No.2「チュートリアルはまだ続く」
(4月)
今俺はとある学校に登校中であることを説明しとく。
(とある)とは曖昧なことを言っているように思うだろう、
別に他校に向かっている訳ではない、もちろん自分が通う学校だ。
じゃぁどうしてかって?
それは俺もよくわかっていない、何より今日初めてその学校に行くのだから。
ここまでくるとさすがに理解しただろう。
最初に4月って書いてあること、今日が初登校日、もちろん転校生ではないぜ。
今日は…
俺の入学式
ここから俺のまだ見ぬ輝かしい高校生活がスタートするのだと期待に胸が膨らむ。
高まる気持ちが押さえきれずウキウキしながら歩いていると、1人少年が何やらうずくまっているように見えた。
俺は少しペースを上げて歩き、その少年へと近づく。
どうやら服装を見るに俺と同じ学校の生徒のようだった。
「どうした?こんな所でうずくまって、具合でも悪いのか?」
「あっ…すみ…ません、急にお腹が痛くなって…」
少年の顔は青白くなっていてただ事ではないと思わされた。
「おいおい大丈夫…な訳ねぇな、その顔見れば、とりあえずここでうずくまってるままって訳にはいかねぇし…」
急な事態に焦ってしまい、どう対処したらいいのかと思考するが全く考えがつかない。
「どうか気にしないでください…こんなのいつものことなので、時期治まりますよ」
「気にするなって…こんな状況をほっぽって立ち去るなんてどんだけ極悪なんだよ」
「イテテ…ハハ、顔つきはそう見えますよ…」
「了解了解、減らず口をたたく位は余裕があるんだな、普通なら初対面でいきなり俺の顔について口した男はもれなく俺直伝整形術によってこの顔よりひどいものになるだろうぜ」
「ごめんなさい」
「はぁー、仕方ないな…あれ使うか…」
「あれって?」
シュッ、ピカッ
我ながら手品の如く針を出し、その針が怪しく光る。
「ひっ」
まぁ当然の反応だろう、自分の顔は毎日見て熟知しているし、その顔+凶器となるとそれはそれは恐ろしいホラーの一こまだ。
「まぁそうおびえるなってなんなら目閉じとけよ」
「ああ…僕の人生はここまでようただ、お父さん、お母さん、今までありがとう」
「だから!なんもしねぇって!」
…訳ではないけどな…
ブスッ‼
一瞬の間、首もとへと針を打ち込んだのだった。
「あれ?痛くない…」
「当たり前だ、そうならないように射したてんだからな」
「でもこれで何が…」
「あ!」早速効果があらわれたようだ、少年は腹をさわりながら確かめている、顔色も血色を取り戻してきたようだ。
「あ、ありがとう おかげで助かったよ」
「言っておくがあくまでも一時的なものだからな、今のうちに薬でも飲んで安静にするこったな」
「でも本当に助かったよ、あのままだったらいったいどうなっていたか」
「でも最初はほっといてくれ!みたいな事言ってたよな」
「それは…会ったばかりの人に迷惑かける訳にいかなかったから」
「まぁ、そういう気持ちは解らんでもないな…俺の場合は自分で何とかしちまうんだが」
「そうだね、それ針治療って言うんでしょ?どこで覚えたの?」
少年が興味津々に聞いてきたが、俺はそれを答えられない理由があり、どうかえそうか悩まされた。
「……あっ!…ごめんね、初対面でいきなり…失礼だったね」
「いや、失礼とかこれっぽっちも思ってないよ、むしろそういう風に思わないでくれ…けど、それについては俺が秘密にしていることだから聞かなかった事にしてくれ悪いな」
「いいよ!いいよ!僕が軽率だったよ、あっ!もちろん誰にも言わないから」
「そうして貰えると助かるよ」
心のなかで少し安堵し、もう一度少年の姿を見る。
身長は150にも満たない位で髪は耳にかかる程度の短さでまるで小動物のような耳が着いている可愛らしいニット帽をかぶっている。
更にその顔はかなり整っていて見た目はもう女の子にしか見えない。
だが、俺は足下に目を下ろす。
「ズボン…」
「へ?」
少年は俺の目線と声に気が付いたようで
「ああ!制服…そう僕はれっきとした男の子だよ!まぁ見た目がこの通りだからよく間違えられるんだけど…」
「むー…マジで見間違うレベルだわ~今度女子の制服とか着て見せてくれよ」
「慎んで断らせて頂きます」
そう言いながら少年は舌をだし頬笑む。
そのしぐさは一段と可愛らしく不覚にも少々ときめいてしまった。
『この世に男の娘というものが実在していたなんてやっぱ生の破壊力は違うわ』等と思っていると
「そういえば名前、聞いてなかったね」
俺はその言葉に意表をつかれたか少し固まった、
「たっ確かにあんだけべらべら喋っててお互い名のりもしなかったなんてな」
「フフフッ そうだね それじゃ僕から言うよ、 僕は 桔梗 天理 よろしくね」
『あまり』か…これまた可愛らしい名前だ、やはり神はこの子の性を間違えてしまったのでは…
「ねぇ ねぇってば! 」
ハッ!我にかえった自分
「今度はそっちの番だよ」
「悪い悪い 俺は平野 和徳 和徳でいいぜ」
「和徳か…いい名前だね 僕も天理でいいよ」
「ハハハッ」
お互い微笑み合う…何だろう…馴れない感覚に少々居心地悪く思ってしまう。
「それじゃ 僕は和徳先生の助言に従って療養させてもらうよ」
「お、おう だけど最後までつきあおうか?時間なら全然あるし、何より心配だぜ」
「ううん もう充分助かったし 気持ちだけありがたく受け取っておくよ」
「そうか…それじゃ……またな 」
「またね!」
そう言うと天理は手を振ってさっていった。
…
……
『うぉぉぉぉぉぉ‼ 入学式を前にしてはやくも良イベント! これって何か? あれか? あれですか! 友達、友達ってことで…友達が出来ちゃったってことでいいんだよな⁉』
…
「おっ落ち着け俺! 友達が1人できただけだぜ? これからもっと増えてくかもしれないっていうのに高ぶり過ぎだろ、感情…」
「何が高ぶるって?」
不意に肩を叩かれた…
「うわっ!」
いきなりの不意打ちで思わず声をあげ飛び退いてしまった。
「おっおま いきなり声かけんな!ビックリしたじゃねぇか」
「悪い悪い あまりにも様子がおかしかったら心配になってな」
『ちくしょう…なら今の一部始終まるっと見られちまったのか…恥ずかしい!』
「そう恥ずかしがるなって 絶対に知られたくない秘密な訳でもないんだし」
「それはあばいた奴だから言えることだろ あばかれた奴の気持ちになって考えろ! 」
「わかったって 今見たことは忘れるから…な?」
「なら約束しろ…」
「は?約束?」
「ああ…お前には指切りをしてもらう」
「何だよ…顔に似合わず可愛らしいことすんじゃねぇか」
「うるせぇ…顔は余計だ!いいから指だせ!」
こいつの言う通り俺だって好き好んで指切りしたい訳じゃない
だだこれが今の状況下で俺がこいつに触れられる最善の手だと思ったからだ。
『は?忘れる?俺が最も嫌いな口約束で納得するはずねぇんだよ!』
「はいよ…」
相手はすんなりと手を出す。
差し出された手は褐色でその時ようやく俺は相手を確認した。
性別は男、俺より身長はちょっと高い位、この場合俺の身長が何㎝かっていうのは置いておいてくれ…
上から
髪は黒の長髪だ、全体的に長さがあごの位置まであり片目が隠れている、更に後髪は長く一つにまとめていた。
顔も褐色に合って整っており全体の黒っぽさに反して黄色の瞳がひときわ引き立てる。
まっ要するにIKEMENという俺の嫌いな生物でしかない。
話に戻ろう。
だが戻ったからといってこの男の手を俺が触れればそれで終了
その瞬間俺の能力によってこいつから俺の記憶は消えこのIKEMENとは何の関わりも無くなる。
『さらばIKEMEN!残念だがお前の出番はこれが最初で最後になるのだ!』
俺がその手に触れようとした瞬間
「ところでさっきの子可愛かったよな?」
ピタッ
思わず手が止まる
「と言うか、お前…どこから見てたんだよ?」
「お前があの子に声かけてた所から」
「最初っからじゃねぇか‼……てことは…」
「ああ お前の名治療もしかと見せてもらったぜ」
ガァーー‼知られたくない秘密まで知られたよ!
いよいよもって本気でこの男から記憶を消さなければ
「もちろん口外しないから安心してくれ…って言ってもお前は信用しないよな?」
「は?」
「とぼけなくてもいいぜ…さっきの指切りも実のところおとりで針でもぶっさそうとしてたんだろう?」
『こいつは勘は鋭いが一つ勘違いしているな』
まぁ記憶を消す能力なんてもの誰も予想なんかしないんだが
「返答なし…まぁいいや…言葉を発するだけで情報ってのは漏れるリスクになる」
等と勝手に解釈してくるこいつをどう処理しようかと算段を立てているので喋らながったのだが
「そこで…一つ提案があるんだが?」
「提案だ?」
何勝手に話を進めてやがんだこいつ
「因みに俺は元町 ヘルダンってんだ よろしくな」
「こっちとしちゃよろしくしたくないだがな…平野和徳だ…」
「まっお前の名前はもう知ってんだけどな」
「は?」
「俺は情報に関してのエキスパートでね 自分が通う学校ならもちろんそこに通う生徒もチェック済みさ」
どうやら俺は勘違いしていたらしい…こいつはただのIKEMENじゃなかった
危ないストーカー野郎だった…
「おいお前!いくら世界がIKEMENに優しいからって何でも許されると思うなよ!このストーカー野郎‼ 」
「イケメンは嬉しいんだが流石にストーカーってのは言い過ぎだろ」
「むしろそれ以外ねぇだろ…」
「はぁ~ まぁ情報集めてる時はそう見えるかもしれないがそれでどうこうしようって訳じゃねぇよ」
「じゃどうしてだよ?」
「人助け」
「は?」
さっきからこいつと話してるとこればっかりだ
「嘘じゃねぇよ 必要としてる奴に必要な情報を教える…なっ人助けだろ!もちろん相応のものはもらうけど」
「やっぱろくなもんじゃねぇ‼」
「はいはい…もういいよ…好きに思ってくれ」
『こいつめ…面倒になったな…!』
「でだ…本題に入ろうか 和徳…お前のさっきの情報を黙ってやるかわりに… 」
ゴクッ
息を飲んだ、かわりに…かわりに何を要求するんだ?この男は!
「友達になってもらう」
「はぁ⁉」
いったい俺はこいつに後何度驚かされなければならないのだろう
「悪い話じゃないだろ?お前は情報を黙ってもらう代わりに俺と友達になる…むしろ友達を集めているお前にとってはメリットでしかないはずだ」
「何でそこまで知ってんのかってのはもう聞かないことにするがそっちのほうが俺にとっては違和感ありまくりなんだが」
「というと?」
「むしろそれでお前にどんなメリットがあるんだ?等価交換を提示したいなら尚更だ」
「ああ…もちろんメリットはある いいか…ここから俺の情報を教える…実は…俺、友達いないんだよね!」
…
「いや本当に…こういう事している以上誰も友達になってくれる奴っていないんだよね…いや覚悟はしてたけどさ…」
『同志‼』と思ってしまったがいかん、いかん!こいつの場合自業自得の何者でもない
「つーかお前の場合そういう事辞めれば簡単につくれると思うんだが?友達だけじゃなく彼女だって」
「うん?ああたぶんそうだろうな」
『こいつ‼』
「いっそこの期に生まれ変わったらどうだ?」
等とアドバイスをする俺も俺だ、わざわざ自分を差し置いて目の前の奴を勝ち組へと導いてやるんだからな
「…そんな事できてたらこんな事言わん!」
『ええ!』
「情報を扱う事こそが俺の生き甲斐何だよ それだけは絶対にできん!」
『ダメだこいつ…はやく何とかどころかもう手遅れだわ』
もういいや付き合いきれんとこの男に触れて終わらせようと考えた
だがその瞬間思ってしまった、こいつをうまく利用すれば友達作りに役立つのでは?
俺はいろんな事を考慮して考えた
うーん…
よし、決めた!
「わかったお前の提案をのもう!だから…」
「大丈夫だって 契約は絶対だ…これだけは破ったことないんだぜ俺!」
「さーて どうだかな」
「友達になった記念にお前は無料で情報を教えてやるよ 何でも聞いてくれ…ただし他の契約に差しつかえない範囲でな」
「じゃあさっそく聞きたい事があるんだが?」
「おいおい…いきなりか んで?何聞きたい?」
「さっきの子…桔梗天理の事なんだけどな…」
「ああ あの女みたいな男か」
「一つ聞きそびれたことがあって…いや本人に直接聞けばいいことなんだがあんまり踏み言っても嫌われないかと…」
「いいさ…ただ…お前も充分ストーカーっぽいぜ!」
「はぁ⁉いっ嫌!俺はただ純粋に!」
「冗談だって 誰しも他人の事が知りたい欲求からは逃れないのさ! 」
「ちっ!…でだ…その天理の髪なんだが…」
そう実は天理について一番と言っていいほど気になっていた事がある
それは可愛らしい女の子みたいな容姿でもなければチャームポイントである帽子(自論)でもない
髪…あの子の髪の色が少しかわっていた…
黒と銀がベースで所々金髪に赤、青といろんな色が入り交じっている
「それは俺も気になっていたが…残念な事にその情報は持っていないんだ
」
「そっか…まぁたぶん触れちゃいけない事だと思うし そんな申し訳なさそうにすんなって!」
「その情報もいつか…」
俺の見間違いだったらしい
今まで1人として友達のいなかった俺が入学式の道中でいきなり二人の友達ができてしまった
マジでこの先が楽しみで仕方ない!
とりあえず、はやく学校に向かって入学式だ…
再スタートした俺だったが今日はどういう日か、またしてもうずくまっている者がいた
今度は本物の女子みたいだ、だって制服がそうだから
まさか女装した男とかそういう変態が出るイベントがここに来てくる訳が…
確認しようにも相手はブレザーの下にパーカーでも着ているようで深くフードをかぶっていた
「おーい 大丈夫か?」
「いえ…ちょっとダメかもしれない…です」
やはり声も女の子だそれもとびきり可愛らしい感じがする!
「おい!ダメってどこか悪いのか?俺に何かできる事なら言ってくれ!何なら救急車を!」
「…やめて下さい迷惑です…」
「えっ⁉」