第Ⅱ話 リアと大男
今回は短めです。
クオリティに乱れが出まくっていますので近いうちに全面的な改稿を行う予定です。
光暦3650年8月5日
深夜
ルーディアス王国南西部・レーアン地方
商業都市アズール
side リア・ナイデルベルク
「王は恐らく、貴方を指名する気はないわ」
私は目の前で腕組みをしている大男にそう告げた。
これまでの思案顔から一転、訝しげな表情になって私に訊ねてくる。
「何故だ?」
「何故かなんて知らないわ。ただ、間諜の情報から総合的に考えれば、国王が貴方を次期後継者に指名しようと考えていると思えない」
そんなこと知ったことではない。
私の目的はあくまでも国王と、後継者をこの手で殺すこと。
あなたの依頼はついででしかないし、もしあなたが次期国王になる人間だと最初から思ってたならとっくに殺してる。
今回のは裏付けが取れたというだけだ。
「間諜の情報というのは?」
「最近、王の様子は明らかにおかしいわ。まるで死に支度をしてるみたいにね。国王は次期国王を発表してすぐに死ぬつもりでしょう。あなたが反駁する時間を残さずさっさと消えるつもりだわ」
これは盗み見た近衛慎也の思考とほぼ同じ。
私も彼の推測は正しいと感じていた。
国王は明らかに落ち着きをなくしているし、諜報魔術での探査の結果、国王は何故か夜半まで起きて何かをしている。
遺品整理なのか遺書を書いているのかまでは分からないが、普通の人間がとる行動でないことは間違いない。
「それは貴様にとっても問題ではないのか?」
「ええ、問題よ。私は国王を血祭りに上げたいのに、自ら服毒自殺されたら立場がないわ」
「なら、どうするつもりだ」
「もう手は打ってあるわ。国王が自殺しないようにする手立てはしっかりと、ね」
代わりにあなたには犠牲になってもらうけどね。
「そうか。にしても、後継者指名後すぐに自殺する、がどうして私に王の座を明け渡さない、という結論に結びつくのだ?」
王の座を明け渡す……ね。
国王がこいつを後継者に指名しようと思わない理由がよく分かる。
「簡単なことよ。あなたは今自他共に認める実質的次期国王の座にある。それをひっくり返すとなれば、あなたとその取り巻きの強烈な反発は必至。ならばあなたに反論する時間を与えずに自殺して、新たな国王の体制にスムーズに移行する」
「なるほど……それなら理解できる。だが、国王はどうやら俺の力を見くびっているようだな。反論などしない。俺を王にしないなら王位を簒奪するまでだ」
「さすが、王族のくせに帝國と密通しているだけのことはあるわね」
私の言葉に大男の顔は驚愕に染まり、声を低くして脅すように聞いた。
「貴様……どこでそれを知った?」
「私を誰だと思ってるの? 世界中に協力者がいるのだから、あなたの情報なんて簡単に分かるわ。帝國上層部とも縁故があるから」
「帝國上層部を殺して回った貴様が、帝國と、縁故だと?」
「帝國だって一枚板じゃないし、私が殺すべき人間は全て殺した。あとは利用できる奴だけよ」
「ほぅ……まあいい。今のうちに兵を集める算段を立てておいたほうがいいか……」
「それが一番いいんじゃない? ただ、分かっているわね?」
「ああ。王と王女は殺さない。貴様のか……ッ!?」
続くであろう言葉を察し、私は鎌を掴むと刃を大男の首筋に押し当てた。
「それ以上言ったら、あなたの首が飛ぶわよ」
「あ、ああ……すまなかった」
大きな図体をしてる割に度胸はないようだ。
たかだか十歳過ぎの子供、しかも女に武器を突きつけられただけで謝ってくるなんて。
……こいつの性格なんて別にどうでもいいし、利用できるだけ利用してやればいい。
最後に捨てる事だけが確定事項だった。
「これからは気を付けなさい。自分はともかく、人に言われるのは大嫌いだから」
……人に言われるのは大嫌いだ。
自分ならともかく。
まあいい。
大男……アルゼム・レム・ルースエディアが言おうとしたことは事実だ。
そう――。
自分の家族は、自分で殺す。
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