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攻撃力0の【救済者】〜魔物を殺さず『元の姿』に戻してたら、いつの間にか伝説級メンバーのリーダーになっていた件〜  作者: おとしごと


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001話 暴力嫌いの救済者

□001話


 部屋の照明を鈍く反射する短銃は、俯いて口角を上げる男の右手と左手の間で繰り返し跳躍している。


「暴力は暴力しか生まない! 争いはやめるんだ!」


 僕の信念の言葉は、静寂が支配する空間に虚しく響いて、男の心に熱量を伝播することもなく霧散。


 短銃が刻んでいた跳躍のリズムは、右手への着地で終わりを告げた。その重厚な金属塊は左右の手で包まれ、銃口はこちらをじっと見据えていた。


「今なら、まだやり直せるはずだ! どうすれば良いか、一緒に考えてみないか?」


 ――バァン


 無機質な破裂音、鼻腔をつく焦げた硫黄の匂い。冬の寒さで冷え切っていたはずの胸元が、じんわりと温かい。


 ――事態を把握しようと頭を働かせようとするが、理解を阻害するかのように視界が白色で埋まっていく。


 胸元に顔を向ける。視界の外側を埋めた白色、視界中心に映る燃えるような赤色。とある国の国旗を連想させた。


 世界中のどこよりも暴力の少ないはずの国。皮肉にも、僕はそんな国の国旗を連想しながら命の終焉を迎える。そして、次の暴力の火種になってしまったかもしれない。暴力は暴力しか生まないのだから――。


 ■  □  ■  □


「……って、あれ?」


 視界を埋めていた白い靄が、強烈な日差しの白に置き換わっていた。思わず目を細める。胸元を確認すると痛みも外傷もなくなっていた。


 目が日差しに慣れて気付く。強い日差しに映える深い緑の葉。そんな緑葉を携えた木々が周囲を埋め尽くしていた。所々に赤い果実が実り、強い生命力を感じる。


(ここはどこだ? 何が起きて僕はここにいるんだろう? それより……僕は死んでしまったはずでは?)


 足下には不規則に隆起した無骨な大地。大小様々な岩が大地から顔を覗かせている。自然の荒々しさは人の侵入を明確に拒んでいた。


 ――今、大地が震えた


 僕の勘違い? いや、違う。辺り一帯に、膝元程の高さの土埃が舞っている。地震にしては短時間の揺れだった。


「ブオォォォォォォ!!」


 思わず両手で耳を塞ぐ。鼓膜を破らんとする程の耳をつんざく醜悪で威圧的な咆哮。生で遭遇したことはないが、熊か、虎か……いずれにしても野生動物が近くにいると言うことらしい。


「――しますか?」


「――するぞ!」


 いや、咆哮だけじゃない。鬼気迫るような人の声も聞こえる。僕は先程の咆哮で足が竦んでいるし、両手は血の気が引き氷のように冷たくなったままだ。


 声のする方から逃げるべきか、あるいは近づくべきか。野生動物が巣くい人里の気配もないこの場所で、一人で生還できる自信はない。なら、やるべきことは一つだ。


 僕は声のする方に近づいていく。ようやく人の姿が見える程度まで近づけた。遠目で良く見えないが人と化け物が争っているように見えた。


 身を隠しつつ、更にもう少し近づいてみた。


 人間側は三名。一目見た印象はゲームの世界の服装をコスプレしたような身なりだ。二名は剣を構え、一名は杖を持っていた。その表情や会話から必死さが滲み出ている。


 相対する化け物は、まさしく化け物と表現するしかない生き物だ。人の背丈の二倍弱という巨躯に、豚のような顔を持ち、あえて表現するならオークだ。


 オークなんて、人が想像した生き物なんじゃなかったか。そんな生物がこの世界にいるなんて話は聞いたことない。


 それに、あいつが手にしている棒は何だ。人の胴体の3倍はあろうかという重量級の棍棒だ。それをあんなに軽々と右へ左へと高速で振り回して……。あんなもので叩かれたら人間なんてペシャンコに潰れてしまうだろう。


 人間達は距離を取りながら戦っている。賢明な判断だ。


 ――胸元に手を当てると、赤い温もりが鮮明に思い出される


「……暴力は暴力しか生まない……」


 僕の意思とは裏腹に、言葉が勝手に零れ落ちてきた。あんなことがあった後でも、僕の考えは今も変わっていないらしい。それに、気がつくと走り出していた。


 まさか、自分の独り言や身体に「争いを止めて来い」って促される日が来るなんて思いもしなかった。


 僕のいた位置から近いのはオークだった。人間達はオークを挟んで反対側。僕が立ち止まったのは、オークの足下。既に手で触れられる距離にいる。


 オークの注意が人間達に向いていたため、気付かれなかったのは不幸中の幸いだ。


 そこで、汗の匂いと強烈な腐敗臭が鼻をつく。むせそうになるが何とかこらえる。


 ボタボタボタ――。赤い、何かが落下するのを、僕の視界が捉えた。――あれは血だ。


 血の出どころを探ると、化け物の腕の深い剣創だった。赤黒い血が、どくどくと流れ続け、地面へとしたたり落ち続けている。


「……っ、ひどい傷だ。こんなに深い傷が……。痛かったよね。怖かったよね」


 どちらが善で悪なのかは分からない。だが、争いを始めてしまってはこうなってしまうのだ。

 

「もう、大丈夫。大丈夫だから」


 思わず口から言葉が溢れた。そして、オークの巨躯に触れる。


 すると、手の平から白い光が溢れ、頭の中に声が響いた。


<<システム。魔物に対する人類最初の慈愛、救済の御心を確認>>


<<『救済者』として認定。MPダメージを獲得。オークにMPダメージ1を与えました>>


「なんだ? この声は?」


 戸惑う僕を置いてけぼりにして、事態は進行する。オークの身体が淡い光に包まれた。そして、足元から徐々に光となって、大気に溶けていくのだ。


「あれ? 何で消えていくの? 僕は君に害を加えるつもりは無かったのに……」


 身体が完全に溶けて無くなる直前、オークはこちらへ顔を向けた。


 先程まで剣士達と戦っていたときには見られなかった、安心に満ちた表情に見えた。


(え? あ、りが、とう?)


 オークの気持ちが、頭の中に流れ込んできたように感じた。僕は彼を救う事ができたのだろうか?


「た、助かったぁ」


 気が付くと前方で杖使いの女の子が地面にへたり込んでいた。


「あんた、ありがとう。助かったぜ!」


 剣士たちがこちらに駆け寄ってくる。


 僕は手に残るかすかな温もりを見つめる。


「……ただ、争いごとを止めたかっただけなのに……」

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