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第四章 5

 不意に夜が来た


 いや、空の色が黒くなったと言うべきか


 光源は空に浮かんでいる


 それが太陽でないと


 造られた物であると


 即座に気付ける者がいただろうか?


 そこにいる誰もが思い


 あるいは口にした


 全てが遅すぎた、と





  第四章 弾丸の行方





 私がたどり着いたとき、ストラーの姿はなかった。アルシアの力を恐れて北天に逃げたのだという。


「ミュー、先に行ってください。私はしばらく動けそうにもありません。バゼルとハーシュもミズナが片付き次第、一緒に追いかけますので……」


「ああ、わかった。」


 早くストラーを追いかけたかった。レイから託された弾丸を撃ち込んで全てを終わりにするために!


 そっとアルシアが教えてくれた。エーテルをうまく使えば空を飛ぶことが出来ると。本当にあいつの言ったとおり、エーテルは言葉通りなんでも出来るのではないかと思った。


 空を飛べるなら海を渡るのは楽だ。現にストラーは飛んでいたし、それが私に出来ないという事はないだろう。


「……なんだ、こんなにも簡単なのか……」


 目を閉じてイメージを描くとすぐに体が浮いた感じがした。きっと、今の私の思いにエーテルが反応してくれたのだろう。何よりも速く追い付きたいという気持ちに。そう信じられるからこそもっとエーテルについて知りたいと思った。この戦いが終わったら本格的にエーテルについて研究してみようか?そんなことを考えながら北天に向かって飛ぶ。


 そんな時、不意に空が暗くなった。気付かないうちに夜になったのかと思ったが、太陽はある。奇妙な感じだ。


「ミュー、聞こえるかい!?」


 気にしないようにして北天に向かう私にバゼルから通信が入る。


「今、とても大きな地震があったけどそっちは大丈夫かい?」


 飛んでいたことが幸いだったか、それとも災いだったか、私は地震のことなど気付きもしていなかった。


「それに空も何故か暗くなったし、とても嫌な予感がするよ。」


「ああ、気を付けよう。バゼルも無理はしないでくれ。」


 あまり彼に体力を使わせたくない。そう思って早々に通信を切った。


 そのまま速度を上げて北天へと急ぐ。そのとき、ふと違和感を感じて空を見た。見上げた先には太陽がある。


「何か……」

 強烈な違和感。しかし、直視出来る物でもない。静かに視線を前に戻す。


「ん?」


 北天の上空、遥か遠くに青い光点が見える。あれがバーゼッタ君の言っていた隕石だろうか?


「あれが北天に直撃したとしても、あいつは生きているのだろうな……」


 むしろそれすら知っていて北天に行った気がしないでもない。衝突の衝撃に紛れて姿を消されては厄介な事になる。一刻も早く追いつき、始末した上で、早急に北天から離れなければなるまい。そして、全員の避難を急ぐわけだ。やれやれ、なかなかに大変そうだ。


 そう思って気を引き締めたとき、視界の端に何かが見えた。もう北天に着く。余所見をしている場合じゃない。そう思っても視線を惹きつけるほどにそれは光を放っていた。そして私はその方向を見やった。


「あれは……!」


「ククク、気付いたか。流石だな、ミュー。」


 突然ストラーの声が聞こえても、目を離せない光の塊。前に進むのは止めたが、視線は上空のほうの光源へ移る。


「ここまで来たんだ、隠すこともないだろう。教えてやるよ、俺の野望の全てをな!」


 とっさに通信機を起動させる。誰にでもいい、こいつの話すことを聞き逃してはならない。多くの者が知っておかなければならない。そう思っての行動だった。


「上空の光は俺が造った人工の太陽だ。そしてあっちが本物の太陽だ。」


 そう言って先程私が見ていた光を指差す。


「もう間もなくこの場所には隕石が落ちる。だがそれだけではつまらないからな、少々遊び心を加えておいた。」


 今度は北天の更に北、ミートゥリアの北端を指差す。もちろんそこには海があって……


「……どういうことだ!?海が途中で……」


 海が途中で途切れ、その先に真っ暗な空間が広がっている。


「ククク、宇宙さ!島を無理矢理星から引き剥がして、隕石に向かって飛ばす。これによって星全体が大いに混乱するだろう。そしてこの島も隕石の直撃で大混乱。まあ、全滅はしないように工作はしてあるから安心しろ。駄目かもしれないがな!」


 狂ってる。こいつは一体何のためにそこまでのことを?常人には出来ないことを平気でやってのけるというのだ!?狂った考えで、狂った常識で、狂った技術で!


「混乱を乗り越えれば魂は大いに成長する!その生命エネルギーを俺が頂く!!どれほどの美味が俺を待っているのか、お前は知りたくはないか!?」


「お前の……貴様の狂った思想を知りたいなどとは微塵も思わん!」


 この男は、ただ自分の嗜好のためだけに、この星全てを巻き込めるのだ。思えば最近島のバリアを強化したと言っていたな。そのときに全ては完成していたのだろう。宇宙へ島を飛ばす装置も、人工の太陽も……


「下の混乱が治まり、全ての命を喰らったらどうするか。ククク、同じように魂を持った生物がいる星を捜す。そのために人工の太陽と宇宙空間に耐えられるバリアを造った。ここで生命エネルギーの養殖をしながら旅をする。次を見付ければ、そこでまた試練を与えてより強い魂になってもらう。ああそうだ、育てた奴らを全て食い尽くすわけじゃない。少数残す。そしてまた長き旅の末そこに戻ってくるのだ。そしてまた試練を与え喰らう。それらの星で俺は、恐怖の根源として未来永劫語り継がれるだろう。」


「……貴様は、ただ自分の存在を知らしめたいだけなのだな。」


「それの何が悪い?どんな権力よりも強い圧倒的な象徴が手に入るのに、何が悪いと言うんだ!?」


 こいつは、自分のことしか考えていない奴の中でも最底辺のクズだろう。きっと一生かかってもこいつほどのクズには巡り会えないだろう。不快感を通り越して殺意が湧く。生かしておいたとして何の役にも立つまい。今ここで始末すべきだ。


「ストラー、この銃で貴様の頭を撃ち抜く。それで終わりにする!」


 レイから託された銃をストラーに向けて構える。


「ククク、銃ごときで頭を撃ち抜かれただけで俺が死ぬとでも?」


「龍死草を使った弾丸だそうだ。陽の守の龍を討つのに使われた物と同じ物。貴様を止めるためにレイが私に託したものだ!」


 龍死草の名を聞いてストラーの顔が引きつる。


「冗談じゃない。まさかそんな物を用意してくるとは……」


 そう言いながらポケットに手を突っ込み何かのスイッチを取り出す。


「お前がそれを撃つなら、俺はエーテルウィルスをばら撒かせてもらう。ククク、これによって俺たちのようにエーテルを使えるようになる者もいれば、同時にばら撒く致死性のウィルスに侵食されて死ぬ者もいるだろう。そこで俺みたいな考えに至る者がいないとは限らない。そしてそれが一人とも限らない。お前はそんな奴らを全て止めようとするだろうが、出来ればそんな状況は回避したい。そうだろう?」


 確かにそんな事態になれば苦労するのは目に見えている。しかし、だからと言ってここでこいつを放置するわけにもいかない。


「取り引きだ。お前が銃を下ろし今後一切俺に関わらないというならば、これを押すのは止めてやろう。どうだ?」


 そんな要求のめる訳がない。だが、ここで撃てばその瞬間スイッチを押されかねない。出来ればそれは避けたい。


「……分かった。」


 自分でも安易過ぎる考えだったと思う。銃を下ろしてストラーを油断させて、その隙にスイッチを払い落として弾丸を撃ち込む。この時のこいつが見た目通りに龍死草に恐怖を感じていたならば成功していただろう。


 だが、こいつは自分には効かないだろうという慢心で頭の中が一杯だったのだ。それ故に恐怖など微塵も持たず、私が銃を下ろすのと同時にスイッチを押した。


「ククク、さあ、どうする?」


 私は頭の中が真っ白になった。取り返しの付かないことをしてしまった。いったいいくつの命が失われるというのだ。助かった人々の中にも力に囚われて命を奪い合う者が出て来るかもしれない。そうなった場合私はどうすればいい?その命を奪えというのか?それが私に出来るのか?出来るわけがない!ストラーのように生まれ付いての狂人ならば迷いなく討てるかもしれないが、そうではない。もしかしたら説得できるかもしれない。その線引きは誰がする?私がするのか?出来ない!私には何も出来ない!!


「ミュー、今やるべき事をやってください!」


「先の事を今考えても駄目だよ!迷わないで!!」


 アルシアとバゼルの声で我に返る。そうだ、何よりもここでストラーを逃がすこと、それが一番取り返しが付かない。


「ストラーッ!!」


 一気に掴みかかって銃口を頭に押し付ける。


「これで終わりだ!!」


 


 引き金を引こうとした


 不意にストラーが空を見上げて笑った


 私も空を見た


 同時にバリアを突き破り隕石が落ちてきた


 バリアが修復するまでのほんの僅かな時間


 外に吸い出される感覚に怯んだ


 そして地に落ちて行く銀色の龍


 青く輝く心臓を持った龍


 その姿に目を奪われた



「ククク、俺の勝ちだ。」


 銃声が一つ



「あぐぅ……う、あ、あああああああああああああああっ!!!」


 頭が焼ける!この感覚は何だ!?ストラーが何かを投げてよこす。レイから託された銃だ!怯んだ瞬間、龍に目を奪われた瞬間、銃を奪われ頭に撃ち込まれたということか!?これが龍死草の効果だというのか!?駄目だ、焼ける!頭が焼ける!!


「ククククハハハハハハハハッ!!撃たれなくて良かったと安心しているぞ、ミュー!その苦しみ様、笑いがこみ上げて止まらん!見たところエーテルで修復してるみたいだが、果たして完全に治るかな?形が戻っても色々障害が出るかもなぁ、ハハハハハハッッ!!」


 やはりこの男は危険だ。今すぐにでも……この男?誰だ?……ストラー……そうだストラー!……誰だ?始末しないと!……誰を?誰?誰とは何だ?……やるべき事?……やる?私が?私?私とは何だ?自分の事!自分?自分とは何だ?……何だ?何だとは?何?何とは?……?????



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