ムラサキのハナ
「雨降らないかなー」
「お姉ちゃんが雨好きなのは知ってるけど、そういうのやめてよ」
「どうしたの文? なんかあったっけ?」
「姉ちゃんが鬱陶しいから、外に男でも作るんじゃねぇの~?」
「ちょっとお兄ちゃん、なんてこと言うのよ!」
あー、うん。ワーワーギャーギャー我が弟と妹は仲のいいことで。どーせお姉ちゃんである私は仲間はずれよ。昔からそう。雅宮はどうしたらいいか分からなくてちょっと失敗しちゃった感があるけど、文はちゃんと可愛がれてる。まあ、雅宮とは年子だからそういうのが難しいってのもあるけど、文とは三つ違う。私だって幼いながらも、頑張ってあやし方を覚えたのだ。……雅宮に実践できなかったのは仕方がない。
「お姉ちゃん? 話聞いてる?」
「あ、ごめんごめん。で、なんだっけ」
「だーかーらー、明日友達とみんなで水族館に行くんだけど、お姉ちゃんも行くことになってるから」
「え、なんで?」
「え、そこから説明しなおさないといけないの……?」
できれば、できればだよ? そんなことを言いながら、「またか」みたいな顔をしないで欲しかった。昔から、「群咲さん家の葉菜ちゃんは自由人よね~」なんて言われてきたけど。「それに比べて文ちゃんはしっかりしてるわね~」なんて親戚のおばちゃんたちに言われてきたけれども! そもそも、同じ遺伝子を継いでいるのだから、同じ性質を持っているはずで。つまり、文はただ私を反面教師にして育ったということだから、文がしっかりしているのは、私の功績のはずで!
「姉ちゃん、さっきからなに百面相してるのさ」
「お姉ちゃん? また話聞いてなかったでしょう?」
「ごめん、文……」
「はあぁ~……」
できれば、できればでよかったから、……そんなに大きなため息をつかないで欲しかった。ほら、幸せ逃げるよ?
「あ~、葉菜ちゃんだ~。おひさ~」
「お久しぶりです、お姉さん」
あれ、私ってたしか、文のお友達と一緒に遊ぶんだったよね。何人か雅宮のお友達が混ざってる気がするんだけど、気のせい?
「だから姉ちゃん、変な顔すんなっての」
「変なことするわけじゃないから、ね、お姉ちゃん?」
って、雅宮もいたのね。あ、私のクラスの友達もいるんだけど、なんで?
「ねえ文、お姉さんに話してないの?」
「私は話したからね。……お姉ちゃんが聞いてなかっただけで」
「失礼ね。文のお友達が来るってのはちゃんと聞いてたわよ」
「あぁ~……」
ちょっと、なんで私が知ってる雅宮のお友達まで揃いも揃って残念そうな顔するのよ。第一、文の話はいつもタイミングが悪いのよ。っていうか、ずーっと話してて考える時間をくれないのが悪いのよ。きっとそうよ。
「う~、お姉ちゃんってば。まあいいや。それじゃあ入りましょうか」
「そうだね。姉ちゃんになに言ってもどうせ聞かないし」
「そうそう、葉菜はいつもボーっと考え事してて、人の話なんて聞かないもんね」
あれ、我が友よ、そこは同意するところではないわよ? だいたい、あなただってこっちが口を挟む余裕なんてくれないで話し続けるじゃない。私にやさしいのって結局……あれ、みんな同じ感じか。
「葉菜、今日は晴れてよかったね」
「私が雨好きなの知ってるでしょ」
「葉菜さんって雨好きだったんですか?」
「ナンパはお断りよ……」
私は文や雅宮のお友達、それからクラスのお友達に囲まれて水族館を歩いている。ちょっとを数えてみたんだけど、私の周りにいる人数と、雅宮と文の周りにいる人数はみんな一緒みたい。
この水族館は屋外にも展示スペースがあって、そこにいくと水面がきらきらと輝いて綺麗。そこの半地下みたいなところはガラス張りになっていて、大きな水槽の中を見ることができる。覗き込んで上を見てみるとこっちもきらきらと光っていて……こっちは眩しいや。
「はぁ……雨降らないかなぁ」
「そんなに雨がいいんですか? せっかくの梅雨の晴れ間なのに」
「梅雨だからこそ余計に雨が降ってほしいんじゃない。梅雨は雨が降った日こそ『いいお天気』っていうの。覚えておきなさい」
「それは屁理屈って言うんじゃ……」
屁理屈だろうがなんだろうが関係ない。雨好きである私にとって、梅雨というのは一年のうちで最高な季節なんだから。梅雨なんだから雨が降るのが当たり前。ということは、雨が降ってこそいい天気。こんな立派な理屈を否定されるのは心外だけど、どうせ誰に言っても理解されない。それなら、私だけが理解していればいいわよね。
「あー、もう出口かー。葉菜、楽しめた?」
「ん~、うん。そうね。楽しかったわ」
「あーお姉ちゃんたち早ーい。それに比べてお兄ちゃんたちは遅いね」
「そうね。私と文がいるにも関わらず、雅宮はクラスの子と一緒に赤くなっちゃってるし」
「しょうがないよ。私の友達もお姉ちゃんの友達も見慣れない人ばっかりだもん」
まあ私だって、雅宮のお友達には少~し冷たくしちゃったかなぁ、とも思うけど、男の子相手にどういう反応すればいいのか分からないんだから、雅宮だって女の子相手にどう対応すればいいか分からないのだろう。
「ちょっと姉ちゃん、文。そういう誤解されるような言い方やめてよ」
「えー、だってお兄ちゃんってばシスコンじゃん」
「えー、私にはそっけないくせに~?」
「あははー。じゃあロリコンだー」
「もっとヒドイじゃねえかよ……」
あっはっは。我が弟と妹は楽しそうでなにより。やっぱり、みんな笑顔なのが一番いいわね。
「あ、葉菜が笑ってる」
「ホントだ、葉菜さんが笑ってるぞ!」
「え、え?」
なぜそこで歓声があがるの? 私ってそんなに無表情に見えるの? どちらかというと、私たち三人の中では私が一番笑ってると思うんだけど。
「お姉ちゃんは考え事してると百面相になるからね。あんまり笑ってるように見えないんだよ」
「そうだったの……」
「で、今回の目的は、姉ちゃんが笑ってるのをみんなで見てみようって企画ね」
そうだったのか。私ってそんなに表情がころころ変わるのかな。こんど鏡の前で確認してみよう。
それにしても、なんだか騙された気分だわ。みんなでよってたかって私を笑いものにするなんて。
「雅宮ぅ~、文ぃ~? 帰ったらお仕置きだからね~?」
「……はい」
「……わかった」
よし、じゃあ帰ったら二人には漫才でも披露してもらいましょうかしら。なんにも考なくていいくらい、とびっきり笑えるやつを。
このところ蒸し暑くなってきましたね。雨が降ったら少しくらいは涼しくならないかな。そんな願いを込めて。鵠




