ダブルデートside雪夜①
ダブルデートside雪夜です。まずはデートの計画~。
「なあ、正哉。」
「うん?」
教室の端っこでいつも通りつるんでいた正哉がこちらに顔を向けた。
「結衣が友人の前でのオレの姿を見たがってる。」
正哉が微妙な顔をした。
「いつもの調子で亮太や敦士をあしらってたら流石に引かれないか?お前朝比奈さんには甘い顔しか見せてないって言ってたろ?」
結衣かわいいし。二人きりになったらそりゃ相好も崩れるよ。可愛くて可愛くて、でろでろに甘やかしてるけどね。
「流石にいきなり馬脚を現すのはオレもちょっと。…そうじゃなくて、正哉なら良いかと思って。」
「な、なんだよ?デレないぞ?」
と言いつつちょっとキョドキョドしているが。別にデレ待ちじゃねーし。
「正哉の前のオレを見られるのは別に良い。だからオレと結衣と、お前と後藤でダブルデートできない?」
提案してみた。正哉なら嫌がらないとは思うけど、どんなもんかね。
「うーん…俺はかまわねーけど、それだと朝比奈さんが気ぃ遣っちゃわねーか?」
「結衣は寧ろお前らが気を遣っちゃうんじゃないかと心配していた。」
「…朝比奈さん良い人な?」
「…やらんぞ?」
「いらんわ!」
じゃれてたら正哉もその気になってきたらしい。
「デートってどこ連れてく?」
「結衣と後藤の喜びそうなとこ。どっかない?」
「遊園地と動物園はパスな。この前行ったばっか。」
うちも遊園地はこの前行ったばっかだよ。怖がる結衣可愛かったなあ…。それ以外の候補だと…
「カラオケ?水族館?牧場?」
「ん~…どこでも美穂は喜びそうだけど、水族館良いかもな。朝比奈さん水族館好きか?」
「結構好きみたい。じゃあ、午後集合で水族館じっくり巡って、みんなで夕食とって、ちょっとぶらぶらして解散。」
「どこの水族館にする?」
どこの水族館にするか、食事は何にするか、ネット検索しつつ位置を確かめてチェックする。大体予定は決まったけど…
「飯島鮮魚店並ぶって書いてあるけど、どの程度並ぶかな?」
「どうだろうなー。やっぱり美味しいとこはみんな混んでるみたいだし。ちょっと様子見に行ってみるか?」
正哉が提案した。
「今日か?」
「今日木曜だし丁度良いだろ?」
確かに道場の予定は入ってないから都合は良いけど。正哉に了承の意を伝えて、自宅に夕食不要のメールを送った。
放課後二人で飯島鮮魚店の列に並んだ。
「マジで混んでるし。」
「4人席とか取れるのかな?」
「このお店はきちんと4人席があるよ。常に混んでるからよく相席になるけど。」
前に並んでいた青年が振り返って言った。メガネをかけた真面目そうな青年だ。学ラン着てるけど、高校2、3年生くらいに見える。嫌な感じはしない。割と感じ良さそうな人だ。
「そうなんだ?お兄さんはここ、よく来るの?」
素直に聞いてみた。
「うん。他の魚も美味しいけど、特に鮪が美味しくて。君たちは初めて…だよね?」
初心者感丸出しだったのですぐにわかったことだろう。
「うん。今度彼女とデートした帰りに、食事できたらいいなあと思って。」
「日曜?それなら今日よりもうちょっと混んでるかもよ?」
「マジか…」
正哉が嘆いた。
「あはは。でも美味しいからきっと喜ぶと思うよ。その彼女さんが行列に耐えられるならね。」
「その辺は当日になったら相談だな。並びたくないようならファミレスでダラダラ過ごすのも良いし。」
正哉がそう言ってオレに確認をとったので頷いた。
「それにしても二人とも彼女持ちなんだね。やっぱり格好良いと違うなあ。顔面偏差値が憎いよ。」
このお兄さんも顔の作りはさほど悪くないと思うけど。ついこの前ハートブレイクしたばかりなんだそうだ。今高2で去年仲良かった女の子が好きで、でも別クラスになっちゃって、会えなかったら気持ちも薄れるかと思ったら、逆にもっと好きだと思うようになって、遂に告白。玉砕の流れである。なんて言ったらいいかわかんないな。「女は星の数ほどいる」ってよく言うけれど、オレが結衣に振られた立場だったとしたら「女は星の数ほどいるけど、結衣はたった一人しかいない!」って言っちゃうと思うし。
「あはは。話振った僕が言うことじゃないけど、あんまり重い顔しないで?いつか時間が解決してくれると思うし。実際彼女は気になる相手がいるっぽくて望み薄だったんだ。」
「略奪とか…?」
オレがこの人の立場だったら絶対考える。
「うーん…なんかね。彼女が気になる人の隣で笑ってるのって、すごく可愛くて幸福そうで、いいなって思うんだ。その笑顔を作れるのは僕じゃないけど、彼女がずっとそうやって笑っていられたらいいな、って思うんだ。」
「気になる人の方は?」
「見てれば彼女にメロメロなんだって一発でわかる。けどその人にはその人の立場があるからしばらくは動けないかな。」
「…そっか。」
奪えそうな気もするけど奪わないのは、この人なりにその女の子の幸せをちゃんと考えてあげてるからなんだろう。優しい人だと思う。二宗もこんな気持ちだったのかな。
「重い話おしまい!日曜の夕食で4人席なら1時間以上は見積もって行った方がいいと思うよ?2時間はかからないと思う。その日によっての混み具合によると思うけど。」
「メニューは何がお勧め?」
「ここは築地の鮪仲卸直営店だから鮪が美味しいよ。でも他の魚も結構悪くないんだ。どの魚も美味しいし、中々ボリュームある感じなんだけど、プラス100円で大盛に、プラス200円で特盛にできる。僕は今日は特盛で食べてみるつもりだけど。初めて見る人は大抵びっくりするよ。」
ぺらぺら3人でお店のことを話していたらお兄さんの番になった。
「3名様ですか?」
お店の人に聞かれた。
「いや、僕とこの子たちは別で…」
「申し訳ございません。大変混み合っておりますので相席でも構わないでしょうか?」
「構わないけど…」
お兄さんとともに4人席に案内された。宣言通りお兄さんは大漁丼の特盛を頼んだ。オレは上海鮮ちらし、正哉は鮪尽くし丼を頼んだ。
「二人の彼女ってどんな子?可愛い?」
「すごい可愛い。年上で今高3なんだけど、動作がいちいち嵌まる。挑発すると涙目で強がったり、甘やかすとへらっと笑ったり。素直で涙もろくて、挑発すると乗るくせに、妙に弱気で、すごく可愛い。オレのことが大好きで、ぷんすかしてても触れてあげるとついつい頬が緩んじゃうみたい。緩みきった顔も可愛い。」
「俺の彼女は同い年。おっとりのんびり屋の敬語口調。他人を和ませるのが上手。色んな人を陰から支える縁の下の力持ち。俺に撫でられるのが大好きで、はしゃいでるときとかに撫でてやると嬉しそうにはにかむ。その顔が可愛くて。悲しい時は俺にあんまり悲しい顔見せたくないみたいなんだけど、強がってる所も可愛くて、無理やり捕獲して撫でてる。」
「二人は何歳なの?随分大人びて見えるけど、実は若い?」
何歳くらいだと思ってるんだろう。オレと正哉は顔を見合わせた。
「オレは中二で、まだ13だよ。七瀬雪夜って言います。よろしく?」
「俺も中二で13。多嶋正哉だ。よろしくな。」
「あ、ご丁寧にどうも。八城高校、2年の葛西百介だよ。よろしくね。二人とも中二か~…若っ。一個下くらいかと思ってた。」
自己紹介してたら注文の品が届いた。
「何それ!?」
具が器からはみ出てることまでは良いとしよう。そもそも直径16cm、高さ7cmはありそうな円柱の器なんだけど…それがどどーんと2段に重なっている。おせちの重箱のように。
「特盛は器に入りきんないから2段になるんだ。」
「へえ…」
「下の段は鮪のぶつ切り丼だよ。」
開けて見せてくれた。鮪のぶつ切り丼だけでも十分メインを張れそうな立派な丼ぶりだった。
大漁丼はウニがこれでもかって言うくらい載っている。ころころした鮪とホイップクリームのようなねぎとろ。見せてくれたが下にも小さく切られた刺身具材がごろごろ潜んでいるようだ。めっちゃ旨そう。上海鮮ちらしも見るからに目に鮮やかな牡丹のようにびらびらっと具材が並んでいるのだけれど。鮪尽くし丼も色んなタイプの鮪がずらりと並んで如何にも旨そうだ。
食べてみたが、味も絶品。
「これウマイ。」
「でしょ?並ぶのが嫌じゃないならお勧め。」
百介が笑った。
「でも19時ラストオーダーだから気をつけてね。」
3人でせっせと海鮮丼を食べた。あんなに大きかった海鮮丼はするっと胃袋に収まってしまい、若い胃袋に物足りなさを訴えかけてくる。
「次はオレも特盛にしよう…」
「俺も。」
百介のどんぶりを羨ましげに見ていると店のおじさんが笑って「サービスだ。」と言って鮪のステーキ串をくれた。オレと正哉と百介に1本ずつ。
「ラッキーだね。ここの鮪ステーキすごい美味しいよ?鮪ステーキ丼もメニューにはあるんだけど大抵朝の早いうちに売れちゃうんだ。」
「へえ。」
肉厚の鮪がレアな感じに焼かれてて滅茶苦茶美味しかった。とろけるように甘いのに表面が焼かれて香ばしくって、最高。
「うまっ。」
「あら汁なんかも美味しいよ。身がたっぷりついたあらが入ってるあら汁で、それだけでご飯のおかずになっちゃいそうな感じ。」
「何度か来て楽しみたいな…。」
「うん。それが正解。」
たっぷり食を楽しんだ。並ぶこと以外は最高のお店だと思う。結衣も喜んでくれるといいけど。それ以前に「並ぶの嫌かも…」とか言われちゃったら残念だなー。結衣にも是非食べてほしいし。
百介とは、「またどこかで会えたらいいね!」と別れた。とりあえず天気予報でも見ながら後藤と結衣を誘い出す日をきめることにした。雨の日に行列とか可哀想だし。
正哉君…どう見てもデレてます。
普段は普通に接してるから、改めて好意を示されると照れ臭い青春ボーイです。