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攻撃力0の【救済者】〜魔物を殺さず『元の姿』に戻してたら、いつの間にか伝説級メンバーのリーダーになっていた件〜  作者: おとしごと


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003話 不名誉な二つ名

□003話


「じゃあ、まずは街道を目指そう」


 チェイスの軽快な一言で、僕らの方針は決まった。


「街道ですか?」


「ナレフと近隣の町は街道で繋がっているんだ。街道はこんな森の中を通る所もある。まずは現在地の確認だな」


 チェイスは腰元に付けた小さなバッグから、不相応の大きな地図を当たり前のように取り出した。地図の確認を始める三人を一旦制止し、僕は思わず質問してしまった。


「あの、そのバッグにこんな大きな地図が入っていたとは信じられないのですが、どんな仕組みなのですか?」


 クスクスと微笑むリージュさん。今は日差しを避けるようにフードを被っている。


「キリトさんはマジックバッグをご存じないのですか?私も初めて見たときはびっくりしましたから、その気持ちよく分かります。見た目のサイズ以上に、色々なものこの中にしまうことができるんですよ」


 マジックバッグ。すなわち、魔法の力で沢山のものをしまえるように改造したバッグと言うことか。便利なものだな。きっと町に行けば、もっと便利なものに出会うことができるのだろう。楽しみだ。


「街道への最短ルートはこちらのようです。キリトさんいきましょうか」


 三人に連れられて森の中の移動を開始すると、三人の足さばきに思わず見とれてしまった。

 

 チェイスもベックも大小違いはあれど、鎧を身につけているが、その重量をまるで感じさせず、軽快に悪路を進む。リージュも決して平らでは無い地面を、何の躊躇も無く進んでいく。


 それに比べて僕は、バランスを取りながら進むだけでやっとといった感じだ。


 そうしてしばらく進み、街道に到達。そして、道なりに進めば、ナレフの町はすぐだった。


 ナレフ辺境領は、ルミナス王国の最北部に位置しており、北側の魔獣あるいは魔族と人類の境界線に位置している。そして、ナレフは最も境界線に近い位置に築かれた町なのだそうだ。


 そのため、魔獣や魔族からの襲撃に備え、町は幅の広い堀と古い石壁で周囲を囲う砦のような作りとなっていた。堅牢な作りを維持するため、町への出入り用ゲートは南北に2カ所のみだ。


 今回は南口から町へ入った。出入り用のメインゲートは馬車も通過できる立派なサイズ。その脇に、一人で出入りする程度の小さな鉄扉が一つ設置されていた。


 僕たちがゲートを通過する際、小さな鉄扉のすぐ近くに長机が設置され、門兵が出入りする行商人や一般人の確認を行っていた。門兵は頻繁に出入りする冒険者に対しては親切だが、行商人や一般人には厳しいチェックを行っていた。今回、僕がスムーズに町に入れたのはチェイスが口利きしてくれたお陰だ。


 そうして、町に入って、メイン通りをしばらく歩く。所々に店看板が掲げられていたが、文字は僕の知るものと同じだった。この点は一安心。一方で、この町では電気を使っている様子がないので、文明水準や衛生水準が少々心配だ。


 更に進んだところで、大きな噴水が見えてきた。電気もポンプも無いこの環境で、どのようにして水を噴出させているのだろう。リージュに質問すると、丁寧に説明してくれた。


「キリトさん。町の四方を囲う高い壁を覚えていますよね?」


「えぇ、遠目に見たときのあの迫力は忘れられませんよ」


「あの壁の上に、水を生み出す水属性の魔石が埋め込まれてるそうです。それが何カ所も。そこで生成した水を高架水路で生活用水や噴水へ供給しているそうです」


「じゃあ、あの噴水の水は高いところから供給された水の位置エネルギーを利用して独りでに吹き出しているんですね?」


「水の位置エネルギーですか? 詳しくは分かりませんが、自然と吹き出しているそうです」


 変なことを言ってしまった。リージュさんの頭の周りにはてなマークが見えた気がする。魔法が当たり前となっているこの世界では、物理法則を分析するより、魔法を解析する人の方がきっと多いのだろう。


 そんな会話をしながら、噴水の元へたどり着いた。


「この噴水が居住区の中央だな。で、そこにあるのがギルドだ」


 チェイスの案内でギルドに入る。


 冒険者達が昼間から酒を酌み交わしている。


「ミーナ、こいつを冒険者登録してやってくれないか? こいつ、オークを一瞬でやりやがった! 凄腕だぞ!」


(いやいや、記憶喪失のただの一般人なんだけど……)


 僕の目の前に佇むミーナと呼ばれた受付嬢は、猫耳の獣人の女の子だ。


「そんなわけないよ。 こんなにかわいい男の子なのに……」


 ミーナの視線がこちらへ向く。ギルドと聞くと少し構えてしまうが、やさしい女の子が受付で良かった。


「じゃあ、この紙に必要事項書いて下さい。文字は書けますか?」


 そこで、チェイスが声をかけてきた。


「キリト。俺たちはそこで休んでるから、また声かけてくれ。町を案内するぜ」


 チェイス達の後ろ姿を見送り、書面に目を落とす。


 名前、性別、年齢……その辺りは書くのに問題は無いな。だが、職業……か。


 チェイス達には頭の中の声が告げた「無職」をそのまま伝えたけれど、ギルドで「無職」と伝えると怪しまれるかもしれない。一旦、惚けてみるか。


「あの、職業って?」


「成人の議はやった事はないですか? 田舎だとそういう所多いみたいだから気にしなくても大丈夫です」


 ミーナは一度姿を消すと、占い師が使うような透明な球体を持ち、戻ってきた。


「この上に手を置くと色々分かりますよ」


 言われるがままに手を置く。


 ミーナはその球体に顔を近づけると、ビクッと毛を逆撫でた。


「えーっと、無職で、攻撃力ゼロ? 子供でも2や3はあるはずですが。 キリトさん、戦闘向きじゃないかもしれませんね」


(暴力を振るう気は無いから、攻撃力ゼロだなんて僕にぴったりじゃ無いか)


 内心喜んでいた所、突然僕の肩に手が置かれた。――その手が石のように重い。肩も体もまるで一枚岩になったかのように身動きが一切取れない。


「おいおい、英雄様が帰還だぞ。悪いが疲れてるんだ。若いの、先に譲ってくれや」


 手がどかされ、ようやく身動きを取れるようになった僕は後ろを振り返る。


 そこにいた男は異質だった。三兄妹のベックも長身だと思ったが、この人は別格だ。


 身長も馬鹿でかい。だがそれだけじゃなく、全身を覆う筋肉も野生動物のように分厚く、全体的に巨人という印象だ。


 上から見下ろす、人を射るような視線も、迫力がものすごい。


「ザインさん、おつかれさまです」


 後ろからミーナの声が聞こえるが、僕はザインの迫力に言葉が出ない。そればかりか、身動きも取れないでいた。


「どいて……くれる気は無いのか? 威勢の良い新人だな」


(いえいえ、怖くて動けないだけなんですが)


 カチコチの身体を何とか動かそうと、全身に力を入れた。


 何とか一歩だけでも進めないと……と、右足を前方に伸ばそうとしたところで、カツン……。


 僕のつま先がザインのすねの部分に入ってしまった。


<<ザイン:MP1に対し、MPダメージ1を与えました>>


 再び頭の中に謎の声が聞こえた。ん? ザインMP1にMPダメージ1? 残りゼロになるじゃ無いか。


「おぉ……っ」


 ズドーン!! ザインが後ろ向きに倒れてしまった。


「「「えぇぇぇぇ!?」」」


 ミーナを始め、周囲の冒険者達の驚く声が響き渡る。


「ザインさんを一発で倒しちまったぞ!」


「なんだあの新人!?」


 ――『英雄蹴りのキリト』という不名誉な二つ名を頂戴した、前代未聞の事件であった。

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