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異世界訪問は突然に  作者: 矢吹さやか
第1章
16/39

#015 戦闘

初めての戦闘です。しかも対人。


やっぱり難しいですね、こういうシーンは……。

「……!こちらに向かってきます!」

「ちっ。面倒だな。美里は迎撃準備。馬車から少し離れて弓で撃ってくれ。幸い、美里の姿は先ほど見られていないから、いるとは思わないだろう。」

「え……、撃つんですか?私が?」

「他に誰がいる。お前が撃たなければまともにあの人数相手になるぞ。言っただろ。自分の命を優先しろと。」


 確かに美里も覚悟は決めた。いや、決めたつもりになっていた。

 実感がないのだ。相手に害意があったとしても、自分の手でそれをすることが、日本人にとってどれほどのハードルか、計り知れない。


 距離はどんどん縮まっている。悩んでいる暇はない。

 とりあえず弓と矢を持ち、馬車から離れる。悠希の指示に従い、起伏のある所に身を伏せて、姿が見えないようにした。

 悠希は長剣を構えて襲撃に備えている。


 ほどなく件の盗賊と思われるメンバーの姿が見えてきた。

 先に着いたのが馬に乗った二人だ。


『美里、撃て。馬に当てろ!』

 悠希から念話が飛ぶ。


 ……!ひ、人じゃないからまだましなのか?

 少し怯みながら弓を引き絞り、馬に照準を定めて放とうとする。

 手が震える。歯ががちがち鳴っている。

 こわばってしまったように、手が動かない。ど、どうしよう、う、撃っていいの?本当に?


『早くしろ!』

 悠希の念話が頭に響き、そのことに驚き、矢を放ってしまった。


 ひひひ~ん!


 と馬の泣き声が聞こえて、直後、どさっと倒れた。

 無事着弾したらしい。の、乗っていた人大丈夫かな……。いや、そんな心配している場合じゃないのか。


『続けて二射!急げ!』

 も三度念話。一射目の緊張が解けないまま、二射目の用意をした。


 二頭のうち一頭が倒されたことで、少し驚いている盗賊の一人。

「どこからだ!」

 と射撃手がどこにいるのか探している。


 見つけられたらこちらに来る。そう恐怖して、美里は再度矢を放つ。

 思っていたよりも矢が逸れてしまい、馬を霞めて通り過ぎる。

 ひっ!矢の方向を見られたらここがばれる!ど、どうしよう。


 案の定、そこか、と目を向けられた。

 最初に落とされた盗賊が、馬に乗っているほうに指示されてこちらに向かってくる。

 少し不規則にジグザグしながら向かってきていて、狙いは定められない。


『慌てるな!転移できるだろ!私の右100mの位置に動け!』


 そ、そうか、転移能力だ。100mは範囲ギリギリだが、圏内だ。

 昨晩練習しておいてよかった。

 何とか位置を思い浮かべて移動する。


「な、き、消えた?」

「馬鹿言うな!人が消えるわけないだろうがっ!探せ!近くにいるはずだ!」


 盗賊たちがわめく。そりゃそうだよね。目の前にいたはずの人が消えるとそうなるよね。

 これって二人で繰り返したら何とでもなりそう。

 少し気持ちに余裕が出てきた。


 しかし、荷台にはロイルがいるため、悠希は動けない。

 となると、美里の役目は遊撃ということになるのだろう。


 自分の!

 命を!

 守る!


 言い聞かせながら、転移を繰り返して、盗賊に矢を放つ。

 剣じゃなくてよかった……。剣だったらもっとビビってる。

 悠希の行動を見ながら、心底そう思う美里。その手に感触が残らない矢は、選択肢としては成功だったのだろうと思う。


 その悠希は、美里が少しずつ減らしている盗賊の残りを切り捨てていってる。

 血も出ているし、内臓も場合によれば飛び出ている。はっきり言ってグロだ。近くで見てたら間違いなく吐く。近寄るのはよそう。

 と思っていたのだが、残り少なくなった時、悠希が盗賊と剣を交えているところに、後ろから別の盗賊が襲い掛かろうとしていた。


「悠希!」

 このままでは悠希が切られてしまう。

 見ていた限り、悠希はかなりの腕前なのだと思う。

 しかし、今、対峙している盗賊も結構手練れだ。

 身体強化能力も使っているだろうけれど、互角に渡り合っている。


 そこに別の盗賊が切りかかろうとしているのだ。

 対応できるかどうかわからない。


 咄嗟に美里は、悠希の後ろから襲い掛かろうとしている盗賊の横に転移する。

 この距離で弓は役に立たない。しかし、その弓を振り回して、横からの奇襲に成功する。

 盗賊が態勢を崩したところで、再び転移し、距離を取って、射線に悠希が入らない位置につき、弓を番えて引き絞る。


「ちょこまかとしゃらくせー!」

 と叫びながら剣を振りかざす盗賊が、美里めがけて襲い掛かろうとする。


「あ、あんたなんかぁ!」

 ありったけの勇気と気力を振り絞って、放った。

 どすっ!と矢は盗賊の眉間に刺さった。

 刺さった反動で後ろに倒れる盗賊。


「よくやった!」


 悠希も目の前の盗賊を袈裟切りにして、仕留めたようだ。

「これで全部か……。」


 と、軽く息を吐きながら悠希が剣を鞘に納める。

 美里は気力が尽きてそこで座り込んでしまった。

 悠希は荷台を覗き、ロイルが無事なのを確認して、美里のところにやってきた。


「よくやった、美里。助かったよ。」

 と労いの声がかけられた。


「お……、終わったんですか?」

「あぁ、何とか全員始末できた。」

 と、襲撃の終わりを告げられた美里は、とたんに身体が震えだすのを感じた。

 最初こそ尻込みしていたものの、途中からは無我夢中で自分に与えられた能力を使い、盗賊に矢を放った。半分は美里が倒したのだ。そのことに思い至り、自分のやったことに対する恐怖が出てきたのだ。


「あ……、わ、わた……し、ひ、人殺しを……。」

 弓を持つ手も震えている。弓はついには手から零れ落ちてしまった。

 茫然と座り込む美里に、悠希はそっと近づき、下を向いている美里の顔を手で挟み込み、そのまま胸のところで抱え込んだ。


「よくやった。本当によくやった。泣きたかったら泣いてもいいぞ。」

 優しい声をかけられて、様々な思いが美里の中で交錯し、涙腺が決壊した。

 悠希の胸の中で声を上げて泣いている美里。悠希は泣き止むまで、抱きかかえていてくれた……。


「落ち着いたか?」

 泣き止んでしばらくしてから、悠希が身体を離し、訪ねてきた。

「は、はい……。もう大丈夫です。」

 実際は大丈夫ではないが、いつまでもこうしていられない。

 悠希に泣きついたことも恥ずかしいし、それ以上にいつまでもこうしていたら先に進めない。


「ご迷惑をおかけしました。」

 悠希に謝罪をする。すると悠希は首を横に振りながら

「初めての対人戦闘は頭で考えるよりはるかに難しい。その戦闘で十分力になってくれた。ありがとう。」

 素直に礼をいう悠希に少し驚く美里。


「悠希でもきちんと礼が言えるんですね。」

「当り前だろう。私を何だと思っているんだ?美里は。」

 照れ隠しに少し突っ込んでみたが、真面目に返されて、少し返答に困る。


「え、えーと、何と言われても……。へ、変な人?」

「なんだ?それは。普通に見ていないことはわかるが、それでも変とは何だ、変とは。」

「え、だって、いきなり抱き付いて、私の素足を眺めて、胸触って、裸見て……って、すいません。変な人ではなくて、変態ですね。」

「言い直す必要もないし、そもそもすべて緊急性の高い話だったろうが!私は変態ではない。」

 少し拗ねるように言う悠希。あ、こんな反応もできるんだ、この人……。


 ようやく人心地ついた気になって、笑みを浮かべた。

「よし、立てるか?」

 美里の腕を肩にかけて、促す悠希。

「え、ええ、大丈夫です。」

「馬車に戻ろう。ロイルが待っている。」

「はい。」


 戻りながら悠希が声をかけてくる。

「人殺し……と言っていたが、私たちは好き好んでやっているわけではない。それはわかるな。」

 それはわかる。美里だって好きで撃ったわけではない。


「何度でも言うが、この仕事で一番大事なのは、自分の命だ。ぶっちゃけていうと、『回廊結界』から迷い人を元の世界に戻したことで、仕事の8割は終わる。残りの2割が移送だ。元の場所に戻してあげてこそ、完遂だが、それが万が一叶わなくても仕方がない。もし、移送と自分の命を天秤にかけるとしたら、断然自分の命のほうが重い。」

「はい。」

「生き残るために必要だったら、こういう行為も要る。美里が生きて帰りたいと思うなら、これは避けられないことだ。だから、あまりそのことを気に病む必要はない。」

「あ、ありがとうございます。わかりました。」

「もし、美里が楽しんで人殺しをするような奴になってしまったら……。」

「なってしまったら?」

「私が責任をもって、美里を殺そう。元の世界で生きられないということだからな……。」


 物騒な表現だ。極端な人だな……。

「う、……それは嫌ですね。でもそういうことにはならないと思いますから、大丈夫です。」

「そう願っているよ。」


 いつになく優しい悠希に、少し戸惑いを感じながら、馬車に戻った。

 ロイルは少し怯えているが、肉体的には特に何もなかった。荷台には悠希と美里が一切近づけなかったからだ。ロイルも悲鳴を上げたり、騒いだりしなかったので、盗賊に見つかることもなく済んだ。

 その点はロイルも褒めてあげたいと思う。


 荷台にもどった美里にロイルが声をかける。

「ミサトさん、大丈夫ですか?少し顔色が悪いようですけれど。」

 自分も少し青い顔をしているくせに気を遣うとは……、健気だね、ロイルくんは。


「大丈夫だよ!ありがとう。気にかけてくれたんだね。」

「いえ、美里さんは女の人ですし、僕の知っている女の人は、こんな盗賊退治みたいなことをやらないので……。」


 うっ、野蛮な人だと思われた??

「そ、そうなんだ……。私は仕事なので、仕方なくやってるだけだけどね……。」

「ユウキさんが、ミサトさんにお話しされて、抱き合ってましたよね?お二人はご夫婦なんですか?」

「いっ!?見てたの?は、恥ずかしい……。」

「す、すいません。ユウキさんが僕の様子を確認したら、慌ててミサトさんのところに行ったので、つい……。」

「あ、ちなみに夫婦ではありません!もちろん恋人でもありません!誤解はしないように!」

「そうだぞ、ロイル。私にも選ぶ権利というものがあるからな。貧相なそのお姉さんを恋人にしたり、嫁にしたりすることは、断じてない。」


 聞かれてもいないのに、勝手に会話に参加する悠希。

 元の調子に戻ったのか、先ほどとは違う感じで話をする。

 しかし、相変わらず失礼な物言いだ。何回目だ?貧相って言ったの……。口癖なのかな?誰にでも言っているんじゃないだろうね、この人……。


「さ、時間も喰ってしまったからな、先を急ごう。もう盗賊もいないだろうしな。」


 と悠希は馬車を再び走らせる。心なしか先ほどよりもスピードが出ているようだ。

 移動時間そのものが削られてしまったので、馬の負担を増やしても大丈夫と思ったようだ。


「でも、ユウキさん、本当にミサトさんが心配だったんだと思います。」

「……?なんでそう思ったの?」

「盗賊と事を構える前よりも、ミサトさんのところに行った時の方が真剣な顔つきだったから……。」

「そ、そうなんだ。偶然じゃないのかな?」

「そうですかね……。」


 それでこの会話は終了した。

 少し美里の頬は上気している。自分でもわかる。青くなったり赤くなったり忙しい日だ。

 でも、そんな気は本当にない。まだ会って2日だよ、私たち。いや、時間の問題ではない。アレはダメだ、と心の声が言っている。正しいのかどうかは全く自信がない。

 そもそも何がダメなのかはさっぱりだ。


 色々と混乱する中で、初の戦闘は終了したのであった。


というわけで、少しラブな部分も盛ってみました。

言うほどでもないかもしれません。(どっちやねん)


次回9/2投稿予定です。


拙作『FANTASY OF OWN LIFE』もよろしくお願いします。

http://ncode.syosetu.com/n1320dk/

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