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ただ一つ、それだけを君に願おう  作者: 白月
三歩目――新たなる旅路。魔女と猫の邂逅。
28/37

僕らはそれを認めるわけにはいかない

白月です。

本日も読みに来てくださって、本当にありがとうございます。


今回は、アイたちが合流してから遺跡を脱出するまでのお話となります。

にぎやかさと素朴なやり取りが重なる、旅のひと幕です。


どうぞ肩の力を抜いて、お楽しみください。

それでは、本編をどうぞ。

 「えっと、アイ? そのネコは?」

 「遺跡で出会いました。名前は知りません」

 「ニャー」

 「可愛いわ!」


 良かった。ようやくアイと会えた。

 それは良かったんだけど、フランが暴走している。ある意味通常運転ではある気もするけど。まあフランのことは今は良い。

 そんなことより、この遺跡は本当に何なんだろう。

 砂漠に遺跡。遺跡にカニとネコ。うん、並べてみるとより一層意味がわからない。


 「アイはトラップとか引っ掛かったりしてないかい?」

 「トラップ、ですか。いえ、特にこの遺跡でそのような現象は確認できませんでした」

 「そっか。それなら良いんだ」

 「その口ぶりですと、フールたちはトラップに引っ掛かった、ということでしょうか?」

 「うん、主にフランのせいでね」

 「はぁあああ!? ちょっとあんた、なに全部の責任押し付けてんのよ! あと、アイを心配するのはあたしの役目なんですけど!?」

 「君が勝手に暴走していたのが悪いんじゃないか」


 僕の言葉にフランが喧しく反応していく。

 おかしいな、僕は事実しか言ってないのに。

 フランが喚いている間も、黒猫はアイの頭の上で呑気に欠伸をしていた。アイはそれに対して何とも思っていないのか、僕たちの様子をじっと見ていた。

 何というか、フランよりも猫の方が利口だな。あと、アイは重くないのだろうか。

 そんな、益体のないことを考えている時だった。


 「あ、カニさん」


 僕とフランの宿敵。アイをこの遺跡へと連れ去ったカニが、そこに居た。何故かタオルで体を拭きながら。

 僕は静かに剣を引き抜く。その横で、フランが箒をカニへと向ける。

 僕たち二人の思考はこの瞬間、紛れもなく一致していた。


 「あの、どうしたんですか? 二人とも」

 「アイ、ちょっと待ってて」

 「今夜はカニ鍋よ!」

 「はい?」


 僕はカニへと駆けた。フランが背後で特に意味のない詠唱を始める。

 できるだけ、身は綺麗な状態で倒したい。これだけ大きなカニだ。持ち運びもし易い方がいいだろう。となると狙うは間接。

 フランが詠唱を終えたのか、カニの足元から蔦が出てきた。僕を転ばせた、あの憎っくき蔦の魔法である。

 蔦がカニへと伸びていき、巻きついていく。完全に拘束したところで、蔦の所々から小さな青い花弁が咲いた。


 カニが唐突な出来事に驚きながらも、脱出しようと試みた。しかし、その動きはどんどんと鈍くなっていく。

 気づけば青い花弁が鱗粉を撒いている。効果は推測するに身体の一時的麻痺のようなものだろう。

 僕にもそれを使おうとしていたということに目を瞑れば、とても有用な効果である。あとで問い詰めておこう。


 「さて、覚悟はいいかい?」


 もう目の前へと迫ったカニへと向けて、そう問いかける。

 カニは身体を左右へと必死に揺らして否定する。僕は無慈悲に剣を掲げた。


 「ダメです」

 「え?」


 唐突に背後から響いた声に、不意を突かれた。

 剣先がぶれ、蔦が解かれていく。解放されたカニは横向きで僕の横を駆け抜けていき、アイの背後に隠れた。サイズに違いがありすぎてもはや隠れているとは言えないけれど。そんなことが気にならないほどに僕は呆然とした。


 「えっと、アイ?」

 「ア、アイ? こっちに来なさい? 危ないわよ?」

 「今のあなた達の方が危ないのでは?」

 「うぐ……で、でも! そのカニはアイを攫ったのよ! それにヌメヌメの恨みもあるし……」

 「ヌメヌメに関してはよく分かりませんが、私は特に危害を被っていませんよ」

 「ぐぬぅ……」


 フランがアイの正論に呻いた。それからアイに否定されたからか、隅の方で膝を抱えていじけだした。

 うん、なにも否定できないね。カニがアイを攫ったことに関しては看過できない部分はあるけど、アイがそのことに何とも思っていないんじゃ僕らが責める権利はないかな。ヌメヌメの件に関してはカニのせいなのかすら分かってないし。

 一度考えを整理するためにも息を吐いて、剣を収めた。それを見て安心したのか、カニがアイの背中から出てくる。

 まぁ、元々隠れられてないんだけども。


 「そもそも、何故フール達はカニさんに攻撃を?」

 「いや、アイを攫ったからだけど。結局危害は加えられてないってことだし、取り越し苦労だったかな」

 「そうですね。危険どころか、新たな武器まで入手しましたし」

 「ニャニャー」

 「あ、そうですね。厳密には猫さんから頂きました」


 へー、新しい武器か。どんなのだろう。ちょっと気になるな。基本的に僕が戦えばいいんだけど、今回みたいに別行動せざるを得ない場面もあるだろうし、そういう面では安心かな。


 うん、安心……あれ、今ナチュラルに猫と会話しなかった? というか猫から武器もらうってどういう状況?

 僕が脳内で困惑していると、隅で丸くなっていたフランが顔を上げる。


 「ねぇ、アイ? その猫ちゃんは良いとして、結局のところそのカニは何なの? なんかタオルまで持ってるし」

 「カニさんはカニさんです。私をここまで運んでそれ以降は別れていたので、詳しいことは分かりません。強いていうなら、カニさんの体表面が先ほどと比べて綺麗になっています。お風呂にでも入ったんでしょうか?」

 「いや、それは流石に……」

 「いや、フラン。ちょっと待つんだ」

 「は? 何よ」

 「あのトラップの数々を思い出して欲しい」


 最初は、バウンド茸によるヌメヌメ地獄。次に水責め、からの寝てるフランを背負いながらの暴風トラップ。

 こうして並べてみると悪意があるように見えるけど、怪我を負うような内容でも無い。例えばこれが遺跡の宝を守るためのトラップだとすれば、手ぬるいと言わざるを得ないだろう。つまりはだ。これらはトラップですらない可能性が浮かび上がってくる。

 それに加え、先ほどのアイの発言。確かに砂漠を横断してアイを運んできたにしては砂埃一つ付いていないのは不自然だ。


 暴論かもしれない。でも、一つの仮説を思いついてしまった。

 即ち、あのトラップは、もしかしたらカニのお風呂がわりだったのでは無いかと。

 思えば全てのトラップの規模が大きかったように思う。バウンド茸は広い空間を埋め尽くしていたし、水も風も明らかに過剰だ。

 そう、人間からしてみればトラップと思えてしまうほどには。しかし、それらを使用するのがあの巨大なカニだったらどうだろうか。

 バウンド茸で汚れを絡め取り、水責めで一気に落とす。仕上げに暴風で水気を乾かす。そんな風に作用することもあるかもしれない。


 いや、僕だって分かっているさ。常識的に考えてあり得ないことは。でも、否定できないのも事実だ。そもそもとして、砂漠にカニと猫が住んでいるということからして非常識だと言えてしまう。

 僕と同じ仮説に至ったのか、フランも口許をわなわなと震わせた。


 「も、もしかして……で、でも。それを認めるわけにはいかないわよ。だって、それを認めちゃったら、散々騒いでたあたし達がバカってことになるじゃない!」

 「そう、僕らはそれを認めるわけにはいかない」


 僕たちは、ある一つの仮説から見て見ぬ振りをすることを、熱く誓った。


 「一体、二人は何をしているんでしょうか?」

 「ニャー」


 そんなアイ達の声も、聞こえないふりをした。


 *


 二人と再会して、理解の追いつかない展開が終わった後、私たちは猫さんにこの遺跡からの出口を案内してもらっていました。

 どうやら猫さんは私たちの旅にそのままついてくるようです。フールもフランも歓迎していたので問題ないでしょう。


 一方、カニさんはと言えば、ハサミを交差して断られてしまいました。移動手段として優秀だと思っていたのですが、その気が無いのであればしかたないですね。ということでカニさんとお別れをし、私たちは出口を目指しています。


 「ニャー」

 「分かりました。ここを左ですね」

 「かわいい……」


 私の頭に乗る猫さんが、尻尾で私の顔の側面を叩きながら指示を出してくれます。

 相変わらず言葉は難解ですが、尻尾の叩く位置で方角が掴めるので問題は無さそうですね。


 「可愛いわ……」

 「さっきからそれ以外の言葉をフランから聞かないんだけど」

 「ちょっとフール。あんたの声がノイズになるから黙っててくれる?」

 「ああ、ごめん。さっきからあまりに語彙が乏しいものだから、つい」

 「はぁああ!? 誰の頭が単純だって?」

 「誰もそこまで言ってないだろう? 君の言語変換能力には驚かされるね」

 「何よ! あんただって変わんないでしょうがっ!」


 またも二人が喧嘩を始めました。きっと喧嘩が好きなのでしょう。

 その様子に興味を持ったのか、猫さんが私の頭の上で体勢を変えたのが伝わってきます。


 「猫さん、どうかしましたか?」

 「ニャッ」


 頭から暖かな重みが消え、見れば猫さんがフランへと飛び掛かっていました。


 「ひゃっ!? えっ、ちょ、あ……」


 猫さんがフランの胸へと飛び込むと、スルスルと身体を上っていき、器用にフランの帽子の中に収まりました。

 フランの帽子の前、つまり顔の前に、猫さんの尻尾だけが飛び出していました。

 フランは突然のことに驚きつつも、頭上に猫さんがいる事実を認識すると、目の端に涙を浮かべます。それと同時に口角は上がっていきました。


 「……あたし、この子飼っても良いかしら?」

 「ニャー」


 帽子の中からくぐもった声が聞こえると共に、尻尾がフランの顔をペチリと叩きました。

 それを受けてフランは恍惚とした表情を浮かべます。


 「なるほど。このまま道なりに進めば出口に着くんですね。ありがとうございます、猫さん」

 「ニャ」


 猫さんの肯定の声が聞こえ、道を進もうとすると、フールが私に問いかけてきました。


 「ねぇ、アイ。これ、どういう状況だい?」

 「猫さんに聞いてください」

 「会話が成り立たないんだけど」

 「言語理解は難しいですが、意図は分かり易いですよ?」

 「えぇ……」


 そんな会話をしながら歩いていくと、やがて出口らしき明かりが差し込んでいるのが見えました。

 前には出口、後ろからはフランの恍惚とした声が響いてきます。

 そんなに猫さんのことが気に入ったのでしょうか? まあ、喜んでいるのであればこれといった問題では無いでしょう。フールの顔も引き攣っていますがそれだけです。


 「えへへ……猫ちゃん。あたしのことそんなに好きなの? しょうがないわね、ずっとここにいて良いわよ?」

 「ニャー」

 「あっ!? 待って猫ちゃん! そん、な……」


 出口に辿り着くと、猫さんがフランの帽子を被ったままフランの頭から飛び降りました。相変わらず尻尾だけが見えている状態です。そんな状態でも関係のないように悠々と歩く猫さん。それとは対照的に、フランが膝から崩れ落ちました。

 フランはたまに情緒が乱高下しますね。フールで言う発作のようなものでしょうか。


 「フラン。膝から崩れ落ちているところ悪いですが、もう出口です。立ってください」

 「アイ……頭撫でさせて」

 「何故でしょうか?」


 本当に何故でしょうか?

 私の知識では、人が他者の頭を撫でる際のケースは絞られています。落ち込んでいる人を慰める時や、褒める時。また、親が子を甘やかしたり愛でるときに撫でる傾向があるとされています。他にもいくつかケースはあるものの、今のこの状況に当てはまるとは思えません。

 だとすればフランはなぜ、私の頭を撫でようとするのでしょうか?


 「癒しが欲しいの」

 「なるほど」


 癒し、ですか。

 確かにそれならばある程度の筋は通るかもしれません。人が猫や犬などの愛玩動物を撫でる際、癒しを求める傾向があるのは知っています。ですが、私はアンドロイドであって愛玩動物ではありません。いくらフランと言えど、私を愛玩動物だと認識はしていないはずです。


 ……念の為、確認しておきましょうか。


 「あの、私はアンドロイドですよ?」

 「え、何かしらそれ?」

 「はい?」


 一旦、情報を整理しましょう。

 フランの反応からして、私のことをアンドロイドだと認識できていないのは確定的でしょう。最初に出会った時に自己紹介したはずだったのですが。やはりあの自己紹介は結果的に失敗だったということでしょうか? 私としては、初めてまともに成功したという認識だったのですが。

 まあ、それであればもう一度説明すれば済む話です。


 「アイはこう見えて、単純な人間じゃないんだよ。簡単に言えば身体が機械で出来てるロボットなんだって」


 先に言われてしまいました。まあ、説明の手間が省けたので別に構いませんが。


 「はあ? あんた何言ってんのよ? そんな見え見えの嘘信じるわけないじゃない」

 「いえ、事実ですよ」

 「そうなのね。でもアイは可愛いから何も問題ないわよ!」

 「どういう理屈でしょうか?」

 「僕の時と反応が違いすぎる気がするんだけど」

 「だってアイが言ったのよ。信じるに決まってるじゃない。あんた馬鹿なの?」

 「君にだけは言われたくないね」


 可愛いから問題ないとは?

 ハントでラスティが述べていた『私がアイならば問題ない』という主張と似ていますが、それと同じ系統なのでしょうか? もしくはやはり愛玩動物として見られているのでしょうか?

 私はフランが何を考えているのか分かりません。今この場で考えても答えは出そうにもありませんし、一度この疑問は放棄して本題に戻りましょう。

 また知らぬ間に喧嘩を始めた二人へと視線を向けます。


 「それでフラン。私の頭を撫でたいということでしたが、それをすればフランは癒しを得る、という認識で合っていますか?」

 「ええ! できれば今だけじゃなく、いつどんな時でも撫でさせてもらえるとありがたいわ!」

 「そうですか。流石に緊急時は遠慮願いたいですが、そういうことでしたら、問題ありません」

 「やったわ!! ありがとう、アイ!」


 私は頭を撫でやすいようにフランの側へと寄っていきます。

 もしかすればこの経験を経て、また何かを理解できるようになるかもしれません。そうでなくとも特に不都合はありませんし、『撫でられる』という経験を積んでおくのも悪くはありません。


 「えへへ、じゃあさっそく行くわよ……!」


 頭上で、フランの手と思しき気配が近づいてきます。その気配が、私の視界に影を落とすほど近づいた頃。


 軽い柏手のような、肌と肌の接触音が頭上で響きました。見れば、フールがフランの手を払いのけたような形で止まっています。

 あまりに唐突な出来事に、フランが硬直しました。

 それから間もなく、私の頭に軽い感触と体温が伝わってきます。見るまでもなくフールの手です。


 一体、何がしたいんでしょうか? というか、フールまでもが私のことを愛玩動物として見ているのでしょうか?

 フランが私の頭上、つまりはフールの手を見つめ、何かを溜め込むように身体を震わせました。


 「〜〜〜〜!! あんった!! 何やってんのよっ!?」

 「いや、ごめん。フランから邪気を感じてつい払いのけちゃった」

 「それも! そうだけど! なんであたしより先にアイの頭撫でてんのって聞いてんのよ! アイの初なでなではあたしのはずだったのに!」

 「えっと、なんか流れで……」

 「はぁああああ!? ふざけんじゃないわよ! てかいつまで撫でてんのよ! さっさとあたしと変わりなさい!」

 「あ、うん。ごめん」


 フールの行動も意味が分かりませんが、フランもフランでそこまで怒ることなのでしょうか? 『初なでなで』とは?

 いえ、逆に言えば癒しが足りないからこそ怒っているという考え方もできます。『初なでなで』に関しては意味が分かりませんが。

 早速癒しというものを求めにきたのか、フランがフールを遠くへと追いやりつつ私に近づいてきました。そして、頭に手を伸ばすことなく私を抱きしめます。


 聞いていた話と違いますね。

 そして何故、私の身体に顔を埋め、匂いを嗅いでいるのでしょうか。


 「あの、先ほどの発言と食い違っているように思えるのですが」

 「大丈夫! 変なことはしないわ! これも癒しを求めるゆえの行動なのよ!」

 「そうですか」


 そんな理解困難なやり取りを経て、ようやく私たちは遺跡を脱出しました。

 『変なこと』の定義を、もう一度改める必要がありそうです。


最後まで読んでいただき、ありがとうございます。


短いですが、今回で遺跡編は一区切りとなります。

シリアス控えめの繋ぎの章ではありますが、

ここで描かれた何気ない日常や掛け合いが、

この先の物語でふっと息づく瞬間があるはずです。


そして現時点での“初なでなで”は――リギルとなっております。

(フールとフランには、どうか温かい目を……)


また、今回の更新をもってストックが切れてしまいましたため、

しばらく更新に間が空く予定です。

出来る限り早くお届けできるよう努めますので、気長にお待ちいただければ幸いです。


最後に、感想やブックマークなどで応援いただけると、とても励みになります。


それでは、また次の旅路でお会いしましょう。

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