私、持ってますね
白月です。
本日も読みに来てくださって、本当にありがとうございます。
それでは、本編をどうぞ。
「ミャーの協力者にならニャいか?」
目の前の獣人、エルーミャがそう言い私へと笑いかけます。
協力者という目新しい響きに、意識の内で反復しつつも、エルーミャへとその概要を問いかけます。一度呆れたような視線をこちらへと向けた後、エルーミャはその顔つきを真剣なものへと変化させました。
内容がどんなものかにもよりますが、エルーミャが私を協力者という立場に勧誘することから、いくつか推測できることがありますね。
まず一つ目は、エルーミャは未だ諦めていないということ。それがここから脱出することなのか、再びエルフの子供を攫うことなのか、それとも第三の目的の為なのかは分かりません。それでも、ただこの状況を受け入れるわけではないのは確かでしょう。受け入れる気でいるならば、私にこのような提案はしないでしょうから。
二つ目は、今エルーミャは何らかの目的の為の人手が足りていないということ。そもそもとしてエルーミャ本人が捕まっている以上、他に仲間がいたとして、行動を把握することは難しいでしょう。そして、エルーミャ自身の解放ではなく、協力者を願ったのは、エルーミャだけでは遂行できない何かがあると見るべきです。エルーミャに仲間がいるのかは分かりませんが、私に頼ることが選択肢として浮かんでいる程度には困っているのでしょう。
そして三つ目。エルーミャの発言から、エルフ側ではない私だからこそ協力者に選んだということ。当たり前とも言えることですが、敵対しているエルーミャからすれば、これこそ重要なことなのでしょう。おそらく、この場にいたのがフールであれば、エルーミャはこのような提案をしなかったと思われます。エルーミャを捕えた時にも垣間見えたエルフに対する恨みは、それだけエルーミャにとって根深いという証左でもあります。その恨みの根源が、今回の協力者という提案にどのように関係しているのかは分かりません。ですが、一切関係が無いということはないでしょう。
これら三つを踏まえて、エルーミャは私に何を求めているのでしょうか?
私に遂行できる範囲の事柄であれば良いのですが、聞いてみないことには分かりませんね。
やがて、エルーミャが口を開きました。
「お前には、今からこの大樹内を探索してほしいのニャ」
ふむ、要はエルフの内部調査というわけですか。それならば私にも簡単に行えるでしょう。警戒されているエルーミャに比べれば余程。
「目的は何でしょうか?」
「人を、探してほしいのニャ」
「人、ですか……」
ここでいう人とは、特定の個人を指しているのでしょう。つまりエルーミャの本当の目的は、その人物を見つけること。もう少し踏み込めば、ここからその人物を連れ出すことという可能性もあり得るでしょう。
しかし、その理論で行くとエルーミャの目的は攫われていたあの子供達ということになるのでしょうか? 当時はそこまで子供たち自身に対する執着は感じられませんでしたが、何か特別な事情でもあるのでしょうか?
「あなたが攫っていた子供たちのことでしょうか?」
「違うニャ。あの子達を攫うこと自体に意味はなかったのニャ」
「それならば、あなたが目的としている人物の特徴を教えてください。知っていなければ探しようもありません」
「お前でも、見ればすぐにわかると思うニャ」
「と言うと?」
私でも見ればわかるとはどういうことでしょうか? 私の知っている人物はここにそう多くはいませんが。私と訪れた二人は除外するとして、エルフの知り合いと言えるのは、リィシェ、エルランド、キャシィくらいのものです。その三人の中に目的の人物がいたとして、エルーミャが誰を目的にしているのかなど検討もつきません。唯一、リィシェとエルーミャが対面している場面を見てはいますが、それもごくわずかな時間です。
エルーミャが目的とする人物に対して、何かしらの恨みを抱いている可能性がある以上、リィシェも候補から外すことはできませんね。
エルーミャに付けられた手枷が鳴りました。見ればそこには、血管が浮かぶほど強く握られた拳。
それから一度呼吸を挟み、拳を解いていくエルーミャ。
顔の強張りを解き、私の問いかけに答えました。
「お前には、ミャーの弟を探してほしいんだニャ」
なるほど、そう来ましたか。
それであれば、私がその人物と面識があろうが、なかろうが関係ないと言えるでしょう。
エルーミャの弟。つまりそれは、このエルフの領域において、いる筈のない獣人ということになります。
「しかし何故、ここにあなたの弟がいるのでしょうか?」
「簡単だニャ。エルフの奴らが攫ったのニャ! そうでなきゃ、弟がこんなところに来る理由なんてないのニャ!」
エルフが、エルーミャの弟を攫った、ですか。
ようやく合点が行きましたね。エルーミャが子供たちを攫った理由としてのあの発言。エルフなら理解できると言っていたあの意味が、ようやく分かりました。
エルーミャの発言が正しいのであれば、エルフはエルーミャの弟を先に攫ったということになります。今回のエルーミャの騒動は、弟を攫われた仕返し。それに加え、攫った子供達を利用し、弟を取り戻そうとしたのでしょう。
それに、今にして思えばエルーミャが拘束された際の言葉も、それを指していたのだと分かります。
”今すぐ、解放するニャ。さもなくばミャーは、貴様らエルフを未来永劫許さニャい……!”
この解放という言葉。あの時はエルーミャ自身のことを指しているのかと思いましたが、弟のことを言っていたのでしょう。あの時のエルーミャからは捕まった焦りよりも、エルフに対しての恨みのようなものの方が大きいように思えましたからね。
「つまり、私はエルーミャの弟を探し出す、あるいは捕えている場所を割り出せば良いわけですか」
「そういうことだニャ」
「なるほど、分かりました。協力者になりましょう」
「ホントかニャ!?」
「本当です」
私としてはわざわざ嘘をつく理由がありません。
とりあえず内容としては私にも達成できそうですし、エルーミャの目的も聞くことができました。そのうえで、協力者という立場を経験できるのであれば断る理由もないでしょう。
しかし、エルーミャの弟がこの地下牢に捕えられていないのは少し不自然に思えますね。この地下牢は立地的にも捕まえておく分には有用だと思うのですが、わざわざ分ける理由でもあるのでしょうか。
「エルーミャ、私が見つけられなかった場合はどうするのですか?」
「脅すニャ。ミャーは最悪どうなっても良いニャ。ただルイスだけは、弟だけは何をしようと無事に解放させて見せるのニャ」
脅しですか。確かに有効な手段の一つですね。
それと、ルイスというのが弟の名前ですか。思わぬところで情報を得ましたね。
「具体的にはどうするのですか?」
「このオアシス内に爆弾を仕掛けたとか言えば良いのニャ」
「仕掛けているのですか?」
「いや、そもそも爆弾なんて持ってきてないニャ。でも、そこはミャーの言葉で疑わせれば良いのニャ。可能性が少しでもあると思わせれば、エルフ共も無視はできないはずニャ」
想定以上に雑な作戦ですね。せめてそれらしきものがあれば信憑性が上がると思いますが。
実物をエルーミャが持っていないとなると、少し厳しいでしょうか? ふむ? 爆弾、ですか。そういえば……。
私は自身の荷物を漁ります。そう多くの荷物は入っていないので、すぐに目的のものは見つかりました。
手にしたのは半透明の赤い球体。手のひらに収まる大きさで、表面はつるりと光沢を放っています。
私、持ってますね。
ハントでリィンという少女から買い取ったそれの名前は爆裂球。大蛇の魔獣であるメティスとの戦いで役立ちました。あの時のものは威力が数倍強いものではありましたが。
ふむ、これは使えるのでは? むしろ、使わない選択肢があるでしょうか?
「エルーミャ、私爆弾持ってますね」
「は?」
「ですから、私今、爆弾持ってます。これです」
私は手に持っている爆裂球を見せつけるように、エルーミャへと差し出しました。
何故かエルーミャは口を開いたまま固まっています。まあ、視線は爆裂球に向かっているので問題ないでしょう。
とりあえず、このまま爆裂球に関しての説明を行なってしまいましょうか。それを説明すれば作戦に対する有用性も自ずと理解できることでしょう。
「この爆裂球は、爆裂大根という植物から作られています。元の植物としては地中から引き抜く時点で爆発を引き起こしますが、この爆裂球は強い衝撃を与え、外殻にヒビを入れた時点で爆発するようになっています」
「え、ちょっ?」
「そうですね。具体的には最低限勢いをつけて投げる程度の衝撃は必要でしょう。足で踏む程度ではヒビは入りませんので。なので、作戦に流用するには打って付けですよ?」
「ちょ、ちょっと待つニャ!」
「何でしょうか?」
私が説明していると、エルーミャが何故か慌てたようにストップをかけました。
何か説明に至らぬ点があったでしょうか? 極力要点を絞って説明したつもりでしたが。
「な、なんでお前。爆弾なんて持ってるんだニャ!?」
「護身用ですが」
「な、なるほど?」
「ああ、安心してください。私はこれを使って、一国の王を脅し、要求を飲ませた実績があります。しっかりと有用ですよ」
「それホントに護身用なのかニャ!?」
「そうですが」
何をそんなに驚いているんでしょうか? それも、今更な問いかけばかりですし。
私としてはそんなことよりも、この爆裂球をどこに配置するのが効果的かについて話し合いたいのですが。
勝手に爆発するものではない以上、基本的にどこにおいても構わないでしょう。そうなればある程度人目につく場所に一つ置いておけば十分でしょうか? 実際に爆発させる必要はありませんからね。エルーミャも言っていたようにそれが実際にできると思い込ませられれば良いのですから。
「それで、この爆裂球はどこに設置しましょうか?」
「な、何でもう設置することが確定してるのニャ?」
「しないんですか?」
「……それ、ホントに勝手には爆発しないんだニャ? 万が一にも弟を巻き込むなんてことにはならないだろうニャ?」
「はい。ここに来るまでの旅路で、勝手に爆発するようなことにはなっていません」
「なら、するニャ。脅しの信憑性はその分上がるからニャ。設置場所も、お前に任せるニャ。弟を絶対に巻き込まないと言える場所で、且つ、ある程度目立つ場所ならどこでも良いニャ」
「分かりました」
ふむ、これで行動指針は定まりましたね。早速行動に移りましょう。
ただ一つだけ、懸念点があります。エルーミャの弟が先にエルフによって攫われたという話。エルーミャはそれによって今回の騒動を起こしましたが、どうにも引っ掛かりますね。
エルランドがこの騒動を神隠しと呼んでいることから、過去に同じようにエルフが拐われているという事実。そして、エルーミャは今回の騒動が初犯とみて間違い無いでしょう。
ならば一体、過去の神隠しは、誰が行なったのでしょうか?
その真相を探るためにも、まずは協力者としての役目を果たすことにしましょう。
それから三時間掛け、特に成果の得られなかった私は明日行われるであろう尋問に対してエルーミャと話し合った後、フールたちの元へと戻りました。
何故か翌日の朝に「お説教」というものを体験することになりましたが。
*
ふむ、おかしいですね。
現在、フールとエルランドと共に、エルーミャへの尋問、もとい前日にエルーミャと打ち合わせた茶番劇を終えたところです。しかし決まりきった流れの中で、私にとって想定外の出来事が二つも生じています。
まず一つ目は、先ほど地上から鳴り響いた爆発音。
音からして、間違いなく爆裂球によるものでしょう。それもおそらく私が昨夜、広場の外れに仕掛けた爆裂球だと思われます。
しかし、爆裂球はその性質上、強い衝撃を加えなければ作用することはありません。
つまり、何かしらの外的要因がなければ起こり得ない事象です。爆発のタイミングが今回は脅しとして最適な働きをしたものの、一歩間違えれば真逆の働きをしていた可能性もあり得ます。
この件において、真に想定外だったのは、得体の知れない赤い球にそれほどの衝撃を与える危機感のない人物がいたということでしょう。
まあ、この件に関しては想定できなかった私にも問題はあるでしょう。
そして二つ目ですが。
先ほどから何故フールはこちらを凝視してくるのでしょうか?
視線から推測される感情は主に、戸惑いや否定、不信に信頼と、本来同居し得ないものまで入り混じっているように思えます。
謎ですね。その混在した感情もですが、そもそも何故こちらを凝視しているのか自体が謎です。
先ほどの爆発音よりも私に注目すべき何かがあるということでしょうか? 私は自覚していないのですが。
その時、フールがふと口を開いて、私に問いかけました。
「アイ、僕はきっと、今から君におかしなことを聞くと思う……良いかい?」
「よくわからない問いかけですが、別に構いませんよ」
何故か、フールの声は震えていました。
その震えたままの口で、私へと再び問いかけます。
「君は……君が、協力者なのかい?」
「はい、そうですが」
淡々とそう返せば、何故かフールは驚きと共に、悲しげな様子で目を伏せました。
……ふむ、これはあれですね。フールに時折訪れる発作というやつです。
何故か固まっているエルーミャの方は、見当もつきませんが。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
投稿は引き続き、出来上がり次第当日22時頃を予定しています。
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それでは、また次の旅路でお会いしましょう。




