キレるったらないわこれ
初めの頃のテンポがつかめず前回とは違った始まり方に…
今、男は赤い空を仰いで倒れている。
その空には不気味に黒い雲が漂っている。
背中に硬い感触がある、これは大地。
意識がはっきりとしても景色が真っ暗なのは瞼を閉じているからだ。
そしてその瞼は開かないのだろう。
ずっとそのままでいようと思ったら得体の知れない落下感を感じ「ビクン!」と足が跳ねる。
今のを人に見られたら結構恥ずかしいなという気持ちを置いておいて男は現状を把握しようとしていた。
一体どこだ、ここは?
暑い。
呼吸も苦しい、湿気さはないがまるでサウナだ。
正面に人の気配を感じる。
一人…だけか?
目を開こうとしても開かない。
自分はどういう経緯でこうなっているのか理解できなかった。
それどころか自らの存在自体がまったく分からなかった。
不安定ながらも立とうとする。
すると、腰辺りにくすぐったい感触が。
「グアッ!?」
思わず変な悲鳴をあげて前に倒れこむ。
そこを前にいるであろう人に支えられる。
「お兄さん大丈夫?」
「あ、ああ」
男の子だ。
割としっかりとした体格。
声にはまだ声変わりの途中といった体が感じられ、幼さが残っているから大体10歳前後だろう。
その子の頭が大体自分の腋ほどにある、ということは自分の身長は180くらいなのだろう。
この子でも支えられるというのなら体重はおよそ50~60程度か。
軽いな。
「お兄さん髪の毛長いね」
「え、そうなのか?」
そうか、さっきのくすぐったい感触は髪の毛だったか。
ん、まてよ。
何だこの清々しさは。
何だこの開放感は。
まさか、これは。
「おい少年、一つ聞いてもいいか?」
「うん、いいよ」
「お兄さんは今どんな格好をしている?」
「うーん。裸」
「ダァァァ!」
急いで少年から離れる。
これはいけない。
「少年!何か着るものはないか、あるいは隠すもの!」
「あるけど…お兄さん変わってるね」
「え?」
「耳と尻尾がないもん」
自分の耳のある場所に手を当てる。
うん、ある。
尻尾は、ない。
「よくは分からんがと、とりあえず渡してくれ。お兄さんには何にも見えないんだ!」
「え。それってカッコつけてたわけじゃないの!?」
「いいから…ブッ」
バサッと着るものが顔に当たる。
手に取って上着やら下着やら他確かめる。
む、この下着ってか足装備。
股の間が無い。つまりスカートの形状というわけだ。
この子のすんでいる所はこういう民族的衣装なのか?
とりあえずスカートを含め、装着することは完了した。
股のものはスースーするが。
「ありがとう少年。おかげで助かったよ」
「僕はベネッタって言うんだ、お兄さん。お兄さんは?」
「私か? 私は…」
あれ、自分って誰だろ。
気づいたらここに居たわけだし、目が見えないし。
全裸だったし…。
なぜか少年、もといベネッタは服を持ってたし。
「あれ。ベネッタ、君は何で服を持ってたんだ?」
「お兄さん、30分も前からここでぶっ倒れてたんだよ」
「なんだって…」
「それでお姉ちゃんがかわいそうだからせめて何か隠してきなさいって」
「つまりベネッタの姉の情けで俺は今全裸を免れているわけか。感謝する」
「なんか照れるなぁ。それじゃあこんなところで話もなんだからさ、家に来てよ。お兄ちゃんのことを色々聞いてみたい」
「いや、私は記憶喪失なんだ。むしろこちらから、君たちの事を聞きたい」
「記憶喪失? 変な種族だね」
「種族?」
もしそんなものが存在したら「記憶喪失族、記憶喪失科、記憶喪失目、全裸ロン毛記憶喪失者」とでも図鑑に載るのだろうか。
「それじゃ、僕が手を引いてあげるよ。足元気をつけてね」
「あ、ああ」
結構いい子じゃないか。
この子の姉といい、かなり親切な家族なのだろうな。
すこしせこいがしばらく彼らの家で寝泊りなどはさせてもらえないだろうか。
燃える耳と尻尾を持った少年に先導されながらロン毛記憶喪失者の男は見えない道を駆けてゆく。
―――――――――――――――
刹那。顔面左頬に打撲の衝撃が走る。
左頬、そしてこのダメージの深さはおそらく右腕拳。
それは「キャー」という悲鳴と同時に放たれたものだった。
「おっ、お兄さーん!」
ベネッタの声が遠くから聞こえる。
残念だがベネッタ。お兄さんは既にブラックな画面からホワイトアウトしそうだ。
しかしながらぶっ飛ばされながらもこんなことを考えられるほどの余裕はお兄さんにはあるのだよ。
ゴツッ。
後頭部を壁に直撃。
効果は抜群だ。
そして俺の意識は改めてホワイトアウトした。
―――――――――――――――
「う、わ。いって…」
「お兄さん大丈夫?」
「痛いだけだ、死んでない」
「お兄さんの人生のハードルって高いんだね…」
「さっきは本当にすみませんでした」
最後に女の人の声が聞こえた。
確か、何が起きたっけ。
「弟の不祥事でこのような事になってしまい…」
「え、お姉ちゃん僕のせいにするの!?」
あ、そうだ。
確かベネッタが俺に着せた服が実は姉の服だったというオチだ。
そういう顛末だった。
姉弟はまだいがみ合っている。
「あの、二人とも落ち着いてください」
「あ、すいません。ついカっとなってしまって…」
「大丈夫ですよ」
どうやらこの家族、簡単にキレやすいようだ。
言葉は選ばないとな。
姉の方からも名前を聞いておこう。
「お姉さんの方の名前は?」
「あんたにお姉さんと呼ばれる筋合いはない!」
キック。
「理不尽ッ!」ビターン!
「お姉ちゃん、今の名前聞いただけだって!」
「えっ、あ…ごめんなさい大丈夫ですか」
「え、ええ」
大丈夫、死んでない。痛いだけだ、死んでない。たとえるなら死ぬ程痛いだけだ。あくまで程だ。
死なない、死なない。だけど…
「めっちゃ痛い…」
「お兄さん、全部声に出てるよ…」
「うお、しまった」
「本当にすいませんでした。私はリリエッタと申します」
「お姉ちゃん、頭下げても見えないって」
頭を下げたのか、大体おぼろげだけど気配で分かるが…。
あ、上げた。いいのか、おい。
「ここは私たちファイアビーストたちの集落なんです。
昔はそれなりに大きな村だったのですが、今では旅に出る人や村を出て行く人ばかりで人口もどんどん減っているのです。
特に見て回るようなところもありませんが。
あなたは、どこから来たのかは分かりませんが、暁の方の集落からではないですよね?
だとしたら一般的な下界だと思いますけど。
一番安全な出口は、玄関から出て真っ直ぐ左へ進めば大丈夫ですから。
そこからだと気温も平地と同じくらいですし、帰るのならそこからです。
それと、くれぐれもこの集落のことは一般の人々には教えないで下さいね」
突然、しかもいっぺんに言われた。
なんだっけ…観光案内と謎の伏線?に出口への行き先と意味深発言のオンパレード。
フラグのフルコースじゃぁねぇか。
「それじゃあ私は村を出ます。それと、杖と…できるなら、護身用の刃物か何かもいただけたら…」
あえて速攻脱出ルートを選ばせて貰おう。
「あ、はい。杖なら木の棒ぐらいなら用意できます。ベネッタ」
「はーい」
「ありがとうございます」
タタタ、とベネッタがどこかへ走っていく音が聞こえた。
「それと、護身用の物でしたら、あの子が行きます」
…え。
「あの子って…ベネッタですか」
「はい」
ハイじゃねーだろこの女!
何本人のいないところで用心棒の以来受けさせてんだよ。
「そんな顔をしないで下さい。「可愛い子には旅をさせろ」ですよ」
昔の人は都合のいい言葉を生みすぎなんだっ!
なんだよそれ、ブスなら家にいてもいいのかよどっちにしても出てけよ!
パタパタとさっきとは若干違った足音が近寄ってくる音がする。
ベネッタが棒を持ってきたのか。
「丁度いいくらいの棒あったよ…お兄さん、なんか失礼なこと考えてた?」
「いや、なんでもないぞ」
…どうやら自分は考えが表情に表れやすい性格のようだ。
「まあいいや。はい、棒」
「ああ、すまないな」
声のするほうへと手を伸ばす。
ムニ。
なんだ今の手触り。
これがファイアビースト近辺の棒だというのか。
なんだか触れば触るほど……
「こ、これは本当に棒なのかベネッタ?」
「お兄ちゃん。ご愁傷様だよ」
ベネッタの声は右手を差し伸べたほうの若干左から聞こえる。
近くに居た姉と気配が重なっていたようだ。
今度からは区別できるように「心眼」でも身に着けたいな。
いや、既に自分のは常人のそれを超えているのではないだろうか。
ちょっとした優越感に浸っていると、ふと我に返った。
女性の胸は男性の胸よりも脂肪が多いとは言ったものだ。
何が脂肪だ。夢の塊ではないか!
「この手触り、なるほど。初めて触ったがこれが胸か!」
「死ね!」
首の左側に蹴りの深い手ごたえ(ダメージ)。
いやしかし。
そうか、これが胸か。
吹き飛ばされ、気絶して尚、男の表情は柔らかく、右手は掴んでいた当初そのままであった。
指が凍える季節~
そんなときは~
コタツ回路ストーブで~
ほっかほかの~
火事~
燃料漏れとか乾燥とか低温火傷とかには気をつけろよ!
コタツで寝るなよ!
あとコタツででかい屁とかやっちゃうとつい一人でも笑ってしまう今日この頃
E『嘘☆次回予告!』ヨ
ゴルビオ火山の河口付近に生息する
時空専獣サラマンダラマーを捕獲するために岩陰に潜む。
しかしそこで待ち伏せをしていたのはカマキリ一家の頭領ニセサツだった!
そして挟み撃ちをかけるように現金が現れる。
最後はてんつゆ!?
次回!「アースジェットって呼ぶよりもアース弾道弾のほうが強そうじゃね?」俺にしか見えない世界もある!