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ただ一つ、それだけを君に願おう  作者: 白月
三歩目――新たなる旅路。魔女と猫の邂逅。
24/38

うぎゃああああああっ!?

白月です。

本日も読みに来てくださって、本当にありがとうございます。


今回から新章開幕となります。

ハントを離れ、少しずつ広がっていく世界の中で、

アイとフールの新たな旅が幕を開けます。


寄り道も、出会いも、ちょっとしたズレも含めて、

どうかこれからの旅路を見守っていただければ幸いです。


それでは、本編をどうぞ。

 ハントを北上すること、三日。


 私とフールは今、照りつける太陽の下、砂漠を横断していました。

 また、水不足に悩まれそうな道行ですね。まあ、今はまだ余裕がある状況ですが。


 「暑い……」


 フールはそうでもないようです。汗が滴り、地面に落ちる度、焼けるような音を立てています。

 やはり人間にとってこの環境は過酷なようですね。


 「アイは、大丈夫かい?」

 「私は問題ありません。体温を一定に保つ機能が備えられておりますので、この環境でも問題なく活動を行えます」

 「羨ましい……」

 「人間にも似たような機能はあるかと思いますが」

 「限度があるからね」

 「そうですか。ところで次の目的地はどこでしょう。この三日の間聞いていませんでしたが」

 「いや、分からない」

 「はい? 今、分からないと言いましたか?」

 「うん」


 聞き間違いでしょうか? いえ、私が聞き間違えるはずもありませんし、フールの言い間違いでしょう。

 ハントを発つ時、最終的な目的地があるわけでは無いとは聞きましたが、次に目指す場所も決めずに旅に出るなんてはずは無いでしょう。

 いくらフールであっても。


 「おかしいですね。今肯定された様な気がしましたが、言い間違いですか?」

 「いや、言い間違えてないよ。そもそもアイと出会った時に、ハントにどうやっていくのかも分かってなかったんだから」

 「そういえばそうでしたね。それでは、私たちは一体何処に向かっているのでしょうか?」

 「さぁ?」


 どうしましょうか。フールが考えなしすぎて何処にも辿りつかない可能性が湧いてきました。

 ハントまでの道中よりも状況は悪いのでは無いでしょうか?

 次への目的地が決まっておらず、横断しているのは人間にとって過酷な砂漠。更に言えば、現在私は武器を所有していません。まあ、最後に関してはフールがいる以上あまり関係ないかもしれませんが。


 「まあ、何にせよ歩いてれば何処か着くよ」

 「私と出会う前もこのように旅をしていたのですか?」

 「え? うん」

 「良く生きていられましたね」

 「ほら、僕運が良いから」

 「頼りすぎでは?」

 「言い返せないな」


 少し笑みを浮かべてそう返すフール。

 まあ今まで実際にそれでやってきたのであれば確かに運は良いのでしょうが、フールの実力なども鑑みて誰にでもできることではないでしょう。 

 そもそも運が良いことと目的地すら決めないことは関係ないですし。


 「とりあえず今後の方針を決める為にも、そこの岩場で休憩しようか」

 「良いでしょう。そもそも方針が決まっていないことには、この際目を瞑ります」

 「いや、ほんとごめん」


 岩場の影に腰を下ろすと、フールが私に問いかけてきました。


 「ねぇ、アイ。君は僕に着いてきたことを、後悔していないかい? 自分で言うのも何だけど、特に目的地も決めず歩くだけ。魔獣に襲われる危険だってある。メティスという脅威も去った。ハントに残らなかったこと、後悔していないかい?」


 フールは真剣に私に問いかけてきます。

 なぜこのタイミングで?という疑問も、あるにはありますが。フールなりに気にしていたのでしょうか? 私から望んだことなのですがね。


 「確かに、ハントに残った方が安全であった可能性はあります。まさか次の目的地すら決めずに旅をするとも思っていませんでした。ですが、後悔はありません。そもそもそういったものを私が感じ取れないというのもありますが、この短期間に決めつけるのは早いのでは?」

 「それもそうか」

 「それに」

 「それに?」


 オウム返しで問いかけてくるフールを、私はまっすぐに見つめました。

 たった三日前のことを、もう忘れたのでしょうか? 旅の始まりに言ったはずなのですが。


 「ハントに留まっていては、心を知ることができないと、そう思いましたので。それに、あなたが保証してくれると、そう言っていたでしょう?」


 ”大丈夫。君にならいつか、誰かを想って願うことが必ずできる。この僕が保証しよう”


 確かにあなたがそう言ったことは覚えています。あの時はその言葉を信用などしていなかったですが。

 私の問いかけに、フールが徐々に口の端を上げていきます。やがていつも通りの笑みを浮かべ、言葉を紡ごうとして――


 「うぎゃああああああっ!?」


 ――この砂漠に、魔獣のような声が響きました。


 「アイ、隠れてて!」


 その声に反応したフールが、私を背に岩場から飛び出しました。

 見ればそこには、この砂漠で度々見かけた魔獣、サンドワーム。砂を纏った三メートルほどのミミズ状の魔獣が顕現していました。


 「おかしいな? サンドワームは基本声なんてあげないはずなんだけど」


 フールの言う通り、この魔獣と何度か相対していますが、基本砂中から奇襲を仕掛けてくるため声は上げなかったと思うのですが。

 サンドワーム周辺の地面を見渡しても、他の生物は一つも見当たりません。

 もしや、偽熊さん、もといネイルベアーの時と同様に変異種でしょうか? 見た目は一般的なサンドワームと変化が見受けられませんが。


 そこで、もう一度声が響きました。それも上空から。


 「ちょっと!? 誰の悲鳴が魔獣だって言うのよ? ていうか誰か知らないけど助けて!?」

 「え!? 人?」


 声の響いた上空を見れば、そこには宙に浮かぶ小さな影が。


 人、でしょうか? 何やら細長い棒に乗っているように見えますが。そもそもどの様にして浮いているのでしょうか?

 サンドワームがその影を追いかけ、影がふらふらと避け続けています。避ける度に悲鳴が聞こえてくることから相当必死なのでしょう。

 フールも同じような感想を抱いているのか、動きが数秒止まっていましたが、思い出したようにサンドワームへと駆けて行きました。

 そうして、赤熱はさせずに剣を抜き放って数秒、サンドワームがまるで元の形を思い出したかのように砂になり、崩れて行きました。

 砂漠に入って何度か相対していたのもあって、フールも慣れた様です。


 そして、フールが剣を納めていると、上空に浮かんでいた影が段々と降りてきました。


 「え、えっと……大丈夫かい?」


 フールが降りてくる影にそう声をかけます。

 どうやら女性のようですね。話し方からそうだとは思っていましたが、外見も女性そのもので、予想と食い違うことはありませんでした。


 ですが、気になる点がいくつかありますね。女性が肩で息をしているのは一度置いておくとしても、やはり宙に浮いていたことが不可解です。

 近づいてきて分かったことは、女性が箒に乗っていること。飛んでいる時は逆光の影響もあり、棒状の何かとしか認識できませんでしたが、箒だった様です。まあ箒とわかったところで、なぜ宙に浮いているのかなどわかりはしないのですが。


 そもそも箒に乗るとは?

 箒は私の認識が間違っていなければ、床を掃くなどして掃除を行う道具のはずです。

 これも私の知識にないだけなのでしょうか? ハントの一件を経て私も、この世界への理解が深まったと思っていたのですが、どうやらまだまだの様ですね。


 もう一度女性を観察します。頭には三角錐の帽子。体を覆っている外套はマント、もしくはフードの無いローブの様な装いです。手には箒。衣装は全体的に暗色で揃えられており、そこから覗く赤い長髪とエメラルドのような透き通った瞳が際立っています。

 ふむ。やはり箒の異質感が消えませんね。

 そう感じていると、ようやく呼吸が落ち着いたのかこちら、というよりフールに女性が声をかけました。


 何故か体の角度を斜めにし、無駄にキリッとした顔だけをフールへと向けて。


 「ふぅ。感謝するわ。まぁ、あたしだけでも依然問題は無かったけれど。助けてもらったことは事実だしね」


 そう言って、髪を大袈裟に掻きあげる女性。掻き上げられた髪が風に舞い、最終的に彼女の顔へと張り付きました。

 ピタリと動きが止まる女性。それを見つめ何も返さないフール。砂だけが、風に攫われ動いていました。

 いえ、訂正します。女性の肩がプルプルと震えました。加えて、顔が上気しなぜか目の端に涙を浮かばせています。


 「……ちょっと!? 何か言いなさいよ! なんか気まずいじゃない!」


 沈黙に耐えられなかったのか、女性がそう言いました。

 なるほど、先ほどの様子は羞恥からくるものでしたか。

 それにしても、口調が先ほどと変わりましたね。こちらが素の口調でしょうか?


 「あ、ごめん。えっと、どういたしまして?」

 「えぇ。改めて感謝するわ。あたし一人でも問題は無かったけれど」

 「いや、助けてって……あとそれ二回目……」

 「うるさいわね! 感謝してるんだから良いじゃない!」

 「あ、口調戻った」

 「あ……あぅ」


 それから、再度砂を攫う音だけが鳴り、女性の顔は朱色に染まりました。手で帽子を抑え、顔を隠す女性。フールはその様子を見て頬を指で掻き、視線を逸らしました。


 これはどういう状況なのでしょうか? 何一つ把握できていませんが、私では理解できない次元に二人がいることは分かります。

 私は岩の影からその状況を見つめることしかできません。

 フールは相変わらず視線を逸らし、時折こちらに意味ありげな視線を送っています。女性は何故か深呼吸をしていました。


 やはり、私にはどうにかできる状況では無さそうです。引き続き観察を続けましょう。これを理解すれば、心を知ることにもつながるかもしれません。一つ問題があるとすれば、今のところ何一つ理解できていないことぐらいでしょうか。

 観察をしていると深呼吸を終えた女性が、フールへともう一度向き直りました。そして深呼吸。


 進展がありませんね。仕方がありません。こうなれば直接聞いてみましょう。


 「あの、これは何の儀式でしょうか?」

 「!?」

 「あ、アイ」


 私に気づいていなかったのか女性が驚き、フールは少し安心したような表情を浮かべました。


 そこで気づきます。もしこれが何らかの儀式であれば、私は邪魔をしてしまったのではないかと。失敗してしまいましたね。ですが過去に戻ることは叶いません。この儀式が終了した以上、出会って最初に行うことくらいは私にも分かります。


 そう、自己紹介をしましょう。


 「突然現れてしまいすみませんでした。私はアンドロイドのアイと言います。隣にいるフールと旅をしています」


 決まりましたね。まず真っ先に伝えるべき、儀式を邪魔したことへの謝罪から始まり、簡潔な自身の情報、ここにいる理由で締める、完璧ですね。簡潔ながら洗練された自己紹介と言って良いでしょう。

 それに対する相手の反応を待っていると、女性が口を開きます。その口元はどこかワナワナと震えていました。


 「か……」


 おかしいですね。一音しか返ってきませんでした。まさか、私の自己紹介に何か至らぬ点があったのでしょうか?

 思い返せば、私が自己紹介を行なって、返ってきた返答に真っ当なものが思い浮かびません。リギルやニック、ラスティなどもそうでした。メティスに至っては、一度目はともかく二度目は殺意すら向けられた覚えがあります。


 もしや、私は自己紹介に成功したことがないのでしょうか?

 いえ、そんなことはないはずです。

 リギルに連れられたセレーナの墓では、確かな返答が返ってきました。幻聴でしたが。……返ってきてはいけないのでは?


 一旦過去の戦歴は忘れましょう。今は目の前の相手に集中するべきです。何せまだ相手は一音しか発していません。つまりまだ決着はついていません。失敗と決めつけるには、時期尚早と言うものでしょう。

 そして、女性が再び口を開きます。何故か身体全体が震えていますが些細なことでしょう。


 「か……可愛いわ!!」


 女性が顔を上げ、そう叫びます。瞳は光り輝いていました。満面の笑みを浮かべ、こちらに飛びついてきます。

 身の危険を察知した私は一歩横にずれました。


 「ぐへっ」


 砂に顔からダイブする女性。何事もなかったように、勢いよく顔を上げ、満面の笑みを湛えてこちらへ視線を向けてきます。


 「あたしはフランよ! よろしく、アイ!」


 これは……成功なのでしょうか?

 キラキラとした視線を送る女性――フランを見て、私はそう思案します。


 「えぇ……」


 再び沈黙が落ちる中、フールのそんな声だけが、風に攫われていきました。


最後まで読んでいただき、ありがとうございます。


新章の幕開けと共に、早速新キャラ・フランが登場しました。

天真爛漫で、少し騒がしくて、でもどこか憎めない不思議な少女です。

彼女が旅に加わることで、これまでとはまた違った空気が

物語に流れていくのではないかと思います。


アイ、フール、そしてフラン。

三人がどんな旅を紡いでいくのか、ぜひ見守っていただければ嬉しいです。


投稿は引き続き、毎晩22時頃を予定しています。

感想やブックマークなどで応援いただけると、とても励みになります。


それでは、また次の旅路でお会いしましょう。

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