007話 うさぎさん捕獲
□007話
僕とニーナはメイン通りを抜けて南門に到着した。冒険者の出入り手続きは簡単なもので、ギルドカードと受注依頼の提示をすれば良いだけだ。
最初町に入った際はチェイスに面倒をかけたが、今回は冒険者の一人として無事に手続きを完了した。こんなことでも成長を感じることが出来て、こそばゆいものがある。
この手続きの際、何人かの門兵がニーナに笑いながら声をかけてきた。
「ニーナ! 今日は姉ちゃんの付き添いは無いのかい?」
「いつまでも子供扱いしないで! アタシだってパーティ組んだんだ! あっという間に一流冒険者になってみせるわ!」
「そうかぁ。ニーナもいよいよ一人前になったんだな! 姉ちゃんがいないと心配だから、無理するんじゃねーぞ」
どこへ行っても同じようなやりとりを繰り返している。
ニーナは門兵みんなから妹のように見られているみたいだ。これまでの言動や態度を鑑みてみても、子供っぽさが抜けきっていないから、まぁ、当然なのかもしれない。
それと、ギルドの一受付嬢のミーナの信頼の高さにも驚かされた。あくまで受付嬢の一人のはず。何でこんなに信頼されているんだろう。
「じゃあ行ってきまーす!」
元気いっぱいなニーナの挨拶で、僕らは南門を後にした。
■ □ ■ □
薬草採取のために選んだ場所は、町の近くの採取場だ。南門を出て、本当に町のすぐ近く。
ギルド受付嬢を姉に持つニーナが思いのほか情報通で、意外とこの場所が穴場だという事を知った上で案内してくれていたものだ。
実際、町にこれだけ近いというのに、薬草は未採取の状況だった。
「ここって、みんな採取済みだと思って立ち寄らないらしいのよね」
くるりとこちらを振り返るニーナ。
彼女の赤みがかった茶色のポニーテールが、静かに揺れていた。
動きやすさを重視した短パンやブーツは、彼女の冒険者としての活動経験を物語っているようだ。あるいは、ミーナさんのセンスが良いのかもしれないが……。
一方の僕は白シャツに長いボトムス、歩きにくい革靴だ。出発前にニーナに指摘もされたけれど、早くお金を貯めて、身なりを整えたいと思う。
まず最初に購入したいのは、靴だなぁと感じる。今日一日、硬く歩きにくい革靴で延々と歩いてしまったので、足腰がすでにクタクタだ。
愚痴ってばかりいても始まらないので、ニーナに薬草の特徴を教わる。
「薬草はね、葉っぱの色が淡い黄緑色してるんだ。そして、葉っぱの形はギザギザしているの。それで、白い小さな花が咲いているものが特に効力が高いんだって」
(黄緑色のギザギザの葉っぱで、白い小さな花が咲いていて……)
「うわっ……」
革靴がぬかるみに嵌まってしまい、大きくバランスを崩した。
「あわわわっ……た、倒れる!」
ニーナがさっと手を貸してくれて、転倒を免れた。
「ほら、危ないわよ! ちゃんと注意しないと」
「危うく僕の一張羅が泥まみれになるところだったよ。ありがとうニーナ」
「キリトのことはアタシが守るって話したでしょ?」
「本当にその通りになったね」
<<支援します。右側45度に五歩進んだ辺りにあります>>
頭の中の声はこんなこともしてくれるんだ。声の指示に従って、薬草を見つけ出すことに成功。
「薬草見つけられたかも。例えばこれとか、どうかな?」
「キリト、バッチリじゃん。先生が良ければ生徒も成長が早いって言うしね! じゃあ、アタシのお陰か」
「そうだね。ニーナのお陰。ありがとう」
――するとそこで、頭の中の声が聞こえた。
<<警告します。近くにホーンラビットが出現しました>>
頭の中の声が警告を発してくれた。声の指示する方を見ると、小さなウサギの魔物が見えた。ニーナの後方辺りだ。
(ねぇ、君のことなんて呼んだら良い?)
<<ナビとお呼び下さい。救済者様>>
(じゃあ、僕の事はキリトでお願い。救済者様はちょっと嫌だ)
<<かしこまりました。キリト>>
ナビさんと僕の会話が一区切りついたところで、ニーナが試すようなことを告げる。
「ねぇ、キリト! ホーンラビットが現れたわよ! あんたやっつけられるの?」
(ナビさん。あの魔物も救ってあげれるかな? オークの時みたいに消えるのはかわいそうだけど)
<<ホーンラビットのMPを削ると、角が消え、単なるウサギになると予想します>>
(了解! じゃあ、安心して救おう)
――「ねぇ! ねぇって! 聞いてるの?」
ニーナの声が聞こえた。気付くと、前方から突進してきたホーンラビットが、目前に迫っていた。
横からニーナが短剣を振りかぶり、ホーンラビットに一太刀加えようとしていた。
タイミング的には僕を助けるのに十分なタイミングだったはずだ。
僕はジェスチャーで彼女を制止して、ホーンラビットの突進を正面から受け止める事を選択。
「本当に大丈夫なの? この角で毎年死者が出てるんだから、慎重にお願いね」
どんどん近づいてくるホーンラビット。その角は30cm弱はありそうだ。受け止めるにしても、上手に受け止めないと胸に角が突き刺さってしまいそう。ニーナの言うことは決して冗談ではなさそうだ。
最後の一蹴りでホーンラビットが僕の目の前に飛び込んできた。大きく息を吸い込み、全身に力を込める。
手を伸ばし、極力身体から遠い位置でホーンラビットの勢いを受け止める。
――が、想定以上の体重と勢いで、支えきれずに後ろに転倒してしまった。
その後もホーンラビットは足をバタバタして、何とか僕に攻撃を加えようと必死にしている。ホーンラビットだって生きるのに必死なんだ。僕を敵と認識していて、僕のことが怖いから必死に戦っているんだ。
「大丈夫。僕は敵じゃないよ。ホーンラビット、落ち着いて」
その直後、僕の手の平から淡い白い光が発光して、ホーンラビットの全身へと伝わった。そして鋭い角は、その先端から白い光となって消失していった。
更に角の消失に合わせて、ホーンラビットは一回りも二回りも小さくなっていった。最後には、ただのウサギになっていた。
「えぇ!? 一体、なにがどうなったらそうなるの?」
「えっと、ホーンラビットは、かわいいウサギに戻りました――とさ」
地面に大の字に寝転がった僕は、おなかの上で野草をモグモグ食べている小さなウサギを愛でる。
そして、ケモミミ好きのニーナも、ウサギに手を伸ばすが――手が震えている。
「え、この子、ホーンラビットの角が消えただけじゃ無いの? ちっちゃいし、毛並みもふわふわで柔らかい、懐いてきて全然攻撃的じゃない。これって図鑑に書いてあった『ウサギ』そのものじゃない!! かっわいぃ~!!」
両手でウサギを高く持ち上げて、笑顔でクルクルと回り続けている。
「もう、お姉ちゃんの言った通り、あんた他の冒険者と全く違うわね!!」
「誰かを傷つけるのが嫌なんだ。それが人間であっても魔物であっても」
「んー、否定して、あんたの鼻を明かしてやりたかったけど、ウサギちゃん、こんなにかわいいんだもん!!」
「普通の冒険者じゃなくて、変な奴でごめんね」
「いいわ。許す。私たちパーティだもん。すぐ解散するつもりだったけど、アンタのこと逃がさない事に決めたわ!! 覚悟しなさい」
ウサギから一度も視線を逸らさずに会話を進めるニーナ。
一体、誰に話しかけているんだか……。
でも、この一日で、様々な人と関わったけど、みんなのおかげで、この世界に絶望せずに済んだ。
この先も頑張っていけそうだと思えた。
「ありがとうね。ニーナ」
「なっ!?」
顔を赤らめるニーナ。かたくなに目を合わそうとしない。
あれ? この光景さっきも見たような気がする。そういう所はかわいいと思った。




