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第二章 待ち望んだ日常 4

【ハシュトマ・ガンマルド】




 研究棟の地下一階の一番端、ストラーの娘『ハシュトマ・ガンマルド』の研究室がある。彼女は、父親とは違った研究をしている。


「まったく、落ち着かない部屋だな。」


 機械人形のパーツが所狭しと陳列されている光景はとても奇妙で、尚且つ狂気も感じられる素晴らしいものだ。もちろん褒めているわけではない。


「ハーシュ、何処にいる?」


「あら、早かったわね。」


 声は聞こえるが姿は見えない。適当に当たりをつけて機械人形の奥にある空間に入り込むと、熱心にメンテナンス作業をしているハーシュがいた。


「もうすぐ終わるわ。ちょっと待っててちょうだい。」


 彼女が今作っているものは、自分のバックアップの為の人形らしい。脳の電気信号がどうのとか言っていたが詳しいことは理解不能だ。


「ふう、お待たせ。それじゃあ、こっちに来てちょうだい。」


 彼女に促されるままについて行く。機械人形をかき分けようやくたどり着いたのは、彼女のパソコンの前だった。


「このデータを見てほしいの。」


 それは、私が特異な力を使った時の脳波やら、体の変化などをまとめたものだった。


「次はこれ、あなた以外の『古龍』が力を使ったときのデータよ。」


 彼女の言う『古龍』とは『バゼル』、『ミズナ』、それから『アルセィア・ルベラル』と、もう一人『ヒトトナルカ』と呼ばれている正体不明の者、四人の龍種創世計画被験者のことだ。

 龍種創世計画によって彼らは、特殊な能力とそれを行使する際に龍種へと姿を変える身体を手に入れた。実験の成功を喜んだストラーは、「龍種創世計画の最も古き龍種となる」という意味から彼らを『古龍』と呼んだ。

 しかし、あまりにも強すぎる力であるために禍を呼ぶとも言われ、彼らのコードネームには最後に禍を付けたものとなった。


 バゼルは風雷を操る力と千里眼を持ち、神(天)が空を鳴らす禍として『カミガナルカ』。


 ミズナは水を操る力と自己再生能力を持ち、水が全てを押し流す禍として、『ミズナガルカ』。


 ヒトトナルカは、火と隣り合う禍からだろう。


 アルセィアは、龍化はできないものの、火・水・雷・氷などの強力な力を手にしている。それ故かは知らないが、彼女にはまだコードネームがない。


「このデータ、何か気付かないかしら?」


「私が数字の羅列やサーモグラフの画像などに浪漫を感じると思うのか?」


「そうね、思わないわ。」


 頭をかきながら苦笑される。思わないなら最初から見せないでほしいものだ。


「こことここの数値、上昇してるでしょう。これは、精神的な高揚が起こったことを示しているのよ。」


「ふむ、つまり力を使うときは精神的な高揚がトリガーになるということだな?」


「……いきなり結論を出す癖、治した方がいいとおもうわ。」


 また苦笑された。最小限の情報で結果を導き出すのは悪くはないと思うのだがな。


「まあ、いいわ。あなたが以前『気分がのらない』と言って力を使わなかったことがあったでしょう?それで全部のデータを細部まで検証してみたのよ。」


「その結果、精神的高揚がトリガーだと分かったと。それで?」


 ハーシュは黙って一つのデータを呼び出す。


「これはアルセィアのデータよ。彼女が力を使うとき、他の古龍たちとは違った物が見受けられるの。」


 そう言いながら全身の動きを収めたデータを指し示す。


「中でも興味深いのがこれ、口の動きよ。」


 まぁ、どんなに数値や画像を見せられてもいまいちよく分からないんだが、とりあえず他と違うということだけは分かった。なんというか、とにかく口を動かしていることは分かる、そんな数値を表していたからだ。


「何かしら、自分を高揚させる術を持っている可能性がある、か?」


「ええ、それも意図的にやっている可能性が高いわ。」


 実に楽しそうな表情である。やはり彼女も父親譲りの研究者の心というものを持っているのだろう。自分が知りたいと思ったことについては塵一つ残さない勢いで調べ上げる、そんな傾向がある。


「私は、何かの言葉を発していると考えているわ。例えば『呪文』とかね。」


 研究者の口からそんな言葉が出るとは思ってもみなかった。彼女の言う呪文とは、よくファンタジーものの物語で魔法を使うときに唱えられるものだろう。


「言葉によって自らの精神を高揚させ、その上で……このデータね。」


 次に彼女が示したのは、私が力を使ったときのデータだ。精神の高ぶりとともに、両手の部分に力が集中しているのが分かる。


「あなた、手から何かを出すのが得意でしょう?」


「何か、という言い方はいろいろと誤解を生みそうだな。」


「失礼、手から何かしらのエネルギーを撃ち出すのが得意でしょう?それで、私の仮説だけれど、あなたの手の細胞に何か秘密が、空間に作用する力を生みだす作用を持ったものがあるんじゃないかしら?」


 仮説をのたまう彼女の瞳はいつになく輝いている。どうせ調べたいから力を使えというのだ。きっと断れないだろうな。


「……で、報酬は?」


「陽の守の国のお菓子でどうかしら?」


 和菓子か、悪くない。私は頷くとそのまま彼女の実験室に入る。目の前の壁にはストラーの顔写真が貼られた的がある。実にすばらしいと思うとともに、どれだけ父親が嫌いなんだと思わずにはいられなかった。いや、研究者としては嫌いなのだと言っていたな。父親としてはそんなに悪くはないそうだ。私から見れば最低の男だと思うのだが……。

 それに、研究者としてみた場合、両者にあまり違いは見られない。違いがあるとすれば、実験を他人の体でするか自分の体でするかしかないだろう。どちらも倫理という面では大いに問題があると思う。


「もしかして気分がのらないのかしら?」


「いや、少し考え事だ。」


 まったく、今は考えるべきではないということか。

 さて、手早く終わらせて和菓子にありつこう。そう思うとともに意識を集中させ、火炎弾を撃ち出しストラー顔の的を撃ち抜いた。


「で、結果はどうだ?」


「それは今から調べるのよ。とりあえず後ろの台にお菓子を置いておいたわ。適当に食べたら帰っていいわよ。私は徹底的に調べ上げる作業があるから。」


 そう言ってデータとの睨めっこを始める。私は好物の和菓子を頬張りながらそれを眺めてみたが、別段面白いわけでもなくすぐに飽きが来たので、食べ終わるとともに部屋を出ようとした。


「ああ、ミュー、もしよかったらアルセィアに詳しく話を聞いておいてもらえないかしら?」


「呪文の件か?」


 聞き返したもののこちらを見ることなく、「ええ、そうよ。」と、言いながらデータと睨み合い。まったく、研究熱心なことだ。しかし、それで私の力の謎が解けるなら邪魔をするわけにはいくまい。

 私は静かに部屋を出るとアルセィアの部屋に向かった。

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