柿崎若葉のリアル
――東京都立目黒川総合病院――
病室の花瓶にお花を挿して、君の顔を見る。
まだあどけなさの残る、ゲームの中とは全然違う君の顔。
「お、わかばん居たんだ。おはよう」
入り口のドアが開くと、手にお花を持ったりょうこさん。
「おはようございます。ええ、ちょっと様子見に。お花、貸してください一緒に活けましょう」
「うん。いつもありがとう。わかばんはこれからルミエスタに行くの?」
「ええ、そのつもりでした」
「そっか。アタシも仕事終わったらすぐ行くよ。でも大丈夫? 昨日も遅くまで居たみたいだし、寝てないんじゃない? 噂の事は気になるけど、あんまり無理しちゃダメだよ」
「ああ、でも大丈夫です。こう見えても意外と強いんですよ」
そう、私は強いんだよ。強くなるって言ったほうがいいのかな。
ルミエスタに行くと、私は強くなるんだ。
君が帰ってきてからもう一週間。
ルミエスタが復旧してCABが開いた時、君はそこに居た。
どんな夢を見てるのかな。怖くない夢だったらいいな。
ねぇ、私結構強くなったんだよ。洋服だって増えたんだよ。
でも、あの耳飾だけは外せないんだ。
遠くからでも分かるように。君に「見つけた」って言ってもらえるように。
君の声は、どんな声をしてるのかな――。
――始まりの丘――
維新はここで終えたんだって、リョウマに聞いたよ。
私と初めて出会った場所。君が助けてくれた場所。
【おはよう若葉ちゃん】
【あ、おはようございます。クレイジーさん】
【今何処にいるの?】
【始まりの丘に居ますよ】
【お、了解。じゃあそっち行くよ】
【分かりました。待ってますね】
転送ゲートの前に移動してクレイジーさんを待つ。
待つって言うけど、待たないんだ。すぐだ。
「お待たせ」
「待ってませんよ」
リアルでも欲しいなぁ、転送ゲート。
「あの噂、本当なのかな? 人斬りのGMの話」
「どうなんでしょうか。私も気になってるんです」
妖刀ムラマサ、RPK。リアルプレイヤーキラーと呼ばれる武器を持ったGMが、プレイヤー達に襲い掛かる。
そんな噂がここ何日か続いていた。彼の武器だ。
「まぁ色々探ってみようぜ。イゾウの手がかりあるかも知れないしよ」
「そうですね。探しましょう!」
覚えてるかな? クレイジーさんの事。
忘れられる訳ないよね。あの時が一番の維新だったんだから。
ふふ、リョウマさんの口癖が移っちゃった。
維新維新っていつも言うんだよ。相当お気に入りみたい。
事情を話したら。クレイジーさんは一緒に探してくれてるの。
君の半分。イゾウさんを。
「いやー。噂なんだけどさー。また今日も一人やられたみたいだよ? そいつもリアルで連絡付かないってさ」
「マジか、何かペースが増えてきてるな。本当にそんな事が出来るのか?」
「GMだったら出来る、出来なくも無いって事だけど。やろうとすれば十分にな」
プレイヤーキラーと呼ばれる人達は前からいるの。酷い人達。
それでもやられた方は生き返ってたんだ。
「妖刀ムラマサにGM。あんた達の探してる奴じゃないか」
人斬りイゾウに斬られたら、二度と生き返らない。
「でも英雄から亡霊になっちまったんじゃ面白みがねぇ。こりゃ何か裏がある」
そう、イゾウさんはね、この世界の英雄だったの。
『人斬りイゾウさん。ありがとうございました』
ルミエスタの公式掲示板にこんな書き込みが載った。
すごい閲覧数でね。掲示板が皆の声ですぐ埋まっちゃったの。
みんなイゾウさんありがとうって言ってた。英雄だって。
帰ってきたら、掲示板見せて上げたい。
びっくりするだろうな。人斬りイゾウが英雄だって知ったら。
「とりあえず会えそうな場所を探してみるか」
「そうですね。とりあえず昨日の場所から探しましょう」
私達は毎日イゾウさんの事を探してる。
何でもいいから手がかりが欲しかった。
もう一度イゾウさんに会いたい。会ってお礼を言うんだ。
皆、イゾウさんに会いたいんだよ。
――ロード・アブネア――
「やっぱり歌スキルはいいな。あの不味いスタピ飲まなくてすむ」
「まだまだひよっこですけどね。もっとレベル上げでがんばりますよー」
あ、そうそう。私転職したんだよ。イゾウさんが美味しくなさそうな顔でスタピ飲んでいたのを見てたから、吟遊詩人になったんだ。
帰ってきたら、スタミナ回復させてあげるんだ。
「そういえばこの辺で出たんですよね。人斬りイゾウ」
「っていう話だな。人気の無い場所にしか出てないって言うのはここも同じか」
ここは、アブネアからバリに向かう途中の脇道。
元々はコッチが本線だったらしい。アップデートで新しい道が出来て、側道と化したこの道を皆は『旧道』って呼ぶ。
「お、『マー』がいるぞ! これは珍しい、久しぶりに会ったよ」
クレイジーさんが何を発見しました。彼の足元には小さい猫? のようなモンスターがいます。
「マーってその子の事ですか?」
猫っぽいけど猫じゃない、猫とは違う何か。でも限りなく猫に近い生き物。
『まぁ』って鳴いてる。すごい可愛い。
「うんうん。ほら、これあげてみな」
いちご? マーにいちごをあげればいいのかな?
私がしゃがむと、マーは掌に乗せたいちごをぱくっと咥え『まぁ』と鳴いた。
「こいつはいちごをあげるとレアアイテムを落とすんだよ。まぁ当たり外れはあるけどな」
[マーのお礼を手に入れました]
「あ、何かもらいましたね。えっと、ムーンストーン、って書いてますね」
マーのお礼を開けると、中から小さな石が出てきた。月の形をした小石。
「おお、ムーンストーンは悪くないぜ。持ってれば、死んでも石が身代わりに砕けるんだよ。一回限りだけど、それでも死なないってのはいいよな。デスペナ怖いからなー。俺なんて折角手に入れたレア消えちゃったんだぜこの前。いやーあれは泣けたよ」
便利なアイテムが貰えました。
無くなって困るようなレアアイテムはありませんが、デスペナは怖いです。
レアアイテムはまだ持ってない。
でもこの耳飾が無くなっちゃったら、イゾウさんに見つけてもらえないから。
[アラーム 三時間経過。]
あ、アラームが鳴りました。
ルミエスタでは、時間の感覚が現実と違います。用事があるのに、楽しすぎで時間を忘れちゃう事もしばしばです。そんな時の為のアラーム機能。
「クレイジーさん。私一度落ちますね。ご飯食べたらまた来ると思います」
「分かった。じゃあ後でまた声かけるよ」
ルミエスタを出て、私はリアルに戻る。
柿崎若葉に戻るんだ。




