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異世界訪問は突然に  作者: 矢吹さやか
第1章
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#012 念話と転移

「後は、『回廊結界』への侵入と、元の世界への帰還だな。ここでの注意だが、元の世界に戻るには、一度『回廊結界』に入る必要がある、ということだ。」

「それって元の場所まで戻らないといけないってことですか?」

「いや、『回廊結界』自体はどこでもいい。だいたい半径5km圏に1つくらいはあるからな。」

「かなりありますよね。迷い人は相当多くなりませんか?」


「中に入り込むには『印』を踏んでしまうことが必要だが、中にはその空間に入るための『印』が周囲に存在しないことも多い。実際に入り込む危険があるのは10箇所で1つ位だ。しかも、『印』は小さい。美里の踵に刻まれる程度のものだ。それを踏むこと自体は稀と言っていいだろう。」

「もしかして私って、宝くじに当たるくらいの確率で遭遇したのでしょうか。」


「そういうことになるな。大した幸運の持ち主だ。」

「それは不要な賞賛です。」

「まぁ、他にも『回廊結界』の特徴はあるのだが、それはまたの機会にしよう。で、私達は『印』そのものは持っているので、そこに『印』があるかどうかは問題にならない。」

「だからそこまでたどり着く必要がある、ということですね。」

「あぁ。入ってしまえば元の世界に戻ることができる。言い換えれば、今いるこの世界と私達の元の世界は直接的に繋がっていない、ということだ。」


 それは何となく想像していた。繋がっているのであれば、『回廊結界』なんてややこしいものがなくても、異世界異文化コミュニケーションが発生していてもおかしくないからだ。

『回廊結界』に入れば、悠希が付けた『印』に、協会から戻るための座標が送られてくる。その座標を使って元の世界に戻るということだ。


「さて、念話と転移は練習しておくか。まず念話だが、相手の姿形を思い浮かべて、名前を呼ぶ。この時名前はフルネームでなくても構わない。悠希は狙い場所に念波が届けばよいので、自分が呼びたいように呼べばいい。最初のうちは『印』に手を当ててやるといいだろう。そのうち慣れる。とりあえずやってみろ。」


 言われた通りにやってみる美里。胸に手を置いて、悠希のことを思い浮かべ、呼びかける。


『聞こえますか?』

『ああ、聞こえる。問題ない。』


 無事できたようだ。頭で直接界をするってテレパシーだよね。少しエコーがかかった感じで違和感はある。しかし、周りの音とか入らないため、会話自体はクリアである。


「電話と違い、繋げられた側が何かアクションを起こす必要はない。自分が繋がったと思えば、そのまま会話すればいい。」

「お風呂に入っててもお構いなしでしたもんね。」

 最初の念話を思い出し、少しむくれる。もちろん悠希はスルーだ。


「この念話は距離とかは影響ありますか?」

「会話そのものは、繋がりさえすれば距離は問題にならない。しかし、繋げられる距離は制限がある。だいたい半径100kmってとこだな。」

「ほとんど無制限に近いですね。初めから離れていない限り無意味な距離ですよ、それ。」

「それがそうでもない。」


 他の捜索官が、不測の事態で身動きが取れなくなった時に、迎えに他の世界に行くことがあるそうで、その際、今回のように結構な距離を移動する任務だと、稼げてしまう距離でもある、ということだった。

 また、圏内にいてもだいたいの方角がわからないと、探すのに結構手間取るともいう。最初の念話で、悠希が手間取ったという感じのことを言っていた。

 寮は大学から比較的近いからまだ探しやすかったのだろう。きっと協会事務局からだいたいの場所は聞いていたに違いない。だったら寮であることも伝えるべきだと思うのだが……。


「まぁ、ペアで行動する限りはあまり気にしなくても良いレベルなのは確かだな。ただ、相手の意識がない場合は繋がらないので注意が必要だ。」

 相手が眠っているときや、気絶している間は繋がらないということらしい。それもわからないではない。結局『印』が生体反応するというのだから、意識の有無で『印』の動作に影響がでるということだろう。


 次に転移能力である。


「基本的には念話と同じような使い方だ。最後が呼びかけではなく、相手の近くに行く、と思えばいい。その時、姿を思い浮かべて、前後左右をイメージすればいい。」


 一度馬車を停めて実践してみることにした。

 御者台から悠希が荷台に移る。


「いいぞ。」


 先ほどと同じように『印』に手を置いて、悠希を思い浮かべ、悠希の右側に出ようと思った。身体が光り出し、自分も目を開けていられない位になった時、少し浮遊感がした。光が収まったと思い、目を開けると、自分が悠希の隣に座っているのを認識した。


「それでいい。」


 荷台の中では、ロイルが目を丸くして声を失っている。


「ミサトさんって魔法使いだったんですか?」

 ようやく口を開いたロイルが聞いてくる。


「ち、違うよ!ちょっと不思議なことができただけ……。」

「あぁ、そうだぞ、ロイル。このお姉さんはいい年して魔法少女(笑)を名乗っている、危ない人だ。」

 くつくつと笑いながら悠希が茶化す。釣りの時に二人は少し仲良くなったようだ。


「変なことを吹き込まないでください!そして、後ろに変なものをつけないでください!」

 先ほどのロイルとの会話のなかで、この世界において、女性は平均的に15歳前後で嫁ぐのだと聞いた。美里の年齢からすると(ロイルには言っていないが)、子どもが2~3人いてもおかしくない、大人の女性と言える。そのロイルに『少女』とか言ってしまうと、かなり気恥ずかしい思いになる。


 ともあれ、能力確認の実験は成功した。

 制限事項は念話と同じで、相手の意識があることと、距離が一定以上離れるとできないことの二点だった。念話と違うところは距離がかなり短縮されるということらしい。

 念話が100km圏内に対して、転移は30km圏内。面積にして、9%くらいしか有効範囲がない。数字にするとものすごく少ないような気がするが、30kmも離れた場所に移動できるなら、十分安全は確保できるだろうし、ありがたいのだろう。

 ただし、行くことはできるが呼ぶことはできない。

 呼べるのなら、最初の段階で悠希が美里を呼んでいただろう。それはそれで真っ裸で呼ばれることになっていたはずなので、その機能がなかったことに少しほっとする。結果は変わっていないのだが。


 悠希が、慣れてくれば、『印』に手を当てなくてもできる、というので、夜にでももう少し練習することになった。


「さて、もう少し先を急ぐとしよう。後1時間位で、野営の準備をするからな。」

「まだ、結構陽が高いですが、もうですか?」

「あのな、この世界には電灯はないんだぞ。暗くなれば、本当に暗くなる。周囲の警戒も含めると、早めに準備をした方が無難なんだ。その分、朝は早めから移動するのがセオリーだな。」


 異世界での旅は、日の出から日没の1時間位前までが標準だそうだ。寝るだけなら、昨日のように荷台で寝れば良いが、食事の準備と周囲の索敵、安全確保を考えるとそれ位はいるとのことだ。


 簡単なレクチャーも終わったので、美里は再び荷台でロイルと一緒にいることにした。

 悠希の宣言通り、1時間ほどして、野営ができそうな見晴らしの良い場所があったらしく、悠希は馬車を停めた。


 朝食は補給物資にあった簡易コンロを使用したが、今回は魚を焼くことになっているので、たき火を起こす。いつの間にか悠希が集めていた枯草、枯れ木を組み上げて、備品ライターで火をつける。火をおこさなくてもいいのは助かる。文明の利器は些細なところで感動を生む。


 食事の準備をする間、悠希は周囲の索敵に出かけた。

 見晴らしがいいので今日のところは特に問題はないと思うが、少し先に見える森から何かが出てきた場合は、あまり時間の余裕もなさそうに思われるので、少しばかり仕掛けを施してくるとのことだ。

 簡単な作業に見えるが、範囲が広いので時間はかかりそうだ。

 1時間程度で何とかなるのだろうか……と美里は心配しても仕方がないことを思う。悠希がその時間でいいと判断したのなら何とかするのだろう。私もいずれ覚えないといけないよね……。


 ほどなくして、悠希が戻ってくる。心配しているつもりはないが、無事に姿を見るとホッとする自分に気づく美里。

 知らない世界での唯一、元の世界との繋がりでもある悠希は1日程度の付き合いでも十分な心のよりどころになっているようだ。


「ま、あれだけ仕掛けておけば、何かあれば対応できるだろう。」


 使い捨ての仕掛けのようで、回収する必要もないとのことだった。明日は準備ができれば早々に出かけられるということだろう。


「それじゃぁ、ご飯にしましょうか。」


 魚に木の枝を刺して、たき火の周囲に配置している。時折ひっくり返しながら、焼き加減を確認する。味付けは塩のみだが、直火で焼き上げた魚というのは、何でこんなに美味しく感じるのだろうか、と不思議に思う美里。


(キャンプは子どものころよくやったけれど、こういう魚に限らず、屋外で食べるご飯というのは美味しく感じることが多いのは何でなのかな。)


 日常と違う環境に置かれることで、普段使っていない感覚が効いてくるのか、単に気持ちの問題なのかはわからないが、そういうことは往々にしてある。

 三人でささやかな夕食を取り終える。基本的に伝統のないこの世界では、日が暮れたらあまり時間をおかずに寝ることになる。やることがない、というよりもできないのだ。


 夕食後、転移能力の練習を行う。傍から見ていると美里があっちに出てきたり、こっちに出てきたりとかなり異様な感じだ。

 やっているうちに、転移先の場所も、対象者(この場合はもちろん悠希)の半径100m以内であれば任意に指定ができることもわかった。

 使い方によってはかなりの戦力になりそうな感じだが、間違って争いになった場所に突入しようものなら、出現即殺される、ということもあり得るので怖い。

 事前に念話することで問題はなくなるので、さほど気にしなくても大丈夫だろう。


 幾度も繰り返して使用したからか、美里はかなりの疲労を覚えた。


 悠希が、能力の使用には精神力を使う、と言っていたことを思い出した。身体全体を移動させるこの能力は、より多くの精神力を使うのだろう。

 念話や言語強化などは、精神力の消耗は少ないようだ。ロイルと話をしていて疲れたということはなかった。

 この分だと身体能力向上は結構精神力を使いそうだ。今転移の練習に30分ほど費やした結果、それなりの疲労が発生している。

 一日活動した後であることを差っ引いても、結構辛い。これが行動中に起こったりすると、確かに厄介だ。

 そのことに不安を覚える美里であった。



次回は8/27公開予定です。


もうすぐ夏休みも終わりです。

宿題は早めに済ませておきましょう!(余計なお世話)


拙作『FANTASY OF OWN LIFE』もよろしくお願いいたします。

http://ncode.syosetu.com/n1320dk/

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