無題
あるところに、青年と少年がいました。彼らは共に暮らしていました。青年は畑を耕しながら、少年は糸を紡ぎながら。
ある時、青年は少年に聞きました。
「この世に、神はいると思うか」と。
少年は答えました。
「うん、いると思う」と。
「何故そう思うんだ」青年は問い掛けました。
「だって、今こうして一緒にいられてるから」少年は屈託なく答えました。
その年、嵐が訪れました。小さなそれはあっても、ここまで大きなものは今までありませんでした。三日三晩雨が激しく打ち付け、風が吹き荒れました。それらが過ぎ去った後には、穀物の保存用の簡素な倉庫は流され、畑にはわずかばかりの苗しか残っていませんでした。
家にも多少の蓄えはありましたが、このままでは冬を越せそうにありませんでした。
青年はきっと大丈夫だと少年に告げ、その言葉を現実にするため、少ない苗に普段より細やかな手入れを施しました。
しかし、取れた量は例年より少々増えたぐらいで、あの苗の数では必要な量に達しませんでした。
青年は決断をする必要がありました。どちらかが死ぬか、さもなくば何らかの方法で飢えを凌ぐか。彼は、このままではどちらも生き残れないことがわかっていました。彼は知っていました。畑を耕す苦労を。苗を見る方法を。空を読む心得を。だからこそ、彼は気付いていました。少年が行うのは無理であろう、と。そして、自分が今から教えるには、時間が足りなさすぎる、と。
ある夜、青年は決断しました。自分が生き残ることを。彼はその日は寝付けませんでした。
太陽が登ってから、寝ている少年を青年は椅子に縛り付けました。自分のしていることに反吐が出そうになりながらも、けれど彼はまだ殺せませんでした。少年に聞きたいことがあったのです。
しばらくして、少年が目を覚ましました。少年はまず自分の状況に驚き、その状況下で青年が目の前にいることを不思議に思いました。
「俺は今からお前を殺す」
青年は無感情に言いました。少年はただただ呆然とするだけでした。
「だがその前に一つ聞く」
青年は少年に問いました。
「まだ、神はいると思うか」と。
少年は青年に答えました。
「いると思う。だって、お兄ちゃんがこんなことするはずない。きっと、神様がさせてるんだ」と。
読んで頂きありがとうございました。
これからも見て下さると嬉しくて卒倒します。