篝諒子のリアル
――クリスタの海岸――
クリスタの海岸。昨日わかばんがやられた場所。
しばらく待っていると、ログインを知らせるシステムメッセージが流れた。
光の粒子が、アタシ達の前に彼女の姿をかたどっていく。
「あ、あれ? リョウマさんにクレイジーさん、待ってたんですか?」
目の前に居たアタシ達に、驚いたような表情を浮かべる。
「やっぱり。BANなんてされてなかったぜよ」
「おー。よかったじゃないか若葉ちゃん。おかえり!」
「あ、ただいま! ただいまです!」
「でも、何でログイン出来たんですかね? 私昨日IZOに斬られて、そのまま強制ログアウトされたのに」
「二人の話を聞いて、もしかしてって思ったぜよ。ムーンストーンが有るのにそのまま死ぬのはちと疑問じゃったきに。若葉は昨日、ログアウトしようとしていた時にIZOに会ったって言っちょったやろ?」
「はい。お手伝いが終わったからそろそろ落ちようかな、って思ってた時に現れたんですよ」
「ログアウトからシャットダウンまで、たまにタイムラグがあるぜよ。その間にIZOに会って、斬られて丁度シャットダウンしたんじゃないかと思ってな」
「ああ、そう言えばシステムいじった直後だったです!」
「なんだ。若葉ちゃんの早とちりだったのか。まぁBANされてなくて何よりって感じだな」
「えへへ。ご迷惑おかけしましたっ」
「よし、じゃあ気を取り直して、IZO退治にれっつごーぜよ!」
――アレイドの森――
「クレイジー、右の雑魚は任せたぜよ! 若葉はバラード頼むぜよ!」
「任せとけ! こんくらい朝飯前だぜっと」
クレイジーの突進スキルが敵を薙ぎ倒す。残り四体。
IZOは街など人の多い場所には出現しない。人気の無い場所を探していると、必然的にモンスターとの遭遇も増える。
アタシ達は、今日もいつもの様にモンスターと戦っていた。
「若葉またスキル上がったんじゃなかと? 威力が増してるぜよ」
戦場のバラードが身体を包んでいる。いつもは一撃で倒せないモンスターも、今日はさくさく倒せていた。
「へへん。私も頑張ってるんですよ!」
目の前のモンスターを、楽器で殴りつけながらわかばんが言う。
歌の詠唱も早くなってきた。最初は後ろに隠れてばっかりだったわかばんも、今では前線に立つようになった。
「お、よそ見したらいかんぜよ」
「あっ! いやああ!」
アタシの方を見た瞬間、目の前の敵からカウンターをくらって飛ばされていく。
ま、まぁまだまだだけど、君と会った時よりは随分成長したよ。
「はい、リョウマおつかれ。若葉ちゃんも良く頑張ったな」
戦闘が終わり、クレイジーがドクターパッパーを差し出す。
ルミエスタではこれが一番人気。
『とりあえずドクパ』みたいな雰囲気がある。
知らない人達と大勢でクエストした時なんて、ドクパの配り合いが始まったりもする。
「いやぁ、まだまだです。お二人みたいにはいきませんよ」
「俺はともかく、リョウマと比べるのはダメだ。こいつは廃人レベルだからな、俺ら凡人とは違うんだよ」
「廃人呼ばわりとは、まっこと不愉快ぜよ。わしは廃人と違う、偉人ぜよ」
「偉人坂本龍馬も、そんな土佐弁じゃあの世で泣いてるぜ。戦闘だけじゃなく土佐弁のスキルも磨いたほういいんじゃないか?」
静かな森の中、皆の笑い声が響く。
くだらないことで笑い合うなんて、リアルではどれくらいしてないんだろ。
ルミエスタでは、こんなにも笑えるのに。
「よし、じゃあ俺はそろそろこれで落ちるぜ。二人もあんま無理すんなよ」
「はい。お疲れ様でしたっ」
「おう、ほいたらな」
挨拶を交わし、クレイジーがログアウトする。
入ってから三時間、十一時くらいか。
明日は休みだから、もうちょっとだけ居てもいいかな。
「これからどうします? もうおやすみしますか?」
「そうじゃな。まだもうちょっと起きてるつもりぜよ」
「じゃあ宿屋行きましょうよ! スタミナ少ないから空っぽなんですよ。私もうスタピ飲みたくないです〜」
わかばんの肩が重そうに下がってる。アタシはまだ余裕あるけど、確かにスタピは進んで飲みたい物じゃない。
「よし、じゃあひとっ風呂浴びにいくぜよ!」
――宿屋――
あーいい気持ち。
この感覚を再現できただけでもノーベル賞ものだと思うよ。
いつもシャワーで済ましちゃうから、お風呂もあんまり入らないし。
温泉とかもずっと行ってないな。一緒に行く人もいないし。
「あー。リョウマさんもうちょっと詰めてくださいよ〜」
突然ドアが開き、バスタオル一枚のわかばんが視界に飛び込んできた。
「わっ、わかばん! どうしたの!?」
「どうしたのって、一緒に入るんですよー。ってかリョウマさん、口調が素に戻ってますよ」
「いや、ビックリするでしょ! 恥ずかしくないの!?」
いくら何でも男女でこの空間はダメでしょ? 色々と間違いが起こってしまいそうな状況だよ?
アタシの言葉に、わかばんはキョトンとした表情で言った。
「え? だって女の子同士だし、それにこれ私の身体じゃないよ」
あ、そっか。アタシ達は同性だったね。
何だか心まで男になっていた気がするよ。
「ふ〜。いいですねお風呂。気持ちいいです」
「ああ、まっこと最高ぜよ。酒が欲しくなるぜよ」
「そう言えばリョウマさんはハタチですもんね。私はまだ飲めないからなー、お酒美味しいですか?」
「まぁまぁ、それなりに旨いぜよ」
どうだろう。それなりに美味しいけど、部屋で一人飲んでてもあまり美味しくないんだよね。
飲まなきゃやってられないって言葉良く聞くけど、何となく分かる気がする。
「じゃあ二年後には教えてくださいよ、美味しいお酒」
屈託のない笑顔ってこういう事か。
色々と可愛いなぁ。アバターもそうだけど、リアルのわかばんを知ってるから余計に。
こういう子が男には好かれるんだろうな。
素直で、女の子らしい女の子。
それにしても、アバターって本当にリアル。
わかばんの胸、すごい大きいし。ちょっと嫉妬しちゃうな。
「えい」
「ひゃっ!? なっ、何するんですか!」
突然胸を触られて驚かない人は居ないと思うけど、驚き方も可愛いとは。
ちょっといじめたくなる。
「おなご同士、そして自分の身体じゃない。何も問題はないはずぜよ」
「そ、それはそうですけど……。でっ、でも何か触り方いやらしくないですか?」
「ん? 気のせいぜよ。ふむふむ、これは柔らかくていい乳をしちょる。リアルのわしより大きいのぅ。まっことけしからん」
「く、くすぐったいですよ〜。絵面的にも良くないです! めっ、ですよ!」
そう言ってアタシの手を払いのける。
しまった、これじゃまるでアタシ変態みたいじゃないか。
「でも、人とお風呂入るのは久しぶりです。温泉とか結構好きなんですけどね、中々この足じゃ行けませんから」
何処にでも、気軽に行ける。それは健常者の特権。
アタシ達が当たり前に出来る事も、わかばんには出来ないんだ。
「じゃあさ、アタシと一緒に行こうよ。アタシも温泉好きだし、これでも一応免許だってあるしね。だから一緒に行こう」
「ホントですか!? すごい嬉しいです! りょうこさんありがとう! 絶対ですよ! 約束ですよ!」
よほど嬉しかったのか、身体全体で喜びを表すように抱きついてくるわかばん。
「あ、うん。約束……ぜよ」
鎖骨で感じる女の子の胸の柔らかさに、アタシはもうリョウマなのか諒子なのか分からなくなっていた。
この子、やっぱ可愛いわ。




