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ただ一つ、それだけを君に願おう  作者: 白月
二歩目――略奪者の呪縛。狩人の咆哮。
13/29

そろそろ泣いていいかな

白月です。

本日も読みに来てくださって、本当にありがとうございます。


今回は、ディルク王の“意外な一面”が見られるお話です。

ちょっぴり情けなくて、でもどこか憎めない――

そんな王様の姿を、肩の力を抜いてお楽しみください。


また、今回に限り三人称視点でお届けします。


それでは、本編をどうぞ。

 謁見の間。

 先程まで行われていた謁見が終わりを告げ、その空間に残るのはアイを送り届け戻ってきたマリーと、ディルク王のみとなっていた。


 変わらず玉座に深く座しているディルクの正面へとマリーが歩いていく。二歩ほど離れて立ち止まる。

 それに対して何か反応を見せるでもなくマリーを見つめるディルク。

 お互い動くこともなくこの場には沈黙だけが降りている。


 そんな静寂漂う空間で、先に口を開いたのはディルクであった。


 「ど」


 しかし発したのは一音のみ。

 鷹揚に組まれていた足は解かれ、その顔色は徐々に蒼白に近づいていく。


 普通ならば病気でも疑うところだが、マリーは動く様子も見せず続く言葉を待っていた。

 ディルクもそんなマリーを見つめたが、その身じろぎ一つない様子を見て、段々と目の端に水滴が溜まり溢れた。


 「ど、どどどどど、どうしよう!? ねぇマリー。どうしたらいいと思う!?」

 「はぁ」


 狩人の集う国、ハントの新王。ディルク=ハントは面の皮の厚い、根っからの臆病であった。

 いつも通りのことなのか、侍女として控えていたマリーも思わずため息を吐く。


 「メティスとか急に言われても困るんですけどっ!? どうして即位してすぐにこういうことになるかな!?」

 「落ち着いてください、ディル。大体、謁見が始まってすぐに言い当てていたじゃないですか?」

 「俺なりの気の利いた冗談のつもりだったんだ」

 「笑えない冗談ですね」


 そう言うマリーは澄ましたような無表情を保っている。しかしその目から呆れの色が読み取れたのか、ディルクは大きく肩を落とした。


 「ほんと、どうしよう……さっきの人達とまた顔を合わせるだけでも吐きそうなのに」

 「なぜです?」

 「いやだって、めちゃくちゃ怒ってたじゃん」

 「貴方が煽るからでしょうに」

 「マリーが強気に行けって言ったんでしょ」

 「まあ、そうですが」

 「ほらー」


 先程までの面影の欠片もなく、醜態を晒し続けるディルクに淡々と返すマリー。

 ディルクは足をプラプラと揺らしながら不満そうにそんなマリーを見つめる。


 「ねぇ、人前で足組むのやめて良い?」

 「ダメです」

 「えー、さっきも足攣りそうになってもう正直止めたいんだけど」

 「普段の貴方はカリスマ性の欠片もないのですから、形だけでも振る舞わなければ人の上には立てませんよ」

 「俺そもそも王様辞めたいんだけど」

 「ダメです」

 「もうどうしろってのさ」

 「頑張ってください」

 「アバウトすぎない?」


 マリーの投げやりな言葉に、今度はディルクから大きなため息が漏れる。


 「ていうかあの三人何なの?」

 「と言われますと?」

 「いや、リギルっていう狩人は滅茶苦茶怖いし」

 「ディルが煽ったせいで殺気まで漏れていましたね」

 「正直もうダメかと思った。マリーが最初組み伏せてたの思い出して、内心気が気じゃなかったんだけど」

 「パワーはありましたが、技術で抑え込めるので大したことはないです」

 「いや、失言程度であそこまでしないで。ほんと、後が怖いから」

 「考えておきます」

 「その答えが一番怖い」


 ディルクは先程までの出来事を思い返して、恐怖からか自身の身を抱くようにしている。

 そんなディルクの様子を、マリーは冷めた目で見ていた。

 それすらもディルクにはダメージとなり、更に体を震わせる。

 それにマリーがため息を一つ落とすと、切り替えるように話しだす。


 「それで、あの三人というからには他の二人にも思うことがあったのでしょう? 例えばあの青年はどうなのですか?」

 「ああ、なんとなく気は合いそうだとは思う。そう思ってたんだけど、マリーがあの狩人を押さえ込もうとした時、剣を抜きそうになってたのを見て無理だなって思った」

 「ビビりすぎでは?」


 またもや呆れから出たマリーの言葉に、ディルクは眉根を寄せた。

 それから不満を押し出すように顔をマリーの方へと傾け主張するディルク。

 そんなディルクに気づかれないよう、マリーも半歩下がった。


 「いやそもそもだよ? なんで謁見の間に武装してきてんの? 普通剣持って謁見しなくない?」

 「武装していようとしていまいと、ディルの貧弱さでは変わらないでしょう?」

 「分からないだろっ!」

 「ディルは気づいていないでしょうが、あの中で最も強いのはあの青年だと思いますよ?」

 「え? 嘘でしょ?」

 「私の分析が正しければ事実です」

 「マリーよりも?」

 「さぁ」

 「えぇ……」


 マリーの説明がディルクのさらなる恐怖心を煽ったのか、ディルクは無意識に後ずさろうとして背もたれに頭をぶつける。

 それでも軽く頭をさすりながら最後の対象へと話を移行させていくディルク。


 「最後はほら、マリーも分かるでしょ?」


 遠い目をしながらマリーに問いかけるディルクは、理解の及ばない何かを見た時のような複雑な顔でマリーに問いかける。

 それに対し、無言で頷くマリー。


 「正直、あの子が一番怖い」

 「確か、アイと名乗っていましたね。あの無駄に顔の整った少女は」

 「うん。確かにめちゃくちゃ美人ではあった。いや、あの歳なら美少女か?」


 ディルクの言葉にスッと顔の表情を消し、無言でディルクへと近づいていくマリー。


 「ええ、そうでしょうね。その顔の良さに思わず呆けて、謁見の最中にもかかわらず口元をニヤつかせていた人が言うと説得力が違います」

 「え、俺そんなことして、いったっ!? え、なに? なんで急に俺の足蹴ったの!? 攣りそうになったって言ったよね?」

 「はい、しっかり聞いていましたよ。だからふくらはぎを狙ったんです」

 「そろそろ泣いていいかな、俺」

 「そんなことでは王は務まりませんよ」


 部下からの理不尽に目の端を潤ませつつ、なんとか堪えるディルク。

 すでにディルクが負っているダメージは膨大である。因みに一番被害を受けているのは胃である。


 「大体何なのさ。顔は整ってるのに表情は無だよ、無! 表情筋死んでんのかな?」

 「ディルと同じように面の皮が厚い可能性もありますね」

 「ねぇ、さっきからやたらと当たり強くない?」

 「そんなことありません」

 「俺のは名演技って言うの。あの少女はただの無表情。全然違うでしょ」

 「そのようですね。ディルのように怯えてばかりいたら、あのような発言の数々は出てこないでしょうから」

 「事実だから否定できないのが辛い」

 「流石に、物件の斡旋を仮にも一国の王に要求してきた時は、私もフリーズしかけました」

 「もうあの子、怖くて仕方ないんだけど」

 「まだ即位して半年ですよ。頑張ってください」


 年下の、それも女性に対して怯えるという何とも情けない主君に対して激励を贈るマリー。

 しかし、その言葉にディルクは悟ったかのような表情で首を振る。


 「今日の謁見でよく分かった。俺に王は務まらない」

 「諦めが早すぎます。ディルにプライドはないんですか」

 「少なくとも王という地位に対しては微塵も惜しくない」

 「そんなことだとすぐ死にますよ」

 「怖いこと言うのやめて」

 「ですから木端共に舐められないようにあんな態度を取らせているんでしょう?」

 「いや、あれって本当に大丈夫なの? 恨み買いそうなんだけど。あとマリーってたまに口悪くなるよね」

 「ディルのような小心者に、歴史に名が残るような名君の真似など務まりません。ですから、せめて意地の悪い王様程度の風格は醸し出せるようにすることが最善です。舐められて下に見られるよりかは幾分かマシですよ。ということで、足を組むのもその一環なので続けてください」

 「ねぇ、今さらっと俺のこと貶した? 気のせいじゃなければ、小心者とか聞こえたような気がするんだけど。これ無礼案件では?」

 「失礼ですね」

 「うん、君がね」


 ディルクの胃が急激なダメージの増加に、痛覚という名の警鐘が壊れ、ディルクに痛みが届くことは無くなった。

 ディルクは突然消失した痛みに胃を摩るも、都合が良いと思考を放棄した。ディルクの顔の血色が少しだけ色付いた。

 それから天井を仰ぎ見るようにして、意識を少し真面目な方へと寄せる。

 それに合わせてマリーも、顔つきを真剣なものに変える。


 「まあ、とりあえずメティスについて考えないとなぁ」

 「そもそもの話、何故今になってメティスが現れたのでしょう?」

 「そこは謎だな。何かしらの目的を持っているのか、それがわかれば対処もしやすいんだけどなぁ」


 先程までの謁見の場に、その答えを有するものがいたと言うことを知らずに話を進めていく二人。

 この場にフールがいれば肩を振るわせていたかもしれない。


 「ならば調査隊を編成して森に派遣しますか?」

 「その方が動きやすいけど危険が伴うしなぁ。もし派遣するなら人数はできる限り絞ろう」

 「わかりました。決してメティスに見つからないように言い留めておきます」

 「うん、頼むよ。でも最優先は避難だな。地下作っておいてホント良かった。どうしても城の客室なんかだと部屋数が足りないからね」

 「三年前に地下空間を広げるなどと言い出した時は、とうとうディルの気が狂ったのかと思いましたが、実際こうして役に立つことになるとは」

 「そのくらいから俺が即位する流れになったからね。国の財産を無駄遣いすれば防げると思ったんだけどなー」

 「そんなしょうもない理由だったんですか。まぁ今は置いておくとして、城までどうやって避難させるつもりですか? 民衆に気付かれれば軽い騒動に発展しかねませんが」

 「ああ、それについては問題ないよ。城の地下と国外につながる経路は作ってあるから」


 あまりにもさらっと出てくる問題発言。

 当然マリーがそれを見逃すわけもなく、ディルクに向けた眼を細めた。


 「それ、私知らないんですが?」

 「え? 言ってないもん」

 「……何故です?」


 瞬間的に足が出そうになったものの、理性で何とか堪えたマリーは、震える声でディルクへと問いかける。


 「だって緊急避難経路だし。もちろん俺専用の。暗殺とか怖いから用途とか知らせずに作らせておいたんだよ」

 「それを私に言わなかった理由は?」


 マリーからの鋭い圧をようやく察したディルクは、背筋に冷たい何かを感じながらもやや早口で言葉を紡ぐ。


 「いや、マリーのことは信頼してるんだよ? ただ知ってる人は少ない方が良いし、ね?」

 「ほう……」

 「すみません嘘つきました! 単純に伝えるのを失念しておりました! だからどうかその足をお納めくださいっ!」


 あまりにも早い変わり身を見せるディルク。その速さに振り上げた足の落とし所を失ったマリーは、今までで一番重みのあるため息を吐く。


 「はぁ……仮にもこの国の王ならば、そんなことで従者に頭を下げないでください」

 「だって」

 「だってではありません。とにかく、避難自体は受け入れ態勢だけ整えておけば良いと言うことですね?」

 「そう言うことになるね」

 「ならば、早速取り掛かりましょう」

 「うん。よろしく頼むよ」


 一礼してから去っていくマリーの背を見送り、ディルクは天を仰ぐ。


 「あ〜、王様辞めたい……」


最後まで読んでいただき、ありがとうございます。


ということで、今回はディルクの化けの皮が剥がれた回でした。

基本的にマリー以外がいる時は“王様モード”の彼ですが、

内心ではいつも今回のようなテンパり方をしています。


こういう“素の姿”を見せられるのは、マリーだけなのかもしれませんね。


次回は視点が戻り、集落に帰還したアイたちのお話となります。


投稿は引き続き、毎晩22時頃を予定しています。

感想やブックマークなどで応援いただけると、とても励みになります。


それでは、また次の旅路でお会いしましょう。

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