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異世界訪問は突然に  作者: 矢吹さやか
第1章
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#013 見張り番

 使いどころが難しいかもしれない、と美里は実際に使ったことのない身体能力向上の能力を考える。


 明日、悠希に協力してもらって練習しておいた方がいい。それを悠希に告げると快く承諾してくれた。練習することで、効率よい能力の使い方も習得できるということらしい。

 仕事に関することは素直に話を聞いてくれるのだが、悠希は私個人に何か含むところがあるのか、いつも酷い言いようである。

 と心の中でちょっとした不平を募らせていたところに、悠希が声をかける。


「いろいろあって、汗もかいたろ。水を汲んでおいたから少し体を拭いておけ。」

 初めてではないだろうか、なんか悠希が気を遣ったことを言っている、と少し驚いた顔をする。


「お気遣いありがとうございます。でも、いつの間にそんなことしていたんですか?」

「昼間に川に行ったからな。私はそこでロイルと一緒に水浴びをしておいた。その時に一緒に汲んできたんだ。」


 いつの間にそんなことを……。まぁ、それも仕方がないか。できるときにできることをしておかないと、こんな旅では何があるかわからない。

 ちなみに水は、馬車の荷台下にあるタンクに詰めたそうだ。あまり水を使わなかったし、飲料水は補給物資にあったから、そっちを使っていたし、水が多く必要なことはなかったので気が付かなかった。


「わかりました。お言葉に甘えます。でも覗かないでくださいね!」

「ん?まだわからないのか?貧相な身体には興味が……。」

 と悠希が何やら変な顔をする。


「実は覗いてほしいのか?そういう趣味だったとは知らなかったな。貧相は貧相なりのアピールなのだろうが。しかし、言われて覗くのはあまり気が乗らないし、やめておこう。」

「趣味なわけないじゃないですかっ!ほんとに貧相じゃないですから……たぶん。」


 詰まらないことを言ってしまった、と後悔しても仕方がないが、アピールしたいわけでもないし、単なる牽制だったはずが、やたら凹む結果になるのは最早お約束なのだろうか。


「体を拭いたら、ロイルを荷台に上げるから、とりあえず先に寝ろ。夜中に起こすから見張りを替わってくれ。さすがに二日続けてずっとでは、私も疲れるからな。」

 そんなどうでもいい会話は続ける気がない風の悠希は、そう言ってロイルと一緒に、美里が見えない場所に移動する。


 それもそうだ。昨日は免除してもらったのだが、今日はさすがにそういう訳にもいかないだろう。

 ロイルと共に荷台に移り、昨晩と同様寝袋を引っ張り出して寝る。

 この世界の住人であるロイルは、早々に寝てしまった。いつも寝るのは日付が変わる前後である美里からすると、今の時間は早すぎるくらいだ。と、ロイルのことが気になる。


「何でロイルくんはあんなところにいたんだろうか。私たちの移動が100kmとすると、彼は100kmを移動してきて、『回廊結界』に入ったってことだよね……。こんな年の子がそんな距離移動できるのかな。何の理由があってあんなところにいたんだろうか。」


 最初の会話で、ロイルが言ったことを思い浮かべる。帰る必要がない、両親に放り出された、など日本では児童相談所行きな案件に発展しそうな内容である。

 もちろん、豊かで治安のよい日本とは違うわけで、同じ理屈は通用しない。それは頭では分かっているのだが、心が認めたくないと言っている。


 親が子を手放すなんてよほどのことだし、いたたまれない気持ちだろう。どんな理由があったとしても、戻って悪い気になる親はいないと、思った。

 そんなことを徒然考えているうちに、いつの間にか美里も眠りに落ちた。


 そして暫くして、美里は自分がゆすり動かされたのを感じた。


「そろそろ起きろ。交代の時間だ。」


 悠希が見張りの交代で、美里をお越しに来たのだ。もう、そんな時間なのか……ってこちらの時間では何時なのかはよくわからない。

「はい、すぐに支度しますので、外で待っててもらえますか。」

「ああ、わかった。」


 悠希が荷台から降りたのを確認して、寝袋から抜け出す。

 寝袋に入るときに、昼間着用していた服は脱いでおいたから今は下着姿だ。緊張感がないと言われるかもしれないが、あまり着心地の良くないこの世界の服を着て、寝袋に入るのはちょっと抵抗があったので、脱いでしまったのだ。

 思えば緊急事態で起こされて、この恰好ではまずいのか……。平和日本の弊害はこんなところにも出てしまった。自分の気持ちよさを優先してしまったことに、少し反省する美里。

 こんな恰好見られたらまた何を言われるかわからない。改めて服を着込み、弓と矢、短剣をもって外に出る。


「お待たせしました。」

「あぁ、別に構わない。」


 見張りについて少し話をしておこう、と悠希は見張りのポイントを話し始めた。

 美里の探索能力を考えると、目視よりもそういう能力のほうが効率がよい、ただ、ずっとそうしているわけにもいかないので、10分置きに周囲を一通り探索し、範囲内に異常があった場合は、悠希を起こせという内容だった。


「異常というのは何で判断したらいいですか?」

「敵意を持った者……、この場合は獣や魔物も含むが、そういうのがいたらという感じだな。ただ、判断が難しいだろうから、これに当てはまるものであれば起こしてくれ。」


 第一に集団で近づいてくるもの、第二に高速で近づいてくるもの、第三に不規則に近づいてくるもの、第四に一定の距離を保って動かない、または動いても移動範囲が狭いもの……。こんなところらしい。要は近づいてくるものと、こちらを伺っているようなそぶりをみせるものって感じだ。


「わかりました。初めてなので、詰まらないことで起こすかもしれません。その点はご容赦ください。」

「別に構わない。取り返しがつかないことが起こる前に、起こしてもらわないと話にならないしな。初めてのやつに無理をさせるつもりもないから、美里も無理はするな。じゃぁ、頼んだぞ。」


 少し心配そうなそぶりを見せて悠希は荷台に上った。何だ、やさしいところもあるじゃないか、ちゃんと。

 元が悪くないんだから、それが前面に出てたらモテるだろうに……、と思うも、ほとんど見かけることがないと言われる悠希がモテるはずもないか、と思い直す。

 多少は気にかけてもらえたことで、何だかうれしい気がする。自分は単純なのだろうか。


 一人で外に出て、たき火の後の周囲に座る。馬車は背にしている。

 明かりはランタンが置いてあるが、月明かりだけでも十分明るい。周囲に人工光がないからだろう。星が空から落ちてきそうなほどたくさんある。

 日本だったら、夏の大三角が見える時期だが、ざっと見渡しても見慣れた形の星座は見当たらない。


 もしかして、日本どころか地球から相当離れているのではないだろうか、ここ……。それとも別世界っていうのは、存在する宇宙そのものから異なるのだろうか。

 そう思うと、何だかもの悲しくなってくる。仕方なく従事したとはいえ、全く知らない場所で全く知らない空を見上げること自体が、現実味がなく、元の世界に戻れるのだろうかと心配になった。


「ん。とりあえず周囲の探索。」

 気を取り直して見張りの仕事をすることにした。昼間ウサギを捕まえたのと同じように、目を瞑って意識を集中させる。天頂から俯瞰した景色に切り替わり、周囲を見渡してみる。

 特に変化はない。日本でいう時間の概念で言えば、丑三つ時くらいだろうか。本当に草木も眠っているという感じだ。


 一通り、周囲の探索をして異変がないことを確認し、一旦探索モードを終了する。

 少し、緊張した。本当に何かあったら……何かって何だろう。さっき悠希は魔物と言っていた。少なくともこの一日、それに類するものには遭遇しなかった。今回はたまたまなのかもしれない。仕事をする中でそういったものと遭遇することもあるのかもしれない。


 静かなまま時間が経過し、美里は二回目の探索を行う。先ほど同様に特に何もない。拍子抜けやら、ほっとするやら……。もちろん何もないに越したことはない。しかし、少し緊張を緩める。


 難度かの探索を繰り返しても、異常は特に感じられなかった。特にすることもなく、時間は過ぎていく。だんだんと東の空が白み始めた。東西南北の方角が合っているかどうかはわからないが、たぶん太陽は東から昇るのだろう。


 そろそろ二人を起こす時間だろうか。日の出から移動を始めると言っていたし、と気にかけているうちに、強めの光が差してきたのが見える。日の出の時間だ。

「わぁー!綺麗……。」

 思わず感嘆の声を上げる美里。


 空が澄んでいるせいか、日本で見る日の出よりずっと神々しく見える。

 照らし出された周囲の草原は輝かんばかりにまぶしく見え、思わず目を細める。異世界の日の出は初めての体験だった。今日も一日良い天気のようだ。気分が自然と高揚する。


 旅は今日が中日。道のりもちょうど半分くらいになるはずである。順調に来ているので、このまま何事もなくロイルくんを送り届けて仕事を終わらせてしまいたい。


 昨日一日で、ロイルくんとは結構話をして多少は仲良くもなった。年下でなんか可哀想だと思わないことはもちろんない。それでも自分の住んでいる世界とは違う世界の住人であり、今自分がいるはずの世界と混じることがない人間である。両親・友人・その他知り合いのいるその世界に、自分の居場所があって、そこで生きたいと切に思う。


 冷たい……ことはないよね?と美里は独り言つ。ロイルも、元の場所に帰ることができて、家族や友人たちと過ごせば、美里と悠希の二人は、ちょっとだけ知り合った変わった人たち、としての思い出だけの存在になるし、二度と会えなくても別に何とも思わないだろう。


 もちろん、それはそれで寂しいことなのだが、まずは自分の身の安全を確保し、元の世界にちゃんと戻る。もし、自分がこの世界において死を迎えたとしたら、元の世界の私はどうなる?

 たぶん行方不明者として、捜索されることになるのだろう。

 それは嫌だ。それだけは何としてでも避けなければならない。悠希の言う通り、まず自分の命を守るべきだ。

 そう決心し、気合を入れる。


「あ、起こさなきゃ。」


 日の出とともに活動開始と、悠希は言っていた。二人を起こして今日の旅を始めよう。

 荷台を覗くと、悠希が体を起こしているところだった。勝手に目覚めたようだ。

 すぐにロイルも体を起こす。目覚めがいいんだな。こちらの人は。


「おはようございます。さ、朝ごはんにしましょ!」


次回は8/29投稿予定です。


ご感想、誤字脱字報告、矛盾のご指摘など、いろいろお待ちしております。

よろしくお願いいたします。


拙作『FANTASY OF OWN LIFE』もよろしくお願いいたします。

http://ncode.syosetu.com/n1320dk/

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