序章 真紅の月
スランプだと言っていたのに懲りもせず新作です。
メインは別作品ですので更新スピードはかなり遅めだと思いますがお付き合い頂ければ幸いです。
西暦2015年7月18日(土)
PM 8:00
静岡県御殿場市
富士山御殿場口(標高1440m)
side 近衛慎也
ミニバンの扉を開いて外に出ると、澄んだ夜空が目に入った。
久しぶりの富士山だからかもしれないが、東京から眺める夜空と明らかに違うことが分かる。
圧倒的な星の数。
肉眼でここまでよく星が見える場所はそうそう無いだろう。
加えて今日の夜は月が昇らない。
すぐ近くに照明があるのは不安材料だが、こればかりは文句を言っても仕方ない。
俺はミニバンの後ろに回り、扉を開いて望遠鏡を抱えていた父さんから望遠鏡をひったくり、観測ポイントに向かう。
25cm口径の反射望遠鏡を使うのは今日が初めてだ。
一体今日はどの星の姿を見せてくれるのだろうか。
決めるのは自分たちにも関わらずそんなことを考え、ふと上を見上げた。
そこには、絶対にあるはずのない物が鎮座していた。
月だ。
真紅の月だ。
赤い月、というものは確かに存在する。
光の屈折によって昇った直後や沈む直前にそう見えることはあるのだ。
原理としては夕焼けや朝焼けと同じだ。
しかし、今俺の頭上にある『月』は、頭上という表現から分かるように、天頂部分に存在している。
それは絶対にあり得ないことだ。
赤い月は一時的な存在であって恒常的な存在では無いのだから。
空高く昇れば次第に白銀の月へと変わるのだから。
しかも、その月は大きすぎる。
本来の月より3割近く大きいのだ。
いつの間にか俺はその場に立ち尽くしながら月を眺め続けていた。
いや、目を離せなくなったのだ。
必死に顔を別の方向に向けようとしても、『目』がその行動を許さない。
どれだけの時間が経ったかは分からない。
夢か現かの区別もつかない。
だが俺は確かに聞いた。
『フフッ……ようこそ。血の舞踏会へ』
高らかに宣言する無邪気な少女の声を。
それとほぼ同時に月の姿が歪み、俺の意識は一瞬にして吸い込まれた。
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