一体何をしていたのだろうか?
白月です。
本日も読みに来てくださって、本当にありがとうございます。
それでは、本編をどうぞ。
「あなたに聞きたいことがありまして。それから、私はアンドロイドです」
「は?」
何故か呆けた顔でこちらを見る猫獣人。
はて、特に外れた発言をした記憶はないのですが。もしや、フランと同様アンドロイドが何かを知らないということでしょうか? それはあり得そうですね。
「尋問の前に、自己紹介をしておくべきでしょう。私はアイ、人間ではありません。簡単に言えば機械で作られた人間の模造品といったところでしょうか」
「……お前は、何を言ってるのニャ?」
おかしいですね。私は自己紹介をしたはずです。それなのに私は未だ猫獣人の名前を知りません。大抵の場合、自己紹介とは双方の間で行うもののはずです。しかし、猫獣人は困惑の顔を浮かべるばかりで名乗るような雰囲気も見られません。
このままでは、話も進みそうにありませんね。仕方ないのでこのまま尋問を進める事にしましょう。
「それでは、まず最初の質問なのですが……どうかしましたか?」
ジャラリと手枷に付属している鎖が音を立て、猫獣人が片手をこちらに向けました。私がその行動の意図を確認すると、猫獣人は手を頭に当て一呼吸ついた後、口を開きました。
「何でエルフでもないお前が、ミャーの尋問をしてるのニャ?」
「先ほど述べたはずですが……あなたに聞きたいことがあったのです」
「それはつまり、お前はエルフの代表としてここにきたってわけじゃないってことかニャ?」
「はい、個人的に興味がありまして。尋問というものを体験しようかと」
「ふざけてるのニャ? というか、エルフの奴らは何やってるのニャ?」
「捕まってるあなたがそれをいうのですか」
「お前も大概だニャ」
「大半は会議中ですね。見張りの方はいましたが眠っていました。おそらくエルフに夜更かしは向いていないのでしょう」
大袈裟にため息を吐く猫獣人。
そんなにおかしな状況でしょうか? 私はただ単に尋問をしにやってきただけなのですが。
「まぁ、それはもう良いニャ。それで、尋問だったかニャ? 何でも聞けば良いのニャ。まあ、ミャーが答えるかは別だけどニャ」
「では質問を」
「お前話聞いてたのかニャ!?」
「はい、何でも聞いていいと言いましたよね?」
「もうそれでいいニャ……」
何故か、疲れ果てたように壁に背中を預ける猫獣人。
何なんでしょうか。まさか数秒前の自身の発言すら覚えていないなどという事はないでしょうし。まあ、気にしないでいいでしょう。ただでさえ時間を使っていますからね。
「最初は、そうですね。猫獣人は何故語尾に『ニャ』を使用しているのでしょうか?」
「それかニャ!? 本当に聞きたいことそれなのかニャ!?」
「はい、何故わざわざ発音のしづらい語尾を採用しているのでしょうか? 何か意図が? それとも獣人はみんな猫獣人のようなのですか?」
「その猫獣人っていうのやめるニャ! ミャーにはエルーミャっていう名前があるのニャ!」
「エルーミャですね。覚えました。それで、どうしてなのですか?」
「ただの癖ニャ……ハァ、お前と話してると疲れるニャ」
癖ですか。そうなると獣人全体がそういった語尾を使用しているわけではなさそうですね。
それはそれとして、話しているだけで疲れるとは。もしや体力が無いのでしょうか? 逃走時の様子を見るに運動神経が悪いというわけではなさそうでしたが。
「疲れているのなら、一度休憩を挟みますか?」
「何でミャーはお前に心配されているのニャ……お前、仮にも尋問しにきたはずだよニャ?」
「はい、ですがこれが初体験ですので圧倒的に経験が不足しています。あなたから見て、何かおかしいところはあったでしょうか?」
「大体全部おかしいニャ。普通この状況で聞くなら、ミャーが誘拐した目的とかニャ」
「それに関しても聞こうと思っていましたよ。何が目的ですか?」
確かにそこに関しても気になってはいました。
エルーミャがあの場においてリィシェだけを睨んでいた理由。対象が子供であった理由。そもそもとして、何故誘拐をするに至ったのか。
私の問いかけに対して、エルーミャは何故か少しの驚きと納得、そして呆れを含んだような表情を見せました。
「……お前、本当にあの能無し、エルフどもの手先ってわけじゃ無いんだニャ」
「それは、どういう事でしょうか?」
「エルフどもなら、何でミャーが誘拐を実行したのか大体察しぐらいつくはずニャ。つかないはずがないのニャ」
「エルフと獣人の因縁という話は聞きましたが、それと関係が?」
「ある意味ではあるかもしれないニャ。少なくとも、前から遭遇するたびお互いに唾を吐きかけるくらいに仲は悪かったからニャ。でも所詮、その程度だったはずなんだニャ。それなのに、あの腐れエルフどもは……!」
手枷に縛られたままの拳を壁へと、打ち付けるエルーミャ。その衝撃音が、この暗い地下空間に重く響きました。
怨念、憎しみ、おそらくそういった類のものでしょう。それを瞳に、言霊に乗せて、エルーミャはそう吐き捨てました。
どうやら、エルフと獣人の因縁は相当に根深いようですね。だからこそ、あの場でエルーミャはエルフであったリィシェにだけあのような視線を向けたのでしょう。その因縁がどういったものなのかは分かりませんが。
これほどに表出する強い感情は、何を根本としているのでしょうか?
そしてそれを知った時、私はそれを理解することが出来るのでしょうか?
まあ、考えていても仕方ないですね。理解できなければ分析し推測し、理解に至るまで。それだけのことです。
だからこそと。その確信に迫ろうと口を開きかけたその時でした。
低く暗い声色で、エルーミャが私に問いかけます。
「……アイって言ったかニャ? お前は、エルフ側か?」
「私は旅の途中にこのオアシスに立ち寄った身です。旅仲間のフールはエルフのリィシェと旧知の仲のようですが、私としては特段肩入れをしているわけではありませんね。強いていうなら、獣人の知り合いよりもエルフの知り合いの方が多いといったところでしょうか」
知り合いといっても三人だけですがね。出会ったばかりですし。
会話量だけで言えばキャシィよりかは確実にエルーミャの方が多いでしょう。どちらに先に出会ったか、どこで出会ったかによっていくらでもひっくり返る程度のものです。故に、どちら側と聞かれても答えられませんね。
すると、顎に手を当て考え込むエルーミャ。それから数秒の後、何かしらの結論が出たのかコチラへと視線を合わせました。
そして。
「どちら側でもないならお前、ミャーの協力者にならニャいか?」
口元に薄く笑みを貼り付けて、そんなことを言いました。
「協力者、ですか。具体的には何をすれば良いのでしょうか?」
「聞いておいて何だけど、なんでお前ちょっと乗り気なんだニャ……」
「いえ、内容を聞かなければ判断も出来ないので」
それに、協力者という立ち位置は新鮮です。
このオアシスにきてからは特に新鮮な体験が多いですね。もし私がエルーミャの協力者となるならば、それもまた貴重な経験となるでしょう。
まあ、何にせよそれも内容次第ではありますが。
*
アイが帰ってきた。
会議も一旦の終わりを見せ、明日に備えるとのことで僕とフランが寝床を与えられてから、待つこと三時間。
もう一度言おう、三時間だ。
リーダーは当然のこと、アイと一緒に寝るからと眠い目を擦っていたフランも睡魔に負けてしまっている。信じて待とうと決断した僕も流石に探しに行こうかと、逡巡していたそんな時だった。ようやく、アイが姿を見せたのは。
そして帰ってきたアイの一言目がコチラだ。
「フール、まだ起きていたんですか」
続けて、こう言った。
「明日もどうせ早いのでしょう? 早く寝た方がいいですよ。ここはオアシスなのですから、そう警戒することもありませんし。フールは心配性なのですか?」
僕は心配性らしい。
おかしいな。僕はただ、中々帰って来ないアイを待っていただけなんだけどね。
それから、こうも言った。
「何なら私が見張りをしておきましょう。私は不眠でも関係なく活動できます。フランと一緒に寝てはどうですか?」
夜行性のリーダーが何故か一番に寝入ったのはどうでもいいとして。
とてもいい笑顔で「今夜はアイと一緒に寝るのよ! あ、あんたはこの線よりこっちに近寄って来ないでね。こっちからはあたしとアイの聖域なんだから」と誰かが言っていたことをアイは知らないのだろう。でなければ、僕に対してそんな提案をするわけがないのだから。
僕は当初、「おかえり」とアイを迎えるつもりだった。
もちろん、ついさっきまでは実際にそうしようと思っていた。
ただ、何でだろうね。今、アイに伝えるべき言葉はこれじゃないな、と。そう思ったんだ。
そうだな、敢えて今アイに伝えるとしたら。
「アイ、明日起きたら僕とフランからお説教ね」
そんな言葉だろうな、と。回らない頭で考えた。
「お説教、ですか?」
「ああ、それと。今日はフランと一緒に寝ること。じゃあ、おやすみ」
「あの、それはどういう……」
アイの困惑したような声が段々と遠ざかっていく感覚を味わいながら、僕は意識を沈めていった。
*
フランと共にアイへのお説教を終えた後。僕たちは昨日会議を行った部屋へと集まっていた。
ちなみに今朝は目を覚ましたフランが、目の前で目を閉じているアイを見つけ奇声を上げたことで、僕は目を覚ました。次回はちゃんと最初から一緒に眠ることを、しっかりと約束という形で取り付けたフランは流石だ。
僕たちのお説教がアイに効いたのかは正直不安ではあるけれど。お説教の後に、僕のわがままで今回の騒動に巻き込まれることの了承を得たのでよしとする。リーダーには昨日の時点で確認はとれているのでそこも抜かりない。
これで、安心して寄り道できるというわけだ。そこに関して言えば、僕は仲間に恵まれた。寄り道を許すだけでなく、進んで協力までしてくれるのだから。
僕が仲間の温かさを実感していると、準備が整ったのかリィシェが部屋へと入ってきた。
これでこの部屋の中には、僕、リィシェ、エルランド、アイが揃った。昨日の会議の時より人数は減った構成で、みんな見知った仲だ。フランは別件で呼び出されたらしく、リーダーもそちらについていった形だ。後でリィシェもそちらに合流するらしいから、実質僕たち三人に要件があるということだろう。
「さて、集まってくれたこと、感謝させてもらおう。そして早速だが、本題を話させてもらおうか」
メンバーを集めたリィシェが、率先して口を開く。集めた理由は何となく想像がつくものの、何でこのメンバーなのかはわからないのが正直と言ったところだ。僕の考えを読んだわけではないのだろうけど、続く言葉でリィシェがそれについて言及した。
「皆には、昨日捕えた獣人の尋問を行なってほしい。どうも昨日の様子から私、もしくはエルフがいると尋問どころではなくなりそうだからね。外からやってきた君たちに頼らせてほしい」
「なるほど、だからこその選出というわけか。だが、族長。私までいると意味がなくなるのではないか?」
「流石にフール君たちに任せっきりというのもね。だからこそ、冷静な判断をできるであろう君に任せたい。無論、何かあれば私もすぐに向かう予定だ。任されてくれるかな?」
「ああ、そういうことならば承知した」
頷いてから他に言うことはないと言うように一歩下がるエルランド。
初対面からはあまり考えられなかったけど、こうしてリィシェから任されるってことは優秀なんだな。基本的に尋問はエルランドに任せてしまってもいいかもしれない。尋問にしては人数が多い気もするけど、ただ単に僕たちはひとまとめに考えられてるだけだろうしね。
「早速、皆には尋問に向かってもらいたいところではあるんだけれど。その前に、アイ君」
「はい、何でしょうか?」
「君は昨夜、件の獣人の下へ赴いていたとか」
「そうですね、気になることもありましたので」
「そこで得た情報を、ここで共有してはもらえないかな?」
まあ、そうなるよね。何なら僕から聞こうかとも思っていたし。まあ、アイのことだからそう危険なことはしていないはずだけど。
そして、リィシェからの提案に対してアイは、平然と答えた。
「構いませんよ」
「そうか、ありがとう」
アイの話した情報には色々なものがあった。
まず獣人の名前はエルーミャというらしい。知っておいて損のない情報だ。いつまでも獣人と呼ぶのも憚るところがあるしね。
それから、エルーミャの語尾の謎について、尻尾でどれほどのものを掴めるのか、などといった扱いに困る情報をいくつか。
アイが、何故そんなことを聞き出したのかは分からない。まあ、アイだし仕方ないか。
そして、そんな情報の中でも、重要とも思える情報が出てくる。
それはエルーミャが何故、誘拐を実行したのか。その動機に関するものだった。
結論から言って、確かなものは得られなかったようだ。けれど、エルーミャはこう言ったらしい。エルフならば、自ずとそうされる理由に心当たりがあるはずだ、と。
それに対して、リィシェもエルランドも怪訝な表情をしていた。思い当たるものはないらしい。
尋問を開始する前にして、既に僕らの中で情報は錯綜していた。
何にせよ、やはり直接問いたださなければならないということだろう。それを再確認した後で、僕たちはエルーミャのいる地下へと向かっていく。
必ず情報を得なければならない。今もなお、行方不明者は苦しんでいるかもしれないのだから。
それによって確かに、僕の友人の心に影が差しているのだから。
ただ一つ、気になることがあるとすれば。
情報量に対して、アイが僕たちのもとを離れていた時間が釣り合わないことだろうか。
アイは、三時間以上もの間、一体何をしていたのだろうか?
そんな小さな違和感は、地下室へと入ったことによって、僕の頭の隅へと追いやられていった。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
今回はいつもと少し違った後味の章になったのではないでしょうか?
アイが主体的に動くことが多く、されど本質は何も変わっていない。
それなのに、何かがズレていく。そんな章になったかな、と思っています。
個人的には、久しぶりにアイとフールだけの絡みが書けたので満足です。
読者の皆様に今後も楽しんでいただけるよう遅筆ながらも書いていきますので、どうか今後ともよろしくお願いいたします。
投稿は引き続き、出来上がり次第毎晩22時頃を予定しています。
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それでは、また次の旅路でお会いしましょう。




