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柿崎若葉のリアル

 ――バリ――



「『IZO』か、おかしいのお。わしも偽者だと思うぜよ」

 誰だってそう思う。イゾウさんがそんな事するわけないもん。

「ですよね。絶対そうです! イゾウさんはヒーローなんです!」

 私のヒーロー。人を助ける、人斬りイゾウさん。

「ヒーローか、そうじゃな。じゃあ若葉はヒロインぜよ。たまにはヒーローを助けてもバチは当たらんぜよ」

「ヒロインですか! いいですねー、イケメン二人に囲まれて。なりますよヒロイン!」


 柿崎若葉、今年高校を卒表した十八歳。君の二つ先輩。

 職業、家事手伝い。母親と二人暮らし。

 大学には何となく行きたくなかった。

 大学に行かないって言ったら怒られるかなって思ったけど、そんな事はなかった。

「そっか、頑張んなさい」

 って言われただけ。後は何も聞かれなかった。

 優しいお母さんなんだ。昔から。


 中学に入る頃だったかな、家族で旅行に出かけたの。

 その日はすごい天気のいい日でね。久しぶりに休みが合ったからって、家族で出かけたんだ。

 両親は共働きで忙しいから、あんまり無かったんだ。家族三人でお出かけするの。

 色んなとこ行って、美味しい物食べて、楽しい時間をいっぱい過ごしたんだ。

 いつもこんな休日ならいいのになって、思ってた。

 あの事故までは。


 高速道路。居眠り運転のトラックがさらった、お父さんと私の自由。

 一瞬で覚えてないんだ。気付いた頃には無くなってた。

 何なんだろうね、良く分かんなくなったの。

 あの日から、全部が変わっちゃったんだ。


 知ってる? 昨日とは違う世界。変わった景色にびっくりするんだ。

 私の時間はあの日から止まったままなんだけど、周りはそうじゃないのね。

 自分を置いて、世界が変わっちゃう様な感覚。

 おいてけぼりになるんじゃないかって、心配になる。

 自分で出来た事が出来なくなる。皆が出来る事が出来なくなる。

 それはすごく寂しかった。


「しかしクレイジーがどうなったのか気になるぜよ。最後の通話からログインした形跡はないんだろう?」

「そうなんですよ、ちょっと心配です。リアルの連絡先聞いておけば良かったですね」

 クレイジーさんは、あの通話を最後にログインして来ません。

「もしかしてBANされたのかもしれんな。明日ワージャパンに行って調べてもらうせよ」

「お願いします。何か分かるといいんだけど」

 君の叔父さんとはあれからも連絡をとってるんだ。

 皆で君の事を探してるんだよ。



――カブファスト――


 

「手がかりはなし、か。あれから人斬りイゾウは出てないみたいぜよ」

 リョウマさんと一緒にルミエスタ中を探したけど、新しい目撃情報はありませんでした。

「みたいですね。リョウマさん、そろそろお休みになったほういいんじゃないかな? もう今日は遅いし」

 リアルではもう日付が変わった、夜の十二時。

 ゲームの中では時間が過ぎるのは遅い。でも一日はあっと言う間に終わっちゃう。

「おお、もうそんな時間か。まっこと時間が過ぎるのは早いぜよ。本当はもう少し探したいと思っちょるんだが」

「私も今日はそろそろログアウトしようと思います。また明日頑張りましょう」

「そうか。ではログアウトするぜよ。ほいたら、おやすみ」

「はい。おやすみなさい」

 

 リョウマさんには言ったものの、実はまだ寝ません。

 もう少しだけルミエスタを歩きます。

 ログアウトするって嘘付いちゃったけど、心配かけたくないんだよね。

 私がそう言わないと、リョウマさんはいつまでも私に付き合ってくれるの。

 頼りになる兄貴、って感じするよねリョウマさん。

 でもね、本当は凄い綺麗な女の人なんだ。


 初めて会ったのはワージャパンの前。

 君にお礼を言おうと思って、あの日ワージャパンに行ったんだ。

 今考えるとどうして行ったんだろう? って思う。

 だっておかしいよね、約束もしてないのにさ。知らない人だし。

 何となく会いたかったんだ。会って、ありがとう言いたかった。

 でも結局私一人じゃ会えなかったんだ。

 だって君の顔も名前も知らなかったんだから。


 どうしようって思ってた時に、声を掛けてくれたのがりょうこさんだったの。

 もしかして若葉さん? って言われたときはビックリした。

 運命の出会い、って感じがしたよ。まさか私の事を知ってるなんて思わなかったし。

 イゾウから聞いてたって、りょうこさんは言った。

 どんな風に私の事話したんだろう、ちょっと気になるな。


 りょうこさんは優しくて、綺麗な大人の女性って感じなんだよ。

 歳は私より二つ上の二十歳。君からなら四つ上かな。

 君は知らないんだよね、りょうこさんの事。

 私も最初は驚いたから、多分びっくりするんだろうな。

 だって全然違うもん。男キャラだし、変な言葉使うし。

 まさかリョウマさんが女だなんて、絶対気付かないよ。

 でもね、りょうこさんもリョウマさんと同じ。とっても頼りになるんだ。



――クリスタルの海岸――



 ぼーっと歩いてたら、いつの間にかこんな所に居ました。

 クリスタルの海岸。ここは景色がとても素敵です。

 砂浜が宝石の様にキラキラ光り、聞こえてくる波の音がとても気持ちいい。

 海、ずっと行ってないな。


「すいませーん」

 突然他のプレイヤーさんに話しかけられました。男女の二人組。

「どうかしたんですか?」

「クエストの敵が倒せなくて、迷惑じゃなければお手伝いお願いできますか?」

 これはびっくりです。想定外の事態でした。

「役に立てるかわからないけど、いいですよ! 頑張りましょう」

 即答しました。

 君ならそうすると思うから。私も出来ることはするんだ。


「いやー。ありがとうございました。これでクエスト進めますよ」

「いえいえ。こちらこそお役に立てて良かったです」

 何とかなりました。歌を歌ってただけなのは内緒です。

「本当に助かりました。また会ったらよろしくお願いします」

「分かりました。頑張ってくださいねー」

 今日はこれくらいで休もう。また明日頑張ろう。

 システムを操作し、そう思っていた時でした。


「あれ、どうかしたんですか?」

 さっきのプレイヤーさんの声に振り返った、私が見たもの。

『人斬りIZO』の姿だった。

「に、逃げ――」

 あの日と同じ、光に溢れていく。

 人を助ける光、優しい光。

 二つの光が、完全に消えた時思ったんだ。

 思い出を穢されたって。


 剣を持って走ったと思ったら終わり、ログアウト。

 あっけないです。もっと活躍出来るかと思ったけど、そんな事ありませんでした。

 私はヒーローにはなれないんだ。

 ああ、もうルミエスタには入れない。

 イゾウさんには会えないんだ。残念だなぁ。

 明日りょうこさんに言わないと。怒られるかな、遅くまで起きてて。

 もう寝ます。もやもやした時は寝るのが一番です。

 ぐっすり休んで、明日、君に会いに行くよ。

  

 


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