ずるいわっ!!
白月です。
本日も読みに来てくださって、本当にありがとうございます。
今回は前回初登場のフランがメインのお話となります。
インパクトのあるフラン、相変わらずズレているアイ、終始困惑するフールでお届けします。
それでは、本編をどうぞ。
ニコニコと擬音が付きそうな満面の笑みを浮かべて、こちらを見つめるフラン。
髪はボサつき、所々に砂がついています。
初対面のはずですが、何故こうも好意的なのでしょうか? フラン自身のことも含めて、疑問に尽きませんね。
一応は私とフランの二人が自己紹介を行なったことで、フールもフランへと名乗ります。
「えっと、僕はフール。とにかく無事で良かった」
「え? ああ、そういえばいたわね、あんた」
「え、ひどっ……」
フールとフランが会話していたのは、つい数十秒前です。それなのにこの言動とは。
頭に障害でも抱えているのでしょうか?
そして忘れられていたフールはその場に崩れ落ちました。こちらも発作の様ですね。やはりハントの医師に見せるべきでしたか。
そこでフランが崩れ落ちたフールに対して、気にすることもなく声を掛けます。何故かこちらをチラチラと見ていますが。
「まあいいわ。あんたたちに聞きたいことがあるの」
「えっと、何かな?」
何とか持ち直した様子のフールが問いかけます。
その問いかけに対して、フランは顔についた砂を払いながら応えました。
「ここはどこかしら?」
「……いや、僕にもわからない」
「は?」
やはり記憶障害のようですね。
ここにいるということは、少なからず旅をしているということは確定的です。そして、フールのように考えなしのまま、こんな場所にそう何人もいるとも思えません。となれば現状で考えられるのはフールのことを忘れていたことも含め、記憶障害を持っているのだとすれば筋は通ります。
定期的に記憶障害の影響を受けるのだとすれば、いつの間にか砂漠に辿り着いていたということもあり得るのでしょう。
私がそう納得していると、フールの反応に対してかフランが声を荒げました。
「はぁ!? 何でわかんないのよ?」
「いや、目的地も決めず旅してたから。今は反省してるけど。というか、そう言う君だって分からないんだろう?」
「うぐっ……!」
「それに色々と疑問点があるんだけど、まずは何より……何で君飛べるのさ?」
それについては私もずっと疑問を抱いていました。
抱いて当然の疑問のはずですが、フランはなぜか不思議そうな表情を浮かべました。
「いや、何でそんな不思議そうな顔してるのさ?」
「いや、こいつ何言ってんの?って思ったからだけど」
「うん、大分直球だね」
「だって本当にそうだったんだもの。もしかしてこの箒知らないの?」
「え、うん」
「私も知りませんね。ただの箒とは違うんですよね?」
「ええ! やっぱり知らないのね。ふふっ。アイったら仕方ない子」
「ねぇ、なんか僕の時と対応違くない?」
「このあたしが! アイのお姉さんたる、このあたしが! 教えてあげるわ!」
「私に姉は居ませんが」
「え、無視?」
フランは何を言っているのでしょうか?
私とは初対面の筈ですが。そもそも私はアンドロイドです。他者と血の繋がりも当然ありません。それどころか血は流れていません。
しかし、当たり前の事実のようにフランは語っています。やはり、フランの記憶障害はほとんど確定的と言っていいでしょう。
そして、私の言葉など耳に入っていないかのように、フランは私へと説明をします。
「これはマギア連邦で一般的に流通している魔道具の一種よ。見た通り空を飛べるの。あたしのはある方に頂いた特別性だけどね」
「その箒そのものに飛行能力が備わっている、ということでしょうか?」
「その通りよ!」
「ねぇ、フラン」
「ダメよ」
「早くない?」
「どうせ自分も乗ってみたいとか言うつもりでしょ」
「その通りだけど……どうしても駄目?」
「ダメ」
無慈悲なフランの返答に肩を落とすフール。それを見て、フランが咳払いをして続けます。
「言っておくけどね、何も全部が全部意地悪で言ってるわけじゃないのよ?」
ということは、意地悪も含まれているということですね。
その真意に気づかなかったフールが、明るさを取り戻した顔でフランを見つめます。その様子を見て説明を続けるフラン。
「言ったでしょ? この箒は特別性だって。あたしにしか使えないように出来てるの。だから貸してあげようにも貸せないわけ。分かった?」
「ああ、うん。そういうことなら仕方ないね。気遣ってくれてありがとう」
「別に気遣ってなんかないわよ!」
そう言いながらなぜか顔を赤面させるフラン。
なぜ赤面したのでしょうか? 今までにないケースですね。やはりフランの言動は観察しておきましょう。重要なデータになりそうです。記憶障害を患っているのが難点ではありますが。
フランが赤面し、フールが苦笑している様子を観察していると、それほど待たずにフランが再び咳払いをしました。
「あたしも、あんたたちに聞きたいことがあるわ。特にフール! あんたに!」
「な、何かな?」
あまりの語気の強さからか、フールがやや及び腰になりながら問い返しました。
大方、フールの強さについてでしょうか? そういえば私も、そうなるに至った原因は知りません。やはりなんらかの訓練でも受けていたのでしょうか?
少しの静寂の後、深呼吸を経て、次の瞬間にフランが放った言葉は。
「ずるいわっ!!」
「えぇ……」
疑問ではなく、不満でした。
「いや、ずるいって何がさ」
「はぁ!? どう考えても、こんな可愛い子と旅をしてることに決まってるじゃない!!」
「私、ですか?」
「かわいい!」
「えぇ……」
私が入った途端に会話が成り立ちません。困りましたね。一度会話はフールに任せて観察を続けることにしましょうか。
鬼気迫る表情のフランから、フールが一歩分距離を取りながら尋ねます。
「ずるいって言われても、どうしようもないだろう?」
「あたしもあんたたちと旅すればいいじゃない。あんた目的地決めてないとか言ってたわよね? なら大丈夫でしょ?」
「僕は良いけど、アイが」
「構いませんよ」
「あ、そう」
「やったわ!」
飛び跳ねるほど嬉しかったのか、フランが体全体で喜びを表現しています。
あ、砂で滑ったのか転びました。それでもフランの顔は晴れたままです。
そこまで喜ぶことなのでしょうか?
まぁ、何にせよこれで充分に観察の時間が確保できそうですね。
私にとってはそうした利点がありますので、フランの同行自体は特に問題ありませんが。
そして、私たちの旅に同行することが決まったフランが一歩踏み出し、こちらへと振り返ります。
「結局、ここがどこか分かってないわね」
「じゃあ、なんで勇んで踏み出したのさ」
「ノリよ」
「そもそもフランはどこに向かう予定なのですか?」
「さっき言ったでしょ? マギア連邦よ。さらに言うならその最北端の都市。そこに向かうわ! あと、フランお姉ちゃんって呼んでくれて良いわよ」
「ですから私には……」
いえ、これも心を知るために重要なことなのでは?
私には確かに姉はいません。ですがここでそう呼ぶことで、フランがなぜそこまで私を妹にしたがるのか、その真意が分かるかもしれません。
となればものは試しです。
私はフランへと視線を向け、その名を呼びます。
「フランお姉ちゃん」
「グハッ……!?」
「え、吐血!?」
どうしてでしょうか?
フランが吐血してしまいました。今は四つん這いになり、身体を震わせています。しかし困ったことにここは砂漠。医療機関どころか他に人は誰も見当たりません。
一体何が原因なんでしょう? 私には見当もつきません。
とりあえず、今後この呼び方は禁じておきましょう。吐血との関連性は疑わしいですが、念には念を。
それから数秒して、フランが幸せそうな笑みを浮かべて顔を上げます。
どうやら見た目ほど重症ではなさそうですね。
「も、もう一回」
「話が進みそうにないので却下です」
「えっと、そうだね。放置でいい気がしてきた」
「ちょっと! そんな残念な子を見るような目で見ないで!」
「それじゃあ話を進めようか」
「はい、そうしましょう」
中々に興味深い生態をしていますが、旅の指針を決定してからでも観察はできます。なのでここはフールに同意しておきましょう。
私とフールが取り合う気がないのを察したのか、フランが一度深呼吸をして、さも当然のように仕切り出しました。
「それで? あんたたちはどこから来たの? それが分かれば現在地もある程度絞り込めるかもしれないわ」
「切り替え早いね……えっと、直近で寄ったのはハントって国だよ。そこから北上して三日でここにいる」
「あら、なら絶望的に離れてるってことはないわね。遠いは遠いけどこのまま北上していけばいずれ着くわね」
「その口ぶりですと、もしやフランは、この世界の地理を把握しているのですか?」
「一部だけね。マギア連邦にいた頃に、地図を見たことがあったの。知っている場所で助かったわ」
「え、元々そのマギア連邦にいたって事かい? それならどうして……」
フールの言葉通り、フランの言っていることが正しいのなら、フランはマギア連邦に元々いたところをなぜか離れ、再び戻ろうとしているということになります。目的がハッキリとしませんね。
何故マギア連邦からこんな場所まで来たのか、そして何故戻ろうとしているのか。
それを問いかけるフールの言葉が萎んでいきます。
見れば、フランは不安や困惑、焦燥の入り混じったような、沈鬱な面持ちをしていました。
そして途中で途切れたフールの疑問に、フランが答えます。
「……色々あったのよ」
それは答えると言うより、会話を終わらせるために紡がれた言葉のようで、フールもそれ以上、この件に関してフランへと問うことはありませんでした。
少しの静寂が流れるも、すぐに空気を変えるようにフランが声を上げます。
「まあとりあえずは! 進む方向は決まったわね!」
「そうですね。日が暮れる前に進めるだけ進まなくては」
「僕も同意見だ。ねぇフラン、砂漠を抜けるのに後どれくらいかかりそうだい?」
「そうね。ハントから三日ってことは砂漠に入ってから二日くらいってことよね? それならあと一日もすれば抜けられると思うわよ」
「水不足に悩まされることも無さそうですね。そういえばフランは見たところ軽装ですが、水分などはどうしていたのですか?」
「フフン! そんなに気になるなら教えてあげても良いわよ!」
「いえ、さほど興味はありません」
「なんでよ!?」
「いや、僕は興味あるよ。旅人にとっての死活問題だからね」
「あんたに興味持たれても……まあ、良いわ。もったいぶる事でもないし教えてあげる。私の魔法で水分や食料はなんとかなるのよ」
魔法とは?
また、新しい言葉が出てきましたね。フランの表情を見るに、知っていて当然のようなものなのでしょうか? ですがフールも困惑の表情を覗かせています。水分だけでなく食料まで担保できるとなれば有用ですが、どのようなものなのかは想像がつきませんね。
というかフールは、水分が死活問題につながるという認識は持ち合わせていたのですね。行動を見るに改善しようとは思っていなさそうですが。
そこでフールが何かに思い至ったように、目を瞬かせました。
「魔法って、もしかして……御伽話に出てくる魔女が使った……?」
「そう、それよ! あたし、魔女に憧れてるから」
「御伽話、ですか?」
「アイは聞いた事ないの? マギア連邦だと知らない人なんていなかったわよ?」
「知りませんね」
「無理もないさ。アイは少しだけ変わった環境だったから。でも、僕が旅をしていてこの御伽話を知らない子供はいなかったな」
「それほどに認知されているものなのですか。それで、その魔女というのは?」
「終焉の黒龍を勇者と共に討伐した、凄く偉大な魔法使いよ!」
「でも、魔法使いなんて実際にはいないんじゃ……」
「何言ってるのよ? 確かに数は少ないけどマギア連邦には普通にいるわよ。特にあたし達が目指してるウィッチなんて殆ど魔法使いだし」
「えっ……!? それじゃあフランも?」
「さっきからそう言ってるじゃない」
先ほどから知らない情報がどんどんと増えていきますね。
そもそも私は、魔法そのものがどんなものかも理解していないのですが。魔法使いと呼称するからには、魔法は何かしらで使用するものなのでしょう。
黒龍の討伐に貢献したということは何らかの武器でしょうか? しかし水分と食料を担保できる武器とは? 水圧カッターでしょうか? いえ、それですとそもそもの水分はどこから? 食料もどうにもなりませんし。終焉の黒龍もよくわかっていませんし。
やはり何もわかりませんね。少なくとも概念ではなさそうですが。
私の困惑に気づくこともなく、フランが自慢するように胸を張りました。フランの胸を羨ましがる人物はここには誰もいませんでしたが。
「あたしも当然魔法を使えるわ!」
どうやら胸を自慢していたわけではなかったようです。読み違えましたね。
フランの自信に満ちた宣言に、フールが珍しく目を輝かせています。レインボーの実を見つけた時以来ですね。
「フランはどんな魔法を使えるんだい?」
「フフン、良いわ。教えてあげる。あたしが使える唯一の魔法。それは――」
ちょうど良いですね。私は相変わらず、魔法というものへの知識が不足していますが、これで理解も進むでしょう。
そして、フールが目を輝かせ見守る中、フランは地面へと掌を向けます。その直後、地面の砂が小さく盛り上がっていき、やがて。
「――花を咲かせる魔法よ」
砂漠に一輪の、白い花弁が咲きました。
それを見てフールは目を輝かせ、その様子に益々胸を張るフラン。
私は一連の流れを見て、ただ一つを思考します。
理解からまた一歩、遠のきました。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
今回で、旅のひとまずの目的地が決まりました。
また、フランという同行者が増えたことにより、物語がまた一段と賑やかになっていくと思います。
投稿は引き続き、毎晩22時頃を予定しています。
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それでは、また次の旅路でお会いしましょう。




