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第四章 2



 急がなければ


 もう時は動き出してしまった


 何度も何度も見ていただけのあの時から


 ようやくここまで辿り着いた


 失敗は許されない


 ここで全てを伝えなければ


 あの人に!!





   第四章 ……




【地下閉鎖区画】


 こんなに走ったのはいつ以来だろう?そもそも走ったことはあったかな?


「ミズナ!」


 私の声には答えないで、彼女は通り過ぎて行ってしまう。


「もう、戻れないのですね……」


 急がないと!


 絶望の溢れる通路抜けて、一つだけ行きたいと願う牢屋を越えて、あの人とあの人の大切な人に声を繋げて、そして最後の扉を開く。


「レイ、ハーシュ大丈夫ですか!?」


 大丈夫ではないと分かっていた。さっき彼女の両手を見てしまったから。それでも意識さえあれば少しだけ何とかすることができるからそう問いかけた。


「……ぐぅっ……俺は大丈夫だ。それよりも彼女を……」


 レイは辛うじて体を起こすと震える指先でハーシュを指さす。でも、どうみても彼女は無理だ。もう死んでいるから。


「ほう、アルシアじゃないか。お前がここに来るのは予想外だな。」


 制御室の向こうからストラーが見ている。今まで以上に嫌な笑顔だ。


「レイ、少しだけ時間を分けてあげます。ストラーから全てを吐き出させるまで耐えてください。」


「どういう……意味だ?」


 それには答えない。今は答える時間すら惜しい。彼の肩にそっと触れてからストラーの方へ歩み寄る。


「ククク、何だ?お前が俺をどうにかする気か?無理だろう!龍化もできなくせに思い上がるなよ。」


「いえ、貴方は知らないだけです。貴方だけじゃない。誰も私が龍化できることを知らないだけ。知ることができないだけ。」


 そう、誰も見ることができないから、誰も知ることができない。


「何が言いたい……?」


 ストラーの不機嫌そうな表情を見ながら、力を高める。


「時奏で、時爆ぜよ!全ては我が手の内にあり!!」


 大きな白い龍がいる。しかし、誰も見ることはできない。私はそのままストラーの正面まで飛び上がり窓を砕いた。そしてそこに留まったまま龍化を解いた。


「なっ!!」


 誰にも解らない、何が起こったのか。彼らにしてみれば一瞬のこと。突然私が砕け散るガラスの前に現れたようにしか見えない。


「私は一度も自分の口から龍化できないとは言っていないですよ。いつも貴方が口にしていただけです。」


 そのままゆっくりと前に進んで怯えるストラーの前に立った。このまま彼に全てを話してもらわなければならない。通路で通りすがったミズナがここにたどり着く前に!


「さあ、ストラー答えてもらいます。貴方が手にした力について!」


 ストラーは舌打ちをすると、いつも通りの人に不快感を与える笑顔を張り付けてしゃべり始める。


「いいだろう。ちょっとした時間稼ぎだが事細かに話してやる。」


 自分で時間稼ぎだと言うのを聞く限りでは、どうやら随分と余裕はあるようだ。精神的には異常に強いことが少し厄介でもある。


「大体見当は付いています。……『エーテル』、と名付けたのでしょう?」


 話すことを先手にとれば怯ませられると思ったけれど、どうやらそうもいかないらしい。逆に興味をひいてしまったようだ。


「よく知っているな。俺しか知らないはずだが、まあいいだろう。そうだ、『相互干渉霊体粒子・エーテル』だ。」


 ストラーが右手を突き出す。すると、そこ緑色に輝く粒子が纏わり付いていく。


「これがエーテルだ。もっとも普通は目には見えない。今は俺が取り込んだエーテルを発光させているにすぎん。」


 そう言いながら、ちらりと扉の方を見た。おそらくミズナの到着を待ちきれないのだろう。


「ちっ……。このエーテルは、取り込んだ人物の精神に感応して様々な現象を引き起こす。火を灯す、水を生み出す、雷を撃つ、傷を癒すこともできる。何でもできる!!これこそが俺の追い求めた力だ。」


「それを取り込めるようになるために、彼女が……ミューが必要だったのですね?」


 彼女が持つ力は無意識に取り込んだエーテルが引き起こしている。私が知っている限りでは邪龍と呼ばれたガルマンドも無意識にエーテルを取り込む体質を持っていた。それが彼女の体に遺伝・発現したのだろう。


「ククク、お前は物知りだな。そうだ、その通りだ!エーテルを発見したのは良かったが、それを取り込む術がなかった。だからこそミューを発見した時は踊り狂いそうだったぞ!」


 そのまま狂ってしまえば良かった。ううん、その時にはもう狂っていたのか……


「龍の力だけでは足りない。だが、エーテルを見つけた。取り込む術も手に入れた。それを融合することにも成功した!お前たち古龍はその為の実験体にすぎん。謂わば失敗作だな、クククハハハハハハハッ!!」


 少し顔に焦りが見えてきた。どうやらミズナが来ないことが予想外らしい。私も少しおかしいと思っていた。


「貴方の、本当の目的は一体何なのですか?」


 時間があるうちに全てを聞き出したい。お願い、まだ来ないで!


「世界を手に入れること……というと少し語弊があるな。正確には手に入れた世界で全ての命を吸い取ることだ。」


 吸い取る?私の知らない事実が出てきた。ただ、世界を征服して暴君の座に就く、それが目的だと思っていたのに……


「ほう、どうやらこれは知らないようだな。」


 その時、扉が開いてミズナが駆け込んできた。


「ストラー君、待たせたね。さあ、一緒に行くのだよ!」


「これが俺の手にした究極の力!……悪いなミズナ、お前とは行けない。」


 ストラーがミズナに手をかざした。その瞬間、何か光り輝くものがミズナから引きずり出されストラーに無理矢理吸い取られていった。不快感を与える吸収音が響き思わず目を逸らしそうになる。その音が消えると、ミズナは力無く床に崩れ落ちた。


「龍の遺伝子はお前たちに力を与えた。雷と千里眼、水と再生能力、人それぞれ違った力だがな。」


 不意に部屋の温度が上がった気がした。ううん、気のせいなんかじゃない!周囲がゆらゆらと揺れて、壁が溶け出して!!


「そして、炎と生命吸収の力、それが俺の力。……そう、俺が炎の龍『幻龍・ヒトトナルカ』だ!!」


 言い終わると同時に火球がストラーを包み込む。私が止める暇もなく、凄まじい勢いで天井を突き抜け地上へと飛んで行ってしまった。


 追いかけなければ!


 下に降りてレイを抱えて走る。地上に向かって行く道中、異様な数のジャンクが落ちていた。全て同じ姿で、何一つ違う所が無かった。


「ハーシュ、完成させていたのですね。」


 それらは全てハーシュの姿をしていた。

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