002話 ナレフの冒険者との出会い
□002話
オークが光となって消えた後、僕の目の前に二人の剣士が近づいてきた。
「いやぁ、助かったよ。あの巨体に手こずっていたんだ」
「……」
一人の剣士は良くしゃべり、人当たりの良い印象。身につける装備は軽装で、部分的に鎧のようなものを身につけている。
もう一人は寡黙な印象だ。今まで一言も発していない。身長が高く、前後にも分厚い。総じて全体的にデカい印象だが、その身を包む重そうな鎧が何より印象的だ。
遠目から彼らを観察した際、僕は彼らをゲームの世界の服装をコスプレしたような身なりと評した。だが、近づいてみると印象はガラリと変わった。
彼らが身につける鎧には工場で作られたような均一さは無く、人が何度も叩き上げたような打跡が鱗状に重なっていた。鎧が放つ鈍い光沢を見るに、加工のしやすさを度外視し、何よりも頑丈さを優先しているであろうことが窺えた。
――ここは、僕がこれまで住んでいた世界では無い
そんな思いが頭をよぎった。と言うよりも、消えたオークの腐敗臭や赤黒い血、冒険者の身なりを見て、既に確信していた。ここは異世界だ。
「なぁ、オークが消えちまった光は、一体、何なんだ?」
さっきから、軽装の剣士は顔を近づけ、つばをまき散らしている。初対面の僕との距離感がやたら近いが、それでも不思議と悪い気はしない。
ただ、あの光のことを聞かれても返事に困る。あんな光、初めて見たし、頭の中に響いたあの声も、記憶に無い。
僕が返事に困っていると、杖使いさんが近づいてきて、助け船を出してくれた。
「きっとあれは聖属性魔法です。賢者を目指す私でも身につけることは困難でしょう。類い希で、貴重な魔法です」
――って、聖属性魔法だって!? そんな力なんて持っていない。何故オークが消えてしまったのか、僕もその答えを知りたいところなんだけど……。
それよりも、せっかく言葉が通じるのだ。この辺りのことを詳しく聞いておくことにする。
「あの、その前に皆さんは?」
「あぁ、悪かった。最初に自己紹介しないとな。おぉい、皆集まってくれ」
軽装の剣士は右手を頭の後方を当て、「悪い悪い」と言った様子で謝罪した。そんなに畏まってもらう必要はないけど、律儀だ。
三人は僕の目の前で整列した。左から軽装の剣士、デカい剣士、杖使いさんだ。整列が済んだところで、軽装の剣士が口を開いた。
「オレはチェイス、見ての通り剣士だ。このパーティのリーダをしている。年齢は二十三歳だ、宜しく。そして、こいつはベック、重そうな鎧だろう? 力が凄いんだ。二十一歳で重戦士をやっている」
「チェイスさんとベックさんですね。宜しくお願いしますね」
二人とも黒髪短髪。ベックさんと並ぶとチェイスさんは小柄に見えてしまうが、軽装から覗く筋肉は実践で磨き上がられ無駄が無い。
「で、この子はリージュ。賢者見習いだ。ここら辺じゃ珍しい、攻撃魔法も回復摩耗も使いこなす天才さ。そして、まだ十七歳だが、めちゃくちゃ美人だろう?」
さらさらの金色の長髪が風で一糸乱れず滑らかに揺れる様子は、まるで絹のよう。そして、まだあどけなさを残しつつ柔らかい印象の緑色の瞳は、思わず見入ってしまう。
「俺たちの大事な妹さ。手を出すんじゃ無いぞ」
チェイスはウィンクを飛ばしてきた。
「えっ? じゃあ三人は?」
「血の繋がった兄妹さ。そっくりだろう?」
いや、全然似ていないぞ。と思うが、口には出さない。
チェイスはすっと手を差し出した。
「じゃあ、そんなわけで、宜しく頼む!!」
僕はその手をがっしり掴んだ。
「さて、お前さんは?」
んー、どうやって返そうか。死んだと思ったらここにいました、なんて伝えたら怪しまれるかな? あれ、そういえば、生前の名前や年齢を思い出せない。靄が掛かったみたいだ。
自己紹介について悩んでいると、再び頭の中に声が響いた。
<<キリト:LV1、年齢:十七歳。職業:無職。本職:救済者>>
ここは一先ず、この声に従うことにした。
「僕はキリトです。年齢は十七歳。職業は無職です。覚えているのはここまでで、実はここしばらくの記憶がありません。ここがどこで、何故ここにいたのかも分かりません」
ここで一旦、一呼吸置く。三人の心配そうな視線を受け止め質問を投げかける。
「ここって、どこですか?」
三人は顔を見合わせた。で、チェイスが口を開く。
「どこって、そりゃあ、ナレフの町の近場の森の中さ。聞き覚えはないか?」
「えぇ。聞き覚えはありません。ナレフという町が近くにあるのですね」
「じゃあ、ここら一帯のナレフ辺境領のことは? ルミナス王国のことは覚えてないのか?」
僕は首を左右に大きく振る。
「残念ながら……」
チェイスはベックとリージュに目配せをした。ベックもリージュも首を縦に振る。
「そうか。何やら訳ありのようだな。いずれにしても、こんな森の深く、たった一人で夜を迎えるのは危険だろう」
リージュからも優しい言葉をもらう。
「危険なところを助けて頂いたお礼もしたいですし、ナレフの町へ一緒に来てみませんか?」
確かに。こんな知らない場所で夜を迎えるのは本当に怖い。さっきの化け物の仲間たちもいるかもしれない。
ここは、即断で三人の好意に甘える事にした。
「是非お願いします。そこはどんな街なんですか?」
三人は再び顔を見合わせた。
「そんなでかい町ではないんだが、いい奴の多い町さ」
三人の代表はチェイスなのだろう。話の切り出しはチェイスであることが多い。
「ギルドもありますから、ギルドカードを発行すると便利ですよ」
補足役がリージュのようだ。ベックは相変わらず物静かだ。
「ギルドカードですか?」
「身分証明書代わりになります。宿に泊まる時にも必要ですよ」
僕は町へ移動の合間に、彼らからこの世界のことを少しずつ学ぶのであった。
ギルドであんなことが起こるとは何も知らずに。




