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柿崎若葉の葛藤

――自宅――



 窓から差し込む暖かい光が、白いレースのカーテンをすり抜け。

 それはまるでシャワーの様に降り注ぎ、朝の訪れを知らせてくれる。

「おはよう、いじゃ」

 毎朝起きたら、一番最初に挨拶する私のパートナー。

『いじゃーく』

 私を運んでくれる、大切な友達の名前。


 いつだったかな、テレビに映る一匹の盲導犬を見たのは。

 海外の番組でね、名前はイジャーク。

 すごいお利口さんな犬で、飼い主さんのお手伝いをするの。

 丁度車椅子に乗り始めた位の私には、その犬が車椅子と重なって見えたんだ。

 私を助けてくれる、大事なパートナー。

 その番組を見てから、私のパートナーの名前はいじゃーくになったんだ。

 言葉は喋らないし、物を取ってきたりは出来ないけど。

 いつも私を運んで、いつも一緒に居てくれる大事な友達。

 最初のいじゃーくとはお別れしちゃって、今は二代目。

 いじゃって呼んでるけど、正式にはいじゃ弐号機。

 そして外出用にもう一つ、そっちはいじゃ参号機。

 変、かな? でもこの名前気に入ってるんだよ。


 いつものようにリビングに行くと、キッチンにはお母さんの姿。

 毎朝ちゃんと朝御飯を作ってくれている。

「おはよう、お母さん」

「ん、おはよう。ご飯出来るから顔洗ってらっしゃい」

「はーい」

 顔を洗って、歯を磨いて。

 一日の始まりです。


「今日お母さん昼から仕事だけど、良かったら送って行こうか? 病院行くんでしょ?」

「ホント? じゃあお願いしようかな。いつもありがとう」

 今日は朝から嬉しいニュース。

 家から病院まではそう遠くないんだ。電車で二十分くらい。

 でもやっぱり電車はちょっと苦手。

 人が多いとこはあまり好きじゃないんだ。


 朝食を終え、いじゃの体を拭いてあげます。

 女の子? 男の子? そういえば考えてなかったかも。

 どっちにしても身だしなみは大切。見えない所も、ちゃんと拭いてあげる。

 これが意外と大仕事。結構疲れるんだよ。

 いつもありがとうって、綺麗にしてあげるんだ。


 ふぅ。終わりました、ピカピカです。

 銀色の体に光が反射して、いじゃも喜んでるみたい。

 一時間なんてあっという間。そろそろ準備しないと。

 今日は何を着ていこうかな。洋服を選ぶのはちょっと苦手。

 あれがいいかな、やっぱこれかな。

 全然決まりません。ゲームの中みたいに、何でも似合う様になりたいよ。

 さすがにバニーガールにはなれないけど。


 いじゃ参号機と車に乗り、いざ出発です。

 途中でお花を買いに、ちょっと寄り道。

 今日はどんな花を飾ろうかな、とか。このお花いい匂いだな、とか。

 お花を選んでる時間、好きだな。


「お母さんも見てみたいわね、その子。元気になったら家に連れてきなさいよ」

 そろそろ病院に着く頃、突然お母さんが口を開きました。

「えっ? う〜ん、何か恥ずかしいよ。その前にまだ全然仲良くないし……」

 そうなんだよね。まだちゃんと友達にもなってないし。

 友達になれるかな。なってくれるのかな。

 早く君に会いたい。だけどちょっと不安なんだ。



――東京都立目黒川総合病院――



「じゃあ、ありがとう。お仕事頑張ってね」

「若葉も帰り気をつけるんだよ。お友達によろしくね、寝てるからって変な事しちゃダメよ」

「なっ、するわけないじゃん!」

「あはは。じゃあ頑張ってね」

 もう、冗談言って。私が変な事する子に見えるのかな。

 でも、いつもありがとう。

 走っていく車を見ながら、そんな事を考えていました。


「お、わかばんおはようー」

 病室のドアを開けると、りょうこさんが先に来ていました。

「おはようございます」

「花貸して、活けてあげるよ」

「ありがとうございます。これからお仕事ですか?」

「いや、今日は休みなんだ。だからゆっくりだよ」

 明るい病室。花を花瓶に活けながら話す、諒子さんの横顔。

 同性の私でも見蕩れちゃう位。綺麗で、かっこよくて。

 ちょっと羨ましいです。


「もう九日目になるんだね」

 病室のカレンダーを見ながら、諒子さんが呟く。

 イゾウさんと会ってからもう九日。

 君が眠りに落ちて、九日目。

「そうですね。何だかあっという間です」 


 九日前までは、こんな事になるとは全然思ってなかった。

 もしあの時、あの丘でイゾウさんに会わなかったら。

 私達三人は、こうやって一緒の部屋に居ることはなかったよね。

 若葉とイゾウさん。リョウマさんとイゾウさん。

 ちゃんと三人でお話したことはまだない。

 イゾウさんとリョウマさんは会う約束してたんだよね。


 私、邪魔だったりしないかな。

 二人の約束に、私は関係ないんだよね。

 勝手に来て、勝手に待ってる。

 迷惑じゃないかな。私、普通の女の子じゃないし。

 目覚めた君とりょうこさんの間に、私の入る場所はあるのかな。

 やだ、私何考えてるんだろ。そんなのおかしいよ。

 早く会いたいのに。会ってお礼をするんだって思ってるのに。

 どうしてかな。君が目覚めるのが、少し怖いよ。

 


 


 

 




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