なら、最後は俺だ
白月です。
本日も読みに来てくださって、本当にありがとうございます。
メティス戦、決着です。
多くは言いません。
それでは、本編をどうぞ。
どうして私はここにいるんでしょうか?
本当なら今頃、ハントのどこかでメティスが討伐されるのを待っているはずだったのですが。
今やその中心に私はいます。一旦行動を振り返ってみましょうか。そうすれば何か分かるかもしれません。
まず、王都でディルクと謁見をするまでは特に問題はないでしょう。
”フール、私は急用が出来ました。先に外へ向かってください。後で追いつきますので”
謁見後すぐに私はフールにそう伝え、謁見の間に戻りました。謁見時とはかけ離れた態度のディルクの声が聞こえたため、物件の交渉に役立つと考えたからです。それと偶然手に入れた失敗作の爆裂球を手に、交渉に向かったまでは良かったはずです。
実際、物件はともかく、根本であるメティスを討伐する流れにはなりましたから。
ですが、相手はメティスです。私が戦場に向かうなどという危険行為を進んで行うはずがありません。
それなのに私はここにいます。ブレイズに捕まえられ、ここに連れてこられたのです。
というか振り返らずとも、原因はブレイズでは?
こうして思考している間も、原因であるブレイズは元気にメティスへと突貫しています。
確か先代の国王でしたよね? そこらにいる騎士達よりも動きが良いですが。
まあ、こうして原因を探ろうとここにきてしまったという事実は変えようがありません。
良い加減、そろそろ私も動いた方が良いでしょう。
私は、戦場から少し離れた位置へ足を向けます。
まずやるべきことは。
「ニック。大丈夫ですか?」
倒れているニックの安全確保ですね。
戦力としてはこの様子ですと期待できそうにありませんが、ここに倒れていられても余計に被害が拡大するだけです。
そう思ってニックに声を掛けるも、応えが返ってきません。どうやら意識を失っているようですね。
無理もないでしょう。今もなお、あの人数相手に蹂躙しているメティスをたった三人で相手していたのですから。というか、今も戦っているあの二人がおかしいのです。
そんなことを思いながら、ニックを離れた位置で待機していたディルクの側にいた騎士の下へ連れていき、引き渡します。
さて、戦況はどうなっているでしょうか?
『この程度か?』
そう呟くメティスの前に立っているのは、最早数人となっていました。
地は割れ、そこに十数人の騎士や狩人が倒れ伏しています。
地面が血の赤に染まり、呻くような声が辺り一体から聞こえてくる状況。
圧倒的。そう言い表せるほどの光景です。
この光景を作り上げたのが、たった一匹の魔獣だという事実。
フールたちはよく、たった三人で生き残っていられたものです。
「何なんだ、こいつ!?」
残っている数人のうち、名も知らぬ狩人がそう声を上げました。
圧倒的な膂力。攻撃を通さない鱗。その体格によるリーチ。言葉を話す知性。そして、呪いによる終わりの見えない回復。
ざっと戦況を俯瞰して、私が分析したメティスの優位性。
前四つをどうにかしようと、最後の一つで全てが無に帰す。これほど絶望的な相手はそういないでしょう。
先ほど声を上げた狩人が、メティスの尾による一撃で吹き飛ばされました。
『あれほどの威勢を口にして、こんなものか?』
メティスが後方で待機しているディルクへと視線を向けます。
それに対し、特に返答もせず戦況を俯瞰しているディルク。
メティスが深く沈み込みました。
この感じ、先ほどと同様飛んできそうですね。しかし、それをみてもディルクは動く素振りすら見せません。
そして、メティスが跳躍。顎を広げディルクへと向かっていきます。
轟音が鳴り響き、地面に蜘蛛の巣状の地割れが広がります。土煙がはれたそこにはしかし、赤い血溜まりは見受けられません。
気づけば、私のすぐ横にディルクがいました。
マリーにお姫様抱っこされた状態で。
何やってるんでしょうか?
私だけでは疑問が解消されそうにないので素直に問いかけることにします。
「何してるんですか?」
「本当にね」
「ディル、軽すぎます。もっとちゃんと食べて下さい」
しかし明確な答えは返ってくることなく、戦場とは思えない軽口が交わされました。
私はそんなマリーを見つめます。
謁見の時と同様の侍女服に身を包み、ディルクをお姫様抱っこするマリー。
とても戦うことを想定した格好とは言えません。
「マリー、状況分かってますか?」
「貴方にだけは言われたくない言葉ですよ、アイ」
「何でも良いから降ろしてくんない?」
お姫様抱っこ、気に入ってるんでしょうか? 私もされましたし。というかディルクは戦えないんですね、あれだけ啖呵を切っておいて。
マリーがディルクを解放すると、先ほどまでメティスと戦っていた面々がこちらに追いつきました。
「ディルク、大丈夫かい!?」
「問題ない。それよりもどうする? 戦況は悪化しているぞ」
「どうにも決定打に欠けるな。私の大剣でも、あの鱗にかすり傷をつける程度だ」
「俺のハルバードも似たようなもんだ。内部に衝撃は通るが、一撃で倒し切るのは難しいな」
「決定打、か。おい、小娘。貴様の持ち物にお誂え向きのものがあっただろう。それはどうだ?」
「これですか」
私はここにいる面々に見えるよう、リィンから貰った爆裂球を見せました。
それに対して、リギルとフールは難しそうな顔を浮かべます。
「いや、これは強力ではあるけど、決定打とまではならないと思う」
「同意見だ。フールが使っているところを見たが、鱗を突破できてるようには見えなかったな」
「いえ、これはフールが持っているものより数倍強力なものです。実際に試したわけではありませんが、おそらく鱗を剥がすことは出来るかと」
「本当かい!?」
「はい。ですが一つ注意点があります。リギル、集落が半壊しても構いませんか?」
「!? それほどの規模ってことか。いや、構わねぇ。元よりメティスを倒して、呪いが解けりゃ、この集落も必要じゃなくなるんだ」
「そうですか。それでしたら、メティスを孤立させる瞬間を作ってください。ほら、ちょうど来ましたよ」
私の言葉に、戦闘を行うメンバーが武器を構え直します。
メティスは、先ほどとは相反してゆっくりとこちらへ向かって来ました。
ここからの戦局は、私も集中する必要がありそうですね。
戦況を俯瞰しつつ、タイミングを逃さないようにしましょう。
メティスに対してブレイズとリギルが左から。右からはフールが単騎で突貫をしています。マリーはディルクの護衛に主を置き、ナイフは構えど動く様子を見せません。
ディルクの他に、立ち位置からして私の守護も務めてくれているようですね。
メティスがフールに対して尾を上から振り下ろします。フールがそれを避け、反対側でブレイズとリギルが挟み込むように攻撃。しかしメティスは軽く怯むのみで、すぐに行動を再開しました。再びフールを尾が襲います。
メティス側の考えとしては、フールのあの赤熱している剣を警戒しているのでしょう。戦場の中で唯一、あれだけがメティスの鱗を切り裂いていましたからね。そうなるのも当然です。
フールがメティスに対して、通常の爆裂球を投げつけます。しかし当初の予想通り、鱗に守られたメティスは傷を負っているようには見えません。
あれは、顔などの鱗に守られていない部分に投げつけなければ、意味を成しそうにありませんね。
しかし、フールはその意味の成さない行為を三度続けて行いました。連続した爆発により周囲一体の砂が巻き上がります。
そう、煙幕のように。
フールが地を蹴り、その場から離れていきました。当然、リギルとブレイズは退避済みです。
今しかないでしょう。
私は一時的に思考速度を高め、行動に移りました。
手にある感触を確かめ、それをメティスへと放る。私の投げた爆裂球は、頭で思い描いていた軌跡通りに飛んでいく。
私の膂力ではメティスの顔周辺に、自力で飛ばすことは難しい。
だからこそより遠くにではなく、より高く投げ入れた。
それにより、メティスもその存在に気づいたそぶりを見せるが、特に反応を示すことはない。
なぜなら、それが脅威にならないと認識しているから。つい数秒前の経験から、必ずそう判断する。
私は懐から銃を取り出す。残りの弾丸はたった二発。十分な数が装填されている。
高く放られた球が、重力という抗えない力によって、その高度を下げていく。銃を構える。
そして、爆裂球がメティスの顔の高さまで落ちてくる。
「ここですね」
躊躇なく引き金を引き、轟音。
熱と光の暴力が、集落を覆った。
『グアアアッ!?』
私は加速させた思考を解いていく。
問題なく、事を終えられましたね。
そして光が引いていくと、そこには案の定崩れ去り炎上している民家たちが、夜闇を轟々と照らしています。その中心に鱗が剥がれ落ち、全身から血を流すメティスの姿がありました。
しかし、まだ生きています。
「急げ!」
リギルがメティスに走り寄りながらも、他の面々へ叫び伝えます。
そして、メティスの爛れた身体にその刃を突き立てて――鱗に弾かれました。
「なっ!? もう回復したってのか!?」
ギリギリで間に合わせて来ましたか。恐るべき回復速度ですね。
みるみるうちにメティスの身体から傷が消えていきます。
『久しいな。これほどの痛みを感じたのは』
恐るべき回復速度に唖然としていた面々を、メティスは尾で一蹴しました。
「くそぉ!! これでも! これでも駄目だって言うのか!」
リギルがそう、吠えました。
この場にいる誰もが、その哀れな狩人の咆哮に同意せざるを得ないような状況で。
誰も立ち上がることをせず、絶望と諦観が支配しそうなこの空間で。
ただ一つ。ただ一つの声だけが、この場に響きました。
「リ、ギルさん。なに、弱音吐いてる、んですか。そういうの、似合いません、よ」
「ニッ、ク?」
後方で意識を失っていたはずのニックが、まだ倒れながらも、か細く、それでいて確かに、言葉を響かせていました。
*
いつぶりだっけ、こんなに世界が明るいのは。
色鮮やかで、こんなにも眩しい。ここは地下で、照明も多くはないけど、それでもそう思えた。
いまだに、微動だにしない私を、オルセンさんが心配そうに見ている。そしてそれが、今の私にははっきり分かった。
でもどうして急に? やっぱりアイちゃんからもらったこの水のおかげ?
分からないことは多いけど、今私がやるべきことは明確だった。
身体が軽い。視界が明るい。これでもう、守られるだけの私でいなくて済む。
周囲を見れば、多くの人が苦しんでいた。苦しそうに呻いて、倒れ込んでる人もいて、さっきまでの私が、そこにはまだ沢山いた。
私は弱いから、パパやママみたいに戦えない。ニックさんのように、強い人についていくことも出来ない。アイちゃんみたいに誰かを背負って運ぶことも出来ない。フールさんみたいにいつも落ち着いて言葉をかけることも出来ない。
でも、誰かが苦しんでるのを黙って見ることも、私には出来ないから……!
「オルセンさん! この水筒の中身を、今苦しんでる人たちに少しずつ飲ませて!」
「え、急にどうした? というか大丈夫なのか?」
急に声を上げた私に戸惑うオルセンさん。
無理もないけど、今はとにかく急がなきゃ。
辺り一体から、さっきまでより更に苦しげな声が聞こえてきた。
「大丈夫! それより早く! お願い!」
「……!? 分かった。重症そうな人から飲ませていくぞ。流石にここにいる人数分には心許ないからな」
「うん! ありがとう!」
「いや、こっちのセリフだよ」
それだけ言って、オルセンさんは苦しんでいる人たちへと駆け出した。
あの水が何なのかは分からない。もしかしたら、私とは違って何も変わらないかもしれない。でも、きっとこの選択は間違ってない。
もう、何も出来ないでいるのは嫌だから。
*
「ニック、大丈夫なのか!?」
「大丈夫、ではないです、ね。でも、ラスティちゃん、救うんでしょう?」
「ああ、その通りだ」
「なら、立ってください。カッコイイとこ、見せて、ください。言ったでしょ? 貴方に、憧れてるんです」
「ああ……!! 任せろ!!」
リギルがもう一度、吠えました。今度は、立ち上がって。
それに続くように、フールとブレイズも立ち上がり、それぞれの武器を構えました。
『まだ立つか。いい加減、吾の糧になれ』
「言ったはずだが? 獲物は貴様だ」
ディルクが、改めてメティスへと啖呵を切ります。
それを合図に、三人がメティスへと駆け出していきました。
これが、いよいよラストチャンスですね。
私は、手に持ったもう一つの爆裂球を見つめます。
これで手持ちは全てです。銃弾も残り一発。充分過ぎますね。
「ブレイズさん!」
「飛べ!」
フールがブレイズの組まれた手を踏み台に跳躍しました。
しかし、当然メティスには勘づかれています。
『舐められたものだな。この程度っ!?』
瞬間、響く鈍い衝撃音。
リギルが、メティスの胴へと振り抜いていました。そして自由落下に合わせて弧を描く炎の軌跡。
狙いはその瞳でしょう。鱗に覆われていない数少ない部位に深手を負わせる算段のようです。
『舐めるなと言っている!』
直前で逸らされた剣戟は、狙っていた瞳を外され、首筋に赤い線を浮かび上がらせるに留まりました。
カウンターに吹き飛ばされるのは、最も近くにいたリギル。ちょうど私の方向へと飛ばされます。
「クソッ! もう一回だ!」
『何度行おうと、無駄なこ、と……何故だ?』
そこで、唐突にメティスの様子に、変化が訪れました。
『何故、奪えない……!?』
見れば、メティスの首筋には、いまだ回復されずに残された、赤い一筋の線が浮かんでいました。
そのことに動揺したのはメティスだけでなく、戦っている三人も同様でした。
というよりこの場にいる全員が、罠の可能性を疑います。
「やはり、そうなりましたか」
私を除いて。
『貴様! 何を知っている!?』
「ずっと、疑問に思っていたんです。メティスが目覚めた原因について」
『何の話だ』
メティスの問いかけに、私は視線を合わせ答えます。
「メティス。あなたが目覚めたのは、フールが泉に落としたレインボーの実が原因です。最初はその事に何の疑問も持っていませんでした。ですが、貴方は言いましたよね? 『想定よりも随分早かった』『万全には程遠い』と。つまり予定外に傷の回復が早まった結果、あなたは今ここにいる」
『それがどうした?』
「傷の回復が早まった原因が、レインボーの実にあるとします。その実の効果は、食べた物に祝福をもたらすというもの。にも関わらず、あなたは万全に至っていません。中途半端じゃありませんか? あなたがもし、食べていたのなら」
『……』
「だが、実際にメティスはこうして目覚めている」
「はい。ですので仮説を立てました。実の効果は、メティスに現れたのではなく、泉そのものに現れたのではないかと。フールはあの時、落としたレインボーの実を拾おうと、泉を水筒で掬っていました。仮説が成り立つと仮定して、その水筒を私が呪いの被害者であるラスティに渡していたとしたら? それをラスティが口に含んだとしたら?」
「てこたぁ、ラスティが呪いを?」
実際どうなるかなど分かりはしませんでしたが、試す必要はなくとも、試さない理由にはなりませんので。
途中から、喋らずに話を聞いていたメティスが、こちらを鋭く睨みつけました。
『そうか、だから呪いは絶え、この身体を再び毒が蝕んでいる。貴様が仕組んだのだな? 何者だ、貴様は』
自己紹介はすでに済ませたはずなのですが、まあ良いでしょう。
時間もないので簡潔に、しかしハッキリと。
それを意識しつつ、私は応えます。
「私はアイ。美少女型高性能アンドロイドのアイと言います」
『そうか、死ね』
私に向けて、メティスによる尾が振るわれました。
数瞬ごとに私に迫ってくるその質量の塊は、しかし、私のすぐ横を叩きました。
ずれたのは尾ではなく私で、視点は地面を見つめています。
「ディルといい、貴方といい、どうしてそう呆けているのです。死にますよ?」
「おい、この変人と俺を一緒にするな」
「ありがとうございます、マリー」
「いえ、これが仕事ですので」
ディルクと私を同時に抱えている為か、お姫様抱っこではなく脇に抱えられた状態で回避したようです。
視点がかなり揺れますね。まあ、私には関係ありませんが。
すぐにマリーに降ろしてもらい、もう一度メティスを見つめれば、フールとブレイズが背後から斬りかかっていました。
『良い加減鬱陶しくなってきたな。終わらせよう』
「ああ。それに関しちゃ、同意見だ」
フールとブレイズが吹き飛んでいきます。
その隙にリギルがメティスへと地を駆けました。
「これで、終わらせる……!」
『終わるのは貴様らの方だ!』
それを見て、私は銃を構えます。思考は加速領域へ。
ロックを外し、撃鉄を起こす。右手でグリップを握り、左手で包み込むようにして目線の高さへ。
狙うはリギルとメティスの間の地面。問答の最中仕込んでおいた爆裂球へ。
タイミングを図る。
「リギル、飛んでください」
「ウォオオオオ!!!」
リギルが踏み込み、跳躍するその刹那。
私は引き金を引く。
――轟音。
唐突に解放された熱と光が、メティスを襲う。怯むものの、鱗は剥がれない。土のクッションにより抑えられた爆風は、正しくリギルを上空へと連れ去った。
「セレーナが、守ってくれた」
リギルはハルバードを頭上高く構える。
「ラスティが、繋いでくれた」
リギルに握られたハルバードが、ミシリと悲鳴を上げた。
「なら、最後は俺だ」
落下速度に載せるように、リギルがそれを振り下ろす。
『まだだっ!』
抗うメティスに、フールとブレイズがしがみ付く。メティスに訪れる一瞬の硬直。
その武器では、鱗は貫けない。しかし、既にヒビは入っている。
首筋に回復されずに残された、一筋の赤い線。
そこに、リギルの刃が通った。
「いや、これで終ぇだ」
ザンッ――
そんな音と共に、この戦いは、幕を閉じました。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
長かったハント編も終局です。
遂にメティスを打倒したそのリギルの一撃には、言い表せないほどの想いが込められています。
次回でハント編が終幕となります。
アイはこの戦いを経て、何を思い抱くのか。
それ以外のキャラ達のその後も含め、最後まで楽しんでいただけると幸いです。
投稿は引き続き、毎晩22時頃を予定しています。
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それでは、また次の旅路でお会いしましょう。




