えっと、ごめんなさい
白月です。
本日も読みに来てくださって、本当にありがとうございます。
それでは、本編をどうぞ。
どうしよう。アイが可愛くて仕方がないわ。
ええ、分かってるわ。何をそんな当たり前のことを今更、と言いたくなる気持ちも。だってあたし自身そう思っているもの。でも言わずにはいられないじゃない。
だって、あたしが朝起きて目を開けたら隣で寝てたのよ!? 隣で! しかも、あたしが起きたと分かると「おはようございます、フラン」って! 思わず叫んだ過去のあたしは悪くないわ。今のあたしが許すもの。
それにしても何故あの時、アイを抱き枕にしていなかったのかしら。いいえ、というよりも、昨夜アイが帰ってくるまで睡魔なんかに負けずにいれば……!
まあ、悔やんだって仕方ないわね。次の約束はしっかりと取り付けたのだから問題ないわ。
そんなことよりも。いいえ、決して「そんなこと」ではないのだけれど。それはひとまずおいておくとして。
何であたしは一人でこんなところに立たされているのかしら? ここ、大樹の前の広場よね? 何であたし一人なのよ。
一緒についてきたリーダーはどこかに行っちゃうし、あたしを呼び出したリィシェは姿を見せないし。何よりアイと別行動!
朝のあれが無かったら耐えられなかったわよ? まあ、仕方ないわね。勝手にどこか行くわけにもいかないし、アイの可愛いところでも思い浮かべながら待ってようかしら。
「待たせてすまなかったね、フラン君」
「何だ、来たのね」
「おや、来ない方が良かったかい?」
「いえ、問題ないわ。それで、用件は何かしら?」
何よ、間が悪いわね。せっかくアイの可愛い場面をランキングしようと思ったのに。
でも用件が済めばすぐに会えるのだから問題ないわね。さっさと済ませてアイをなでなでしましょう。
「うん、万が一に備える為にも把握しておこうかなと思ってね」
「把握? 何をよ?」
「君の魔法についてさ」
「っ!?」
思わず後ずさったあたしは悪くないと思う。
だって、あのリィシェよ? あたしの魔法の存在を知るや否や、あたしに迫って抑揚のない声で「逃がさない」とか言い放ってきたのよ?
うん、あたし悪くないわね。普通にリィシェが悪いし、逃げ出さなかったあたしは褒められるべきだわ。アイ、褒めて? ……いないんだった。
「そう怯える必要はないよ。今回に限っては実際に見てみたいというだけだからね」
「……今回に限っては、ね」
「……」
「なんか言いなさいよ!? 逃げるわよ!? 良いの!?」
「いや、意味もなく嘘をつくのは良くないことだろう?」
「分かった、逃げるわ」
「まあ、待つんだ」
「嫌よ!」
くっ……案外力あるわね。でもあたしは負けないわ。アイと一緒にマギアで幸せに暮らすんだから……!
あ、ちょ、そんな引っ張らないでよ! このローブ高いのよ!?
くっ……こうなったら仕方ないわね。最終手段よ。
「あー、もう! 分かったわよ!」
「おや、ようやく分かってくれたか。嬉しいよ、フラン君」
「あたしの代わりにフールをあげるわ! それで手打ちにしましょう。あれで案外使えるわよ?」
「いや、それは要らないかな」
「使えないわねっ!」
まさか、ここまで往生際が悪いだなんて思ってなかったわ。何を食べたらこんなに頭が固くなるのかしら? 石? 食べてそうね、自然をどうこう言ってる変態エルフ、それもその族長だもの。
そう脳内で、あたしを逃さんと引き留める奇妙な生命体の考察をしていた時。
「何、してるんですか……? 族長」
震えた声が届いた。
振り向けばそこには、唯一このオアシス内でまともな感性を持っているであろうキャシィがいた。
あたしは思ったわ。勝った、と。
だってそうでしょう? あの変態エルフの妹でありながら、土に埋まることをみっともないと言い放った守られるべき精神性を持つ唯一のエルフなのよ? 真逆の精神性を隠し持っていそうなこのリィシェなんかとは違うのよ?
そして、族長たるもの民の意見には耳を傾けるべき。つまりキャシィが止めに入ればあたしは勝てるっ……!
勝ったわ。完全に。
「やあ、キャシィ君。君も手伝ってくれないかい? フラン君が強情でね。外でしか見られない魔法を中々使ってくれないんだ」
「外でしか見られない……分かりました! 手伝います、族長!」
「え、ちょ、キャシィ!?」
「フランさん! お願いします! 外の魔法、見せてください!」
う、嘘でしょ? まさか、キャシィがそっちにつくだなんて……!
「さぁ、フラン君。もはやこちらの優勢は揺るがない。見せて貰おうか、君の魔法を」
「フランさん……!」
「くっ……」
余裕綽々といったリィシェの顔がこっちを見ている。とてもムカつくわ。
そして追撃と言わんばかりの期待に満ち溢れたキャシィの視線。何て眩しくて純粋な視線なのかしら。あたしがこういうのに弱いと知ってやってるのだとしたら恐ろしいけれど、おそらく天然ね。
リィシェだけなら何も問題なかったのに……。手強い、手強すぎるわ。キャシィ……!
あたしがその眩さに灼かれそうになっていると、リィシェの表情がふと真剣さを取り戻した。
「フラン君。どうしても駄目かい? 勝手なこちらの事情なのは分かっている。それでももし君が今回の騒動で協力てくれるという、その言葉を都合よく考えても良いのなら。その君の魔法で、皆を守って欲しいんだ」
「族長……」
「お願いだ。改めて、私たちに協力して欲しい」
何よ、急にしおらしくなって。頭まで下げちゃって。
仮にも、エルフの族長なんでしょ? それなのに何であたしに。あたしの魔法は花を咲かせるだけだって知ってるくせに。
それなのに、なんで。
「私の友人が、君に助けられたと。そう言ったからだ」
心、読むんじゃないわよ。
それに友人って、フールのことでしょ? まだアイツと会ってそんなに経ってないし。あたし、アイツに何にもしてあげられてないのに。むしろ、あたしが……。
あー、もう!!
なんかだんだん、ムカついてきたわ! 何であたしが心の中でフールに感謝しなきゃいけないのよ!
あたしより先にアイの頭を撫でた分際で! それにリィシェも何なのよ! さっきまであんなだったのに、いきなり族長らしくなって。
ほんと、あたしがバカみたいじゃない。
「……なさいよね」
「ん? 何か言ったかい、フラン君」
「だ・か・ら・そういうことは早く言いなさいって言ってるのよ!! あんた、あたしの魔法で皆を守って欲しいなんて今まで一回も言ってなかったじゃない! あたし、それを知ってたら、もっと……」
「なるほど……つまりフラン君はツンデレということか」
「はぁ!? 何言ってんのよバカ!?」
あ、あたしがツンデレとかそんなことあるわけないじゃない! だってあれよ? ツンデレといえば素直になりきれず無駄に色々と拗らせた、拗らせの究極生命体のことよ? あたしがそんな愚物であるはずないじゃない。
「キャシィ君、これがこのオアシス内では中々見かけない、つまり外でしか見かけないツンデレというやつだよ。この機会にしっかりと見ておくと良い」
「ツン、デレ……!!」
「本当に何言ってるのかしら、このエルフ共!? ていうかキャシィ、あんたね。外ってワードに騙されてるのか知らないけど、このバカエルフの言うことは基本信用しない方が良いわよ」
「何ともひどいことを言うね。私はただ、キャシィ君の知的好奇心を満たす手伝いをしているだけだと言うのに」
「その純真さをあんたが汚してるのよ、現在進行形でね」
はぁ……ほんと、何でこんなことで疲れなきゃいけないのかしら。早速朝のアイ成分が無くなりそうだわ。早く補充しなきゃ。
そうとなれば、さっさと魔法使って合流しましょ。
あたしが広場に向かって箒を掲げれば、リィシェやキャシィも大人しくなった。
でも、咲かせるとして何が良いかしら。確かリィシェは皆を守るとか言ってたわね。なら、あれが良いかしら。
結構大きめの花だけど、広場の中なら気にする必要ないわよね。
目を閉じる。
口を開いて、音を紡ぐ。
「《これは、かつての創生の頃より地に満ちた、花々の記憶》」
詠うは、意味の無いただの絵空事。
「《幾度と枯れ果て、繋がれてきた、生命の灯火》」
そうだったら良いなっていう、あたしの願望。
「《記憶の彼方を彷徨う度、幾度も咲き誇り、自らを主張し続けた、その一輪よ》」
要はあたしの単なる格好づけ。
「《雨に打たれ、陽に灼かれてもなお、天を仰ぎ続けた、そのひとひらよ》」
それでも、あたしが憧れた御伽話の魔女のように。
「《花よ、我が力の下に咲きなさい》」
あたしは、紡ぎ、詠い、咲かせる。
その花の名前は――。
「ガーディア」
目を開けば、大樹を目前に、咲き誇る大輪。
七つの巨大な花弁が、傘のようにその顔を開き、内側にいるあたしたちに影を落とす。その様子を見て、あたしは胸を撫で下ろした。
良かったわ。この広場の大きさ的に大丈夫だとは思ってたけど、これだけ花が大きいとどうしても不安になるのよね。
だって軽くあたしの身長の倍はあるものね、この花。
まあ? このあたしが失敗するなんてことはあり得ないということね。それこそ絵空事だわ。
見事な花の咲き具合に、気分を良くしていると、後ろでリィシェが呟きを漏らした。
「まさか、これほどとは……」
ふふん。驚いてるようね。声まで震わせちゃって。流石はあたしね。
キャシィに至っては目を見開いたまま、固まっちゃったし。流石にちょっとやり過ぎたかしら? でもやれって言ったのリィシェだし、あたしは悪く無いわね。全部リィシェが悪いわ。
ということで、あたしは役目を果たしたわけだし、アイのところに行こうかしら? 良い加減癒しが欲しいわ。
「ん? リーダーじゃない。全く、あたしを一人にしてどこに行ってたのよ?」
「ンナーウ」
「それで、その赤い球は何なのかしら?」
リーダーが咥えて持ってきた赤い球。なんか既視感あるような気もするけど、何だったかしら?
ていうかリィシェたちはいつまで呆けてるのよ。良い加減正気に戻りなさいよ。
まあ、良いわ。今はそんなことよりせっかくやってきた癒しを得るチャンス。さぁ、リーダー、覚悟しなさい?
あたしは即座に近寄ってきたリーダーを抱き寄せる。お腹に顔を埋め、息を吸う。
これぞ、至高。あたしの求めていた癒しだわ……! それからしばらく撫でる。それはもう撫でる。
そうしてリーダーの体を余すことなく堪能したあたしは、リーダーに不満気に鳴かれた。ついでに、口に咥えていた赤い球を渡される。
「なるほど、リーダーも所詮は猫ね。良いわよ、あたしがボール遊びに付き合ってあげるわ」
「ニャーヴ!」
「フフン、威勢がいいわね。行くわよ!」
あたしはより遠くに飛ばそうと、広場の空きスペースへと狙いを付ける。
何故か焦ったようにリーダーがあたしの足を引っ掻いているけど、多分早くしろっていう催促ね。本当、素直じゃないんだから。
分かってるわ、今投げてあげるわね?
あたしは大きく腕を後方に回し、そして勢いよく振りかぶった。
「ンニャーーヴッ!?」
「ん? フラン君、ちょっと待て! それは――」
「え、ちょ、何――あ、」
投げちゃった。
「――爆弾だっ!」
「え?」
リィシェの言葉に、あたしは今なお放物線を描く赤い球体に視線をやった。
先程、感じた既視感。
そういえば、あんなのをフールとアイが持ってたっけ。
そういえば、爆裂球とかいう名前だったっけ。
そういえば、危ないから緊急時に使うようにとか、言ってたっけ。
これ、やばいかしら。
直後、ガーディアの花弁が大きく開き、あたしたちを覆い隠した。
そして響く轟音。
暗がりの中、爆風ひとつ届かないことに軽く安堵を覚える。
さ、流石はガーディアね。頑丈だわ。
ガーディアの花弁が、ゆっくりとその隙間を開いていく。
目の前の広場は、焼け焦げていた。
「ガ、ガーディアのおかげで命拾いしたわね。あたしに感謝してくれても、良い、のよ?」
呆れたようにこちらを見つめるリーダー。
震えて、今にも泣きそうなキャシィ。
そして、笑顔でコチラを見つめるも、目に光がないリィシェ。
「えっと、ごめんなさい」
あたしは、謝った。それはもう深々と。
いや、でもさ。しょうがなくないかしら? 知らなかったんだもの。あたしそこまで悪くなくない? 不慮の事故ってやつよ。
だって、あたしが何も置いてない広場に投げなければ、他の被害が出てたかもだし。ガーディアを咲かせたおかげで皆助かったわけだし。
やっぱり、あたしそこまで悪くなくない? もうしょうがないじゃない。起きちゃったものは水に流しましょ? ね?
そんな懇願を目線で伝えてみるも、みんなの表情に変化は見られない。
むしろ悪化したように見えるのは気のせいかしら?
そんな時だった。
「族長!」
大樹の方面から走ってきた、見知らぬエルフがリィシェへと呼びかける。
そのただならぬ様子に、あたしも含め全員が注目した。
「尋問中のエルランドさんから至急報告です!」
焼け野原すら目に入っていないかのように駆けてきた、そのエルフは続けてこう言った。
「このオアシス内に、多数爆発物が仕掛けられているとのこと! 獣人、エルーミャの要求に従わなければ、即座に爆破される恐れがあります!」
その報告に、あたしたちは思わず、焼け焦げた大地をその目に映した。
「予想される被害は?」
「未知数です! 最悪の場合、オアシス全土が焼け野原と化します!」
その衝撃的な発言に、あたしは思う。
癒しが欲しいわ。切実に。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
ということで今回は別行動中のフラン視点でお送りしました。
フランの魔法はいかがだったでしょうか?
次回は尋問組の方に視点が映るかと思います。
投稿は引き続き、出来上がり次第当日22時頃を予定しています。
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それでは、また次の旅路でお会いしましょう。




