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ただ一つ、それだけを君に願おう  作者: 白月
二歩目――略奪者の呪縛。狩人の咆哮。
23/37

さぁ、旅を始めましょう

白月です。

本日も読みに来てくださって、本当にありがとうございます。


今回は、ハント編の締めくくりとなるお話です。

激しい戦いの後に訪れた、ささやかな温もりや穏やかな時間――。

それぞれのキャラたちが見せる“その後の物語”を、ゆっくり感じ取っていただけたら嬉しく思います。


それでは、本編をどうぞ。

 あの戦闘から、もう三日が経った。

 事後処理も段々と収まりをつけ始め、皆普段通りの生活に戻っている。

 集落の住民たちを除いて、民衆に今回の出来事を悟らせなかったのが効いたのだろう。


 集落の住民たちも、一人残らず呪いが解けたことが確認されており、今では元々の集落の近くに緊急で作った仮説住宅に住んでもらっている。いきなり国に住まわせるのは余計な混乱を生みかねないから、段階的に行っていく方針からそうなった。また、あの日召集した騎士や狩人たちは病院で療養を行い、順調に回復に向かっているらしい。


 まあ、結果的には日常が戻りつつあると言えるだろう。


 だがしかし、だがしかしである。

 そう、あれから三日が経ったんだ。

 それなのに。


 「それなのになぜ、俺は王様を辞めていない?」

 「またそれですか」


 マリーが呆れたように俺を見つめた。

 心外だ。甚だ心外である。なぜ俺がそんな目で見られなければならない?

 戦ってはないけどあの日俺結構頑張ったよ!? 昼間から意味の分からない謁見をさせられ、深夜には部屋に押し入られた挙句、戦場へ連れ出され、あの化け物に啖呵を切らなきゃ行けなくなったし。


 俺、本当に頑張った! だからもう王様やめて良いじゃん。何よりあんな意味わかんない人たちの相手、もうしたくないんですけど。

 任期半年で辞めた王が一人くらい居たって別に大丈夫だって。ね?


 「駄目だ。お前には国を納める才覚がある。先代の私が言うのだ。間違いない」

 「元はと言えば父さんが俺に押し付けたようなもんでしょ!? 騙されないが?」


 父さんがなんかトンチキ且つ無責任なことを言ってきたので、正論で返してやった。あまり効いてなさそうだけど。ふざけんな。


 内心で父さんへと愚痴を吐いていると、マリーが諌めてきた。

 何故か上から目線で。


 「落ち着きなさい、ディル」

 「なんで微妙に上からなの。一応俺の従者だよね? いや、それを言ったらディル呼びもおかしいか?」

 「何もおかしくはありませんが?」

 「えっそう? そうかな。そうかも」

 「……よし」


 マリーがボソリと何かを呟いた。

 何かしらの寒気が襲ってきた俺はマリーに問う。


 「なんか言った?」

 「いえ、何も」

 「勘違いか」

 「はい」

 「そっか」


 勘違いらしい。まぁマリーの事だしそう大事にはならないか。

 そう納得していれば、父さんが席を立って、部屋を出て行こうとする。


 「私はそろそろ出て行こう。ディルク、しっかりやるのだぞ」

 「え、嫌です……」


 嫌だっ!! 俺は断固抗議する……!!

 こうなったらもうあれだ。訴訟も辞さない。

 そんな覚悟で、俺は父さんを見つめる。父さんはマリーを見つめていた。こっち見ろ。


 「それから、マリー。ディルク相手だと大変だろうが頑張るのだぞ。私は応援している。それではな」


 おい聞けよ。俺、嫌って言ったよね?

 何? その耳は飾りですか? 

 そんな俺の無言の圧も父さんには届かず、無慈悲に部屋を出ていった。


 「……! はい。頑張らせていただきます」


 とか何とか言ってたら、何故かマリーがやる気に満ちた表情を浮かべていた。

 それからチラチラとこちらを見てきた。


 え、なに? どうしたの? ごめんけど全然話聞いてなかったから俺分かんない。

 普段なら適当に流すところだけど、今回は父さんが関わっている。

 マリーにやる気が満ちるのは大変良いことだが、何に対してのやる気なのかは聞いておかねばならない。そうしないと後が怖い。


 「え? 何の話?」

 「いえ、こちらの話です」


 どうやら、俺には関係ないらしい。チラッと俺の名前出てた気がするけど。本当に関係無いのだろうか。まあ、マリーの事だし大丈夫か。


 今はそんなことより、いかにして王様を辞めるかだ。

 辞めるに当たっては後継を探さなきゃなんだけど、俺兄弟とかいないしなぁ。父さんもやる気なさそうだし。いや、まあ俺の方がやる気ないけど。


 んー。どっかに王様務められるくらい優秀で、頼り甲斐があって、継いだ後は俺に関わらないでいてくれる人はいないものか。

 何なら代わりに王様やってくれるなら何でもいい。メティスに正面から突っ込むようなアホじゃなければ。


 ん? いや、待てよ。すぐ近くに優秀な人材いるじゃん!


 何故今まで思い至らなかったのか。

 うん、一度思い至ってしまえばそれ以上の人はいない気がする。

 すぐにでも頼み込むべく俺は、思い悩んでいた顔をあげ、件の人物へと声をかけた。


 「ねぇ、マリー。王様やってくれない?」

 「良いですよ」

 「え!? ほんと?」


 まさかの了承である。

 最高か? もうマリーになら一生ついて行っても構わないとさえ思えてくる。働きはしないけど。


 そうして舞い上がっていると、マリーが意味不明なことを付け加えて言った。


 「ディルが王様で、私が女王ならば構いません」


 「え? どういうこと? 意味なくない?」

 「さあ、どういうことでしょうね」

 「ちょっと、マリー!?」


 マリーは俺に背を向けて出ていく。

 いや、ほんとどういうこと? なんか耳赤いし。


 まあ、これだけは分かった。

 どうやら残念なことに、俺の日常も続いていくらしい。



 「フフンッ! やぁっときたわね! おにーさんに、おねーさん!」

 「あら〜、いらっしゃい」

 「ん? お前たちは確か……」


 賑やかにそう私とフールを出迎えたのは、リィンとサーシャ、そしてオルセンでした。


 「やぁ、約束通り来たよ」

 「来ました。今日はオルセンもいるのですね」

 「ええ! なんか最近大変だったらしくて、お休み貰ったらしいんだけど、落ち着いてられないんだって!」

 「助かるわ〜」

 「普段はあまり手伝ってやれなくてすまないな」

 「おとーさんは普段騎士で頑張ってるから良いの!」

 「その通りよ」


 そう、和やかな雰囲気で会話を繰り広げるリィン一家。


 リィンだけでも賑やかでしたが、家族全員揃うとさらに賑やかになりますね。

 オルセンはなぜか、私とフールの間を視線が行き来していますが。

 特に、フールを見て、少しだけ神妙な表情をしています。

 ああ、なるほど。


 ”いや、うちにも君たちくらいの子がいるのでな。それを放置する神経を疑っていた”


 ラスティと共に避難した際、こんなことをオルセンが言っていたのを思い出しました。それで、そんな表情を浮かべていたのですね。

 オルセンが心配することはないと、あの時伝えたはずなのですが。

 まあ、もう一度ハッキリと伝えておけば問題ないでしょう。


 「大丈夫ですよ」

 「! ……そうか。なら問題は無い」


 どうやら、しっかりと伝わったようですね。まあ、他の面々にも伝わっているとは限りませんが。


 「え、何のこと?」

 「あら、あなた? 何を年端も行かない少女と通じ合っているのかしら? 私を差し置いて」

 「いや、これはだな。話せない事情というものがあって」

 「ふーん。話せないんだ。おとーさん、おかーさんに話せないことあるんだー?」

 「仕事の関係上、仕方ないんだ!」


 何やら、オルセンが追求され始めました。何故追求されているのかは分かりませんが、本気で怒っているようには見えないので放置で問題ないでしょう。

 それから、フールとサーシャなど、初対面同士での自己紹介を交えつつ、爆裂球や他の雑多な品々を購入していきました。


 「ねぇ、おにーさん。もしかしてもうどっかに行っちゃうの?」

 「うん。今日中には旅立とうと思ってる。僕は旅人だからね」

 「そっか。じゃあ、おねーさんも?」


 リィンが私へと質問を投げかけてきました。

 私はそれに対し、返答しようとして、それよりも先にフールが答えます。


 「いや、アイは元々この国に住むつもりで来たからね。残念だけどここでお別れかな」

 「あの、フール」

 「うん?」

 「私も旅について行こうと思います」

 「……」


 私がフールにそう伝えると、何故か時が止まったかのように静止しました。

 一体どうしたというのでしょうか? いまだにフールのこう言った面は理解できませんね。

 とりあえず、このままにしておくわけにもいかないので私はフールへと声を掛けます。


 「どうかしましたか?」

 「……ええっ!?!!?」


 ふむ。驚かれてしまいました。

 些か過剰な反応ではありますが、唐突に告げたことですのでそうなってもおかしくありません。


 「ダメでしょうか?」

 「いや! すごく嬉しいけど! 嬉しいけども! どうしたのさ、一体?」

 「すみません、ここでは話せません」

 「後でなら話してくれるってこと?」

 「そうなります」


 とりあえず、フールの承認は得られました。事情の説明は後ですれば良いでしょう。

 そんな私たちの会話を聞いていたのか、リィンが何処か声のトーンを落として呟きます。


 「そっかぁ、おねーさんもいなくなっちゃうのね……」

 「はい」

 「寂しくなっちゃうなぁ……」

 「また来るよ」

 「そうですね。いずれまた、訪れる機会もあると思います」

 「……! 絶対よ! 絶対だからね!」


 そうして、私とフールはリィンたちに別れを告げました。

 最後まで、本当に賑やかな家族でしたね。


 「それじゃあ、最後にリギル達のところに行こうか」

 「ディルク達には挨拶せずに良いのですか?」

 「いや、この前尋ねようとしたら門前払いされちゃって」

 「門前払いですか。私もされましたね」

 「え? まぁいいや。門番の人が伝えてくれた伝言だと確か、『貴様らと会うと厄介なものがまたついて来そうで敵わん。出ていくならさっさと出ていけ。それと、国を救うために尽力してくれたこと、感謝する』だってさ。結構な報奨金まで貰っちゃったから、これ以上無理強いして会いにいくのはやめておこうかなって」

 「そうでしたか。報奨金というより手切れ金のように思えますが、まぁ良いでしょう」

 「そこは前向きに受け取っておこうか」


 そんな会話をしながら歩いていけば、現在リギル達の暮らしている仮設住宅へと辿り着きました。


 辿り着いたのですが。


 「ラスティー! 今日も可愛いな! ホントに愛してるぞ!」

 「パパ、暑い。あっそうだニックさん! 今度街に連れてってよ!」

 「え、あ、はい! 良いですよ。ラスティちゃんは何か買いたいものはありますか?」

 「ううん! ニックさんと行ければそれでいい! あ、でも無理はしないでね?」

 「おい、ニックテメェ。何俺の天使とデートの約束なんざ羨ましいことしてやがる」

 「ヒェッ……」

 「じゃあパパも一緒に行こ!」

 「もちろんだ! 何でも買ってやる!」

 「やったー!」


 うるさいですね。ドアを隔てているのに会話が鮮明に聞こえてくるのですが。これでは仮設住宅というより、欠陥住宅の間違いでは?

 隣にいるフールはその様子に苦笑いを浮かべた後、こちらを見ました。


 「とりあえず、入ろうか?」

 「そうですね」


 まあ、ここに立っていても、どうしようもないですからね。

 フールがノックをした後ドアを開き、私がそれに続いて入りました。


 「あ! フールさん! アイちゃん!」

 「おう、来たか」

 「あ、こんにちは」


 三者三様に私たちを迎え入れます。というかラスティに至っては、私に飛びついて来ました。

 つい先日まで、歩けもしない様子であったとは考えられませんね。

 この姿がきっと、ラスティにとっての普通なのでしょう。不思議と違和感は感じません。


 「えへへ!」

 「ラスティ。抱きつくのは良いですが、せめて中に入れてください。まだドアが開いたままです」

 「あ、ごめん!」


 謝りつつも、私の腕に抱きついたまま離れようとはしませんね。まあ別に構いませんが。

 そして、なぜか私の顔をじっと見つめてくるラスティ。


 「どうかしましたか?」

 「やっぱり当たってたと思って!」

 「?」


 何のことでしょうか?

 そう思い、首を傾げるとラスティは抱きついたままこちらを見上げ、満面の笑みを浮かべました。


 「やっぱりアイちゃん、可愛くてきれいで優しい!」

 「この三日間で何度も聞きましたね」

 「ねぇ、ラスティは?」

 「ですから、分からないと何度も……」


 そう言いかけたところで、ラスティ頬を膨らませます。

 何か不満があるようです。

 ですが私にはいまだに美醜の感覚は備わっていませんし、難しい所ですね。


 ただ、一つ言えることがあるとすれば。


 「いえ、そうですね。ラスティは笑顔が眩しいです」

 「ほんと!? やったー!」


 私の言葉を聞いたラスティが、一度大きく目を見開き、笑みを浮かべました。

 その笑顔が、可愛いのかどうかは、私には分かりません。

 それでも、ラスティがとても人間らしいというのは知っています。


 人間は時に何かを言い表す場合、比喩を用いますが、それをもしラスティに当てはめるのだとすれば。 

 私から見て――太陽。


 とても遠い存在。こちらからではとても手の届かないそれは、しかしこちらに手を伸ばしている、そんな存在だと思います。故に眩しい。


 そんな印象をラスティに抱いていれば、リギルが声をかけて来ました。


 「そろそろ行くぞ」

 「確か集落に用事があるんだっけ?」

 「ああ、そこにお前達に合わせたい人がいるんだ」

 「人?」


 フールと私は心当たりがなく、お互いに顔を見合わせ、首を傾げました。

 リギルが愛おしそうに、ラスティが楽しげに、ニックが懐かしむように表情を和らげたのが、どこか印象的でした。


 そして辿り着いたのは。


 「ここだ」

 「これって」

 「墓、でしょうか?」

 「うん! おかーさんの!」

 「え……!? リギル、良いのかい?」

 「むしろ、こちらから頼みたい。お前らには本当に世話になった。これでやっと、アイツが、セレーナが報われる」


 石碑に刻まれた文字列は、リギルの言う通り、セレーナ。

 リギルの言葉を受けたフールが、膝をつき、両手を胸の前で組みました。

 確か、願い、だったでしょうか。私とフールが出会ったあの日、フールは同じことをしていました。

 

 ”それでも、そんな私でもいつか、何かを願うことができるでしょうか?”


 その時、私はこんな発言をしていましたね。今はまだ、願うとは何を指すのか、分かりません。

 だから、私は願えません。ですから代わりに、自己紹介でもしましょうか。


 (初めまして。私はアイと言います。そこにいるフールと共に旅をしてここに来た、アンドロイドです)


 わざわざ口に出すことはしませんでした。そこに誰もいないことは、分かっていましたから。

 その筈、だったんですが。

 

 『あら、可愛らしい子。ラスティとダーリンを守ってくれてありがとうね』

 「え? ダーリン?」


 唐突な幻聴に対する驚きと、リギルを指すにしてはあまりに違和感の強いワードについ、言葉が漏れました。

 何故かリギルが咳き込んでいますが、それを気にしている場合ではありませんでした。


 「え、急にどうしたんだい?」

 「いえ、何でもありません」

 「そ、そう?」

 「はい」


 その時、どこか遠くで響く笑い声の幻聴が、やけに楽しそうだったのを覚えています。



 「ざーみ゛ーじーい゛ー!」

 「ラスティ、そろそろ離れてください」

 「だって! アイちゃんまで行っちゃうなんて、聞いてない!」

 「伝えるのが遅くなりすみませんでした。ですが、そろそろ出発するとのことですので」

 「やーだー!」


 これは、どうするのが正解なんでしょうか?

 答えを求め、周囲を見渡しますがフールにリギル、ニックまでもが首を横に振りました。

 諦めないでください。私にはどうしようもないんです。


 しばらくその状態が続くと、やがてリギルが埒が明かないと言うようにラスティに歩み寄りました。


 「ラスティ、嬢ちゃんも困ってるだろう? そろそろ離してあげたらどうだ?」

 「……パパ嫌い」

 「んなっ!?!!?」


 あ、リギルが落ちました。

 しかし、本当にどうしましょうか? これでは旅立てません。


 「ラスティ、僕たちまたここに来るから。その時また会おう、ね?」

 「……保証は?」

 「難しい言葉知ってるね……」


 フールも駄目でしたか。折れるのが早いです。


 しかし、保証ですか。それならば。

 私は懐から中身の入っていない、銃を取り出し、ラスティに渡します。現状、これだけが私の持ち物と言えるでしょうから。


 「それを次私が訪れる時まで、預かっておいて下さい。私はそれをまた取りに来ます。それが保証です」

 「……ほんと?」

 「はい」

 「絶対?」

 「はい」

 「すぐに取りに来る?」

 「それは約束しかねますが」

 「もー!」


 ラスティは、私の言葉に頬を膨らませ、やがて笑いました。

 最後に私をギュッと抱きしめ、そして幼い熱が遠ざかっていきます。


 「じゃあ、行くよ」


 フールがそう言い、私も後に続きます。


 「フール! アイ!」


 そこで、リギルが私たちの名を呼びました。

 振り返れば、こちらに頭を下げるリギルの姿が目に映ります。


 「世話になった! 礼を言う!」

 「フールさん、アイさん! 私、もっと強くなります! 今度は最後まで一緒に、守れるように!」

 「フールさん! アイちゃん! 約束だからねー!」


 三人の言葉に手を挙げて応え、私たちは歩み出しました。


 「ねぇ、アイ。旅について来てくれてありがとう」

 「いえ、私が選んだことですので」

 「そういえば、理由をまだ聞いてなかったね」

 「大した事ではありません。ハントに留まるよりも、貴方と共にいる方が安全だと感じたまでです――マスター」

 「え?」

 「ハントまでの道中、話したでしょう? 貴方を頼れると感じた際にはそう呼ぶと。私は今、貴方に頼っていますので」

 「そういえば、そんな話もしたね。本当に呼ばれるとは思ってなかったよ」


 私も同意見です。フールを、いえ、誰かをそう呼ぶことなど想定もしていませんでした。

 確実に、何かが変化しています。私がフールと出会った時と比べると。

 それが何なのかはまだ分かりませんが、今すぐに知る必要もないでしょう。


 フールが指先で頬を掻いて、こちらを見つめています。


 「でもなぁ、やっぱりむず痒い。うん、今まで通り名前で呼んで欲しいかな。せっかく呼んでくれたのに悪いんだけど」

 「いえ、そういうことでしたら今まで通り名前で呼びます」

 「うん、頼むよ」

 「そういえば、フールはどこを目指して旅をしているのですか?」

 「特に目的地は無いんだよね、それが」

 「では、何故旅を?」


 「世界を変える為」


 「それは、壮大ですね」

 「無理だと、そう思うかい?」


 『世界を変える』、ですか。何をどう変えるのかも分かっていませんし、規模が大きくて判断が難しいところですね。

 それであっても、無茶です。無謀です。

 しかし。


 「いえ、絶対に無理ということはないと、今回の一件で知りましたので」

 「ふふっ。君と旅ができることを、誇りに思うよ。アイは何の為に旅をしたい?」

 「勿論身を守る為です。ですが、それだけでは、ないのだと思います」

 「というと?」


 「上手く言語化はできませんが――心を知りたい、そう思っている私がいます」


 今回の一件で、様々な人と接しました。

 その全てにおそらく、心というものが通っていて。

 それを私は理解が出来ませんでした。今でもそうです。


 リギルの、ラスティを救いたいという想い。

 ラスティの、私を可愛いと、私が人間なのだと言い切った、その根拠。

 フールが、私に『アイ』と名付けた理由。


 それ以外にも多くのことが、私には理解できないままです。

 それでも、どうしてでしょうか?

 私は、その不可解な”心”というものを知りたいと、そう思ったのです。


 私の言葉を聞いたフールが、笑みをこぼします。


 「そうか、それは良い。ならその為に、今この瞬間から――旅を始めようか、アイ」

 「はい」


 ここから、私の、私たちの旅は始まりました。


 さぁ、旅を始めましょう。


最後まで読んでいただき、ありがとうございました。


メティスとの戦いを経て、ハント編はひとまず終幕となります。

今回は、その戦いの後に差し込む“陽だまりのような日常”をイメージして書きました。


そして、一連の出来事を通して――

アイは初めて「心を知りたい」と願い、フールと共に旅に出ることを選びます。

振り返れば、ここまでの物語はアイにとって、壮大なプロローグだったのかもしれません。


この先も、彼女たちの歩む旅路をそっと見守っていただけたら幸いです。


投稿は引き続き、毎晩22時頃を予定しています。

感想やブックマークなどで応援いただけると、とても励みになります。


それでは、また次の旅路でお会いしましょう。

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