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第二章 待ち望んだ日常 5

【アルセィア・ルベラル】



「キミにだけ、私の秘密を教えてあげます。」


 そう言われて呼び出されたのはいつもの昼寝場。

 私が男ならドキドキもしただろうが、如何せん私は女で彼女も女である。あと一つ付け加えると、親友でこそあれ怪しい関係ではない。


「で、わざわざ二人きりになったからにはそれなりに重要な話なんだろうな?」


「はい、それなりに、ではなくとても重要な話ですよ。」


 彼女の名前は『アルセィア・ルベラル』、皆はアルシアと呼んでいる。とても優しくて大人しい娘で、いつも皆のことを気にかけてくれている。彼女もまた龍種創世計画の被験者である。


 ハーシュとの話題で出た『呪文』について訊きに行った結果、詳しく話せるようにまとめたいと言われ、3日待った。まぁ、彼女にとって説明するという行為自体が苦手なのだから、仕方がないとも言えるだろう。


「それで、3日待たされただけの期待は満たしてくれるんだろうな?」


「もちろんですよ。本来ならば一族に伝わる秘法ですので口外は禁止されていますが、私はもうあそこに帰る気はありませんので言っても良いでしょう。」


 未練は無いということだろうか。


 実のところ、彼女の出身地は誰も知らない。その話になれば頑なに口を閉ざしてしまうからだ。 元々人と話すことやコミュニケーションをとるのが苦手なようで、あまり他人と居ることはない。それでも私にはかなり心を開いてくれているようで、それなりに二人で居る時間は多い方だと思っている。


「……ふむ。」


「あの、ミュー、話しても良いですか?」


 考え事をしていたのが顔に出ていたか、不安そうな顔でこちらを見ている。

 ちなみに『ミュー』というのは私のことだ。アトス・クレバンテーラの名前が嫌だと言っていたら彼女が付けてくれた。その時は嬉しかったものの、後で由来を聞いて複雑な気分になったのを覚えている。『ミュータント』のミューらしい。まぁ、間違いではないし、何となく気に入ったのでそれで良いことにした。


「すまない、話してくれ。」


「はい、それでは……」


 彼女の話によれば、発火や放電・氷結等の現象を引き起こすのは、仕組みさえ理解してしまえば誰にでもできるらしい。ただし、見聞きし教えを請うて考えその結果理解するのではなく、直感的に閃くもので、その閃き方は十人十色だと言う。


「そして、その閃きがあるのは瞑想状態、もしくはそれに近い状態であると気付いた人がいたのです。」


 気付いたならばあとはその状態に近付ける方法を探せばいい。結果辿り着いた答えが呪文というわけだ。


「呪文は自らの精神を自らの言葉で奮起させるものなのです。ですから、これもまた自分で思い付かなくてはなりません。」


「……適当、で良いのか?」


 冗談のつもりで言ったのだが、どうやら適当で良いらしく、「そうなりますね」と、とても良い笑顔で答えられてしまった。


「あと、何か道具を持って振るうという方法もありますね。」


「ふむ、つまるところ明確な決まり事は無く、精神の高揚さえあればいいということか?」


「はい、そうなります。」


 思わずため息が出る。ストラーをはじめ皆が悩んでいた問題だったが、その答えを古龍の1人が知っていようとは思いも寄らなかった。それとともに、何故黙っていたのかと攻めたい気持ちが沸いてくる。

 アルシアは、そんな私の気持ちを見透かしたように目をそらして呟いた。


「力を手にすればそれだけ欲は深くなります。ましてやその力を制御できるとなれば、その欲の向かう先はより恐ろしいものとなるのです。」


 なるほど、私達の中に力に囚われた者がいれば、それを行使することで世界を手にすることさえ容易だ。


「私の故郷で祀られていた『時の女神』の御告げ、それはこの国の行く末でした。……ミュー、いずれこの国は滅ぶ運命にあります。それを変えられるかどうかは皆の行動にかかっています。」



 アルシアは、時の女神の御告げに従い運命を変えるためにここに来たのだという。しかし、彼女が来たぐらいで変わる運命ではないのだろう。


「ふむ、気を付けておこう。何かできることがあれば協力もしよう。」


「ありがとうございます。ミューが一番頼りになりますので……。」




 彼女の言った秘密とは、運命変えるためにここ来たことだろう。


 当時の私はそう信じていた。それは確かに間違いではなかったが、ほんの些細な秘密でしかなかった。





 本当に大切な事には触れず、語らず、大きな嘘を吐いてはそれが全てであるように振る舞い、真実にたどり着くのは遙か未来……


 その未来は遠すぎて、今は誰にも見えず語れず……

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