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篝諒子のリアル

――自宅――



「ああ、うん。大丈夫だよ。食べてる食べてる。これから食べようかと思ってたところ」

 電話の向こうから聞こえる母親の声。

 耳で挟みながら、服を着替える。

「うん。じゃあ近いうち帰るよ。わかった、またね」

 電話を切ると、少しホッとする。別に母親が嫌いなわけじゃない。

 話すのが苦手なだけだ。


 ドアを開け、部屋から徒歩三分、いつものコンビニ。

 カゴに放り込むのは大体いつも同じ。適当なお惣菜とお酒。

 大体同じ金額を払って、またすぐに部屋に戻る。

 毎日変わらない、何でもない日常。


 篝諒子かがりりょうこ、二十歳。

 駅から徒歩十五分、1DKのアパートに一人暮らし。

 ブランド品とか化粧品とか、女の子らしい趣味は殆ど無い。

 女の子らしくないって昔からよく言われた。

 女の子らしく。その言葉は苦手だった。

 

 缶ビール片手に、買ってきたお惣菜をレンジに入れる。

 殺風景な部屋。よく言えば綺麗な部屋。

 あんまりごちゃごちゃしたのは嫌い。

 必要な物が必要なだけあればそれで良かった。

 見たい番組があるわけじゃないけど、とりあえずテレビをつける。

 癖、みたいなものかな。一人が寂しい訳じゃないけど、静か過ぎるのはちょっとね。


 ずっと昔から、自分自身、どこか中途半端な感じがしてた。

 他の女の子の様に可愛い素振りも出来ない。流行の話題にも興味が無い。

 恋愛トークも得意じゃなかった。

 そして、男が嫌いだった。


 男性不信って訳じゃない。

 女として見られるのが嫌い、って言ったほうがいいんだろうか。

『女だから』『女のくせに』『女らしくない』

 そんな言葉が死ぬほど嫌い。耳が痛くなるほど聞いた。

 どうして女らしくなきゃいけないんだろう。

 女らしさって一体誰が決めるんだろう。

 そんな事をずっと思ってきた。

 

 一年くらい前かな。ルミエスタが発表されたのは。

『退屈な日常を飛び出して』

 そんな広告を目にした時、すごく気になったのを覚えている。

 ゲームにあまり興味は無かったけど、そのキャッチフレーズがアタシの心を掴んだ。

 飛び出せるものなら飛び出したい。

 だけどプレイするためのCABを買う余裕なんて何処にもなかった。

 アタシには、とてもじゃないけど手の届く金額じゃない。

 

 諦めかけた時、正式サービス開始前のベータテスト選考の記事を見つける。

 『ベータテスト当選者にはCAB無償提供』

 アタシはすぐに応募した。

 まぁタダだし、落ちたら落ちたでしょうがない。そんな軽い気持ちで。

 当選して家にCABが届いたとき、運命みたいなものを感じたよ。

 アバターを選んでいくうちに、世界が変わっていくような気がした。

 なりたかった自分に、やっとなれたんだ。


 夕食、いや晩酌と言ったほうがいいのかな。

 ハタチの女性にしてはあまり響きのいい言葉じゃないね。

 食べ終わった容器を捨て、CABに向かう途中。

 ふと、わかばんの事が気になってメールを送る。

 ゲームに居なかったのも気になるし。何て言うか、わかばんはほっとけない。


【りょうこさん、ごめんなさい。私もうルミエスタには行けません】

 すぐに来た返事。文面が理解出来ない。

 どう言う事? 何かあったんだろうか。

 何となく、嫌な予感がして電話をかける。

 メールより直接話したほうが早い。ちまちまメールを打つのは正直得意じゃないんだ。


「あ、もしもし。りょうこさん?」

 電話の向こう、いつものトーン。

 わかばんの身体に何か起こったって訳じゃなさそう。

「メール見たんだけど、どうしたの? 何かあったの?」

「実は、昨日……」


 人斬りIZOにやられた。わかばんはそう言った。

 アタシと別れてから、ルミエスタをうろうろしててやられたんだって。

 早く言ってくれれば梶田さんに探してもらえたのに、って言ったら。

「りょうこさんに怒られるかなって思って……」

 ログアウトするって言って、うろついてたのが気になってたみたい。

 子供じゃないんだから、って思ったけどそこまで大人でもないね。

「まぁしょうがないよ。明日梶田さんに連絡してみるからさ、今日はゆっくり休みなよ」

 明日になれば入れるはず。そう言って電話を終えた。

 何だろうな、可愛いんだよね。

 女の子っぽいって言うのかな。ちょっと羨ましいよ。



――始まりの丘――



「え!? 若葉ちゃんやられちゃったの!? マジかよ〜」

「ああ、昨晩な。他のプレイヤーのクエ手伝った後にやられたって言う話ぜよ」

「マジ許せないぜ人斬りIZO。今度会ったら絶対捕まえてやる。でもムーンストーンも効かないんじゃちょっと厄介だな」

「ムーンストーンが効かない? それはどういう事ぜよ?」

「ん? だって若葉ちゃんやられたんだろ? ムーンストーン持っててもやられちゃうんだったら結構辛いなと思ってよ」

 ムーンストーンが発動しない? イゾウと一緒の時、ムーンストーン所持者はログアウトの時[使用しない]を選んでもらっていた。

 BANとは言っても、外部からの強制ログアウトじゃない。

 プレイヤーキルのシステムを利用した強制ログアウトだ。回復アイテムも、当然ムーンストーンも使用できるはず。

「わしちょっとリアルに戻るぜよ。またすぐ戻ってくるきに」

「おう、了解だー。このまま待ってるわ」



――自宅――



「もしもし、わかばん? ちょっと聞きたいんだけど、IZOにやられる前に戦闘不能になったりした?」

「え、ううん。敵と戦ったりはしてないからなってませんよ」

 じゃあやっぱりムーンストーンは持ったままだ。

「ねぇ、ちょっとルミエスタにログインしてみてもらえるかな?」

 もしアタシの勘違いじゃなければきっと――。

  

 

 

  

 


 



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