011話 特別依頼
□011話
「うっ……眩しい……」
カーテンの隙間から差し込む朝日で僕は目を覚ました。
ここはチェイスの家の客室だ。昨日案内されたとき、部屋が広くて驚いた。実はチェイス達は良いところのご子息ご息女で、冒険者なんてやらなくても生活できるのではないかと思ってしまう。
チュン、チュン、チュン、という小鳥の声が耳に届き、人の話し声一つ聞こえない。まだ、誰も起きていないのだろう。目が覚めてしまったので、モフ吉の様子を見るために部屋を出た。
昨日賑やかだったテーブルに向かうと、やはり部屋は静まりかえっていた。誰も起きていないと思いきや――ミーナが、モフ吉と戯れていた。
「おはようございます、ミーナさん」
「キリトくん、おはよう。皆、なかなか起きてこないわね」
昨晩のチーム発足に伴い、正式に仲間となったミーナは丁寧語を控えるようになった。少しでも早く打ち解けようと努力しているのだろう。
僕も頑張らないといけないけれど、こんなすぐには切り替えできない。ミーナには敵わないなぁ。
「明け方まで賑やかでしたからね。僕もまだ少し眠いような気がします」
思わずあくびが出てしまう。僕のあくびの声の他は、モフ吉が野菜を咀嚼する音がするだけだ。昨日とは打って変わって、本当に静かものだ。
ミーナが立ち上がり、こちらを向く。
「今朝、ギルマスと話してきたわ。受付嬢を当面お休みにして、冒険者復帰を正式に受理して貰ってきたの」
昨日ミーナから教わったが、ギルド職員達の朝は早く、夜は遅いそうだ。冒険者達が来る前に受付の準備を始めなければならないし、冒険者達の成果を受理した後も書類仕事が遅くまで必要らしい。
そんなわけで、ミーナは今朝早くにギルマスの所を訪問して、冒険者への復帰を相談してきたみたいだ。
「何か言われましたか?」
「月姫復活なら、大歓迎だって。最初は『有能看板娘がいなくなる!』なんて、大げさに喚いてたのに」
今振り返ってみると分かる。ギルドの職員やベテラン冒険者達は皆、ミーナに一目置いていた。この町を二度も救った月姫のことを皆知っていたんだ。ギルマスからしたって大歓迎だろう。
「そうですか。でも、納得して貰えたみたいで良かったです」
「それでね、交換条件ってことで、一つだけ依頼を請け負ってきたの」
交換条件だって? なんだか嫌な予感がするけれど……。
「その依頼とは、どんな内容ですか?」
「黄泉がえりの亡霊騎士の討伐よ。後でみんなに話しましょう」
黄泉がえりの亡霊騎士……。何て二つ名だ。死の淵から蘇ってきた、そんな印象を覚える。
「それって、ゾンビみたいな見た目の魔物ですか?」
「ゾンビ? ゾンビって何?」
「えっと、動く死体と言うか、身体が腐っているというか、そんなイメージなんですが」
ニーナは少し考え、口を開いた。
「身体が腐っているかどうかは分からないけれど、動く死体と言われればそうね。ギルドにはそのように登録されているわ」
■ □ ■ □
皆が揃ったところで、依頼内容についての説明が始まった。
ナレフの町から隣町への街道は大きく四本。北門から出てすぐに二本、南門から出てすぐに二本だそうだ。
今回は北門から出た街道のうちの一本に出現する魔物『黄泉がえりの亡霊騎士』の討伐だそうだ。
最初に大きな声で吠えたのはチェイスだった。
「黄泉がえりの亡霊騎士だって? 倒しても倒しても復活するから、討伐断念したっていう、あの?」
リージュとニーナはチェイスの大声に、不安そうな表情だ。
「依頼のランクは?」
「依頼ランクはC」
「じゃあ、手に負えないほどの状況ではない……と」
ミーナは大きく首を振る。
「ランクBのパーティが依頼受注なしで挑んで、討伐に失敗したみたい」
「それって……」
「えぇ、ギルド的には明確な規約違反。冒険者達には厳重注意で済ませたみたい。だけど、それまで亡霊騎士が倒されても倒されても蘇ることは分かっていたのだけれど、それだけじゃなく蘇る度に強くなると結論されたわ」
死ぬ度に蘇り、蘇る度に強くなる。それって、キリがないじゃないか。チェイスが髪をぐしゃぐしゃと掻きながら――
「じゃあ何か? 少なく見積もって、現在のランクはA。更に強くなっている可能性もある、と」
「えぇ、そうね」
ずっと黙っていたリージュ。きっと状況を冷静に分析していたんだろう。そのリージュがここで話に割って入った。
「これは辞退すべきでないでしょうか?」
視線がリージュの元に集まり、リージュは淡々と見解を述べる。
「私たち兄妹がランクC、ミーナさんもまだ現役の頃の感覚は戻ってないでしょうし、ニーナとキリトさんも経験がまだまだ足りません」
リージュは一人一人に視線を送りながら、状況理解を促している。
「それに、街道は封鎖されていたはずですから、これ以上犠牲者が増える心配もないということですよね?」
そこでベックがボソッと呟く。
「そこで、キリトだ。亡霊騎士を救えるはず」
チェイスも間髪入れずに同意する。
「実は、キリトは相手の魔力に何らかの形で干渉しているとオレ達は踏んでいる」
……するどい。『俺たち』とはチェイスとベックか。
「亡霊騎士の魔力を完全に消失させて根本から成仏させてやる、ってのが解決のポイントにならないか?」
確信があるわけじゃないけれど、オークやホーンラビットの経験から、僕のMPダメージは有効打になるとは思う。
「ですが兄さん、もし失敗したらどうするんですか? その予想が外れていたらどうしますか?」
確かにリージュの言う通りだ。人の命が掛かっているんだ。安易に同意できない。
(ねぇ、ナビさん。魔獣や魔物のMPって、少し離れたところからでも観測できるのかな?)
<<キリトの言葉で100メートルまで近づければ観測可能です>>
そうか。であれば、戦闘が始まる前に相手の様子を見て判断を下すことが出来るかもしれない。
「これまでの情報から推測したんですが、亡霊騎士はいつも同じ地点にいるんですよね」
「えぇ、その通り。亡霊騎士はいつも同じ場所にいるみたい」
「じゃあ、ギリギリまで近づいていみて、一度亡霊騎士を観察させて貰えませんか?」
チェイスが身を乗り出す。
「何か策があるんだな? キリト!!」
「策って程のものじゃないですが。もし、僕の手で亡霊騎士を救える可能性がありそうだったら、その時は協力をお願いします」
「おぅよ!! 亡霊騎士を倒すんじゃない。キリトを亡霊騎士の元へ届けるために、全力で援護する。これが俺たちのスタイルだ」
「オッケー! キリトのサポートに関しては、私が一番! それだったら任せなさい!」
ニーナに笑顔が戻った。
「なぁ、ミーナ。ギルマスはキリトについて、俺たちと同じ見解に達しているのか?」
ミーナが深く息を吐く。
「大丈夫。ギルマスは、そんなに色々考えるタイプじゃないわ。安心して」
「――フフッ。『英雄蹴り』か……」
あれ? 今、ベックが笑ったような。
ベックの様子に気付いていないのか、ミーナは続ける。
「あの人は面白いものに賭けるのが好きなだけ。『あの英雄を一蹴りで気絶させたという少年の力が、亡霊騎士に通じるのかみものじゃな』……なんて言って楽しそうに笑ってたわ」




