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ただ一つ、それだけを君に願おう  作者: 白月
四歩目――エルフと獣人の抗争。神の代行者の調べ。
31/37

……多分

白月です。

本日も読みに来てくださって、本当にありがとうございます。

遅れてしまい大変申し訳ありません!


今回はエルフという種族について深ぼっていくお話となっております。


それでは、本編をどうぞ。

 「私は今、騙されるという経験を得たのです」

 「……ニャーウ」


 「いや、どういうことよ?」


 私の言葉にそう疑問を呈するフラン。私を土の中から引っ張り出すと、体についた土などを執拗に落とし始めます。なぜか匂いも嗅ぎ始めましたが、そこまで厳重に確認することなどあるでしょうか? ただ土に埋もれていただけなのですが。

 横を見れば、私と同じように土の中から引っ張り出されているエルフ。引っ張り出しているのはその妹キャシィで、随分と乱暴に引っ張り出しています。あれ、何本か髪抜けてないでしょうか? というか、何気に全体を見るのはこれが初ですね。

 水色の髪は肩口より少し長く伸ばされ、立っている姿を改めて見てみればこの場の誰よりも長身のようです。フールが少しとはいえ、見上げるほどの体躯をしています。ただ身体自体はさほど筋肉質にも見えないので、鍛えているというわけではないのでしょう。隣にいるキャシィとは頭一つ分以上の差があります。髪色や耳の形は似ていますが体格は似ても似つきません。この二人が同じ遺伝子から構成されていると考えると、人間も存外謎な生物ですね。


 そうして観察していると、キャシィがようやく私たちの存在に気づいたのか不思議そうに目を瞬かせます。しかし何故かすぐに顔を青ざめさせ、兄エルフの後ろへと隠れてしまいました。


 「お、お、お、お兄ちゃん……だ、誰? この人たち」


 登場した時と印象が違いますね。

 何故スタッカートとビブラートを駆使して問いかけるのでしょうか? 何か意図が?

 そう考えるも、答えが出る間もなく兄エルフが問いに答えます。


 「分からないが、おそらく同志だ」

 「一緒にしないでくれないかしら?」

 「ひぇっ」


 フランの声に縮こまるキャシィ。

 なるほど。エルフにも様々な生態が存在しているということですね。しかしそうなると、エルフとして一括りに認識することはできそうにありませんね。今のところ、土に埋まる個体と同種の背に隠れ縮こまる個体がいるのは確認できました。


 というか、未だに自己紹介すらしていませんでしたね。

 何故私は名も知らぬ相手に言われるがまま、土に埋まろうとしていたのでしょうか? 相手を知るためだったとはいえ、尚更名前を先に聞くべきでは?

 まあ、過ぎてしまったことは仕方ありません。次回からはこの経験をもとに、まずは先に名前を聞くことにしましょう。


 「エルフさん、私はアンドロイドのアイと言います。名前を教えてください」

 「急に!?」

 「ふむ。其方はアイと言うのだな。良いだろう、同志の頼みだ。私はエルランド、後ろにいるのはキャシィ。私の妹だ」


 エルランドですか。覚えました。

 しかし、なるほど。自身を紹介するにとどまらず、妹であるキャシィまで紹介するとは。

 エルランドは中々に高度な会話術を持っているようです。私も試してみましょう。


 「ありがとうございます、エルランド。因みに貴方の顔を踏みつけたのがリーダーで、埋めようとしたのがフラン、特に何もしていないのがフールです」

 「酷い紹介だなぁ……」


 特に何もしていないフールがそう言いました。

 おかしいですね。私としてはこれ以上ないほど分かりやすく紹介したつもりなのですが。フールは何をもってそんな発言をしたのでしょうか?

 まあ確かに、エルランドに対するものならともかく、キャシィに対する紹介としては適さないとも言えますが。キャシィはリーダーがエルランドの顔を踏みつけたのも、フランが埋めようとしたのも目撃していませんでしたからね。そういう意味ではフールの言葉も間違いではないのかもしれません。

 やはり即席で実行するのは失敗する確率が高いと言うことでしょう。次までにしっかりとシミュレーションを重ねておいた方が良さそうです。


 私が今回のシチュエーションをもとに早速シミュレーションを行っていると、エルランドの影に隠れていたキャシィが恐る恐ると言った具合に顔を覗かせました。


 「け、結局、この人たちは何なの? お兄ちゃん」

 「何を言っている。先ほど紹介されたばかりではないか」

 「そういう事じゃないっ! なんでここにエルフでもない知らない人間たちがいるのかって聞いてるの!」

 「私にも分からん」

 「あ、そういえば言ってなかったね」

 「ひぇ……」

 「ねぇ、僕って何か嫌われるようなことしたっけ?」

 「知らないわよ。生物的嫌悪感でも感じたのかしら?」

 「え……?」


 生物的嫌悪感とはどういったものなのでしょうか? 今フールが膝から崩れ落ちていることと何か関係が?

 観察してみれば、何かうわ言のように「存在否定? 出会ったばかりの子に、そんな……僕って……」と呟いています。フールが地面に埋まりたいのでなければ、おそらくショックを受けているということでしょう。あれだけエルランドの思想を否定していたフールが、そう思うとも考えられませんし。

 ともかく、この状態になってしまっては話が進みません。

 私が話を引き継ごうかと思ったその矢先、フールの姿を見たであろうキャシィが慌てたように声を発します。声量は微々たるものですし、未だにエルランドの背中に引っ付いていましたが。


 「あ、あの。私、人見知りなだけで……決して生物的嫌悪とかそういうのじゃない、です……多分」

 「言い切って、欲しかったな……」


 最後に目を逸らして付け加えたキャシィに、フールが地に手をつけました。そんなフールの背中にリーダーが乗る一方で、フランが冷めた目を送ると、小さく欠伸をします。


 「ねぇ、良い加減話を進めて良いかしら? あたし眠いのよ」

 「相変わらず容赦無いな君は!」


 あ、復活しました。

 フールが唐突に起き上がったことで落とされたリーダーが威嚇を放ち、謝罪を要求しました。

 結局のところ、生物的嫌悪感とは何だったのでしょうか?

 種族的な相性のことを指す可能性が有力ですが、今の情報量では断定できませんね。


 一度、生物的嫌悪感に関する思考を放棄すると、フランがフールに変わり私たちの現状の説明をエルフの二人へと始めました。


 「あたしたちは訳あって旅してる途中なのよ。でもここら一帯って砂漠でしょ? その中にオアシスを見つけたから一晩寝床を提供してもらいにきたのよ」

 「ふむ、なるほど。そういう訳なら私が案内しよう」

 「ちょ、お兄ちゃん!? 大丈夫なの?」

 「ん? ……ああ、問題はないだろう。この者たちは人間だからな」

 「何か不都合でもあるのかしら?」

 「いや、こちらの問題だ。其方たちには気にしないでいただきたい」

 「そう。じゃあ遠慮なく」


 エルランドが先導を始め、その後を私たちがついていきます。途中、未だに根に持っているのかフールにリーダーが特攻を仕掛けては、受け止められていました。なお、それを見たフランがすぐにリーダーを奪い取り頭に乗せました。まあ、これはいつものことなので特筆すべきことは起こっていないと言えるでしょう。その様子にキャシィが震えていること以外は至って正常と言えます。


 それよりも引っかかるのは、先ほどのエルランドの発言です。人間であれば問題はないという趣旨の発言でしたが、その意図はまったく持って読み取れません。ただ、先程の自己紹介の際に私がアンドロイドと発言したのは聞いていたはずです。それにも関わらず私も問題なく案内していたり、明らかに猫であるリーダーも同様に扱っています。この事から、先の発言は人間のみを認めるというよりも特定の種族を認めないという意味合いだと推測はできます。逆に言えば、それ以上は推測のしようもないという事なのですが。

 まあ、私たちには関係のない事柄のようですし、放っておいてもそう問題にはならないでしょう。


 そう結論づけたあたりで、先を歩くエルランドがその歩みを止めました。

 どうやら目的地に辿り着いたようですね。大きいといってもオアシスであることに変わりはないためか、数分と経たず辿り着きました。

 先を覗けば、開けた空間が存在しており月光がその空間を照らしています。というより見たところそれ以外の光源はおろか、人工物の一つも見当たらないといった様子です。中心には大木といって差し支えない大きさのものが存在しており、そこには不自然な穴が複数見られました。

 フールやフランもその様子が物珍しいのか、興味深そうに辺りを見渡しています。


 「暫しここで待っていてくれ、今族長を呼んでくる」

 「え? 他にも人がいるのかい?」

 「それにしては誰も見当たらないし静かすぎるわね」

 「当然だ。この時間には皆就寝している」


 そう答えると、エルランドはキャシィを連れて中央の木へと歩いていきました。


 「しかし、家屋らしきものも見当たりませんが、どこにいるのでしょうか?」

 「あの変態は木に向かってたわね」

 「案外あの木に住んでるとか?」

 「あの穴を鑑みるに、木の上ではなく内部に住んでいるかもしれませんね。野生動物であるリスのように」

 「その例えはどうなんだろう? まあ、否定もできないけど」

 「それが当たっているとするならば、私たちも木の中に案内されるかもしれませんね」

 「まあ、土の中で眠るよりかはマシでしょ。あ、でもあんたテント持ってるのよね? それならテントはあたしとアイで使うから貸しなさい」

 「えぇ……まあ、良いけど」


 知らぬ間に私とフランが同じテントで寝ることになってしまいました。私は睡眠を取らなくとも平気なのですが。

 リーダーはすでにどこかに行きましたし、勝手に寝床を見つけることでしょう。

 そうなると、フランとフールがテントで寝るのが最善ですね。


 「私は睡眠を取る必要がありませんので、テントは二人で使ってください」

 「はぁ!? ちょ、アイ! それは無いわよ! 約束したじゃない、あたしはアイをいつでも抱きしめてなでなでして良いって! フールと寝たらそれが出来なくなるじゃない! だから今夜はあたしと一緒に寝るの! 分かった?」

 「……そこなんだ」

 「何よ、不満なわけ?」

 「そうじゃなくてね? いや、大丈夫。何でもない。テントは二人で使って」

 「当然ね」


 これはもう、覆せそうにはありませんね。私としては特段どちらでも良いのですが、どうやらフランは効率よりも以前遺跡を出る時に言っていた、癒しというものを重要視する傾向にあるようです。癒しを理解できていない私には、この選択の意図も理解できそうにはありませんね。

 フールはフールで何やら安堵するように息を吐いていますし、まだまだ私が知らなければいけないことは多いようです。


 そこから少しの静寂が流れた時、一陣の風が、この空間に吹き渡ります。

 その直後、背後でガサリと茂みの潰れるような音が響きました。小さく僅かなそれは、しかしこの静寂の中フールやフランの耳にも確かに届き、二人が一斉に後ろを振り返ります。


 「誰?」


 そう問いかけるフランの声に応えるものはなく、しかし茂みの奥に影だけが蠢いていました。

 フールがその様子に警戒心を高め、剣の柄に手を掛けたところで、その物影は静かに遠ざかっていきました。


 「何なのよ、全く」

 「アイ、今の影、暗がりだったけど容姿は確認できたかい?」

 「はい。これまた珍妙な姿をしていました」

 「珍妙?」

 「大体の造形は人と何ら変わりはありませんでしたが、頭部にまるでリーダーのような三角の耳をつけ、ユラユラと揺れる尾も見えました」

 「えーと、つまり猫耳と尻尾を生やした人間ってことかしら?」

 「はい。私の見解によれば、猫と人間のキメラだと思われます」

 「いや、獣人だよ」


 じゅうじんとは?

 いきなり未知の言葉を出されても私には理解できず、首を傾げればフランがボソリと「かわいい」と呟いてから説明をしてくれました。


 曰く、獣人とはエルフや人間と同様、種族の一種を指しているようです。

 ただ、一つ特徴的なのはベースは人型から変わらないものの、耳や尾などに現れる動物的特性は多種多様にわたるとのこと。先ほどは猫の特性を持っていましたが、それ以外にも犬や熊など多くの動物の特性を持つ個体がいる、ということなのでしょう。

 謎ですね。エルフよりも謎な生態をしています。何をどうすればそんな多種多様な特性を引き継いだ種族が誕生するのでしょうか?

 やはりキメラなのでは? 人間、もしくはエルフなど人型生物と動物のハーフという可能性もありますが、やはりどちらにしてもそれだけ多くの種類の特性が別個に存在していることが不可解です。

 話を聞いただけですが、結論謎という他ありません。


 私が獣人の生態に疑問を覚えていると、フールは別の疑問を抱いていました。


 「それにしても、何で獣人がここにいるんだろ? このオアシスにエルフと獣人どっちも住んでいるとは考えにくいし」

 「何でよ。別に一緒に住んでる可能性もあるじゃない」

 「いや、それは無いよ」

 「何故ですか?」

 「エルフと獣人は、仲が悪いんだ。致命的なまでに」

 「はぁ?」

 「前にアイにはチラッと話したけど、こことは違うエルフの集落に言ったことがあるんだ。結局入る事はできなかったんだけど、その時一人のエルフが友人になってくれてね。その友人が話してたんだよ、エルフと獣人は生活様式から何から合わなすぎてお互いを嫌悪してるんだって」

 「……あんたと友人になるなんてそのエルフ、変わってるわね」

 「うん、明らかに今そこは引っかかるところじゃなかったよね? ……まぁ、変わってはいたけど」


 そもそも私からしてみれば、エルフに限らずフールもフランも変人だと認識しています。まあ、これ以上話が逸れても収集がつきませんし、口には出しませんが。

 しかし、エルフと獣人は致命的に仲が悪い、ですか。

 つまりこれこそが、生物的嫌悪感の例ということでしょう。思いがけぬ形で先程まで抱いていた疑問が少し解消されましたね。あとは実際その様子をこの目で見ることができれば、より理解は進むでしょう。


 そんな考えを抱いている時でした。


 「誰が変わっていると言うんだね? フール君」


 会話の途中、割り込むようにして聞こえてきた第三者の声。

 女性的でありながらも凛としたその声に、フールが動きを止めました。フランも目を見開いているのが見て取れます。

 とはいえ、驚くのも無理からぬ事だと私は思考します。

 何故ならその声は――。



 ――私たちの立っている地面から聞こえてきたのですから。




 この、エルフの棲家らしき場所へと訪れて。

 もしや、と。そう考えてはいました。

 静かすぎるのはともかく、住民たちの影すら見当たらない空間。

 建築という言葉すら失われていそうな、自然そのままの光景。

 月光以外に光源が見当たらないという、徹底的なまでの自然との共存。

 中央に聳え立つ大木に穴を掘り、そこに生活しているのではという疑問。

 それらから、一つの推測はすでに立っていたのです。

 目の前の、否、目下の光景が推測を確定事項へと結論づけただけのこと。


 ――まさか、地中で寝ること(エルランド方式)の方が主流だったとは。


最後まで読んでいただき、ありがとうございます。


今回はエルフが地中で寝る、アイ曰く『エルランド方式』が主流ということが発覚しました。

つまり、エルフにおいてキャシィの方が異端ということになります。

とてもかわいそうな話ですが。


エルフの他にも獣人という新たな種族が出てきたりと、少しばかり謎が深まってきたオアシス編。

どうぞこの先も、アイたちの旅路にお付き合いくだされば幸いです。


投稿は引き続き、出来上がり次第、22時頃を予定しています。


感想やブックマークなどで応援いただけると、とても励みになります。


それでは、また次の旅路でお会いしましょう。

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