チョージャの最期
これは、前書きである。
…そう、これは前書きなのである(修正:1
現状把握:「宿主の妖精に「明日にはどっかいけ」と言われしぶしぶ担架で一夜を過ごそうとし、気づいたら祭壇に奉られていて「自分の睡眠時の動じなさったらないわ」という感想を抱いたのだった」
満月で照らされる祭壇下の妖精や猛獣たち。
いまいち状況を掴みきれない俺。
そして手足を縛られている俺。
しばらく辺りを見回していると包むもので身を隠した一体の妖精が近寄ってきた。
「ご機嫌いかが、裸の勇者さま?」
失敬な、今はちゃんと服を着ている。
…鎧だけど。
てかこいつだれだ?
「何が起きたかなんて分からないわよね、あなた」
「……」
喋らないのは「この縄解けないかな」とか考えてるから。
「何も喋らないのね、いいわ。あなたはそこで見てなさい…じゃあね」
「おい、ちょっと待て」
「な~に? 今なら一回だけ、状況が悪くならなければ何でも言うことを聞いてあげるわ」
月夜に照らされて妖艶な表情が見えてくる。
まぁ簡単に分かるよね。パミだ。
一つだけ願いをかなえてくれるとは、優しいのか優しくないのか。
どちらにしても話は簡単だ。俺は一つ聞きたいことを尋ねる。
「この縄解いてくれる?」
「あなた、本当に変わってるのね。頭大丈夫?」
「今のところ押し車のハムスターは休んでいないよ」
「ハァ……。まぁ、いいわ」
そう言うと近寄ることなくパッと縄が解けた。
俺もそれ覚えたい。
「それじゃあね、頭の悪い勇者さん。この猛獣たちの餌食にでもなってなさい」
「ういさー」
捕まえてやろうにも届かない、なので適当に返事をしておいた。
―――――――――――――――
真夜中、まだ街は光に包まれている。
ふと人々のざわめきが聞こえてきた。
「俺のレイミーが消えたんだ。知らないか?」
「私のハナ知らない? 何って…妖精よ」
「おい、リプシー!どこに居るんだ!」
それらの声で目が覚める。
そして自分の借りている宿の宿主の妖精のところへ行く。
「ねえパミ、そこに居るの?」
積まれた書物に空いたビン。
妖精の姿はそこにはない。
―――――――――――――――
「さて、足元のワンちゃんたちをどうしたものか」
ここに猛獣が集まっている理由は
辺りの妖精たちと深く関わっているんだろうな。
俺の憶測だと、向こうにあるコロニーが原因だと思う。
こんな時間になってもあの光量、ちょっと森には似つかわしくない。
開拓までに反発があったって言ってたし、きっとそれらの名残からか。
さらに、若干自分勝手な憶測を挙げるのなら宿で再開したときにパミのやつ
「誰にも言わないで」
って、あれは街の離れたところまで来ていたのを人間に知られたくなかったからじゃないのかな?
離れた理由は猛獣さんの芸の最終段階までの確認とか
あるいは猛獣さんを裁断付近まで誘導してたとか
だとしたら初めて会ったとき。
固まったのは汚濁も込みで俺に見つかったことか。
森の精は森を大事にするからねぇ。
何にせよ人間は要らないやつって所か。
あのワンちゃんたちを使って街を襲うわけね。
いくらあの女性みたいな人たちが居てもこんないっぱいのワンちゃんじゃあねぇ。
ごみ掃除ご苦労さん。
あ、けどそれじゃあの彼女死んじゃうじゃんか。
まだ名前も聞いてないのに。
それだけはさせない。
…そんで、俺の縄を解いた理由が「状況が悪化しないため」ってか?
ふふん、侮るなよ。
「一途なアホは努力家より強し!」
まずは足元のワン公を追っ払う。
俺は懐にしまっていた「チョージャ」を取り出す。
「取ってこーい!」
でもどっちかって言えば来るな!
思いのほか飛んで行った「チョージャ」に食いつくワン公。
10匹以上の猛獣により粉砕される「チョージャ」
「チョージャ、お前のことは忘れない!」
妖精たちは大半が猛獣をなだめるのに必死だ。
背中にある盾に手を伸ばし正面に構える。
進路は街の方。生い茂る木々の中を潜り抜けながら俺は猛る。
「さあ、街に行って彼女の名前を聞きに往こう!」
突っ走る理由はそれでいい。
―――――――――――――――
「キャァァァァ!!」
悲鳴が上がる街。
妖精たちの結界のおかげで進入できなかったはずの猛獣が、一斉に街へと侵入してくる。
「なに、何が起きてるの!?」
自分も手持ちの毒弓で応戦するが、相手の数が多い。
このままではいずれ押し負けるだろう。
民家から火の手が上がる。
防戦を張るもそれらは孤立していて、一つ一つ崩れていった。
もはやこの「フォレストコロニー」は地獄絵図と化していた。
「このままじゃみんな死んでしまう!?」
気づくと辺りに人の気配はなかった。
あるのは獣の息遣いと建物の燃える音、崩れる音。
弓矢は残り2,3本。死にたくない。
後ずさりしたのを見計らったように一斉に5匹ほど突っ込んでくる。
「!!」
引き裂かれるはずであった身は、全て一人の男の盾にねじ伏せられていた。
「俺の命の恩人にてぇ出すんじゃねー!」
彼は持っている枝を左右に振りかざし、投げた。
「ほうーら取ってこい!」
投げられた枝は燃え盛る民家へと消え、獣もその中へと姿を消した。
「死にはしないが何とかなる。あんたもほら、これ持って」
そう言って枝を差し出した。
「アブねーアブねー」
あと少しで彼女が襲われる所だった。
状況は最悪だったけど魅せ方は最高だろ、これ。
「チョージャ」の死は、囮という形で報われた。
忠実に育てられたんだろうなこのワンコたち。
すごく素直に棒を追っかけらぁ。
道中、「お手」やら「お座り」やら試したけどまるで効果がねぇ。
「おチンチン」なんて聞いた瞬間にもうあれだ。
回れ右してその辺の女性追っかけまわすもんだから気絶するまでどついてやった。
愛犬家には悪いけど、何しでかすか想像ついちゃうもんだからね。
くその始末も芸の指導もきっちり飼い主が世話しろってハナシ。
にしても逃げるのはいいがイマイチ倒す手段が俺にはない。
盾だけだし。
向かってパンチなんてしたら
「うまそーな右手だいただきます」ペロンチョ
だなんて…。おーいやだいやだ。
「あ、枝がなくなっちまった…。そっちはまだある?」
「さっきので最後。私の弓も投げて使っちゃったし、どうするの?」
「大丈夫、俺にまかせなって!」
大ピィーンチ!
ここで弱音を見せたら「何こいつダサ」
とか思われそうだからカッコつけちゃったけど、もう手の施しようがないぞ!?
もうだめだぁ、オシマイだぁ。逃げるんだぁ・・・。!
「なんでこんなところに都合よく行き止まりが!」
「都合ッ…何言ってるの!?」
つい使っちゃったけどコレで都合がいいのはワンちゃん側なんだよねー。
「追い詰めたわ」
あ、あと妖精さんもねー。
あぁん?妖精?
「パミ! あなた、どうしてそんなところに!?」
「あーちょっと悪いけどお姉さん、この子にはその手の話は通用しないから」
「ちょっと、どういうこと!?」
パミを先頭に後ろで身構えているワンちゃんたち。
バックの炎の演出により表情の影がより濃くなっている。
こえー。
「まさかあなたがそんな危険人物だとは思わなかったわ、よくもやってくれるわね」
「貢献したのはワンちゃんの芸の仕込み方を教えただけだけどね」
実は逃げながら枝のことを出会う人、出会う人に教えてました。
「十分よ。そう、あなたのその性格が私たちには脅威に写らなかったわけね」
「次回からはフランクなヤツに止めを、猛獣にはパスワードをつけることをお勧めするよ」
「ぱすわーど?」
あら、パスワード知らない?ま、いいや。
「さっきから何を言ってるの…?」
一人だけ状況を把握できてない彼女。
アレなんですよ、妖精さんによるクーデターですよ。
「ふっふふ、いいわ、あなたにも教えてあげる」
こいつ口が軽いのかお調子者なのか、喋りすぎだろ。
これまでの恨み辛みを話し始めている。
でも俺はただの巻き込まれた身なので聞き流す。
それよか、逃げる手段でも考えないとな。
街のとある場所。
「しっしょう、しっしょう♪」
謎の少女が、まるで炎が見えないかのように所構わずに走っている。
「師匠どこだー?」
「ガルルルァァ!」
「ほ!」
手を前にかざし、たった一声で突撃してきた猛獣を焼き払う。
「どこだしっしょー」
腑抜けた声は街の騒音にかき消されていった…。
~☆嘘次回予告☆~
遂に明かされる真に襲撃の事実!!
パミは俺の生みの親だった!?
どうやって生んだとか言わせんなよ恥ずかしい
次回!「近頃ニュースを見ていると心が和む」生きるためにゃやるしかねぇ!