部活動紹介
翌日。
教室は騒がしかった。もちろん俺は誰とも話していないけど……。
自分の席に座っていると短い黒髪に整った顔立ちの女性が入ってきた。担任の花蓮先生である。
「みなさん静かにしてください。ホームルームを始めますよ」
先生の一言で教室は静まり返った。
「本日は体育館で部活動と委員会の紹介を行います。9時10分からスタートできるように5分前には綺麗に出席番号順に整列しといてください」
「何部に入る?」や「私はバドミントン部に入りたいな」など様々な声で教室がうるさくなった。
すると東雲さんが後ろを向き俺に話しかけてきた。
「隼人くんはなんか部活入るの?」
「特には……。帰宅部でいいかなって」
「えー!?そんなのもったいないって」
「でも入りたい部活とか特にないし……」
この学校は文武両道を掲げてるらしいけど俺は部活に入るつもりなんてなかった。
「ならさ・・・・私と一緒に軽音楽部入らない?」
東雲さんは俺なんかを誘ってくれているのだ。
「考えておくよ……」
はっきりと答えられなかった。実は俺だって昔にベースを父の影響でやっていた。だけどあの日を境に辞めってしまったんだ。もう今更やるなんて……。
♢♦︎♢♦︎
俺たちは体育館に集まった。全員が整列し終えると短髪で爽やかな生徒が話し始めた。
「新入生のみなさん、ご入学おめでとうございます。海名ヶ丘高校43代目生徒会長の小野枝拓馬です。今回は皆さんの時間を少しお借りして委員会と部活動の紹介を行いたいと思います。私が準備はいいですかと言うので『おーー!!』と元気よくお願いします」
そういうと生徒会長はマイクを置いて大声で言った。
「みなさん、準備はいいですか?」
「おーー!!!!」
大きな声が体育館に鳴り響く。紹介の始まりである。
「改めまして、生徒会長の小野枝です。生徒会では主に生徒が学校生活を楽しく送れるようにするために活動しています。そしてなんとクリスマスにはツリーの点灯式も行います。生徒会に入れるのは1年生の後期からですが、楽しいので是非入ってみてください」
そして次から次に委員会紹介が行われた。
「次に部活動紹介です」
生徒会長の一言で体育館は熱気の渦に巻き込まれた。楽器を持った人が大勢出てきた。おそらく吹奏楽部だ。
「みなさん初めまして、海名ヶ丘高校吹奏楽部、略して海吹です。本日はみなさんに合奏のプレゼントがあります」
そういうと黒髪でスーツをきた顧問の先生らしき人が指揮台に立った。先生が指揮をふると合奏が始まった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
曲の名は『新世界より』。ドヴォルザークが故郷のチェコを思い作曲された曲だ。
圧巻の合奏に俺を含めて、みんな心を奪われていた。
「ありがとうございました」
吹奏楽部の紹介が終わると野球部、サッカー部、……と次々に紹介が始まる。そして軽音楽部の番がやってきた。
「軽音楽部所属のgrantsです。今回はmiraiの君へのエールを歌わせていただきます」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
演奏が終わっても俺の耳にはgrantsの演奏が頭から離れなかった。
軽音楽部が終わり、部活動紹介は幕を閉じた。
♢♦︎♢♦︎
教室に戻ると部活動の話があちらこちらから飛び交った。
すると東雲さんが緑髪の少女を連れてきた。その少女は大きいクッキーを口に咥えていた。確か名前は渡邉翠さん……。
「隼人くん、さっきのことなんだけどさやっぱ軽音楽部入ろうよ!!私、翠ちゃんとバンド組むことにしたの。だからさベースやってくれない?」
「へっ?」
俺がベースをやってたなんて言った覚えがない。なぜ東雲さんがそのことを……。
「なぜ知ってるのって顔してるね。だって隼人くんさ、軽音楽部の演奏を見てた時ずっとベースの方を見て指を動かしてたでしょ?無意識だったかもしれないけど体に染み付いてるんだよ」
全く気づいていなかった。無意識だったとしても、もう俺はベースをやりたくないんだよ……。
俺の暗い顔を見て察したのかそれとも気まぐれか。
「クッキー食べる?」
「えっ?」
急に渡邉さんに話かけられて驚いた。
「甘いもの食べたら少しは軽音楽部に入りたくなるかなって、買収ってやつだよ」
渡邉さんはドヤ顔でそんなことを言うので俺は「ふふ」と笑いをこぼした。
「隼人くんがベースになんか辛い思い出があるのは見てたらわかるよ。だけどね、本当はやりたいって思ってるんじゃないの?もしやりたいと思ったら明日の仮入部、一緒に行こ!」
そういうと東雲さんは渡邉さんと話しながら別の人のところへ行った。
しばらくすると渡邉さんがササササと俺の席にきてクッキーを机に置いてくれた。
「忘れてた」
一言だけ言ってササササと走り去って行った。
俺はそのクッキーを袋から出して口に入れる。
「甘い」
俺はその一言だけをつぶやいた。
♢♦︎♢♦︎
白雲家。
俺は家に帰ると自分の部屋に行き、ベースを前に置いて座った。
「開ける、開けない、開ける、開けない、開ける、開けない」
「うるさい」
姉ちゃんがノックもせずに俺の部屋に入ってきた。声に出てたらしい。
「開けるの?はやとがやりたいなら私は応援するよ」
そう言って姉ちゃんは部屋から出ていった。
俺は姉ちゃんにそう言われて決心がついた。そしてチャックに手をかけ、カバーを開けた。
ベースは全然手入れをしていなかったが、すごく綺麗な状態だった。
俺はベースを手に持ち、少し弾いてみた。
その音は部屋中に響き続けた。




