006話 パーティ結成
□006話
ニーナの口から飛び出した「お姉ちゃん」発言。でも、僕の頭の中の常識が、その発言を拒絶する。
だって、目の前にいるニーナは普通の人間の姿で、ミーナは猫耳の獣人の姿だ。
ミーナとニーナが本当の姉妹だとするならば、二人とも人間または獣人なら納得できる。二人の見た目が違うなら、姉妹じゃ無いと言われれば納得できる。あるいは連れ子の姉妹とか……?
「あのぉ、二人の関係は?」
「「姉妹です」」
「もしも失礼な発言だったら申し訳ないんだけど、ミーナさんは獣人っぽいけど、ニーナさんは獣人っぽく無いと言いますか……」
姉妹は二人とも首をかしげている。
「あれ? キリトさんの暮らしていた場所では混血は珍しかったですか?」
混血、ということは、人間と獣人のハーフなのか?混血自体は前の世界でも良くあることで、特段変わったことでも何でも無い。
「いえ、それは珍しくは無いですね」
「この辺りでは混血が進んでいます。隔世遺伝と言いまして、突然先祖の特徴が出る事があるんですよ」
「隔世遺伝……ですか」
思っていたより複雑なようだ。僕は最初、ハーフを想像した。つまり、両親が獣人と人間を想定していたのだ。
この街では、これよりもっと混血が進んでいて、人間同士の間に生まれた子供であっても、時々先祖返りで獣人姿になるということのようだ。
ゲームやアニメ、漫画などでそんな設定を見たことがあったかもしれない。でも、実際に目の当たりにしてみると、これはなかなか神秘的なものだと感じた。
「だからお姉ちゃんとアタシは血が繋がっているし、歴とした姉妹だけど、見た目は違うの」
そういうことが広く受け入れられているこの世界。見方を変えれば偏見が少なくて、きっと凄く住みよい社会なのだろう。
「で、私たちの先祖様は代々、ケモミミ大好き一族だったから、お姉ちゃんの耳とか、アタシ、本当に大好きなんだぁ」
突然「じゅるり」とよだれを垂らすニーナ。
「ここではやめなさい。ニーナ」
ミーナは両手で両耳をガードしている。『ここではやめなさい』というワードに耳が反応してしまった。何をやろうとしていたのだろう。
でも、それ以上の突っ込みは野暮というものだ。『ここではやめなさい』発言については流す事にした。ケモミミ発言だけは肯定的な意見を一つ発言しておこう。
「僕の以前住んでいた場所でも、ミーナさんみたいなおミミは人気ありました。僕は直接見るのは初めてですけど、とってもかわいらしいと思います。失礼で無ければ、僕も触らせて頂きたいくらい」
実際、ケモミミ好きは多かったんじゃ無いかな。ペットを飼う人も沢山いたと思うし。
――気付くと、ミーナは両手で両耳をガードした姿勢を維持したまま、その場にしゃがみ込んでいた。頬を赤く染めて。
「えぇー、お姉ちゃんばっかりズルい!! アタシだってキリトにかまって欲しい!!」
「ニーナさんは今現在も僕の腕をがっつり掴んでるじゃ無いですか! それで十分触れ合っているというか何というか」
僕とニーナがワチャワチャしていると、襟を正したミーナが咳払いを一つ。
「ところでキリトさん、話を戻しますが、薬草採取を受注されるご予定でしょうか?」
「そうですね。お金がなくて、大至急仕事を受注したいんです」
鼻の辺りをポリポリ掻く。お金がないなど、少し恥ずかしい状況だ。
ミーナさんはギルド職員の目線からなのか、
「ザインさんを一蹴りで失神させてしまうキリトさんの戦闘能力なら、魔物討伐を期待してしまうところなのですが……」
とのことだった。
僕は攻撃力ゼロなので戦闘には不向きだと、自身を正確に分析できているので、ブレない。
「まずは薬草採取でお願いします」
「かしこまりました。では、手続きしてきますね」
一度受付に戻るミーナ。彼女の足取りを目で追うと、一つ気付いたことがあった。足取りが凄く洗練されていたのだ。特に武道の経験の無い僕から見ても、足音や体重移動の感じが他の冒険者と比べて洗練されているように見えた。
「お姉ちゃんに見とれちゃってどうしたの? キリト」
「いや、そういうことじゃなくて、何だか足取りが一流冒険者みたいに洗練されているなって思いまして」
「ギルドの受付嬢なんだから、あれくらい普通なんじゃない?」
受注依頼が決まり、未だに僕の両手を拘束したままのニーナも、ようやく手を離してくれた。
「ねぇ、キリト。初めての受注なんでしょ? 夕方まで時間もないし、一緒に行ってあげる!」
んー、依頼の受注に関してはブレなかったが、パーティの件では判断がブレそうになる。
確かに、そもそも薬草のことを何にも知らないんだよな。それに、この辺りの地理のことも良く分かっていない。このまますっぱしったとしても、薬草を取れないばかりか、この場所に帰ってくることも難しいのかもしれない。
だとすると、彼女の申し出は大変ありがたいものなんだよな。渡りに船って奴。
「あー、まんざらでもないって顔してる! 良いでしょう。パーティを組んであげるわ!」
ニーナはまた勝手に話を進めている。性格の面から考えると、ミーナの妹だとは思えないな。でも、ここは素直に彼女提案を受け入れるのが良いのだと思う。きっとそうだ。
「そうですね。右も左も分からない僕は、きっと誰かに教えを請わなければいけないと思います。是非、ニーナさんとパーティを組ませて貰いたいですね。お願いできますか、先輩?」
あからさまに鼻息が荒くなっているニーナ。
「でしょ? でしょう? なかなかセンスが良いじゃない、キリト!! 何でも教えちゃうから、安心して着いてきなさい!!」
などと二人で一先ずの合意に達したところへ、ミーナが戻ってきた。
「キリトさん、ごめんなさいね。この子、一度言い出したら、諦めが悪くって」
「いいえ、よく考えみたら、とてもありがたい申し出でしたよ。ニーナさんの話は」
「お姉ちゃん!! キリトはアタシとパーティ組みたいんだって! いやぁ、モテる女の子は本当大変だわぁ」
二人の目元がキラーンと光った気がした。
「「じゃあ、パーティ結成ということで……」」
イェーイ!とばかりに、ミーナ&ニーナと三人でハイタッチをさせられた。
あれ? なんだか、この姉妹に嵌められたんじゃないかな、なんて気もしてきた。
遠くの方から「英雄蹴りがニーナと組んだみたいだぞ」「ドラゴンバスターが薬草採取に行くらしい」などと声が聞こえてくる。フードを被って目立たないようにしていたはずなのに……!
「じゃあ、パーティ登録はこっちでやっておくから、ニーナ! キリトさんを宜しくね」
去り際に意味深な笑みを浮かべるミーナ。
「分かったお姉ちゃん!」
「キリト、早速行くわよ!」
そこまで話した所で、僕の姿を頭のてっぺんからつま先まであからさまに観察してきた。
「えっと、何か?」
「その格好で外に出るなんて、外の世界を舐めてるわね。その薄手のシャツと硬くて歩きにくそうな革靴」
「まずいでしょうか?」
「まぁ大丈夫。アタシが守ってあげるから! それから、丁寧語やめない? 堅苦しいの嫌だから」
「分かったよ。じゃあ、これからよろしくね。ニーナ」
「なっ!?」
頬を赤く染めてそっぽを向いてしまったニーナ。
自分から振ったクセに、照れるとかどういうこと?
こうして、二人組のパーティで薬草採取に向かうのであった。




