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ただ一つ、それだけを君に願おう  作者: 白月
二歩目――略奪者の呪縛。狩人の咆哮。
19/37

近所迷惑では?

白月です。

お越しいただき、いつも本当にありがとうございます。


今回の章は、アイがハントの人々と触れ合い、ささやかな日常の温度に触れるお話です。

何気ない会話の中にある優しさと、どこか少し噛み合わない感覚。

その裏側で、彼女の静かな決意が未来へとつながっていきます。


リギルたちの戦いの影で、確かにアイの物語も動き出しています。

どうぞゆっくりお楽しみください。


それでは、本編をどうぞ。

 「ちょっと待っておねーさん!? 今宿無しって言った?」

 「はい、言いましたが」

 「『言いましたが』じゃないけどっ!?」

 「ですが事実です」

 「ええ……」


 そしてリィンは何故か頭を抱えてしまいます。

 そこまで驚くことでしょうか? 昼に出会った時には、旅をして此処に来たということはすでに伝えていたはずなのですが。

 いや、昼の時点で此処にいたのに宿すらとれていないとなれば、驚くこともありますか。実際には集落を往復したりしていたので、そんな余裕はなかったわけですが。

 相変わらず頭を抱えるリィンの横で、その母らしき人物が声をかけてきました。


 「えっと、宿無しちゃん。とりあえず私たちのお家に来る?」

 「ちょっとおかーさん! その呼び方は失礼でしょ?」

 「いえ、構いません。ちゃんと自己紹介してなかったこちらの不手際です。私はアイと言います。ハントに在住予定のアンドロイドです」

 「え? アンドロイドって何?」

 「あら〜そうなのね〜。私はサーシャっていうの。それで、お家来るかしら?」

 「お願いします」

 「ちょっと! 無視しないでよ!」


 無視をするつもりもありませんでしたが、話の優先度的な問題で結果的にそうなってしまいましたね。

 とりあえず今夜は路頭に迷わなくて済みそうです。


 「想定していたより近いですね」


 それから、サーシャとリィンに案内してもらうこと三分ほどで、二人の自宅に着きました。

 木造の一軒家で、築年数はそれほど経っていないように見受けられます。


 「その方が何かと便利なのよ〜。ささっ、あがってちょうだい」

 「はい、ありがとうございます」

 「ねぇ、おねーさん。昼間一緒にいたおにーさんはどうしたの?」

 「諸事情で別れています」

 「諸事情?」

 「詳しいことは省きますが今は集落にでもいると思いますよ」

 「もしかして、南の森近くの集落かしら?」

 「はい」

 「そういえば夕方おとーさんがお店に来た時、『今日は森に行くなよ』とかわざわざ言ってたよね」

 「そうね〜。あの人仕事の合間にわざわざ抜け出してきたから、何事かと思ったわ」

 「確かリィンからは騎士の方だと聞いていましたが」

 「その通りよ! 多分今頃お城で働いてるわ!」


 ふむ。騎士で王城に勤めているリィンの父ですか。

 サーシャの髪色が黒色なのに対し、リィンは茶髪。推測するにリィンの父親も茶髪だと思われます。

 となるともしかすれば。


 「もしやリィンの父親は、オルセンという名前ですか?」

 「えっ!? 何でおとーさんのこと知ってるの?」

 「会いましたので」

 「いつ!?」

 「今日ですね」

 「今日!?」


 やはりオルセンでしたか。

 そもそもつい先ほどまで会話を交わしていましたし。今日が初対面のはずなのですが、二回に分けて会っていますね。それはリィンに対しても言えることではありますが。


 「ということはアイちゃんはお城に行ったということかしら?」

 「あっ、たしかに」

 「はい、行きましたね」

 「なんで?」

 「何故と言うと?」

 「いや、何もなければ王城なんて行かないでしょ?」

 「目的ということなら、物件を紹介していただこうかと思いまして」

 「はぁ!?」

 「あらあら〜」


 また驚かれてしまいました。

 しかしラスティとは方向性が違うものの、リィンも中々に感情豊かですね。

 やはりこの反応の差は年齢によるものが大きく関わってくるのでしょうか?

 そんなことを考えていると、リィンが私のことを信じられないものでも見るかのように見てきます。


 「おねーさんってもしかして馬鹿なの?」

 「違いますが。私は高性能美少女型アンドロイドですので、そのような事実はありません」

 「それ!」


 事実無根の言葉に私が否定すれば、リィンが大きく声を上げました。

 それを見たサーシャはニコニコと微笑んだまま見つめています。


 「さっきは無視されちゃったけどそれも気になってたの! アンドロイドって何なの!? あとなんか増えてるし!」

 「端的に言えば、人間を模して作られたロボットのことです」

 「えっと、大丈夫? おかーさん、お医者さんこの時間でもまだやってるかな?」

 「どうかしらね〜」

 「どういう意味ですか?」

 「いや、それ私のセリフだし。おねーさんどこからどう見ても人間だよ?」

 「そう作られていますから」

 「ねぇ、やっぱりお医者さん探そうよ」

 「リィンちゃん、一旦落ち着きましょう?」

 「逆におかーさんは何でそんな落ち着いてるの……?」

 「年の功よ」

 「おかーさんまだ若いでしょ」

 「あら嬉しい」


 どういうことでしょう?

 私は今、困惑の最中にいます。私はただ事実を言っただけなのに、何故かリィンが医者を探そうとし始めました。意味がわかりません。

 アンドロイドという言葉に困惑されることは何度か経験していましたが、医者を探されるという急展開は初めてです。

 私は今、紛れもなく困惑しています。


 「やっぱり意味わかんない……」


 リィンがそう呟きます。

 私も同じ感想を抱いています。


 「とりあえず、話を戻しましょうか。それでアイちゃん。本当に物件を紹介してもらいに王城まで行ったのかしら」

 「はい。その時はディルク王のところまでオルセンに案内してもらいましたよ」

 「何やってるのおとーさん!?」

 「あら、王様に会ったのかしら?」

 「はい」

 「イケメンだった?」

 「おかーさん!?」

 「大丈夫、浮気じゃないわ。ちょっと気になっただけよ。それで、どうなのかしら?」

 「私には美醜的価値観が備わっていませんので何とも言えませんね」


 この質問、少し前にラスティからもされたのですが、そんなに気になるものなのでしょうか?


 「あら残念ね」

 「おかーさん?」

 「そこまで気になるのなら見せましょうか?」

 「どういうこと?」

 「こういうことです」


 私は自身の内部にあるメモリからディルクの容姿を取り出し、壁に投影させます。

 指の先から拡散される光が平面的ではあるものの、ディルクの容姿そのままを映しました。

 これは謁見時の映像ですね。玉座に座り足を組んだディルクが、軽く笑みを浮かべていました。


 「え、何これ……?」

 「あら、思ってたより若いわね。中々のイケメンだわ。あの人の方がかっこいいけど」


 映し出されたディルクを見て、リィンとサーシャそれぞれが反応を返しました。

 サーシャの言うあの人とはきっとオルセンのことを言っているのでしょう。


 「え、え、どういうこと? ねぇおねーさんこれ何?」

 「ですからそれがハントの現国王ディルク・ハントです」

 「いや、そうじゃなくて、何がどうなったらこうなるの!?」

 「まあまあ、リィンちゃん。細かいことは良いじゃない」

 「おかーさんは大雑把すぎ!」

 「というかまた話が逸れちゃったわね。アイちゃんはこのディルク様に物件を紹介してもらったの?」

 「いえ、尋ねたのですが返答されずに、追い出されてしまいました」

 「でしょうね! というかさっきのはもうスルーの流れなの? ……まあいっか」

 「気づいた時には、お姫様抱っこされて部屋の外にいたので驚きましたね」

 「お姫様抱っこ!?」

 「大胆ね」


 大胆、ですか。確かにその通りかもしれません。私が質問があると言って、最初は聞くと言っていたのに、内容を聞いた瞬間マリーに指示を出しましたからね。あの手のひらを返す速さと勢いは確かに大胆でした。やられた私は、ただただ困惑しましたが。


 「そういうわけで当てもなく彷徨っていたのですが、良い物件に心当たりはありませんか? 因みに私が最も優先したい事柄は安全面ですね」

 「『そういうわけで』で流さないで欲しいんだけど……」

 「そうねぇ。安全面ということならこの辺り一体は基本的に治安は良いわよ? 何せ王様のお膝元だもの」

 「そもそもおねーさん。予算はどのくらいあるの?」

 「650セリアですね」

 「嘘でしょ!? そんなんじゃ安宿一泊がせいぜいじゃない!」

 「リィンちゃんの言うとおり、ちょっと心許ないわねぇ」

 「ふむ。やはり働き口は必要ですか」

 「そうねぇ。とりあえず今日のところはうちに泊まっていってちょうだい」

 「良いのですか?」

 「ええ。賑やかになるのは好きだもの」

 「ありがとうございます、サーシャ」


 とりあえず今日のところは問題なさそうですね。

 しかし、やはり予算は必要ですか。働き口を探す時間もありませんでしたからね。

 究極的に言えば私は、食料摂取も必要ありませんし、生きていくだけならばそこまで必死になることもありません。

 ですが、私はアンドロイドです。人間を模して作られた私が、人間のような生活を行わないのは趣旨から外れてしまいます。

 それがなくとも、メティスの存在がある限り、できる限り安全な状況下に身を置いておかなければなりません。そういうわけで物件探しはやはり重要です。

 しかし、金銭的な問題がどうしても引っ掛かりますね。ある程度の資金を得たとしても、安全に過ごせる環境に身を置き続けなければ意味はありません。

 そもそもこのハントで一番安全な場所はどこでしょうか? サーシャが言うにはこの辺り一体は危険が少ないと言っていましたが。

 そこで、ふと気づきます。

 サーシャの発言を思い返して気づきましたが、そもそも分かりきっていておかしくないことに。

 それならば一刻も早く行動に移さなければなりません。うまくいけば金銭面も気にせず済みますから。


 「あの、サーシャ。やはり今夜は遠慮させていただきます」

 「あら、急にどうしたの?」

 「当てが見つかりました」

 「でもおねーさん。もう遅いし、今夜くらい泊まっていけば良いのに」


 リィンが少し寂しげにそう言いますが、そうもいってはいられません。

 今この瞬間も、刻一刻と状況は変化しているのですから。


 「いえ、迅速に行動しなければなりませんから」

 「そうなの?」

 「はい、お世話になりました。ただ、最後に一つ良いでしょうか?」

 「あら、何かしら」

 「私の残りの金銭で買えるだけの爆裂球を売ってくださいませんか?」

 「ダメだよ!? おねーさんお金無くなっちゃうじゃん!」

 「問題ありません」

 「問題大有りだよ!」

 「お願いします」

 「どうして必要なの?」

 「自衛の手段として」


 あとは、脅し、いえ説得にも有効活用できるかもしれませんし。まあこれは言いませんが。


 「うーん。でもおねーさんのお金無くなっちゃうしなぁ」

 「そこは気にしなくて大丈夫です」

 「いや気にするわよ。じゃあ、こうしましょ。これをあげるわ」


 そういって手近にあった棚からリィンが取り出したのは爆裂球が二つ。

 少しサイズが大きいような気もしますが、見た目は爆裂球そのものです。


 「いえ、代金は支払います」

 「違うの。これ私が作ったんだけど失敗しちゃったやつなの」

 「失敗?」

 「うん。威力が大きくなりすぎちゃって、使い方次第では自分にも当たっちゃう」

 「アイちゃん。それはとても危険なものだから、人には絶対使っちゃダメよ?」

 「はい。それはもちろんですが、良いのですか?」

 「ちゃんと守ってくれるのならね。それにリィンちゃんが言い出したことだもの。止めはしないわ」

 「あとはまたうちの店で買い物しなさい! お金が貯まったら!」

 「分かりました。ありがとうございます」


 思わぬところで助けられましたね。金銭はあるに越したことはありませんし、感謝しておきましょう。

 さて、住居を得に行動に移りましょうか。

 そう、私は気づいたのです。このハントにおいて最も安全であろう場所に。

 王のお膝元であるこの辺り一体が安全なのならば、もちろん最も安全な場所は決まりきっています。

 王城に住みましょう。

 ディルクに対する脅し、もとい説得の材料は揃っています。問題はありません。

 そうして私は数十分前に辿ってきた道をそのまま引き返すのでした。

 このことに最初に気づいていれば、もっと早く解決できた気もしなくはないですが、今は気にしないことにしておきましょう。

 そして。


 「駄目だ。ここは通せないよ」


 王城の入り口に辿り着いた私は、城の門番に足止めされていました。

 数十分前にここを通りましたし、普通に通れるものだと考えていましたが、そううまくはいかないようです。


 「ディルク王に話があるのですが」

 「そう言われてもね。今はディルク様も緊急の要件で忙しいんだ。また後日にしてくれ」

 「困りましたね」

 「うん、お嬢ちゃんがここまで言っても帰ってくれないことに私も困ってるよ」

 「そうですか」

 「いや、帰ってよ」

 「帰る場所がないので」

 「ええ……」


 門番の方が困ったようにこちらを見てきます。

 ですが、私も困っているのです。そもそもここに住みにきた私からすれば帰れと言われても、結局ここに来ることになるでしょうし。

 門番さんと私、二人が困ったまま時が静かに流れていきます。

 そんな時、一人の大柄な男性がこちらへと歩いてくるのが見えました。


 「こんな夜更けにどうしたのだ?」


 そう声をかけてきた男性は、まるで獅子の立て髪のように伸ばされた金髪を靡かせながらずんずんと近づいてきます。

 その声に振り返った門番が小さな悲鳴のようなものを口から出し、一歩後退りました。

 不審者でしょうか? 装いからして騎士のようには見えませんが。

 その答えは、門番さんが出した驚きの声によってすぐに明らかとなりました。


 「ブ、ブレイズ様!?」


 ハントの現国王であるディルク=ハントの父にして、先代の王ブレイズ=ハントがそこに立っていました。

 これはチャンスかもしれません。そう思った私は、要求を伝えます。


 「すみません。私、王城に住みたいのですが、許可を頂けませんか?」


 それを聞いたブレイズは顔に驚きを浮かべ、すぐに大声を出して笑い始めました。

 笑い始めた意図は理解できませんがなんとかなりそうですね。

 それはそれとして。


 「近所迷惑では?」


 私の口から溢れた呟きに、ブレイズは更に大声で笑いました。

 なんでしょうか、ディルクと言い、ブレイズと言い、王家は人の話を聞かないのがデフォルトなのでしょうか?

 というか、普通にうるさいです。


 よし、私が訴えましょう。


最後まで読んでいただき、ありがとうございました。


リィンの家族との交流を通して、アイが触れた“人の暮らし”と“温かな時間”。

それをまだうまく理解できなくとも、確かな記録として彼女の中に刻まれています。


次回は再び、リギルたちの戦いへと焦点が戻ります。

迷い、怒り、叫び――そして、意思。

戦いの中で描かれる“激情”を、ぜひ見届けてください。


更新は引き続き22時頃を予定しております。

またお付き合いいただければ幸いです。


それでは、次の旅路でお会いしましょう。

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