No.1「プロローグというかチュートリアル」
季節は冬
12月の中頃、まだ午後4時だというのにすっかり真っ暗だ。
朝から降り続いているこの雪、激しさは無いが積りに積もった積雪に着々と高さを増していっている。
そんな天候の中、とある学校の一室に4人の男女がいた。
「設置完了っと おい 罠仕掛けといたからこっちに誘導してくれ」
「了解 僕もそっちに向かうよ」
「ワタクシも」
「よーしっ 後は…」
「しゃぁー‼ 我が必殺の剣! シャイニング スター ビクト…って ええっ!」
エリーが脱落しました クエスト終了
っと、画面に表示されていた。
俺はその画面を見つめながら 全身を震わせ 手に力がこもる。
「ちょっとえりさん?一つ聞きたい事があるんだが…」
「えっ?」
「何かしましたか?って顔してんじゃねぇよ!」
「その通りです ワタクシも質問がありマス」
「ええっ!マリーちゃんまで⁉」
『おおっ さすがのマリーも今の失態には黙っていられなかったか そりゃ当然だ これで少しは反省というものを学習するんだな 』
「…今の必殺技名は無いと思いマス」
ガクッ 机の上につっぷした俺
「そこかよ!」
「え?何か違いマシタカ?」
本当にわからないという顔をしていた。『どうやらマジで必殺技の事しか気にならなかったらしい…いや、俺も気になったけど…』
「うーん…やっぱり今の技名はなかったかっすかね? いやぁ~自分もこれ考えた時はアレかなって思ったんすけど こういうのはいいきったもん勝ちだと」
「もういいよ!お前の技名の過程秘話は!」
「なっ いいよって何すか!そっちが聞きたがってたから説明してたのに」
「それはマリーが聞きたかったことで俺のは別件だ」
「なーんだ、カズも同じだと思ってたっすけど とりあえず言ってみるっす あっ、マリーちゃん?必殺技の話はまた後で あっちの目付きの悪い男が更に目付きを悪くしているので」
別にいいよと手を振り表現するマリー
「目付きの悪さにバージョンアップなんてあるのか?おい!」
「何だ 聞こえてたっすか?」
「丸聞こえだ 目付きの悪さは自覚があるがその更にってのは知らねぇな」
「ご自分で鏡でも見たらどうっすか?」
「鏡なら毎日見てるよ!ついでに目の悪さを誤魔化すのに表情の訓練もしてるんだからな……あっ…」
「プクククッ…表情の訓練って…ククッ」
「フフッ…だ…駄目デスヨ?エリ…フフッカズノリも頑張っていること…なんデスカラ…フフフ」
「ご…ごめん和徳ククッそれはあまりにもアハハッ」
『がぁー‼しまったー‼お…俺としたことが…ついカッとなってぼけつをほってしまった』
「ククッ…し…心配しなくても誰にも言わないっすよ この話は私達の胸の中に深くふかーく た・い・せ・つ・に留めておくので」
「そこまで丁重に扱わなくていいから…出来ればゴミ同然に記憶から捨て去ってくれて構わないから」
「おやおやそんなに自分を粗末にしないで下さいっす 数少ない私達の中にあるあなたの記憶なんすから」
「ストック数少ねぇな俺の記憶」
「で? 話がそれましたが一体何の質問だったんすか?」
『話が反れたのお前じゃ…俺のぼけつもあるが…』と心の中でぼやいても仕方がないので本題に入る。
「まぁ…そっちは何とかなるし…」
「? 何か言ったっすか?」
「いやっ!何でもねぇよ…なくはないか…さっき…さっきのプレイ!何1人で突っ走ってんだよ‼」
「はぁ?」
「はぁ?じゃねぇよ!俺がせっかく罠仕掛けたのに、他の二人はちゃんと協力してくれてたのにお前だけ!」
「あ…あああれね、あれっすね!自分あんな罠とかせこせこしたプレイって嫌いなんすよね」
「せこせこってお前…まぁそれは置いといたとしてそれでやられたら意味ねぇぞ」
「それでやられたとしても本望っすよ自分…」
「かっこつけるところじゃねぇからなそこ…」
「ああ~もうっ!わかったっすわかりました」
どうやら観念したようだ、これが恵里の一番の救いであるところ
負けず嫌い、怒りっぽい、あまのじゃくではあるが、特別頑固という訳では無い。
むしろ何ごとにも飽きっぽく長続きしない知り合ってまだ半年位だがそれが充分に理解できた。
「自分が悪かったっす、ごめんなさい」
恵里は軽く頭を下げながら謝罪した
「いや…俺もたかがゲームでカッとなってその…悪かったよ」
「カズ…」
うっとりとした顔でこちら見つめ、次第に近づいてくる恵里
「なっ!何だよそんな顔で見つめてくんなよ…てっ…照れんじゃねぇか」
恵里が和徳の前まで到着した そして
「うらぁっ!」
バコッ‼
「グフッ⁉」
突然腹を殴られる、何が何だか和徳には全く理解出来なかった。
「見損なったっすよ!カズ‼ゲームをそんな風に思っていたなんて!」
「え?」涙目になりながら他の二人を見る
うんうんと二人して頷いていた、訳がわからない。
「ごとき…ごときって言ったんすよこの男は!自分達が愛するゲームを!」
「カズノリ…それは流石に言い過ぎデスヨ」
「そうだね、それは僕らにとってのタブーだよ」
「いいですか?カズノリ、ここ日本はゲームの聖地デス、その日本人であるワタクシ達がそんな気持ちでは恥ずかしいことなのデスヨ」
「いやっ…マリーと恵里はハーフだよね?」
確かマリーがロシアで恵里がアメリカだったか、もちろん片方は二人とも日本人の血をひいている。
「そういう風に人の揚げ足とらないで下サイ!…例えハーフでもワタクシはこの国で生まれ、今こうして生活していマス、心は誰よりも日本人だと思っていマスヨ」
確かにこの人は日本、「和」に対する思いはいささか強すぎている。
そして異様なまでにゲームに固執する彼女ら、3対1のこの状況ではあまりに不利と思わざるおえない。
だが…
俺にはこの状況を打破する切り札がある。
「はぁ~確かにお前達の前で不用意に発言したよ。」
「ようやくわかってくれたっすか」
「ああ、お前らがどれだけゲームが好きかって考えれば簡単に推測できたことだしな」
うんうんと腕を組ながら首肯く恵里、他の二人も安堵したように表情が柔らかくなった。
「ただな…」
「「「?」」」
「お前らゲームで俺に一度でも勝ったことあったか?」
「がっ!」 「うっ!」 「ぐっ!」
三人ともその場に倒れたのであった
「いっ、言ってくれるっすねカズ」
「ああ、あんだけのハンデで尚勝てなかった恵里さんどうしました?」
「うがっ!」
何とか立ち上がった恵里が再び倒れる
「そう言ってられるのも今の内デスヨ、カズノリ」
「その通り、僕らはいつもただ負けている訳ではないよ」
マリーと正輝もたてなおしたようだ
「なぜこのグループにカズが入っているかわかるっすか?」
二度倒れた恵里が仰向けのままで喋った。
「いつか…絶対にぜーぇったいに‼負けた、参りましたって言わせてやるっす!」
「そっか、その時を楽しみに待ってるよ」
「その余裕ぶった顔無様な泣き顔に変えてやるっすよ」
「ほいっ」
仰向けに倒れている恵里に手を差し出した
このちょっとしたもめ事もここらでゲームセットだろうよ
「ありがと」
恵里の手を取り引っ張ってやる
「さて、時間も時間だし、今日はもう帰るか」
「もうこんな時間デスか、ゲームは時間を忘れさせマスね」
「全くだね、僕らみたいな多忙な者にとって厄介極まりないことだ、だからと言って止めることは出来ないけど」
「だからこそデスヨ、空いた時間の中でやるからこそ面白いのデス」
「ま、それは俺も同じだと思ってるよ、人間長時間何かに集中ってのは難しいからな、必ず飽きてくる。そこのところ恵里は飽きが早すぎるけどな」
「なっ!失礼っすね!」
「もう一言多いデスヨ カズノリ、とりあえず部室から出マスカ」
一旦部室の戸締まりを確認して外に出る、鍵はいつもマリーナが持つことになっていて驚くことに鍵は返しにに行く必要がない、つまりそのまま持って帰ることができる。
それはそれでどうなんだと思うが
「さぁ、今度こそ帰りましょうカ」
「あっと、ちょっとだけ最後に!」
ギュッ
「何デスか?カズノリ」
「一体どうしたんだい?」
マリーナ、正輝の手を半場強引に握る
「これでよしっと」
「何がよしっすか?」
「いや何でもねぇよ、たださっき二人には仲直り握手をしてねぇからさ」
「仲直りって何か喧嘩でもしたんっすか?」
「? いえ、全然記憶ないデスが?」
「僕も…」
いきなりのことで訳がわからないだろうがこれは俺の能力、言わば俺だけの必殺技と言っていい、端的にどんな能力かと言えば「触れた相手の記憶から俺という存在を消す」という物だ。
この力がわかったのは俺がまだ小学生位のこと
あんまり使えない力だって?
いやいや、どんな能力も使い用だ、例えば人生をおくるにあたって誰にも知られたくない秘密、トラウマが必ず訪れるはずだ。
そういうことがもし知られてしまった場合、考えただけでゾッとする。
が、そんな時にこそ俺の能力が発揮しそれらのことを相手の記憶から消去することができる。
まさにアンチ黒歴史、セーブ破壊、恥ずかしい思いをしない人生を歩める訳だ。
「ちょっとしたスキンシップだって、あ~あ、腹減ってきたわとっとと帰ろうぜ!」
俺はそそくさと、その場から離れる
「ちょっと待つっす」と後ろから聞こえたが聞こえなかった振りをして歩くペースを変えなかった。
「全く何なんっすか?」
「まぁ、今に始まったことではありませんヨ」
「そういえば、あいつ、今日
何してたっすかね?」
「「さぁ」」
~翌日~
昨日にも増して寒さが厳しくなり、まだまだこれが続くと思うとほとほと嫌になってくる。
「冬なんてやって来なきゃいいのに…」
「ほんとっすね」
振り向くとすぐ後ろを恵里が歩いていた、白く透き通った肌に美しくなびかせる水色の長い髪、そして同じく水色のすんだ瞳、
こうして雪景色を背景にするとより一層その美貌を引き立たせる。
「何すか?人のことじろじろ見て、この雪景色とその目付きをイメージするとまるで獲物を前にした狼見たいっすね、はっ!その場合自分が獲物っすか⁉」
「おいおい、いきなり失礼じゃねぇか?」
「確かに…狼さんに対して失礼っすね、それに断然かわいい‼」
「おーい狼の可愛さに目覚める前に遅刻してしまうぞ」
「えっ⁉ ってちょっと先に行くなんてズルいっすよ!」
「何がズルいんだよ!俺は普通に登校してただけだぞ」
「人がせっかくいじってあげたのに無視するなんて」
「やっぱりいじってたのかよ、本当にけなしてたんじゃないかと思ってたわ」
「おやおやご不満っすか?でもいじってもらえるだけでもありがたいと思うんすけどね、友達のいない和徳君?
」
「ぐっ」
全くよくもまぁ人が気にしている所をついてくる。
否定できない自分も自分だが、
「そ、そりゃ加害者側の都合だろうが、いじられる被害者様の気持ちも考えろよ」
「友達…いないの否定しないんっすね」
「!!」
「しまった」と言わんばかりに両腕で頭支え大ショックを演出する俺…だったが
「て言うかそれはお前らだけじゃなく学校中に知れ渡っていることだろうが」
「自分で言ってて悲しくないっすか?」
「お前が言わせたんだろ!」
ぜぇ、ぜぇ、いつの間にか息が荒れる位興奮していた。
「朝っぱらから余計な体力使わせてんじゃねぇよ」
「おかげで暖まったでしょ?」
「それについてはありがとうの無駄に疲れてバカヤローだよ!」
「なるほど、感謝半分の愛情半分ってとこっすか」
「いやいや、どうしたらそんな割合になるんだ?言っとくが俺がお前に愛情なんていう感情は0だ。」
「それは助かります、自分もそんな感情いだかれても迷惑なんで」
「奇遇だよなぁ、はははっ!」
「ほんと相性バッチリっすね自分達、あははっ!」
冷めきった空気に満ちていたはずのこの場所が二人の男女の火花によって暖められていたことを当人は知らなかったという。
「ねぇ、お母さん?ここすっごく暖かいよ、熱い位だよ。」
「そうねぇ、若いっていいわね。」
通行人にそんな親子が通ったとか通らなかったとか…
「見ているこっちも若返った気持ちになるね…だが君たちはここから苦しむことになる、それを乗り越えられると信じてるよ…」
黒のドレス黒の日傘、雪に満ちたこの銀世界に対してあまりにも浮いた格好の人物、それでも彼らには一切気にすることはなかった。
それは他の通行人も同じだった。
(チャイム音)
「やべ!もう時間かよ」
「ええっ!もたもたしてるからっすよ」
「誰のせいだよ‼」
本当に騒々しい朝だ、こいつらと知り合ってこんな朝が当たり前になっている。
口では不満げなことを言っている俺だが、実はそれに愛着を抱いている俺が確かにそこにあった。
(放課後)
「ふぅ、やっと放課後かぁ」
授業が全て終わり皆それぞれ帰り支度をするやつも居れば部活にせっせと向かう者もいる。
そんな彼らを見ながら自分も勉強道具などを鞄にしまう。
そうしていつものように部室へと足を運ぶのであった。
部室棟の一番奥そこが俺たちの部室だ、前はこそこそ人の目を気にしながら入っていた頃があり、今では懐かしく感じる。
ようやく長い廊下の突き当たりまで到着した、ここまで廊下の両側には様々な部活の名が書かれた扉があり他の部活動の生徒は次々に自分の部室へと入り消えていく。
そうして俺だけこの長い廊下の奥へと進んで来た、一際目立つ大きな扉、その上にプレートがかかっている。
そこに書かれていた文字は…
「派閥部」
「なんだよそれ!」と思うだろうとも、いやマジで俺もかれこれ幾度となく突っ込んだからな。
とにもかくにも、説明は後にしよう、さぁ扉を開けるぞ。
ガチャ
「やぁ」正輝があいさつする
「おぅ、相変わらずいい笑顔なこって」
「まぁ、一様商売道具見たいなものたがらね」
「さらっと生々しいこと言ったな」
「はい、お茶が入りマシタ」
マリーが持って来たお茶を置く、ちなみにマリーは基本ゲームをする以外はこうしてお茶を沸かすか、キッチンで何か作っている。
そうここにはキッチンが何故か完備されている、だがこれだけでは無い、まだまだこの部室にはいろいろと存在している。
これもまた、次の機会に説明しよう。
「ありがとう」
「ありがとなマリー」
正輝と俺がお礼を言う。
「いえいえ、好きでやってることデスカラ」
「癒されるなぁ」
「全く持って同じ事を思うよ」
二人で共感しつつ、至福の時間を過ごしていたがそれは儚く一瞬で崩れ去った。
いや崩されただ。誰に?ここまでの話の流れでもう解るだろ?
バンッ‼
「やっほー‼皆お待たせ!」
恵里が勢いよく扉を開けやって来た。
「待ってねぇよ、何なら帰宅するまで来なくても良かったんだぜ」
「はいはいっと、ツンデレお疲れっす」
「デレて無いだろう⁉」
「自分から見ればツンな奴らは皆ツンデレっすよ」
「それ!今お前はツンデレ愛好家達を敵にまわしたぞ」
「何すかそれ?」
ごめん俺もよくわからなかった。
「んで、今こうしてるのを見ると、いつもの四人か」
「そうみたいっすね」
「最近皆で集まれて無いと思いマス…」
「皆忙しいんだよ、それを言う僕らだってとても暇とは言いがたいからね」
「俺は暇だが」
「自分も」
「君たち二人揃って」
やれやれと涼しげに首を振る正輝、実際に見た訳ではないがこいつもこいつでかなり忙しいはずだ。
こうしてここにいる事自体不思議でしょうがない、なんせ今をときめく売れっ子モデルで雑誌はもちろんテレビでも引っ張りだこだからな。
「さぁさぁそんな事言っても仕方ないので始めるっすよ、なんせ時間は限られてるっすから」
いやいやあなたも充分に忙しい方なのでは?
島村グループっていったら日本を代表する大企業だ、今では世界でもその名は知れ渡っているほどに。
そのご令嬢がこんな呑気にゲームができるはずがない…訳なのだが。
「じゃあ今日も昨日の続きから」
『もう始めてるし』まぁ人様のことだ、俺が気にしててもしょうがない。
「カズは昨日不参加だった分頑張って下さいね」
「あっああ…」
ヤバイヤバイ、自分で記憶消しといて危うくツッコミいれる所だった。
「それでは、ゲームスタート!」
ガチャ
そして扉は開かれた、
「失礼します」
どうやらゲームではなく現実の出来事だった。
「‼」
恵里が驚いた表情でその人物を見ていた。
「失礼、私は生徒会副会長を務めております、松風 秀です」
「で、その副会長さんが何のようですか?」
「ええ、私がここに来たのは、島村恵里さん、阿部マリーナさん、白鳥正輝さんにお話したいことがあったからです」
「この三人ということは財閥グループ関係ってことだな」
「その通り、なのであなたには席を外して頂きたいのですが…」
「はいはい、わかりました、んじゃ話が終わったら連絡くれ、俺はそこら辺わを…」
「会長が一緒にいる平野和徳くん、つまりあなたも含めろと指示されました」
「は?なんで俺が」
「私にもわかりません、ですが指示があった以上あなたにも参加してもらいます」
「わかった、わかった参加しますよあっ後手短にお願いしますよ?俺たち時間が限られてるんで」
「では、先ほども言いました、島村さん、阿部さん、白鳥さんの3名に」
『やっぱり関係ねぇじゃん、なんでこんな話に参加しなくちゃなんねぇんだ』
「次の生徒会選挙に出てもらいます」