第Ⅱ話 異界人襲撃計画
今回は短めです。
光暦3650年7月19日
未明
ルーディアス王国中部・リアス地方
商業都市ザーテン
side リア・ナイデルベルク
失敗した。
聖堂騎士が何故あれほど早く到着するのだろう。
お陰で計画は無茶苦茶だ。
異界人を回収することも出来なかったし、魔術をかける暇もなかった。
今年しか無いというのに、何故これほどに運が悪いんだろう。
せっかく禁呪まで使って喚んだというのに一瞬で私の手からこぼれ落ちるとは。
今聖堂騎士に近づく訳にもいかない。
彼らはとても強い。
それに、禁呪を使ってしまった以上『狩られる』恐れもある。
異界門のカモフラージュもそう長くは持たないだろう。
開幕のダンスを踊ることは出来なかった。
血の舞踏会まであと20日も無いというのに、このままでは王族たちに近づく事さえ出来ないではないか。
『異界人』などという稀少な人種をあの国王が捨て置く筈が無い。
必ず王都に招待して謁見を行おうとする筈。
それを見越した上で召喚したのに、聖堂騎士に保護されてしまっては今のところ私に打つ手は無い。
異界人が王都に行くことになるのはほぼ間違い無い。
道中で襲撃するしか方法は無いか。
ならば問題は交通手段だ。
鉄道や乗合馬車なら襲撃は難しい。
今目立ってしまえば舞踏会の接頭詞として『血の(血塗れの)』をつけることが出来なくなってしまうだろう。
徒歩や個人用馬車ならば容易に襲撃できる。
聖堂騎士を敵に回したくは無いが、あまり贅沢を言っていると目的を達成することも難しくなってしまう。
2、3人程度の護衛ならば眠らせても構わないだろう。
まだ今は誰も殺すわけにはいかない。
聖堂騎士だけでなく王国親衛隊に勘付かれるのも致命的だ。
全ては国王を殺すため。
そしてその娘を殺すためだけに。
異界人はそのための囮であり生贄だ。
あの国王だけは私の手で臓物を引きずり出す。
あいつは憎き仇敵だ。
しかし、その娘に憎しみは無い。
せめてひと思いに首を刈ってやろう。
血の舞踏会まであともう少し。
私の数年来の願いが果たされる時は間近に迫っている。
そのために、まずはあの異界人に魔術をかけなければ。
私の予測が的確なら、彼は有能な間諜になってくれるはずだ。
的外れだったなら別のプランを実行するのみ。
私の鎌は国王の血を吸う時を待ちかねているのだ。
今更計画を中止することなどありえない。
私は異界人を襲撃する算段を立てながら彼が滞在している宿舎付近に潜伏するのだった。
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