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ただ一つ、それだけを君に願おう  作者: 白月
三歩目――新たなる旅路。魔女と猫の邂逅。
27/38

にゃー

白月です。

本日も読みに来てくださって、本当にありがとうございます。


今回の章では、新章らしく少し賑やかで、どこか微笑ましい旅の様子が描かれます。

アイの新たな出会いと交流や、フールとフランの関係性の深化など。

騒がしくも温かい空気を、ゆったりと楽しんでいただければ幸いです。


それでは、本編をどうぞ。

 「ニャー」

 「……? にゃー」


 カニさんによって遺跡の最奥に連れ去られた私は今、そこにいた黒猫との対話に臨んでいます。

 私はカニさんの上に。ネコさんは私の頭の上にとそれぞれが座っており、縦一列となって会話しています。

 会話と言っても、ネコさんの言葉が分からないため、成り立っているかは不明ですが。

 私に言葉が伝わっていないのが分かったのか、ネコさんが尻尾で私の顔をペチペチと叩きました。おそらく何かしらに対しての抗議をしているのでしょう。


 「そうですね。そのようにボディランゲージを交えていただけると、理解が進みます」

 「ニャ? ニャー」


 ネコさんがひと鳴きすると、頭からその重みが消え去ります。先ほどまでネコさんの重み含めてバランスを保っていたので、危うく崩れそうになりましたが、カニさんが支えてくれました。


 「カニさん、ありがとうございます。それとネコさん、急に降りると危ないですよ」

 「ニャニャッ」


 カニさんは自前のハサミを打ち合わせることで応じてくれましたが、ネコさんは気にした様子もなくこちらに何かを訴えかけています。尻尾で床をリズム良く叩いているかと思えば、毛繕いを始めます。

 自由ですね。しばらく毛繕いをしたと思えば、もう一度こちらを見てネコさんが鳴き、背を向けて歩いていってしまいました。


 「ついて来い、というということでしょうか?」


 そう呟けば、カニさんが器用にハサミを使って私を下ろしてくれました。


 「ありがとうございます。ところで、カニさんは行かないのですか?」


 カニさんはハサミで床を叩きます。床に突き刺さって抜けなくなっていますが、おそらく『ここにいる』ということでしょう。


 「分かりました。それではカニさん、さようなら」


 カニさんに別れを告げ、私はネコさんの後を追います。

 ところで、ネコさんはどこに行ったのでしょうか?


 *


 「今日の夕ご飯はカニ鍋にするわよ」

 「そうだね、とても美味しそうだ」


 僕とフランは先ほどまでの足の引っ張り合いが嘘のように、意気投合していた。

 そう、つまりは共通の敵を見つけたのである。

 隠しスイッチによって落とされた僕たちだが、落ちた先にあった弾性を持つキノコ、バウンド茸のお陰で難を逃れた、のは良いんだけど。

 その代償があまりにデカすぎた。

 そのキノコは、弾性の他に粘性も持っていたのだ。


 「なんでこのキノコこんなにヌメヌメしてるのよ! このローブ高かったのに! これも全部あのカニのせいだわ! アイのことも背負ってたし! あたしだけじゃない、アイをおんぶ出来てないの!」

 「うんうん、そうだね」


 怒り狂うフランを僕は刺激しないように宥めていく。

 それにしてもフラン。君、カニに負けたのか。刺激しそうだから言わないけど。

 まあ、それはそれとして僕だってフランほどではなくとも現状に不満を抱いている。そもそもアイをさらった時点で許せることでは無いのだ。アイなら何事もなく、無事な気もしないではないけれど。

 そういうわけで僕たちの共通の敵はあのカニである。


 「さあ、行くわよ! フール!」

 「なんでフランが仕切ってるのさ。まぁ良いけども。あ、そこ」

 「あっ……」


 フランが勇み足で一歩を踏み出した途端、その足下が、ガタンと音を立てて押し込まれた。


 「遅かったか……」

 「ちょっと! 分かってたんならもっと早く教えなさいよ!」

 「それは明らかに責任転嫁だろう!? というかなんだい? さっき引っ掛かったにも関わらず君は学ばないね。巻き込まれる僕の身にもなってほしいよ」

 「うるさいわね! 押しちゃったんだからしょうがないじゃない! ほら、今こそ出番よ。あたしの盾でしょう?」

 「悪いけど僕は剣しか持ち合わせがなくてね。その要望には応えられそうにない」

 「じゃあ全部斬って!」

 「君はどこのじゃじゃ馬姫だ!?」


 言い争いながら通路に逃げ込むように入ると、そのタイミングで仕掛けが起動する。

 僕は仕掛けの駆動音がした後方を警戒しつつ、いつでも剣を抜けるようにする。

 僕に斬れるものだと良いんだけど。

 後方で、何やら水音のようなものがした。振り返れば通路を埋め尽くすほどの水流がそこに迫っていた。


 「ちょ、ちょっと!? いくらなんでも追いつかれちゃうわよ! ここ地下とはいえ砂漠よね? どうしたらこんな水量集まるのよ!?」

 「仕方ないね」


 僕は完全に動きを止め、反転して迫り来る激流を見据える。背に負っていた剣の柄に手を掛け、勢いよく抜き放ち構える。赤熱する刀身の温度が僕の肌を焼いた。


 「ちょ、ちょっと? 斬れるの?」

 「さぁ、分からない。僕も水を斬った経験はないんだ」

 「良い? 絶対斬りなさい! 何がなんでもよ!?」

 「本当に、とんだじゃじゃ馬姫だね」


 右後方へと構えた剣先が、わずかに揺れた。

 もうそこまで迫っている激流を前に、僕は深呼吸をする。

 息を吸い、吐く。剣先が止まる。

 僕たちを飲み込もうとする激流に、一閃。

 下から切り上げたそれは、僕の目の前に赤い軌跡を残した。


 「わぁ……!」


 激流が、割れた。

 フランの静かな感嘆が、僕の耳に届く。

 振り向けば少し興奮した様子のフランがいた。


 「ふぅ。なんとか斬れた」

 「あんた凄いのね。本当に斬っちゃう、なん……て……」


 その時、僕の後方で水音がした。

 フランも気付いたのだろう。言葉が窄み、顔色が青くなっていく。


 「うん。薄々気づいてた。たとえ一時的に水流を斬れたとしても、持続的な水の流れはいずれ戻るんだよね」

 「つまり?」

 「意味が無いってこと」

 「ちょっとぉ!? ど、どうすんのよじゃあ? もう一回斬ってよ!」

 「現実的じゃないかな。いっそ、流れに身を任せようか。だからフラン、ちょっと失礼するよ」

 「え、きゃっ!?」


 僕はフランの肩を掴み、引き寄せる。

 いくらなんでも、この激流に流されたらどうなるか分からない。それなら少しでも助け合える距離感に居ないとね。


 「ちょ、あんたこんな時に何を」

 「フラン、思い切り息を吸って」

 「え、あ、わ、分かったわ」


 フランと共に、僕も息を吸う。

 そうして、僕たちは激流に飲まれていった。

 少し遠回りをすることになりそうだ。アイ、もう少し待っていてくれ。


 *


 「ネコさん、こんなところに居たんですか」

 「ナーウ」


 私がネコさんを探し回ってようやく見つけると、ネコさんはどこかジト目のよう目つきでこちらを見てきました。

 なんでついて来てなかった、とでも言いたげな目つきです。


 「ネコさんがさっさと先に行ってしまったんですよ?」

 「ナウナーウ」

 「大丈夫です。もう見失いません」

 「ニャー」


 怒られてしまいました。

 それにしても、少しずつではありますが、ネコさんの伝えたいことが分かるようになってきました。

 今更ですがこのネコさん、こちらの言葉をしっかりと理解していますね。明らかにフールより理解力に優れています。

 ネコさんの後をついて行くと一つの小部屋の前に辿り着きました。その部屋の扉の前でネコさんがこちらを向いて座ります。


 「ニャー」

 「入れ、ということでしょうか」

 「ニャニャッ」

 「分かりました」


 ネコさんが扉の前から離れ、促されるまま、私は扉を開きました。中は想像通り小部屋といった装いで、特に違和感も見受けられません。ただ、部屋の中央に木製の外枠と金具で作られた宝箱のようなものがありました。ネコさんがそこに歩み寄ると、前脚の内、片側をその箱に乗せました。


 「ニャン」

 「分かりました。開けてみます」


 私は蝶番を外し、上蓋を押し開けました。

 その中に入っていたのは、一丁の銃。

 私が以前使用していたものとそう変わらない大きさ。ただ以前のものよりやや銃身が長めでしょうか。それでも拳銃と呼んで差し支えないコンパクトさです。


 ただ色味は随分と違いますね。以前のものが完全な黒なのに対して、こちらはベースカラーが白に近いシルバー、いえ真珠のような白と言った方が適切でしょうか。グリップの内側部分もまた配色が異なっており、その部分はゴム製に近い見た目で暗いグレーとなっています。また銃身の側面には金色の月を模ったようなマークとメモリのようなものがアクセントとして機能しているようですね。


 「ニャー」

 「これを、私に、ですか?」

 「ニャニャ」

 「そうですか。ありがとうございます」


 ネコさんはどうやらこの銃を私にくれるようです。なんというか、武器を無くしたあと初めて訪れる場所で、同種のものを手に入れるとなると、どうにも都合が良すぎるようにも思えます。まあ、貰わないという選択をする理由もなさそうですが。


 手に取ってみれば伝わる重さはそれほどでもなく、むしろ銃としては取り回しのしやすい設計となっていそうです。そして何より、手に取った瞬間、目に見えて分かる変化が現れました。軽い駆動音が鳴り、銃身の側面にライトブルーの光が線のように走りぬけ、先ほどのメモリ部分もまるでバッテリーの容量を表すかのようにその色で満たされています。

 この銃はおそらく、光子銃、またはレーザー銃とでも呼ぶべきものなのでしょう。


 だとすれば、似ていますね。私と。その在り方が。

 私が普段周囲のエネルギーを取り込み活動を続けているのに対して、この銃も同じように、おそらくは光などを溜め込んで射出するといった性質なのでしょう。

 銃弾を持ち合わせる必要が無いのは便利ですね。バッテリーがどの程度容量として機能しているかは現時点で不明ですが、メモリがあるということは一発で機能しなくなることはないでしょう。


 なんにせよ、予想外に良いものが手に入りましたね。


 「ネコさん、私はそろそろフールたちの下に戻らなくてはなりません。出口に案内してくれませんか?」

 「ニャ? ナーウ」

 「はい、お願いします。あれ? また頭に乗るんですか? ですがそれでは道案内が。問題ない? 分かりました」


 新たな武器を手に入れた私は、フールたちの元へ戻るべく、頭にネコさんを乗せて、小部屋を出ました。

 フールたち、そろそろ喧嘩は終わったでしょうか?


 *


 どこか心地よい揺れを感じて、意識を目覚めさせる。

 目を開いて最初に映ったのは柔らかな黒。まだ意識がぼんやりとしていて、それを覚まそうと目を瞬かせる。

 あたし、何してたんだっけ?

 確か、アイがカニに攫われちゃって、なぜかフールと一緒に探すことになって。何回も罠に掛かっちゃって、フールが凄くて、でもやっぱりダメで水に流された。そう、そんな感じだったわ。

 あれ? じゃあこの黒って、あいつの。


 「あれ、フラン。起きたのかい?」

 「ひゃっ!?」


 唐突に目の前の黒――フールの髪が揺れ動き、声が掛けられた。


 び、びっくりした。

 あ、いや、こいつ程度にビビったわけじゃないわよ? もちろん。

 ただ、そう。あの、あれよ。あれ。分かりなさい。


 「暴れないで欲しいんだけど」

 「う、うるさい。あんた、あたしに何かしてないでしょうね?」

 「起きて開口一番に言うことかい、それ」

 「てか、降ろしなさいよ」

 「はいはい」


 全く、なんであたしはフールなんかに背負われてんのよ。あたしはアイを背負いたいって何度も言ってるのに。

 ……無駄に安定感あったわね。髪もなんかいい匂いしたような。

 ムカつくわね。


 「で、どういう状況なのよ?」

 「相変わらず切り替えが早いね。僕たちがあの激流に飲まれた後、君が意識を失っていたからね。アイの救出も急ぎたいし背負わせてもらったんだ」

 「ふーん、そう。それについては感謝するわ、ありがとう。ちなみに水に流されたのに何であたしたちの服が乾いているのかしら? そう長く眠っていたわけじゃないはずよ?」


 なぜか水に濡れた不快感もキノコのヌメヌメも綺麗さっぱり無くなっているのよね。起きた直後は気づかなかったけど、明らかにおかしいわ。

 そう思って、目の前のフールに問いかける。すると、フールの目が泳ぎ始めた。その態度を見て、あたしは目を細める。


 「変態」

 「え!? あ、いや違う! フランの思っているような事はしてないよ!」

 「何が違うのよ。証拠にあんたの目が泳いでるじゃない。やっぱり男ってゴミね。ああ、さっきの感謝は取り下げておくわ」


 あたしはフール、いえゴミにそう言い放って静かに距離を取る。とりあえずアイに会ったら、このゴミから離れるように言わなきゃ。そうすればあたしとアイの二人旅になるわね。うん、それが良いわ。

 そう一人納得していると、件のゴミが焦ったように告げる。


 「トラップ!」

 「え?」

 「トラップに引っ掛かったんだ。あの後、君を背負ってアイを探してる最中にトラップの暴風に巻き込まれて。あれだけ君に言っておいて自分も引っかかるとは思ってなかったから、その。つまり、君に手は出していない! です……いや、あの、背負うために多少触れてはしまったかもだけれど、故意ではない、ので」


 必死な弁明。その表情から窺えるのは焦りと、あたしに対しての申し訳なさ。


 何よ、結局あたしの勘違いじゃない。……いえ、勘違いですらない意地ね。薄々フールがそんなことする訳がないって気づいてた。単なるお人好しの善人。ムカつくとこもあるけど、そう認めさせられるくらいには。全く、底意地が悪いのはどっちなのよ。


 まぁ、それはそれとして。


 「……フッ」

 「え?」


 思わず、笑い声が漏れた。フールが、目を見開いている。だからあたしは、底意地の悪い笑みを浮かべてやった。


 「あら? あんたあんなに人のこと煽っておいて、自分も引っかかちゃったんだ? 可哀想〜」

 「……それは君が言えたことなのかな? 随分と悠長に寝ていたようだけど」

 「何よ!」

 「僕は事実を言ったまでだよ。あー、随分と体が軽く感じるなぁ」

 「あたしが重いって言いたいわけ? どうせ感触を堪能してたんでしょ。変態」

 「どれだけ短絡的なんだい、君は。こっちは君が僕の肩に涎を垂らさないかヒヤヒヤしてたというのに」

 「はぁああ!? あたしが涎なんて垂らす訳ないでしょ! バカじゃないの?」

 「いや、だいぶ危なかったね」

 「そんな見え見えの嘘通用しないわよ!」


 やっぱりコイツムカつく! 何が良いやつよ、ちょっと前のあたし、どうかしてたわ!


 ムカついたので、フールの足を蹴り付ける。それを避けたフールが底意地の悪い笑みを浮かべてきたので、脇腹を殴ってやった。すると文句を言ってくるので、言い返す。

 そんな感じで、あたしたちは言い争いを続けながら通路を進んでいく。


 そんな時。


 「まだ喧嘩してたんですか、二人とも」


 後ろからそんな声が聞こえた。あたしとフールが勢いよく振り向く。


 「「アイ!! ……と、ネコ?」」


 振り返った先にいたのは予想通りアイだった。ただ一つ予想外だったのは、アイの頭に愛らしい黒猫が乗っていること。

 あれ、カニは? とか。何でネコが? とか。聞きたいことはたくさんあるわ。

 でも、それよりも今、あたしの頭を占めている感情。

 もはや激情とさえ言えるそれ。


 「ニャー」

 「にゃー、です」


 可愛すぎるわ!!


最後まで読んでいただき、ありがとうございます。


今回は、アイとネコの再会や、フランとフールの掛け合い、そして新たな相棒となる“白い銃”との出会いなど、盛りだくさんの回となりました。

賑やかで、どこか優しい――そんな三人の雰囲気を感じ取っていただけていたら嬉しいです。


ここから先、彼らの旅路はさらに広がり、少しずつ“心”に触れていく物語が続いていきます。

引き続き、毎晩22時頃の投稿を予定していますので、どうぞこれからもお付き合いください。


それでは、また次の旅路でお会いしましょう。

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