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ただ一つ、それだけを君に願おう  作者: 白月
四歩目――エルフと獣人の抗争。神の代行者の調べ。
33/37

不運な君に一つ聞こう

白月です。

大変、お待たせいたしました。お待ちいただきありがとうございます!

そして明けましておめでとうございます。

2026年もどうぞよろしくお願いいたします。


それでは早速、本編をどうぞ。

 

 一度、状況を整理しましょう。

 まず、先ほどのエルランドの発言からこのオアシスで神隠しというものが起こったこと、リィシェがエルフの族長だということが分かりました。当のリィシェはフランの魔法に興奮ののち強襲。今まさにその板挟みから私が抜け出しました。

 リーダーは失踪してから帰って来ず、エルランドと共に帰ってきたキャシィは涙目で兄の後ろからこちらを覗き込んでいます。

 フールは相変わらず蚊帳の外なので問題ないとして、些か整理するには混沌としていますね。

 そんな中、いち早く口を開いたのは、フランを襲いながら話を聞いていたリィシェでした。


 「そうか。エルランド、報告感謝するよ。キャシィ、被害人数は?」

 「二人、です。どちらも……まだ子供です」

 「悠長にしてはいられないな。急ぎ大人たちで周辺の捜索と警戒を。必ず複数人で行動してくれ。私もすぐに動こう」


 リィシェの指示に、エルランドたちはすぐさま走り去っていきます。

 状況を把握しきれませんね。何か火急の事態であることは理解出来ますが、全容がハッキリとしません。


 「リィシェ、何かあったのかい? さっき神隠しとか言ってたけど、僕たちに手伝えることは?」

 「助かるよ、フール君。神隠しなんて大仰な言い方だが、要は誘拐さ。私と一緒にオアシス周辺に怪しいものがいないか探して欲しい。頼めるかな?」

 「もちろん。アイとフランも手伝ってくれるかい?」

 「分かりました」

 「私も協力するわ。幼気な子供を攫うなんて許せないもの。ただ、一つ良いかしら?」


 何かが引っかかったのか、フランは困惑の表情を浮かべ横のリィシェへと問い掛けました。


 「当然、こちらは協力してもらう身だ。何でも聞いてくれて構わないよ」

 「質問の前に一つ確認だけれど、今って結構切迫した場面よね?」

 「ああ、一刻も早く子供達を助けなくてはいけないからね」

 「そうよね。あたしもそういう認識よ。だからこそとても不思議なんだけど」

 「不思議?」

 「なんでアンタはあたしの手を握ってるのよ?」


 フランの言葉に、注目してみれば確かにリィシェがフランの手を握っています。見ようによっては手を繋いでいるようにも見えますが、フランの発言からして一方的なものなのでしょう。

 確かに疑問ですね。火急の事態の中、怪我すらしていない他者の手を繋ぐということは行動を制限しかねません。単純に二人が片手を塞いでいるも同然です。メリットといえば、すぐにお互いを助け合えるくらいでしょうが、今すぐにそうした状況下に置かれているわけでもありません。

 しかしリィシェは、フランの疑問に不思議そうな表情を浮かべました。

 フランとリィシェ、お互いが不思議そうに見つめあっています。


 「なんでって……先ほど言ったじゃないか」

 「へ?」

 「嫌だなぁ、フラン君。人の話はしっかりと聞かなければならないよ? 私は確かに言ったはずだ」

 「な、何のことよ?」


 リィシェによると、フランの手を握る理由はすでに述べているらしいですが、思い当たりませんね。

 フランは思い当たらずとも何かを感じ取ったのか、声を震わせながら尋ねました。

 それに対して、リィシェは微笑みを浮かべます。

 ところで何故、リィシェの瞳は暗く澱んでいるのでしょうか? 夜だからでしょうか?

 そこで、微笑んだままリィシェが口を開きました。


 「逃がさない、と」

 「……えっ」


 確かに言っていましたね。まさかここまで物理的な拘束を用いるとは思ってもいませんでしたが。

 フランは固まり、フールは頭に手を当てました。二人も私と同じく拘束手段が予想外だったのでしょう。

 そんな中、リィシェがフランの手を引きます。


 「さぁ、急ごうか。一刻も早く子供達を救い出さなければ」

 「分かりました」

 「ああ、うん。そうだね……」


 先導するリィシェについていくように私とフールはオアシスの森へと入っていきます。

 フランの手を引くリィシェ。反応が感じられずされるがままのフラン。目線が定まらないフール。


 本当に探す気あるんでしょうか?



 「さて、私たちはオアシスの森中腹を中心に捜索していこうか。おそらく、報告のあった時間帯からしてまだ犯人はこの森を抜けていないだろうからね」

 「どうして抜けていないってわかるんだい?」

 「何、簡単なことさ。犯人が犯行を行うなら私たち全員が寝静まってからだろう。だとすればそう時間は経っていない。この森のどこか、本命としては今私たちがいる中腹あたりだろうね。このオアシスの自然は余所者に優しくはないから、追いつくことは可能というわけさ」

 「なるほど、自然と共存するエルフゆえ、ということですね。しかし、それはそれとして」


 私は一度言葉を区切り、フランへと視線を送ります。どう言った言葉をかけるのが適切かを考えたためです。

 相変わらずリィシェによって繋がれた右手。しかし慣れたのかそれとも別の理由があるのか、フランの表情は落ち着き和らいでいます。

 もし別の理由があるのなら、それはこれから私が問いかける事象と関係はあるのでしょうか?

 言葉を区切ったことによって、こちらに注目したフランへと私は疑問を呈しました。


 「何故フランまで私の手を握っているのですか?」


 私の言葉に、全員が視線をある一点へと集中させました。

 そこにあるのは二つの手。片方の手はフランの左手。そしてもう一方は私の手です。

 何故? 現状、フランは両手が塞がっています。片手だけでも行動が制限されることなど容易に想像がつくはずです。それにもかかわらず私の手を握るフランの意図が掴めません。

 私はフランに逃がさないなどの発言を受けた覚えはありませんし、何よりこの状況で行う理由がありません。そう考えた末の私の疑問に、フランはどこか真面目な顔つきで答えました。


 「アイ、確かにこの状況においてあたしが貴方の手を握る理由は無いわ」

 「それならば何故? 発言と行動に矛盾が生じていますが」

 「いいえ、矛盾していないわ。さっきのはあくまで一般論の話だもの。あたしにとっては重要なことなのよ」

 「私と手を繋ぐことが、ですか?」

 「そうよ」


 フランは胸を張り自信満々にそう答えますが、今のところ理由すら解説されていないので理解できるわけもありません。

 それにフランにとって重要なことであろうと、私まで行動を制限されるというデメリットは存在しています。今や、制限なく行動できるのはフールだけです。私も自ら手を繋いでみれば何かわかるでしょうか?

 例えば、私がこの状況から更にフールと手を繋いだとして、私の両手が塞がりフールの片手が塞がります。それ以外に何ら効果はありません。


 「やはり、よく分かりません。そもそもとして、今この状況に限らず手を繋ぐという行為自体に何のメリットがあるのでしょうか?」

 「そんなの分かりきってるわよ。こうして、手を繋いでおけば相手がそこにいるって実感できるじゃない」

 「フラン君の言うとおりだよ。現に私はこうしていることによってフラン君が未だ私の手に届く場所にいることを実感できている」

 「あたしは離してもらって一向に構わないんだけど。というか離れたいんだけど」

 「それは聞けない相談だね」

 「ちょっと二人とも、そろそろふざけてないで真面目に捜索を……アイ?」

 「理解しました」

 「え、何を?」


 なるほど。そこにいるという実感ですか。

 私には無かった視点ですね。そしてそれを活かすためにはこのままでは不十分でしょう。

 私はリィシェにもう片方の手でフールと手を繋ぐよう指示を出します。戸惑っているフールの手を即座につかみ応じてくれるリィシェ。これであとは最後の行程が残るのみです。


 「アイまで何をふざけてるのさ!?」

 「ふざけてなどいません。それより早くこっちに来てください」

 「ちょっ、リィシェ!? いきなり引っ張らないで!?」


 遠心力により背中側から近付いてきたフールに歩み寄り手を掴みます。

 それによって出来たのは、私たち四人が背中合わせの円環構造です。この最後の行程によって、ようやく手を繋ぐという行為の真価が発揮されます。しかしこの状態に至ってなお、フールが戸惑いの声をあげました。


 「え、何? この状況?」

 「まだ分からないのですか? 私たちは今、お互いの位置の確認と同時に全方位を視界に収められるようになったのです。つまり捜索する上で死角がなく、最も適した形態といえます」

 「そうかな? 本当にそうかな?」


 フールはなぜか、未だに疑問を持っているようですがそれもそのうち落ち着くことでしょう。

 全方向の視界を補えるというのは、捜索をする上で有用であることは間違い無いですし。一人でもある程度はカバーできますが、限度がありますし見落としも生まれるでしょう。その点、今回の四人はちょうどいいと言えるでしょう。一方向を見つめているだけでよく、報告も伝わりやすいベストな人数と言えます。


 「しかし、フラン。これを行うために手を繋いだのは分かりましたが、次回からはしっかりと意図を伝えてください。無駄に時間がかかってしまいました」

 「そ、そうね。うん、悪かったわ」

 「いや、フランはそういうつもりで手を繋いだわけじゃないと思うよ?」

 「うっさいわね! 黙ってなさい!」


 背中越しのフールとフランが会話できているあたり、この形態ならば即座に連携することも難しくはなさそうですね。当然、手を繋いでいたり体の向きがそれぞれ違う関係上、機動性には優れません。しかし今回は捜索対象の先回りをしている為、待ち伏せた上での捜索がメインです。つまり現段階では機動性に優れなくとも問題はないということです。


 今の状況においてのこの形態の有用性を感じつつ、前方に注意を払っている、その時でした。


 「ニャー!」

 「ちょ、何なのにゃ!? この猫!?」

 「リーダー?」


 突如響くリーダーの声と、聞き覚えのない女性の声。その直後。

 ――ミシッ。

 そんな音が頭上から鳴り響きます。断続的に大きくなっていくそれは、やがて何かが折れたような音へと変わりました。

 すぐさま視線を向けるも、捉えたのは何かの影が背後へと落ちる瞬間のみでした。

 しかし、問題はありません。この円環構造上、背後にいるリィシェはその姿を捉えているでしょう。

 そう思い、確認の声を上げようと思ったのですが。


 「アイ君、今のは何が落ちて来たのかわかるかな?」

 「いえ、私の背後に落ちたはずですし、リィシェが把握できるはずでは?」

 「ん? おかしいな、私の背後だったはずだが……まさか」


 リィシェの発言に、私もその可能性に思い至りました。

 四人による背中合わせの円環構造。全方向をカバーできると思っていましたが、どうやら見落としがあったようです。

 リィシェと私の会話から他の二人も気付いたのでしょう。繋いでいた手をどちらともなく離し、一斉に背後を振り返ります。

 視線が集中するのは、私たち全員の背後であり、この構造唯一のブラックボックスと言える場所。


 「まさか、円の内側とはね。視界から消えるわけだ」

 「全方位をカバーできると思っていたのですが、どうやら想定が甘かったようです。要改善ですね」

 「そういう問題かなぁ……?」

 「まぁ、結果的には良かったんじゃ無いかしら? こうして、誘拐犯を包囲できてるわけだし」


 そこには、フランの示すようにエルフと思われる意識のない子供が二人。

 そして、その二人を抱える誘拐犯がいました。


 「確か、獣人でしたか」

 「何で、こんな所に人間が居るニャ」


 エルフ達の棲家、あの大木の広場で見かけた影と姿形は一致しています。

 リーダーのような猫耳と尻尾を生やした人型の生命体。フランが言うには獣人と呼ばれる種族。その種族に類するであろう女性が、こちらを鋭く見つめていました。


 「ニャー」

 「あ! この猫! お前のせいでバレたんだニャ! こいつらがバカみたいなことやってるから、見つかるわけニャいと思ってたのに!」

 「リーダー、どこに行っていたんですか? それと、いきなり私の頭の上に降りてこないでください。バランスが崩れて倒れてしまうかもしれないのですよ?」


 私の頭に確かな重量と衝撃をもたらした張本人にそう苦言を呈します。

 しかし、聞こえて来たのは気の抜けたような鳴き声のみでした。

 まぁ、今はそれより重要なことがあるので置いておきましょう。実際、リーダーのおかげで見つけられたとも言えますし。


 「さて、不運な君に一つ聞こう。勿論、拒否権はないと思ってくれて構わない」

 「っ!? エルフ……!」


 リィシェの問いかけに、獣人が振り向き怨嗟の籠った声をあげました。


 そう、私たちは問いたださなければならないことがあるのです。あなたが言った『バカみたいなこと』と言う発言について。


 「私たちエルフの同胞、それも――まだ若き子供を拉致したのは君で相違ないね?」


 なるほど。そちらでしたか。


最後まで読んでいただき、ありがとうございます。




投稿は引き続き、書き上がり次第、毎晩22時頃を予定しています。


感想やブックマークなどで応援いただけると、とても励みになります。


それでは、また次の旅路でお会いしましょう。

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