴子が身がホロっとしていて、そのくせ味がしっかりしていてかなり美味しかったのだ。


「あ、頼むわ。俺トロの方が好き。」


正哉と具を交換して食べる。


「美穂。旨いか?」

「可愛いお魚さんは美味しいです。あんなに可愛かったのに…」


後藤が微妙な顔をしている。さっきまで「可愛い!」と愛でていたものを美味しく頂いちゃってることに葛藤がありそうだ。


「悲しいけどこれ食物連鎖なのよね。」


名言風に言ってみる。


「雪夜君、ライオンに食べられる前の前振り?」

「結衣がオレに食べられる前の前振りでしょう?」


からかわれても食いつかない。逆の部分から攻撃する。


「食べていい?」


結衣の顎をくいっと持ち上げた。目を眇めて顔を近づける。キス…しちゃおうかな…。結衣は非常にドキドキしているようだ。とても可愛くてときめく。


「だ、だめ。今はお魚さんを食べてください。」


真っ赤になって周囲をキョロキョロしている。


「そう?残念。」


悪戯っぽく笑う。


「美穂も食われとく?」


正哉が乗ってきた。


「今食事中!結衣さん、どうしよう。野獣がいっぱいいる。」

「おいしい餌があるのが悪いんだよ?」


やっぱりキスしちゃおう。ちゅっと結衣の唇にキスをした。


「むぐっ!」


もぐもぐしていた結衣は突然の襲撃に目を白黒させている。そしてこれでもかというくらい頬を染めている。正哉も後藤にキスしたみたいだ。正哉も公の場でキスすることに余り躊躇いはないようだ。傍から見たらとんでもないバカップルに見えるんだろうなあ…周囲の人に「そう言うことは家でやれよ。ケッ!」って思われてそう。遠慮なくやっちゃうけど。


「食べちゃだめって言ったのに…」

「味見だからまだ食べた内に入らないよ。」


笑った。食べるって言ったら本当にがっつり食べちゃうよ?結衣自身見たこともないような場所を見て触って味わっちゃう。


「食べた内に入らないなら私が他の男の人に味見されても良い?」


ほう?


「結衣に監禁されたい願望があるなんて知らなかったな。」


にっこり笑って見せた。


「監禁して、凌辱して、オレしか目に入らないように壊してあげようか?きっと壊れちゃった結衣もかわいいだろうね。」


壊れてオレだけを一心に求めてくる結衣を想像すると仄暗い興奮を覚える。結衣が浮気なんてしたらとても正気でいることなんてできないだろう。人の道を踏み外す一線もあっさり越えてしまうかもしれない。


「雪夜、家族のいる自宅で監禁するのは難しくないか?」

「そうだね…。どうやったら監禁できるかな?まず最低でもアパート借りなきゃだめだし、食費も光熱費も水道代もかかるしね。アパート借りること自体保護者の同意が必要だろうから、上手い口実作らなくちゃならないし。実際監禁するのって結構難しいかも。お金の方は初期費用はかかるけれど株で増やしていってみるか…」


どの道筋を辿れば結衣をちゃんと監禁できるのか真剣に吟味した。


「初期費用いくらくらい出せるんだ?」

「こないだ祖父母に3姉弟200万ずつ貰ったからそれを当てれば何とかなると思う。」


義父さんと義母さんも200万ずつ貰ってる。宝くじで2000万当てたから可愛い子供夫婦と孫たちに大盤振る舞いしたらしい。今まで「いざという時の為に取っておこう」と思っていたけれど、元手に増やすのも手かもしれない。オレのことだからそうそう勘と先読みが鈍ってない限り大損はしないと思うし、もし200万丸ごと失くしたとしても、所詮あぶく銭だし。そう思えば怖くないな。結衣を監禁できる資金稼いでみようかな?


「雪夜に限って大損とかはしなさそうだしな。沢山増やしてきっちり監禁だな。」

「ゆ、雪夜君…冗談だから…」


結衣がオロオロしている。狼狽える顔が可愛い。


「ふふっ。オレも冗談だよ?」


浮気されてもすぐに監禁コースにはならないだろう。まず結衣の心をオレに惹きつけて躾けをし直す所から始めると思う。その方が健全だよね?


「でも浮気はやめてほしいな。」


たかがキス。されどキス。こんなに可愛い結衣に浮気なんてされたらものすごいショックだ。そんな衝撃ほしくない。

オレはこれから先もずっと何の疑いもなく結衣にときめいていたい。

まあ、結衣が浮気っていうのはなさそうな気がする。一応こうやってあれこれ想像してみることはあるけど、「多分ないだろうなあ…」って信頼して安心してる部分はある。


「絶対しないよ!でも、雪夜君も浮気したら…やだよ…?」


結衣が上目遣いでお願いしてきた。不安そうに。そのあまりにも不安そうで儚げな様子がものすごく可憐で思わず身悶えた。か、かわいい…浮気なんてするわけないし。現在進行形でメロメロだ。


「朝比奈さんって小悪魔な?」

「結衣さんって一人でふらふらしてたら、あっという間に悪い男に食べられちゃいそうですよね。可愛いし、か弱そうだし、無理矢理とか。」


おう…。後藤結構怖いこと言うのな?分身して四六時中結衣に張り付いてたい。後藤、あまり不安なヴィジョンを抱かせないでくれ。実際結衣は一度無理矢理未遂されてるし。オレのせいで。


「美穂も悪い男には気をつけろよ?」

「正哉君みたいな?」

「おお?言うようになったな?」

「毎日躾けられてますから。」


ちょっとのんびりデートには相応しくない発言もあったけど、鮪尽くし丼は美味しく頂いた。オレも勿論食べきったけど、結衣も割とペロッといけちゃったようで、完食していた。


「プハァ…おいしかったー…」


結衣は満足げな顔だ。


「いっぱい食べたね?」

「食べすぎちゃったかな?」


どうやら食べた後から不安になってきたようだ。


「たまにはいいんじゃない?普段はあんまり食べてないみたいだし。」


結衣は沢山作るくせにそんなに食は太くない。食べても太らない体質だし1日くらいならあんまり問題ない気がする。暴飲暴食は身体によくないと思うけど。


「私は並盛にしましたけど、皆さんの見てたらやっぱり羨ましかったです。並盛でも大分ボリュームはあるんですけど、酢飯だから結構スイスイ食べられちゃって、ちょっと物足りない感じです。美味しかったから余計に。」


オレも最初食った時そう思った。最初ボリュームに驚かされて、これならきっと腹いっぱいになるに違いない!と思ったのに食べきってみるとちょっと物足りない、もっと沢山味わいたい気分になるんだよな。


「今度来るときは美穂も大盛くらいにチャレンジしてみたらどうだ?」

「そうします。」


お会計をした後4人でちょっと腹ごなしに歩いた。特に目的地はない。本当にぶらぶらしてるだけ。


雪夜君は自分が周りの人から見て「ケッ!」って思われるバカップルだということを自覚してます。そのうえでやっちゃう。

迷惑な客で申し訳ないと思いつつ、結衣ちゃんをいじりたい欲望の方が上回っちゃった感じです。

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