答え合わせといきましょう
白月です。
本日も読みに来てくださって、本当にありがとうございます。
それでは、本編をどうぞ。
「君は……君が、協力者なのかい?」
「はい、そうですが」
たった一度の問答。
アイは何の躊躇いもなく、僕の問いかけにそう答えた。実際、躊躇も、隠しているつもりもなかったのだろう。
だけどその肯定は、僕にとって考えうる限り、最悪の返答だった。
アイが、協力者。否定しようもないほど、本人から肯定されてしまったその事実。アイは冗談を言うような子じゃない。まだ長いとは言えない付き合いだけど、これまでの旅で、アイの真っ直ぐさは知っている。純粋で、無垢で、合理的で、だからこそ誰よりも周りを見ている。誰かのためとか、自分のためとか、そういうのすらまだ知らないからこそ、誰よりも単純に、残酷なことを出来てしまう危うい子。
アンドロイドだからとかじゃない。アイが誰よりも幼いからこその、行動理論。普通の子供だって、単純な好奇心で誰かの大切なものを傷つけてしまえる、そんなどこまでも純粋な、悪意ですらないそれ。そしてアイは普通の子供と違って、まだ心を、感情を知らない。実感できていない。
だからこそ、好奇心の向く先は他人の感情の動きなんだと思う。それを理解するためならばきっと、アイはどんなことだって出来てしまう。だって、恐怖や躊躇すら知らないんだから。
そう、エルーミャの協力者にだって、なれてしまう。
エルーミャの言葉がどれだけ本当のことなのかは分からない。それでも、アイが認めた以上エルーミャの言っていた『頼れる協力者』はアイのことだ。だからさっきの爆発も、アイが起こしたものなんだろう。
僕は、どうするべきだろうか。
ここでアイに「なんで?」と聞くのは簡単だ。聞けばアイは素直に答えてくれるだろう。でも、そんなことをしたところで、何かが変わるわけじゃない。せいぜい僕の、信じられないと、信じたくないという無意味な叫びが少し落ち着く程度だ。アイを責めるのも論外だ。そんなことはしたくはないし、アイ自身に悪気がないのは分かっている。善悪の分からない状態で責めたって、理不尽に感じるだろう。
それに、既に引き返せないところまで来てしまっている。
大事なのは、今だ。見つめるべきなのは、現状だ。
アイはエルーミャの協力者だった。地上で実際に爆発が起こってしまった。協力者の存在に気づいているのは僕だけ。
その事実だけが、きっとこの状況において大切なこと。
正直なところ、僕自身まだ受け止めきれていない。それでも、現状から変化を起こさなければいけない。
だから僕は、口を開いた。
「その協力者関係、今からでも解消してほしい」
僕は、リィシェに協力を約束した。
だから、エルフの為にも、友のためにも、協力者の存在は明かすべきだ。
僕は、知ってしまったのだから。
――でも。
僕が、アイをこの旅に連れ出した。
僕は、アイが「心を知りたい」と望んでいることを知っている。
僕も、そうなることを望んでいる。
だから。
僕は友達に、アイのことを悪者だと思って欲しくはないんだ。
でも、実際にアイは協力者になってしまっている。これは変えようのない事実だ。
なら、協力者を辞めてしまえばいい。
協力者だったという事実を、隠してしまえばいい。
その事実を知っている僕が、言わなければいい。
僕が、悪者になればいい。
僕の言葉に、何かを考え込むアイ。
その数秒が、どうにも長く感じられる。
アイが顎に手を当てる。目を瞑る。開く。
そうして、言葉を紡ぐ――。
――その刹那。
アイの姿を、黒い何かが覆った。
「アイ! やっと会えたわ! 今朝ぶりね!」
やたらとテンションの高い黒い何か――もといフランが、アイに抱きつきながらそう言った。
「えぇ……」
僕はその微笑ましい光景を見ながら思う。
タイミングを考えてほしい。いや、ほんとに。
*
私がフールの提案に言葉を返そうとしたその時、横合いからフランに衝突されました。
幸い転ぶほどの勢いではなかったので、数歩分たたらを踏む程度で済みましたが。それから何故か抱きつかれ、「あぁ、あたしの癒し〜」といったよく分からない発言を繰り返しています。
そんなフランの後から、リィシェなど地上にいたメンバーが姿を現しました。おそらく、エルランドが呼んできたのでしょう。リーダーもいますね。フランへの用事は無事に済んだのでしょうか? まあ、爆発でそれどころではないでしょうが。
「フラン、地上で起きた爆発は大丈夫でしたか?」
「え!? あ、ああ、あれね。ええ、大丈夫っだったわよ。何も問題はないわ」
何をそんなに慌てているんでしょうか?
まあ、フラン自体は見たところ怪我も見られませんし、すぐにこちらに駆けつけられたところを見るに問題ないのでしょう。
「そうですか、この地下まで響いてきたので、人的被害も出ている可能性があるかと思いましたが」
「だ、大丈夫よ! 確かにちょっと危なかったけど、あたしの魔法で被害は最小限に収まったわ! ……だから、あたしは悪くないわ」
「? フランは悪くないですよね?」
「へ!? え、ええ! もちろんよ! あたしは何もしてないもの! ちょっとリーダーと遊んでただけで!」
「ナーウ……」
何故でしょうか? 話せば話すほどフランの動揺が大きくなっていきます。リーダーはそんなフランに対して呆れるように鳴いていますし。
先ほどの爆発の際、何かあったのでしょうか?
爆発といえば、結局爆発した原因は謎のままなんですよね。私が設置した爆裂球は、何かしら衝撃を与えないと作用しませんし。
その場にいたフランに聞けば何かわかるでしょうか?
そう思い、問いかけようと口を開くも、先にリィシェが言葉を発しました。
「二人とも、悪いが火急の事態でね。そこのエルーミャに問い詰めなければならないことがあるんだ」
まあ、それもそうですよね。
納得した私たちは会話を中断し、リィシェに対し肯定の意を込めて頷きました。
そういえば、フールの提案に対しての返答が済んでいませんが、どうすればいいでしょうか?
そう思い、フールを見つめれば、仕方ないと言うように息を吐いて、首を横に振りました。今は答えなくていいということでしょう。
その意図が伝わったことを首肯して伝えれば、私たちはリィシェたちへと向き直りました。
「さて、エルランドから話は聞いている。要求とは何かな?」
直球ですね。いつ爆発するか分からない以上急がざるを得ないということでしょうか?
私が実際に仕掛けた爆裂球は先ほど爆発した一つのみなのでこれ以上の被害はあり得ないのですが、それを知らない以上仕方のないことですね。何はともあれ、爆発が実際に起きてしまったこと以外はつつがなく状況が進展しています。
あとはエルーミャの目的であるルイス解放の要求を飲んでもらうだけですね。
「本当に、心当たりがないのニャね。お前らエルフがここまでクズだとは思わなかったニャ」
「君が私たちのことをどう思おうと構わないが、話を進めてくれるかな」
リィシェの毅然とした態度に、舌打ちをするエルーミャ。
エルーミャの、エルフに対する当たりの強さが表に出てきましたね。計画が順調に進行していることで、演技の必要が薄れたからでしょうか?
しかし、リィシェも動揺することなく話していますね。案外と早く本題に移ることができそうです。
そして、エルーミャが要求を突きつけました。
「要求はただ一つニャ。お前らが攫ったミャーの弟、ルイスを傷一つなく無事に解放することニャ!」
要求と共に、勢いよく指を突きつけるエルーミャ。今までで一番甲高く、手枷が軋みをあげました。
エルーミャの要求を聞いた反応はそれぞれでした。
小さくしかし確かに驚きの声を漏らす者。状況をあまり理解していない為か首を傾げる者。眉を顰める者。
そして、指を突きつけられたリィシェは、熟考するように瞼を落とし額に手を当てがっていました。
数秒の静寂。誰も動くことなく、情報を思考に落とし込み整理する時間。
それを最も早く終えたであろうリィシェが、一言。
「ふむ、なるほど。そういうことか」
そう呟きました。
静寂の中響く、その納得が視線を集めます。
態度から察するにこの数秒で、何かを理解したということでしょう。真っ先に考えられるもので言えば、エルーミャが子供を攫った理由、でしょうか? リィシェが、要求されたルイスに関して心当たりがあるのであれば考えられることです。しかし実際にリィシェがルイスを攫ったのであれば、最初から気づいていてもおかしくはないですが。だからこそエルーミャはエルランドの尋問に対して、心当たりがあるはずだと答えたのですし。ルイスのことに関して、リィシェだけが把握していて、他のエルフには隠していたということでしょうか? しかし、そうなるとリィシェが今ここで気づいたように装うのは不自然ですね。
つぶやいて以降黙ってしまったリィシェに対して、怒りを募らせた様子でエルーミャが一歩詰め寄りました。
「おい! なるほどって何だニャ! いいから早く解放するニャ! 爆発されてもいいのかニャ!?」
「それはできない」
「……は?」
「できないと言っているのさ」
あまりにもあっさりと告げるリィシェ。
つまり、リィシェは要求を飲まないと言っているのでしょう。これは予想外ですね。リィシェはオアシスに爆弾が仕掛けられているという嘘を疑っていないはずです。看破しているのであれば、ここにくる必要自体がないですからね。その状況において、攫った一人の獣人とオアシス全土の安全を秤にかけた場合、要求を飲むしかないだろうと思っていたのですが。
まさか、要求を蹴るとは。それほど、そのルイスという獣人が重要な存在なのでしょうか? もしくは。
そこで、もう一つの可能性に思い至ったであろう、エルーミャが愕然としました。それから、殺意すら剥き出しにして、リィシェへと問いかけます。歯の軋んだ音が、この地下に重く響きました。
「まさか。まさかお前。もう、ルイスに何かしたのかニャ? だとしたらお前。ミャーはもう、ミャーは……っ!!」
手枷に繋がれた鎖が宙へと張り、エルーミャのその手首が赤く滲み出しました。ポタリと赤く落ちたそれは、地下空間のせいもあってか、暗く澱んでいるように見えます。
リィシェが「できない」と口にした考えられる理由の一つ。エルーミャが口にしたように、ルイスが既に無事ではない可能性。あり得ないことではありません。今のところ、リィシェがルイスを攫う理由は不透明ですが、その理由にあたる部分に害さなければならない何かしらの要因が含まれている可能性は捨てきれません。
それにしても、エルーミャのルイスに対する執念は想像以上でしたね。まあ、わざわざここに単身で訪れていることから、想いが強いことは分かっていましたが。それでも、殺意を向ける程とは。私自身に対して向けられているわけではないので、正確なところはわかりませんが初めて見ましたね。目は充血し、瞬きを忘れ、おそらく手首から流れる血にも気づいていないのでしょう。それほどの執念。協力者にならなければ見られなかったでしょうか?
その殺意を正面から向けられているリィシェはというと、眉ひとつ動かしていませんでした。
それどころか、正面から見つめ返しています。
そうしてエルーミャへと返した言葉は、前提を覆すものでした。
「何を勘違いしているのかな、エルーミャ君。私は、そのルイスという人物を認知していない。勿論、攫ってすらいない」
「は?」
「だからこそ、解放など出来はしないのさ。そもそもそんな人物はこのオアシスに存在していないのだから」
「な、何を言ってるニャ! そんなはずはないのニャ! だって、ルイスは、エルフに攫われたって……!」
「誰からそれを聞いたのかは知らないが、これは単なる事実さ。このオアシスに、君以外の獣人は存在していない」
茫然自失。そんな様子で、ただ首を振り続けるエルーミャ。
それを見て、私は。
「やはりそうでしたか」
「――え?」
想定していたこの現状に、ただただ納得を示しました。
私の言葉に、視線が集まるのを感じとります。
「ど、どういうことニャ? お前、何か知ってるのかニャ?」
首を振り、何かを否定し続けていたエルーミャが、こちらを見つめそう問いかけました。
その顔に映っているのは、多大な困惑と、私に縋るような、そんな感情です。前半の困惑に関しては、おそらくこの場にいる全員が私に対して抱いているのだと、理解します。
私は答えます。
「どういうことも何も、考えられることです。私がこの大樹内を貴方の命令で探索していた結果、ルイスという獣人は見つかりませんでした。隠されているような場所すらも」
「アイ! 辞めるんだ!」
私の言葉に、エルーミャの協力者の正体を察したであろうリィシェが、驚愕に目を見開きました。
それを見て、何故かフールが私に対して制止をかけて来ます。
今この状況に至って、協力者の存在などもはや些事でしょう。そもそも前提からして食い違っていたのですから。それに、一番早く私が協力者だと気づいたにも関わらず、明かさない理由がわかりません。
「待て、アイ君。その口ぶりだと、君がエルーミャ君の協力者のように聞こえるのだが」
「リィシェ! 違うんだ、アイは!」
「フール君、私は今、アイ君に聞いている」
ただ淡々と、リィシェがそう問いかけてきます。
リィシェの言葉で、その可能性に思い至ったエルランドやフランも驚きを浮かべました。その後フランは小声で「協力者って何かしら?」ともつぶやいていましたが。尋問の場にいなかったはずのリィシェが知っているのに、何故フランは知らないのでしょうか?
そんな疑問を抱きつつも、私はリィシェの問いかけに首肯で返します。
それを見た、リィシェは一言。
「……そうか。それについて詳しい話はあとで聞かせてもらうとしよう」
「えっ?」
「分かりました」
リィシェも今その話をするべきではないと判断したのでしょうか。素直に頷いて、受け入れました。私としても有難い対応ですね。何故かフールは驚いていますが。先ほどから何がしたいのでしょうか?
それから、リィシェは顔つきをより一層真剣なものにして、付け加えるように私に問いかけました。
「それで、アイ君は何かを知っている様子だが、話してもらえるのかな?」
「はい」
さて、答え合わせといきましょう。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
投稿は引き続き、出来上がり次第当日22時頃を予定しています。
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それでは、また次の旅路でお会いしましょう。




