vs.グレイ Ⅰ
どうせならグレイまで終わらせたかったんですけれども、時間切れで中途半端になってしまいました。申し訳ないです。
「C-1ブロック最終戦!グレイ対クレス!」
試験官さんが俺を呼んでいる。
緊張で胃が…胃がぁ……。
グレイ強いしなあ…勝てるかなあ……?
「クレスゥゥゥ!!負けるなよぉぉぉぉ!!!」
「頑張って!クレス!」
「おにーたま、はいとー!」
観客席から物凄い音量の声援が聞こえてきた。
そうだ、あんなだけど親父はめちゃくちゃ強いんだ。そんな奴の息子が弱いわけがない…よな?
勝利の天使も俺に勝てと言っている…。
絶対負けるわけにはいかない!
「クレス!頑張って!」
後ろからも声援がくる。
俺にとってはだけど、こんなにたくさんの人達に期待されているんだ。怯んだらダメだ。
気持ちを奮い立たせて装備をカタナに持ち替えてグレイの前へ進みでる。
グレイは既に準備を終えて俺を待っていた。そして、俺を見るなり
「遅かったな、臆していたか?」
なんて煽って構えてきやがるから俺は
「まさか、手加減しようか迷っていただけさ。」
なんて言って俺も構える。
その直後、グレイは驚いたような表情をした。
「お前…籠手がメインじゃ無かったのか!?」
驚いていた。
まあ、今まで籠手だったし、それも仕方ないと思う。
だがグレイの驚きはそれだけではなかった。
「しかもその剣…カタナだと…!?『サムライ』持ちか!!」
スキルにも驚いていたようだ。
「君の『剣豪』にどこまでついていけるか試させて貰うよ。」
「……本気で言っているのか。」
「…?僕はいつだって本気だよ。」
何故か呆れたような言い方だったけど、気にしない。
「それでは、試合開始!!」
「悪いが短期決戦とさせてもらうぞ…!!」
試合開始の合図とともにそこそこのスピードで突っ込んできた。
俺の知識でのサムライは「動」と「静」を巧みに使い分けている。なので俺もそれに肖る。
相手が攻めている時はこちらは受けに徹する。
上からくる鋭い斬撃をカタナで絶妙な力加減で受け流し、余計な体力を消費しないように意識する。
斜め下からの切り上げも、直後『剣豪』に相応しい剣速で繰り出される切り落としも、一瞬溜めて繰り出された高速で幾つもの突きも、剣にカタナを沿わせていなしていく。
観客から見ればクレスの防戦一方に見えるだろう、だが、見る人が見れば、このままグレイが攻撃を続けたら負けるのはグレイだと思うだろう。何故なら高速で繰り出されるグレイの斬撃を避けるよりも難しいカタナによる受け流しで全て防いでいるからだ。これは余程の腕と集中力が無ければ出来ないと言われている芸当だ。この時点で観客達は言葉を忘れ、2人の戦いに魅入っていた。
しかし、戦っているはずのクレスは、
(うひょー、受け流したーのしー!!)
自分の今置かれている状況に浮かれていた。
死にはしなくとも、下手をすれば重症を負いかねないこの斬撃の中で落ち着いて受け流すことが出来ている、前世では剣道の授業で戦った剣道部員の「面」を竹刀で辛うじて受けることしか出来なかった自分が、今それよりも数倍強い相手に遅れをとっていない状況に。
ただ、このまま防いでいても勝ちにはならない訳で…。
(んじゃあそろそろ反撃しますかね!)
決定打が決まらず焦ったのか、若干振りが大きくなってきたグレイの上段から斬撃を待ち、来た瞬間に剣の腹同士をぶつけて決して大きくはない隙を作った。
だが、『サムライA』を持ち、「瞬発力」「動体視力」「判断力」を持つクレスにとっては、大きな隙にしか感じられなかった。
体のスイッチを「静」から「動」に移行させる。
ーキィィィィンー
そんな音が聞こえたような気がした。
「……せやぁ!!」
ーーーーーーーーーーーーーー
この男は、強い。
そう確信したのは奴が『サムライ』スキルを持っていると分かった時からだ。
そして、未だスキルでしか強弱を判断出来ない自分を恥じた。
だからこそ、試合は最初から全力で戦う。
スキルの有無で侮ってしまった格上の相手に対する謝罪も込めて。
そして、今自分がどのくらいまで奴と戦えるのか。
『剣豪』の上位、『剣聖』『剣神』にも匹敵する潜在能力を持った『サムライ』に…。
何度も攻撃をして、分かった。
この男には、勝てない。
俺は自分の強さを過信しすぎていた。
自分なら同い年の剣聖にも、サムライにも劣らない力を持っていると。
だがそれは間違いだったようだ。
焦りが体の動きを大きくさせる。駄目だ、修正しなくては。そう思うが、徐々に隙が見えてくる。
ならば俺の付与スキルで敢えて隙を作り、そこをついてきた時に反撃を加えよう。
そう思い、比較的弾きやすい上段で振り下ろす。
キンッ!
よし!弾いた!!そして直ぐ………に……?
ーキィィィィンー
何かが動き出す音が聞こえた。
否、動き出すのだ。今まで動かなかった奴が。
頭で考えるよりも早く、俺は付与スキルで剣を戻して防御の構えをとっていた。
瞬間、体を、剣を襲う衝撃。
理由は簡単だ。奴が文字通りの高速で斬撃を繰り出したからだ。
辛うじて当たる直前は見える。恐らくは手加減でもしているのだろう。殺すことは禁止されているからな。
だがそのおかげでなんとか捌けている。
だが次の瞬間視界に現れたのはカタナではなく……あ、し―――――?
俺の意識は闇へと吸い込まれた。
ーーーーーーーーーーーーー
いやー参った!まさかグレイも「瞬発力」に近いスキルを持っていたとは思わなかったから動いたはいいがどうやって倒そうか悩んだ。
戦いながら気づいたけど、サムライだからカタナだけで戦う必要はないんだよね。
だから速度で反応を早い方に慣れさせて、思いっきりキックをキメてやった。
ク□ックアップからの普通のキックだね。
音ゲーとかで譜面の速度急に落とすとちょっと難しく感じるアレだ。
アレに対応出来るやつなんてそうそういないと思う。
しかし、審判さん遅いなあ…もう勝負あり!って言われてもおかしくないのに…。と思ったあたりで気づいた。観客も、審判も、誰1人として声をだしていない。何故だろうか?
「あの…?審判さん…??」
俺が尋ねると、審判さんは正気を取り戻したようで。
「あ、ああ…コホン。勝負あり!!勝者、クレスゥ!!!!」
「やったー」
なんて間抜けな声でわざとらしく喜ぶが、まだ観客は黙ったままだ。暫くして。
「ゥ……」
「ん??」
「「「「「「「「「ウオオオォォォォオオォォオォォオォ!!!!!!!!」」」」」」」」」×たくさん
「うるっせえ~~!!!!!」
とてつもない歓声があたりを埋め尽くした。
クレスは耳を塞いであたりを見回すと、同じく耳を塞いでこちらをみるルナを見つけた。
どうだ!!と笑うと、ルナもすごいすごい!と笑った。
歓声で声が聞こえなかったが、恐らくは、という頼りないものだが…。
ともかく、これでマスタリア学園の入学試験第一は終わった。
クレスの「静」から「動」への移行シーンは個人的に〇歩の〇村戦のデンプシーっぽいイメージです。
効果音が特に。