第二章 待ち望んだ日常 3
【ミズナ・ガンマルド】
今は食堂に誰もいない。もちろん、それを知りつつ狙って来たのだが。
「さて、今日のオススメは……流石に無いか。」
残っているのはうどん各種、人気が無いのだな。私は嫌いではない。
「エビ天うどんだな。」
……気のせいだろうか?人がいない気がする。
「む?セルフサービスの日か?」
食堂のスタッフは、悪意でもあるのか全員一緒に休む習性があるらしい。おかげで週に一日はセルフサービスの日が発生する。本当に材料を切るところから始めることができる素晴らしいサービスだよ……。
「……エビ天増量だな。」
仕方がないので調理に取りかかることにした。エビ天以外にも色々詰め込もう。
…………………………
これは素晴らしい!いつの間にか全てのトッピングがのっているではないか。
「よし、ありがたく頂くとしよう。」
「あ、じゃあ半分分けてくれたまえよ。」
……いつからいたんだ……
「おや、食べないなら私が食べてしまうよ?」
「居るのに気付かなかったから驚いていただけだ。」
よくあることだと自分に言い聞かせながら、渋々半分分けてやる。
「おお、ではではいただくのだよ。」
彼女の名は『ミズナ・ガンマルド』。ストラーの妻であり、龍種創世計画の被験者の一人だ。人懐っこい性格だが、若干他人とは違う独特な考え方や喋り方をするため慣れるまでは近寄りがたいタイプである。私はもう慣れたがな。
「そういえば、またストラー君が迷惑を掛けたみたいだね?」
「ん?ああ、いつものことだ、気にするな。」
迷惑、というのはあのいやらしい視線のことである。
「うむ、そう言ってもらえると助かるのだよ。でも君はそれで良いのかい?」
良いわけではない。ただ、受け流す方法があるからそれほど気にしなくてすむ、というだけだ。
「ふん、気にするなと言っただろう?奴もその内飽きるさ。」
「ううむ、そうだと良いのだけどねぇ……」
夫が公然とセクハラに及んでいるのだから、気にするなと言うのは無理があるか。
そもそもストラーは何故彼女と結婚して子供までもうけたのだろうか?計画の被験者に選んだことにしても、私には道具として扱っているようにしか思えない。
「考え事かい?良かったら話してみたまえよ。」
「いや、半分分けたのは失敗だったなと思っただけだ。」
「うむ、返さないのだよ。」
流石に話せる事ではないな。私は考えたことを胸の内にしまうと、そのまま他愛のない話をしながら食事を終え、それぞれの仕事に戻ることにした。
「なんだか嫌な予感がするのだよ……」
彼女のその言葉が嫌なくらい心に残った。